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記憶と真実 4
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わたしがゆっくりと目を覚ましたとき、部屋の中はすっかり暗くなっていた。
部屋の中にドロレスたちの姿はない。コニーリアス様も帰宅したようだ。
どうやらかなり遅い時間のようだけど、暗闇に目が慣れているからか室内の様子はぼんやりとだが見える。
わたしは上体を起こして、ゆっくりと深呼吸をした。
わたしの記憶の中で失われていたものはすべて思い出した気がする。
クリフ様の思い出をたどれば彼の顔が浮かぶし、彼の顔を思い浮かべると愛おしいという感情が胸いっぱいに広がるからだ。
わたしは隣で眠るクリフ様に視線を向けた。
彼はわたしの手を握りしめたままだ。まだ眠りから目覚めていない。
ゆるく閉じられた目じりに光るものを見つけたわたしは、クリフ様を起こさないようにそっと握られていない方の手を伸ばした。
少しだけにじんだ涙をできるだけ優しく拭う。
クリフ様はいったいどんな夢を見ているのだろう。
わたしが目覚めたということは、記憶の同調は終わったのだと思うけれど、彼が目覚める気配はない。
「クリフ様?」
もしかしたら目覚めないのではないかと不安になって来て、わたしは軽く彼の肩を叩いた。
「クリフ様、大丈夫ですか?」
様子が変なら人を呼ばなくてはと緊張しながらクリフ様に呼びかけていると、彼の長い睫毛が震えて、ゆっくりと瞼が持ち上がる。
わたしはほっと息を吐き、クリフ様の顔を覗き込んだ。
「気分はどうですか? 気持ち悪いとか、ないですか?」
わたしが忘れていたのは想い出の中のクリフ様の姿かたちだけだったけど、クリフ様はわたしよりたくさんのことを忘れていた。だから、思い出す際に負担がかかっているかもしれない。
クリフ様は焦点が合わないのか、何度か瞬きを繰り返した。
それから、ぼんやりとした表情のままわたしの方に顔を傾ける。
「……アナスタージア?」
かすれた声がわたしの名を呼んだ。
わたしと視線が絡むと、クリフ様がふんわりと微笑む。
そして、体を起こすと、わたしをぎゅっと抱きしめてきた。
突然腕の中に抱き込まれて、わたしは目を白黒とさせる。
クリフ様はわたしの首筋に顔をうずめて、何度もわたしの名前を呼んだ。
「……悪い夢でも見たんですか?」
クリフ様の腕が小刻みに震えていることに気がついたわたしは、彼の背中に腕を回して、とんとんと小さく叩いた。
クリフ様と記憶を同調させていたとき、わたしはただただ幸せな夢を見ていた気がする。
大好きなクリフ様とはじめて会った十三歳の日。
デートをした日。
一緒に結婚式の準備をしたり、部屋を整えたり、招待状にサインを入れたり……。
彼とすごした幸せな日々を夢の中でずっと見ていた。
時にクリフ様の視点だったりわたしの視点だったりと、ところどころわたしが知らない日常もあって、ちょっと恥ずかしくもあったけれど素敵な記憶だった。
だけどクリフ様は違ったのだろうか。
初恋の女性に繋がる何かを思い出してつらくなったのかもしれない。
……やっぱり、初恋相手はビアトリス様だったのかしら?
だとすると、わたしのせいでビアトリス様は捕縛されたようなものだ。
彼は今、どんな気持ちでいるのだろう。
あやすように、とんとんと背中を叩き続けていると、クリフ様の腕の力が強くなった。
ちょっと苦しいくらいだが、彼の腕はまだ震えているからわたしは黙ってされるままになる。
「アナスタージア、すまない……本当に、ごめん」
その謝罪は、いったい何に対する謝罪なのだろうか。
訊くのが恐ろしくて、わたしは黙ってクリフ様の背中をとんとんし続ける。
やがてクリフ様の震えが止まって、おもむろに顔を上げた彼は、こつんとわたしの額に自分の額をつけた。
「アナスタージア。たくさん話したいことがある。だがその前に言わせてほしい」
いったい何を言われるのだろうか。
息がかかるほどの近い距離に緊張しながら、わたしは彼の言葉を待つ。
クリフ様は、震える唇で、言った。
「俺は君を愛している」
部屋の中にドロレスたちの姿はない。コニーリアス様も帰宅したようだ。
どうやらかなり遅い時間のようだけど、暗闇に目が慣れているからか室内の様子はぼんやりとだが見える。
わたしは上体を起こして、ゆっくりと深呼吸をした。
わたしの記憶の中で失われていたものはすべて思い出した気がする。
クリフ様の思い出をたどれば彼の顔が浮かぶし、彼の顔を思い浮かべると愛おしいという感情が胸いっぱいに広がるからだ。
わたしは隣で眠るクリフ様に視線を向けた。
彼はわたしの手を握りしめたままだ。まだ眠りから目覚めていない。
ゆるく閉じられた目じりに光るものを見つけたわたしは、クリフ様を起こさないようにそっと握られていない方の手を伸ばした。
少しだけにじんだ涙をできるだけ優しく拭う。
クリフ様はいったいどんな夢を見ているのだろう。
わたしが目覚めたということは、記憶の同調は終わったのだと思うけれど、彼が目覚める気配はない。
「クリフ様?」
もしかしたら目覚めないのではないかと不安になって来て、わたしは軽く彼の肩を叩いた。
「クリフ様、大丈夫ですか?」
様子が変なら人を呼ばなくてはと緊張しながらクリフ様に呼びかけていると、彼の長い睫毛が震えて、ゆっくりと瞼が持ち上がる。
わたしはほっと息を吐き、クリフ様の顔を覗き込んだ。
「気分はどうですか? 気持ち悪いとか、ないですか?」
わたしが忘れていたのは想い出の中のクリフ様の姿かたちだけだったけど、クリフ様はわたしよりたくさんのことを忘れていた。だから、思い出す際に負担がかかっているかもしれない。
クリフ様は焦点が合わないのか、何度か瞬きを繰り返した。
それから、ぼんやりとした表情のままわたしの方に顔を傾ける。
「……アナスタージア?」
かすれた声がわたしの名を呼んだ。
わたしと視線が絡むと、クリフ様がふんわりと微笑む。
そして、体を起こすと、わたしをぎゅっと抱きしめてきた。
突然腕の中に抱き込まれて、わたしは目を白黒とさせる。
クリフ様はわたしの首筋に顔をうずめて、何度もわたしの名前を呼んだ。
「……悪い夢でも見たんですか?」
クリフ様の腕が小刻みに震えていることに気がついたわたしは、彼の背中に腕を回して、とんとんと小さく叩いた。
クリフ様と記憶を同調させていたとき、わたしはただただ幸せな夢を見ていた気がする。
大好きなクリフ様とはじめて会った十三歳の日。
デートをした日。
一緒に結婚式の準備をしたり、部屋を整えたり、招待状にサインを入れたり……。
彼とすごした幸せな日々を夢の中でずっと見ていた。
時にクリフ様の視点だったりわたしの視点だったりと、ところどころわたしが知らない日常もあって、ちょっと恥ずかしくもあったけれど素敵な記憶だった。
だけどクリフ様は違ったのだろうか。
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……やっぱり、初恋相手はビアトリス様だったのかしら?
だとすると、わたしのせいでビアトリス様は捕縛されたようなものだ。
彼は今、どんな気持ちでいるのだろう。
あやすように、とんとんと背中を叩き続けていると、クリフ様の腕の力が強くなった。
ちょっと苦しいくらいだが、彼の腕はまだ震えているからわたしは黙ってされるままになる。
「アナスタージア、すまない……本当に、ごめん」
その謝罪は、いったい何に対する謝罪なのだろうか。
訊くのが恐ろしくて、わたしは黙ってクリフ様の背中をとんとんし続ける。
やがてクリフ様の震えが止まって、おもむろに顔を上げた彼は、こつんとわたしの額に自分の額をつけた。
「アナスタージア。たくさん話したいことがある。だがその前に言わせてほしい」
いったい何を言われるのだろうか。
息がかかるほどの近い距離に緊張しながら、わたしは彼の言葉を待つ。
クリフ様は、震える唇で、言った。
「俺は君を愛している」
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