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社交デビュー 2
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「リンゴが赤くなったらアップルパイを作りましょうか」
イアナは庭のリンゴの大木の下で、日に日に少しずつ色づいていくリンゴを見上げた。
ルクレツィオとカーラが「あっぷるぱい」と可愛い声を揃えてきゃっきゃと笑う。
王都はそろそろ社交シーズンがはじまる頃だ。フェルナンドがどうするのかは聞いていないが、まったく社交をしないわけにもいかないだろう。イアナだけでもパーティーやお茶会に顔を出したほうがいいはずなので、そのうち王都へ移動することになる。
できることならリンゴが色づいて孫たちのためにアップルパイを作ってから向かいたいものだ。
ルクレツィオとカーラはイアナがお菓子作りをするときに参加したがるので、一緒にパイ生地を作るのである。二人とアップルパイづくり。きっとたまらなく可愛いはずだ。
それに、王都に移動したらしばらくルクレツィオたちに会えなくなる。今のうちに可愛い成分をしっかりと吸収しておかなくては。
「あ、そう言えばアリーチャ。ルッツィとカーラの子供服が来週には届くそうですよ」
王都のマダムには急がなくていいと伝えておいてのだが、早めに着手してくれたようだ。子供服が優先と伝えてあったため、まずは出来上がった子供服を送ってくれると連絡があった。
子供はすぐに大きくなるので、メイドたちが測ったサイズよりも二回りほど大きいサイズで注文していた。裾上げなどの手直しはイアナもできるしもちろんメイドたちもできるので問題ない。
「まあ、もうですか? 早いですわね」
アリーチャも息子と娘の服が届くと聞いて嬉しそうだ。デザインはマダムが事前に送ってくれたカタログから選んだので、どんなものが届くのかは知っている。どれも可愛いデザインを選んだので、今から二人に着せるのが楽しみだった。
アリーチャと顔を見合わせて笑いあっていると、背後から足音が聞こえてきた。
フェルナンドかエラルドだろうかと振り返ったイアナはひゅっと息を呑む。
「え⁉」
「ええ⁉」
イアナの視線を追って振り向いたアリーチャも両手で口を覆って叫んだ。
「旦那様⁉」
「お義父様⁉」
目の前には、イアナが宝物にしている絵姿とそっくりの外見のフェルナンドが立っていた。つまり、いぶし銀な旦那様だ。
驚きすぎて硬直してしまったイアナに、フェルナンドが楽しそうに笑いながら近づいてくる。
「あ、じぃじだー」
ルクレツィオは以前のフェルナンドの姿を覚えていたようで、笑いながら走って行って祖父の足に抱き着いた。
カーラはまだ二歳になる前だったため覚えていないのか、目を大きく見開いて、アリーチャのそばまで走って行くとしがみつく。知らないおじさんだと思ったようだ。
「あー、カーラを怯えさせてしまったか。失敗したな」
フェルナンドは苦笑して、左手の指輪を抜いた。その途端、外見が二十歳の彼に戻って、イアナはさらに仰天した。
「ど、どうなっているんですか?」
カーラは知らないおじさんが大好きな祖父の姿に代わって目をぱしぱしとしばたたいている。
「じーじ?」
母親にしがみついたまま小首を傾げたカーラに、フェルナンドがその場に膝をついて両手を広げた。
「じーじだよ」
カーラはぱっと顔を輝かせてぱたぱたと走って行くと、フェルナンドの胸にぽすっと飛び込む。
フェルナンドはカーラを抱き上げて立ち上がると、種明かしをするように指輪を見せた。
「エラルドの研究が完成したようでね。この指輪をはめると、見ている人間にだけ私が年を取って見えるそうだ」
「まあ!」
エラルドは天才だろうか。
アリーチャもまさかそんな方法でフェルナンドの外見問題を解決してしまうなんて思っていなかったのか、「考えましたわね」と感心している。
「これで公務も社交もどうにかなりそうだな」
「そうですね。よかった……」
イアナは大きく頷いて、それからハッとした。指輪を嵌めればフェルナンドは六十二歳の姿になる。ということは?
(いぶし銀な旦那様見放題⁉)
訂正しよう。エラルドは天才ではない。神だ! あとで拝んでおこう。
イアナがそわそわしはじめると、フェルナンドが苦笑する。考えていることはお見通しらしい。
「招待状もあちこちから届いていることだし、内容を精査して、そうだな……三週間後には王都に向けて出発しようと思うのだがどうだろうか?」
「わかりました。クロエとマーラにも伝えて準備しておきますね」
王都に向かえば父たちが何かとうるさいかもしれないが、フェルナンドがいれば大丈夫だ。
(でも社交かぁ~。わたし、デビュタントパーティーにしか行ったことがないのよね。不安だからアリーチャに教えてもらおうかしら?)
マナーのおさらいをしておかないと、フェルナンドに恥をかかせるかもしれない。
イアナはこの三週間でできるところまで頭に詰め込もうと決め、それからはたと気がついた。
(三週間もあればリンゴも赤くなるわよね? わたしがリンゴの収穫を楽しみにしていたから、出発を三週間後にしてくれたのかしら?)
そのことに気づくときゅんとしてしまって、フェルナンドに抱き着きたい衝動に駆られてしまった。彼がカーラを抱っこしていなかったら間違いなく抱き着いていただろう。旦那様、素敵すぎます!
イアナは庭のリンゴの大木の下で、日に日に少しずつ色づいていくリンゴを見上げた。
ルクレツィオとカーラが「あっぷるぱい」と可愛い声を揃えてきゃっきゃと笑う。
王都はそろそろ社交シーズンがはじまる頃だ。フェルナンドがどうするのかは聞いていないが、まったく社交をしないわけにもいかないだろう。イアナだけでもパーティーやお茶会に顔を出したほうがいいはずなので、そのうち王都へ移動することになる。
できることならリンゴが色づいて孫たちのためにアップルパイを作ってから向かいたいものだ。
ルクレツィオとカーラはイアナがお菓子作りをするときに参加したがるので、一緒にパイ生地を作るのである。二人とアップルパイづくり。きっとたまらなく可愛いはずだ。
それに、王都に移動したらしばらくルクレツィオたちに会えなくなる。今のうちに可愛い成分をしっかりと吸収しておかなくては。
「あ、そう言えばアリーチャ。ルッツィとカーラの子供服が来週には届くそうですよ」
王都のマダムには急がなくていいと伝えておいてのだが、早めに着手してくれたようだ。子供服が優先と伝えてあったため、まずは出来上がった子供服を送ってくれると連絡があった。
子供はすぐに大きくなるので、メイドたちが測ったサイズよりも二回りほど大きいサイズで注文していた。裾上げなどの手直しはイアナもできるしもちろんメイドたちもできるので問題ない。
「まあ、もうですか? 早いですわね」
アリーチャも息子と娘の服が届くと聞いて嬉しそうだ。デザインはマダムが事前に送ってくれたカタログから選んだので、どんなものが届くのかは知っている。どれも可愛いデザインを選んだので、今から二人に着せるのが楽しみだった。
アリーチャと顔を見合わせて笑いあっていると、背後から足音が聞こえてきた。
フェルナンドかエラルドだろうかと振り返ったイアナはひゅっと息を呑む。
「え⁉」
「ええ⁉」
イアナの視線を追って振り向いたアリーチャも両手で口を覆って叫んだ。
「旦那様⁉」
「お義父様⁉」
目の前には、イアナが宝物にしている絵姿とそっくりの外見のフェルナンドが立っていた。つまり、いぶし銀な旦那様だ。
驚きすぎて硬直してしまったイアナに、フェルナンドが楽しそうに笑いながら近づいてくる。
「あ、じぃじだー」
ルクレツィオは以前のフェルナンドの姿を覚えていたようで、笑いながら走って行って祖父の足に抱き着いた。
カーラはまだ二歳になる前だったため覚えていないのか、目を大きく見開いて、アリーチャのそばまで走って行くとしがみつく。知らないおじさんだと思ったようだ。
「あー、カーラを怯えさせてしまったか。失敗したな」
フェルナンドは苦笑して、左手の指輪を抜いた。その途端、外見が二十歳の彼に戻って、イアナはさらに仰天した。
「ど、どうなっているんですか?」
カーラは知らないおじさんが大好きな祖父の姿に代わって目をぱしぱしとしばたたいている。
「じーじ?」
母親にしがみついたまま小首を傾げたカーラに、フェルナンドがその場に膝をついて両手を広げた。
「じーじだよ」
カーラはぱっと顔を輝かせてぱたぱたと走って行くと、フェルナンドの胸にぽすっと飛び込む。
フェルナンドはカーラを抱き上げて立ち上がると、種明かしをするように指輪を見せた。
「エラルドの研究が完成したようでね。この指輪をはめると、見ている人間にだけ私が年を取って見えるそうだ」
「まあ!」
エラルドは天才だろうか。
アリーチャもまさかそんな方法でフェルナンドの外見問題を解決してしまうなんて思っていなかったのか、「考えましたわね」と感心している。
「これで公務も社交もどうにかなりそうだな」
「そうですね。よかった……」
イアナは大きく頷いて、それからハッとした。指輪を嵌めればフェルナンドは六十二歳の姿になる。ということは?
(いぶし銀な旦那様見放題⁉)
訂正しよう。エラルドは天才ではない。神だ! あとで拝んでおこう。
イアナがそわそわしはじめると、フェルナンドが苦笑する。考えていることはお見通しらしい。
「招待状もあちこちから届いていることだし、内容を精査して、そうだな……三週間後には王都に向けて出発しようと思うのだがどうだろうか?」
「わかりました。クロエとマーラにも伝えて準備しておきますね」
王都に向かえば父たちが何かとうるさいかもしれないが、フェルナンドがいれば大丈夫だ。
(でも社交かぁ~。わたし、デビュタントパーティーにしか行ったことがないのよね。不安だからアリーチャに教えてもらおうかしら?)
マナーのおさらいをしておかないと、フェルナンドに恥をかかせるかもしれない。
イアナはこの三週間でできるところまで頭に詰め込もうと決め、それからはたと気がついた。
(三週間もあればリンゴも赤くなるわよね? わたしがリンゴの収穫を楽しみにしていたから、出発を三週間後にしてくれたのかしら?)
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