枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき

文字の大きさ
48 / 49

帰宅と結婚準備 9

しおりを挟む
 二階に上がり、フェルナンドが旅装束を解いた後、イアナはまずジョルジアナのことを訊いた。
 ジョルジアナがステファーニ公爵領へ向かった話はアントネッラ伯爵から聞いていたので知っていた。先ほどフェルナンドもジョルジアナから「花嫁を交換すると聞いた」と言っていたので、彼自身もジョルジアナに会ったはずだ。

「ああ、ジョルジアナだが、王都についたときに王立騎士団に引き渡したよ。ギオーニ男爵に連絡を入れるように伝えておいたから、今頃回収されているんじゃないだろうか。そうじゃなければ独房にでも入れられているだろう。彼女はステファーニ公爵家に対して無礼を働いた罪人だから、アントネッラ伯爵家には返すなと伝えておいたからね」

 フェルナンドは笑顔で告げたが、言葉の端々から彼が相当怒っていることが伝わって来た。
 なんでも、ジョルジアナはフェルナンドが視察に出かけている隙にステファーニ公爵邸に入り込んでいたそうだ。
 エラルドが魔術塔で会議があるため、彼ら一家も王都へ移動していた。ジョルジアナはアントネッラ伯爵の偽装サインが入った書類を持っていたため、使用人たちだけでは対処が困難だったようだ。帰ったら使用人たちに謝罪しなければ。
 フェルナンドが夜遅く帰ると、ジョルジアナは夫婦の寝室で待っていたという。

「はっきり言って、手をあげそうになるほど不快だったよ。一応女性なので、さすがに殴らなかったが。ああ、そうだ。あのベッドだが、出発前に焼却処分するように伝えておいた。帰るまでには新しいものが届けられていると思う。君に相談なく焼却処分を決めて申し訳なかったが、すまない、私が耐えられそうになかった」

(焼却処分⁉)

 ジョルジアナが触れただけでそこまでするかとイアナはあきれそうになったが、フェルナンドが真面目な顔で言うので何も言えなかった。本当に、心の底から不快だったようだ。

(旦那様って、意外と潔癖なのかしら?)

 そんな風には見えなかったが、潔癖ではないのならこだわりの強い人なのかもしれない。例えばだが、自分が大切にしているものには、他人に触れられたくない、とか。その手のこだわりが。
 ジョルジアナの話のついでに、彼女が持っていた書類のサインは偽装だと言えば、フェルナンドが「なるほどな」と頷いた。

「今度の件はさすがにアントネッラ伯爵の意思ではなかったということか」
「いくら父でも、そんなことをすればどうなるかはわかっていたようですね。ジョルジアナに無理だと言えば、一服盛られて縛り上げられて部屋に閉じ込められたと言っていました。ジョルジアナはきっと、旦那様に会いさえすれば何とかなると踏んでいたのかもしれませんね」
「なるはずがないだろう」
「普通はそう考えますが、ジョルジアナですから……」

 幼いころからなんでも自分の思い通りになって来たジョルジアナは、自分が望みさえすればそれが叶うと思っている節がある。フェルナンドが拒否するとは思っていなかったのだろう。
 ギオーニ男爵とコンソラータとの話し合いの内容を伝えると、フェルナンドは概ねその流れで構わないと言った。

「ただし、私の方からも一つ追加したい」
「なんでしょう?」
「この機会に、君の籍をアントネッラ伯爵家から抜いてもいいだろうか。君が彼等のせいでいらぬ苦労をするのはもうこれ以上見ていられない」
「それは構いませんが、ステファーニ公爵家としては大丈夫でしょうか?」

 貴族籍を抜くと言うことは、イアナは平民ということだ。もちろんすでに公爵夫人なので、正しくは平民ではないのだが、世間的に見れば元平民の公爵夫人となる。

「私としてはまったく問題ないし、エラルドたちも文句なんて言わないさ。第一、この国で我が家を堂々とこき下ろすことができる人間なんて、それこそ国王夫妻や先王くらいなものだ。とはいえ、君が気になるようなら、兄に頼んで養女にでもしてもらおうか? 兄の養女で私の妻なら、誰一人として文句は言えないはずだ」

(え? それって、先王陛下の養女ってこと⁉ むりむりむりっ!)

 いくら何でも恐れ多すぎる。
 イアナはぶんぶんと首を横に振った。

「い、いえ。それは大丈夫です」
「そうか?」
「はい。旦那様やエラルドたちがいいのならわたしは問題ありませんから」
「ならばその流れでまとめてしまおう。明日にでもギオーニ男爵に連絡を取っておくか。ついでに拒否できないように陛下にも一筆書いてもらおう。そこまですればアントネッラ伯爵も何も言えないだろうからな」

 国王陛下まで巻き込むらしい。さすがは国王の叔父。
 フェルナンドとギオーニ男爵、コンソラータに詰め寄られ、黄門さまのご印籠よろしく国王陛下の書簡まで見せられれば、父たちは青ざめるどころの話ではないだろう。
 逃げ道一つない状況で、完全に引導を渡される形になるはずだ。自業自得ではあるが、少しだけ同情する。

(わたしがもっとうまく立ち回れていたら、違う結果になったのかしら?)

 転生したあとで、子供らしく振舞っていたら。
 父や母、ジョルジアナをうまく導けていたら。
 領地経営に毅然とした態度で口を挟んでいたら。

 ふとそんなことを考えたが、イアナはすぐに心の中で首を横に振った。
 いくら前世の記憶があるとはいえ、どんなに頑張ったってそれは無理だっただろう。
 人間は万能ではないし、前世の記憶があるからと言って神様になれるわけではない。どう転んだところで、彼らが彼等のままならば今の結果は免れなかったのだ。
 イアナはただ、前世の記憶分、同年代の人たちよりもちょっと人生経験が豊富なだけの普通の人間なのだから。
 自分がうまく立ち回っていたら何でもうまくいく、なんてことはないのだ。そこは、勘違いしてはならない。うぬぼれてはならない。

 だが、ただ一つだけ思うのは。
 前世の記憶がなければ、あの両親に育てられたイアナはジョルジアナの同じような人格になっていただろうということだ。フェルナンドとも出会えなかっただろう。
 前世の記憶を持って生まれ変わったせいでいらぬ苦労を背負いこんだと思ったこともあったが、結果を見れば、そのおかげで今がある。

 ソファに並んで座っているフェルナンドの肩にこてんと頭を預けたら、彼の大きな手が頭を撫でてくれた。



 後日、国王の書簡を持ってアントネッラ伯爵家へ向かって決定事項を並べ立てると、父たちは白目を剥いて気絶した。

 ちなみにだが、結婚より早くギオーニ男爵家に引き取られたジョルジアナは、コンソラータと男爵の三人の息子の嫁たちに監視されて、びしばしと根性を鍛え直されている。
 毎日のようにジョルジアナの泣き声と、コンソラータの高笑いが聞こえると、ギオーニ男爵邸の近所の住人から教えられた時は、イアナは思わず噴き出してしまった。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

処理中です...