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猫になった王妃と冷淡だった夫
猫王妃と王 2
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(どうしてどうしてどうしてどうして――⁉)
フィリエルは無我夢中で走っていた。
(なんでわたし、元の姿に戻ったの⁉)
駆けだしてすぐに再び猫の姿に戻ったが、リオンのあの目は、確かに人間に戻ったフィリエルを映していた。
(ばれたばれちゃったどうしよう‼)
リオンに、リリがフィリエルだと気づかれた。
間違いない。だってリオンは「フィリエル」と言ったのだから。
結婚して五年。
はじめて「王妃」ではなく「フィリエル」と名前で呼ばれたのが、こんな形だとは。
やはり離宮の玄関前でも騒ぎが起きていたらしく、騎士と武器を持った男たちが争っていた。
玄関扉は開け放たれていて、フィリエルはこれ幸いと騎士たちの間を縫って外に飛び出す。
数名がフィリエルに気づいて「お猫様⁉」と声を上げたが振り返らなかった。
騎士たちも猫を追いかけられるほどの余裕はないだろう。
走って走って走り抜けて。
気づけば城の裏手の森に来ていた。
廃墟と化した塔が見えるが、ヴェリアは城にいるから、現在塔の中はからっぽだ。
わかっているが、フィリエルは塔の中に足を踏み入れると、ヴェリアが自分が住みやすいように好き勝手に改造している部屋の中を見渡した。
あちらこちらに乾燥させた薬草がぶら下がっていて、部屋の中央には、ヴェリアがいつも何かを煮ていた大釜がある。
当然、部屋の主がいないので大釜はからっぽで、暖炉に火も入っていないから結構寒い。
フィリエルはラグの上に丸くなった。
走り回ったから疲れているのと、それから頭が混乱していて、これからどうしていいのかもわからない。
もともとフィリエルは自由を求めて猫になった。
リオンの元からいなくなるつもりだった。
人間であることも王妃であることもやめて、自分らしく自由に生きてみたいと思った。
もう、愛されないのも、傷つくのも、嫌だったから。
それなのにリオンに拾われて、彼の猫にされて――、逃げようとしたこともあったけれど、なんだかリオンが放っておけなくて、もう少し、もう少しだけとずるずる彼の側にとどまり続けた。
(その結果ばれちゃうとか、笑えないよね……)
もっと早く逃げればよかった、とは思わない。
フィリエルが逃げていれば、リオンは今日、王太后に殺害されていたかもしれないからだ。
だから後悔はしていない。
でも――ばれてしまった以上は、もう無理だ。
(一瞬だったけど、なんで人に戻っちゃったのかな。ヴェリアにそれだけ確認したいんだけど、お城には戻れないし……どうしようかな)
必死に、リオン以外のことを考えようとする。
何か考えていないと、頭の中にリオンの顔がちらつくのだ。
リオンから離れるために猫になったのに、リオンの側に帰りたいと思ってしまう。
(でも、陛下は……わたしのことが嫌いだもんね)
リリとして可愛がってもらったけれど、正体がフィリエルだとわかればそうはいかないだろう。
以前向けられていたのと同じ、熱のないエメラルド色の瞳を向けられるのを想像するだけで体が震える。
だから、もう戻れない。
リオンだって、フィリエルがいなくなってせいせいしているはずだし、元人間の猫なんて気味悪くてそばに置いておきたくないだろうから。
「……みぃ」
猫だから、涙は出ない。
でも無性に、大声を上げて泣きたかった。
「みゃあああああああ……」
涙が出ないかわりに、声を張り上げる。
突然訪れたさよならに、フィリエルの心がついていかない。
どのくらいそうしていだろうか。
みやーみゃーと大声を上げ続けていたフィリエルは、遠くから「フィリエル!」と自分を呼ぶ声がするのに気が付いた。
声は、リオンのものだ。
ぴくりと体が震える。
縮こまって、ぷるぷると震えていると、声がだんだんとこちらに近づいてきた。
「フィリエル! どこだ⁉」
リオンがここにいるということは、離宮の騒動は片付いたのだろう。
走って来たのだろうか、リオンの声が少し苦しそうだ。
「フィリエル‼」
出て行ってはダメだ。
きっとリオンは怒っている。
このままいなくなって、もう二度と彼の側には戻らないのが、きっと正解。
正解の、はずなのに。
「フィリエル! 頼むから、出てきてくれ‼」
リオンの、どこか切羽詰まったような声に、ゆっくりと体を起こす。
でも、彼の側に行くのはやっぱり怖くて。
小さく「にゃあ」と返事をしたら、リオンが走り出す音がした。
「フィリエル‼」
壊れた塔の扉から中に飛び込んで、ラグの上でじっとしているフィリエルを見て、リオンがホッと息をつく。
エメラルド色の瞳を優しく細めて、近づいてきたリオンが、フィリエルの側に膝をついた。
「おいで」
いつもみたいに強引に抱き上げるわけではなく、そっと両手を差し出される。
わずかに逡巡して、フィリエルは引き寄せられるように一歩、足を前に動かした。
フィリエルは無我夢中で走っていた。
(なんでわたし、元の姿に戻ったの⁉)
駆けだしてすぐに再び猫の姿に戻ったが、リオンのあの目は、確かに人間に戻ったフィリエルを映していた。
(ばれたばれちゃったどうしよう‼)
リオンに、リリがフィリエルだと気づかれた。
間違いない。だってリオンは「フィリエル」と言ったのだから。
結婚して五年。
はじめて「王妃」ではなく「フィリエル」と名前で呼ばれたのが、こんな形だとは。
やはり離宮の玄関前でも騒ぎが起きていたらしく、騎士と武器を持った男たちが争っていた。
玄関扉は開け放たれていて、フィリエルはこれ幸いと騎士たちの間を縫って外に飛び出す。
数名がフィリエルに気づいて「お猫様⁉」と声を上げたが振り返らなかった。
騎士たちも猫を追いかけられるほどの余裕はないだろう。
走って走って走り抜けて。
気づけば城の裏手の森に来ていた。
廃墟と化した塔が見えるが、ヴェリアは城にいるから、現在塔の中はからっぽだ。
わかっているが、フィリエルは塔の中に足を踏み入れると、ヴェリアが自分が住みやすいように好き勝手に改造している部屋の中を見渡した。
あちらこちらに乾燥させた薬草がぶら下がっていて、部屋の中央には、ヴェリアがいつも何かを煮ていた大釜がある。
当然、部屋の主がいないので大釜はからっぽで、暖炉に火も入っていないから結構寒い。
フィリエルはラグの上に丸くなった。
走り回ったから疲れているのと、それから頭が混乱していて、これからどうしていいのかもわからない。
もともとフィリエルは自由を求めて猫になった。
リオンの元からいなくなるつもりだった。
人間であることも王妃であることもやめて、自分らしく自由に生きてみたいと思った。
もう、愛されないのも、傷つくのも、嫌だったから。
それなのにリオンに拾われて、彼の猫にされて――、逃げようとしたこともあったけれど、なんだかリオンが放っておけなくて、もう少し、もう少しだけとずるずる彼の側にとどまり続けた。
(その結果ばれちゃうとか、笑えないよね……)
もっと早く逃げればよかった、とは思わない。
フィリエルが逃げていれば、リオンは今日、王太后に殺害されていたかもしれないからだ。
だから後悔はしていない。
でも――ばれてしまった以上は、もう無理だ。
(一瞬だったけど、なんで人に戻っちゃったのかな。ヴェリアにそれだけ確認したいんだけど、お城には戻れないし……どうしようかな)
必死に、リオン以外のことを考えようとする。
何か考えていないと、頭の中にリオンの顔がちらつくのだ。
リオンから離れるために猫になったのに、リオンの側に帰りたいと思ってしまう。
(でも、陛下は……わたしのことが嫌いだもんね)
リリとして可愛がってもらったけれど、正体がフィリエルだとわかればそうはいかないだろう。
以前向けられていたのと同じ、熱のないエメラルド色の瞳を向けられるのを想像するだけで体が震える。
だから、もう戻れない。
リオンだって、フィリエルがいなくなってせいせいしているはずだし、元人間の猫なんて気味悪くてそばに置いておきたくないだろうから。
「……みぃ」
猫だから、涙は出ない。
でも無性に、大声を上げて泣きたかった。
「みゃあああああああ……」
涙が出ないかわりに、声を張り上げる。
突然訪れたさよならに、フィリエルの心がついていかない。
どのくらいそうしていだろうか。
みやーみゃーと大声を上げ続けていたフィリエルは、遠くから「フィリエル!」と自分を呼ぶ声がするのに気が付いた。
声は、リオンのものだ。
ぴくりと体が震える。
縮こまって、ぷるぷると震えていると、声がだんだんとこちらに近づいてきた。
「フィリエル! どこだ⁉」
リオンがここにいるということは、離宮の騒動は片付いたのだろう。
走って来たのだろうか、リオンの声が少し苦しそうだ。
「フィリエル‼」
出て行ってはダメだ。
きっとリオンは怒っている。
このままいなくなって、もう二度と彼の側には戻らないのが、きっと正解。
正解の、はずなのに。
「フィリエル! 頼むから、出てきてくれ‼」
リオンの、どこか切羽詰まったような声に、ゆっくりと体を起こす。
でも、彼の側に行くのはやっぱり怖くて。
小さく「にゃあ」と返事をしたら、リオンが走り出す音がした。
「フィリエル‼」
壊れた塔の扉から中に飛び込んで、ラグの上でじっとしているフィリエルを見て、リオンがホッと息をつく。
エメラルド色の瞳を優しく細めて、近づいてきたリオンが、フィリエルの側に膝をついた。
「おいで」
いつもみたいに強引に抱き上げるわけではなく、そっと両手を差し出される。
わずかに逡巡して、フィリエルは引き寄せられるように一歩、足を前に動かした。
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