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猫になった王妃と冷淡だった夫
心に触れた日 1
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リオンの温かい腕に抱っこされて、フィリエルは城に戻った。
城の玄関では騎士団長が待っていて、リオンの腕に抱かれたフィリエルを見てホッと息を吐き出した。
(あー……騎士団長にも見られちゃったのよね)
なんとなく気まずくて、ついと視線を逸らせば、騎士団長が苦笑する。
だが何も言わずにリオンのあとをついてくる彼は、さすがだなと思った。
「どうなっている?」
歩きながら、リオンが騎士団長に話を振る。
見上げた彼は厳しい表情をしていて、フィリエルの心臓がきゅっとなった。怖いというより、リオンの心が心配だったのだ。
実の母親に命を狙われて、彼は今、どんなに傷ついているだろうか。
「死者は少なかったですが、重傷者がいたので、監視のもと手当てを受けさせています。証言者は多い方がいいでしょうからね。また、王太后様はご指示いただいた通り地下牢へ。エミル殿下は無関係だと思われますが、念のため監視をつけております。よろしかったでしょうか?」
「ああ、それでいい」
エミルはリオンの弟だ。十歳の彼が王太后の計画に加担しているとは思えない。
(それにエミル殿下は、純真無垢そのものだからね……)
愛されてのびのび育ったのだろうと一目でわかるほどの純粋さだ。むしろ、今回の件で生じた心の傷の方が心配だった。
「王太后、それから口がきけるものへの尋問を急げ。尋問は騎士団主導で行い、宰相には口を出させるな。何か言われたら俺の命令だと言っておけ」
「わかりました」
「それから……」
リオンは足を止めて、遠慮がちにフィリエルの背中を撫でた。
「彼女のことは、黙っておいてくれ」
「――御意」
騎士団長は一瞬迷ったようだったが、顎を引いて頷いた。
リオンの私室の前に到着すると、騎士団長が一礼して去る。
部屋に入ると、リオンがフィリエルをソファの上に下ろす。
「フィリエル」
名前を呼ばれたので「にゃあ」と返事をすると、すごく複雑そうな顔をされた。
「なあ、人間の姿には戻れないのか? 話をしたいんだが、猫のままだとしゃべれないだろう?」
「……にゃー」
フィリエルはしょんぼりをうなだれて首を横に振った。
さっきだって、どうやって人間に戻ったのかわからないのだ。何故か気づいたら戻っていて、そしてまた猫になっていた。フィリエルの意思で人の姿には戻れない。
「そう、か……」
リオンが残念そうな顔をした。
フィリエルは不思議に思って首をひねる。
(陛下は、人間のフィリエルが嫌いだと思うんだけど……、なんでそんな顔をするのかしら?)
話ができないことが嫌なのだろうか。確かにまあ、事情を説明させたくとも猫のフィリエルは「にゃあ」しか言えないから、困るのかもしれないけど。
「だったら、ひとまず俺の話をするか……」
(陛下の話?)
そういえば、話したいことがあると言っていた。
てっきりフィリエルの事情だけ知りたいのだろうと思っていたが、彼にも何かフィリエルに伝えたいことがあるのだろうか。
「ええっと、先にお茶を用意させるか? あ、君はミルクの方がいいんだろうか」
「みゃあ!」
(紅茶が、紅茶がいいです‼)
ふるふると首を横に振ると、「紅茶か?」と訊き返されたので大きく頷く。
するとリオンはぷっと小さく噴き出して、ベルでメイドを呼んだ。
「お茶を運んでくれ。フィ――リリにも今日は紅茶を」
「紅茶、ですか」
メイドは一瞬「猫に紅茶?」と怪訝そうな顔をしたが、国王の命令に否とは言わない。
かしこまりましたと答えてメイドが去ると、リオンが立ち上がり、棚からミルククッキーの入った缶を持って来た。
「食べるだろう?」
クッキーを見せられると口の中にじゅわっと唾液が広がる。
(でも、ダイエットが……!)
デブ猫まっしぐらは避けたい。
うぐぐぐ、と唸っていると、リオンが「ああ」と小さく声を上げて、気まずそうに頬をかいた。
「前、肥えたと言ったのを気にしているのか? 気にするほどではないと思うが……その、一瞬だったが、人に戻った時も普通だったし」
(いや絶対覚えてないでしょ! 人に戻ったのは本当にちょっとの間だったし、陛下驚いてたからわたしの体型とかちゃんと見てないと思うっ)
フィリエルも驚いていたから覚えていない。
だが、この先もしまた人に戻るようなことがあったらと思うとぞっとした。
(二重顎になってたり、お腹がぽよんぽよんになってたらどうしよう……!)
やはりクッキーはやめておこう。
フィリエルがぷるぷると首を横に振ると、リオンが残念そうに肩を落とした。
「そうか……」
心なしか、寂しそうに見える。
リオンはもしかして、過去の自分の発言に責任を感じているのだろうか。
リオンがクッキーの缶を抱えたまま、ちらりとフィリエルを見た。
「一枚くらいなら、いいんじゃないか?」
どうしてフィリエルにクッキーを食べさせたいのだろう。
謎すぎるが、頑なに断り続けるのも申し訳ない気がして、「にゃあ」と返事をした。
(まあ、一枚くらいならね)
フィリエルの心の声が通じたのか、リオンが微笑んでクッキーを一枚取り出す。
フィリエルの隣に腰を下ろすと、クッキーを二つに割って、その一つを差し出してきた。
あーん、と口を開けると、リオンが笑みを濃くする。
「おいしい?」
「にゃあ!」
(美味しいけど、カロリーが気になりますっ)
「はい、こっちも」
「みゃー!」
二つに割ったもう一つを口に入れられて、もしゃもしゃと咀嚼する。
ごくんと飲み込むと、遠慮がちに頭を撫でられた。
「フィリエル、抱っこしてもいい?」
「……なー」
ちょっとだけ恥ずかしいと思うのはどうしてだろう。
こくんと頷くと、リオンが膝の上にフィリエルを抱き上げる。優しく背中を撫でられるのが気持ちいい。
しばらくして、メイドがお茶を運んで来た。
一つはティーカップ、もう一つは猫用の飲み皿に入っている。飲み皿の方は猫が飲んでも大丈夫なように冷ましてあった。
メイドが去ると、いつもは床の上に置かれる飲み皿を、リオンがテーブルの上に置いてくれる。
そして、フィリエルを抱き上げるとテーブルの上に座らせてくれた。
「今回の件もあったし……フィリエル、君には一度、俺のことをきちんと話しておきたいんだ。聞いてくれる?」
リオンが自分のことを話すのははじめてで、フィリエルは驚いたように目を見張って、「にゃあ」と頷く。
リオンはティーカップに口をつけ、おもむろに話し出した。
城の玄関では騎士団長が待っていて、リオンの腕に抱かれたフィリエルを見てホッと息を吐き出した。
(あー……騎士団長にも見られちゃったのよね)
なんとなく気まずくて、ついと視線を逸らせば、騎士団長が苦笑する。
だが何も言わずにリオンのあとをついてくる彼は、さすがだなと思った。
「どうなっている?」
歩きながら、リオンが騎士団長に話を振る。
見上げた彼は厳しい表情をしていて、フィリエルの心臓がきゅっとなった。怖いというより、リオンの心が心配だったのだ。
実の母親に命を狙われて、彼は今、どんなに傷ついているだろうか。
「死者は少なかったですが、重傷者がいたので、監視のもと手当てを受けさせています。証言者は多い方がいいでしょうからね。また、王太后様はご指示いただいた通り地下牢へ。エミル殿下は無関係だと思われますが、念のため監視をつけております。よろしかったでしょうか?」
「ああ、それでいい」
エミルはリオンの弟だ。十歳の彼が王太后の計画に加担しているとは思えない。
(それにエミル殿下は、純真無垢そのものだからね……)
愛されてのびのび育ったのだろうと一目でわかるほどの純粋さだ。むしろ、今回の件で生じた心の傷の方が心配だった。
「王太后、それから口がきけるものへの尋問を急げ。尋問は騎士団主導で行い、宰相には口を出させるな。何か言われたら俺の命令だと言っておけ」
「わかりました」
「それから……」
リオンは足を止めて、遠慮がちにフィリエルの背中を撫でた。
「彼女のことは、黙っておいてくれ」
「――御意」
騎士団長は一瞬迷ったようだったが、顎を引いて頷いた。
リオンの私室の前に到着すると、騎士団長が一礼して去る。
部屋に入ると、リオンがフィリエルをソファの上に下ろす。
「フィリエル」
名前を呼ばれたので「にゃあ」と返事をすると、すごく複雑そうな顔をされた。
「なあ、人間の姿には戻れないのか? 話をしたいんだが、猫のままだとしゃべれないだろう?」
「……にゃー」
フィリエルはしょんぼりをうなだれて首を横に振った。
さっきだって、どうやって人間に戻ったのかわからないのだ。何故か気づいたら戻っていて、そしてまた猫になっていた。フィリエルの意思で人の姿には戻れない。
「そう、か……」
リオンが残念そうな顔をした。
フィリエルは不思議に思って首をひねる。
(陛下は、人間のフィリエルが嫌いだと思うんだけど……、なんでそんな顔をするのかしら?)
話ができないことが嫌なのだろうか。確かにまあ、事情を説明させたくとも猫のフィリエルは「にゃあ」しか言えないから、困るのかもしれないけど。
「だったら、ひとまず俺の話をするか……」
(陛下の話?)
そういえば、話したいことがあると言っていた。
てっきりフィリエルの事情だけ知りたいのだろうと思っていたが、彼にも何かフィリエルに伝えたいことがあるのだろうか。
「ええっと、先にお茶を用意させるか? あ、君はミルクの方がいいんだろうか」
「みゃあ!」
(紅茶が、紅茶がいいです‼)
ふるふると首を横に振ると、「紅茶か?」と訊き返されたので大きく頷く。
するとリオンはぷっと小さく噴き出して、ベルでメイドを呼んだ。
「お茶を運んでくれ。フィ――リリにも今日は紅茶を」
「紅茶、ですか」
メイドは一瞬「猫に紅茶?」と怪訝そうな顔をしたが、国王の命令に否とは言わない。
かしこまりましたと答えてメイドが去ると、リオンが立ち上がり、棚からミルククッキーの入った缶を持って来た。
「食べるだろう?」
クッキーを見せられると口の中にじゅわっと唾液が広がる。
(でも、ダイエットが……!)
デブ猫まっしぐらは避けたい。
うぐぐぐ、と唸っていると、リオンが「ああ」と小さく声を上げて、気まずそうに頬をかいた。
「前、肥えたと言ったのを気にしているのか? 気にするほどではないと思うが……その、一瞬だったが、人に戻った時も普通だったし」
(いや絶対覚えてないでしょ! 人に戻ったのは本当にちょっとの間だったし、陛下驚いてたからわたしの体型とかちゃんと見てないと思うっ)
フィリエルも驚いていたから覚えていない。
だが、この先もしまた人に戻るようなことがあったらと思うとぞっとした。
(二重顎になってたり、お腹がぽよんぽよんになってたらどうしよう……!)
やはりクッキーはやめておこう。
フィリエルがぷるぷると首を横に振ると、リオンが残念そうに肩を落とした。
「そうか……」
心なしか、寂しそうに見える。
リオンはもしかして、過去の自分の発言に責任を感じているのだろうか。
リオンがクッキーの缶を抱えたまま、ちらりとフィリエルを見た。
「一枚くらいなら、いいんじゃないか?」
どうしてフィリエルにクッキーを食べさせたいのだろう。
謎すぎるが、頑なに断り続けるのも申し訳ない気がして、「にゃあ」と返事をした。
(まあ、一枚くらいならね)
フィリエルの心の声が通じたのか、リオンが微笑んでクッキーを一枚取り出す。
フィリエルの隣に腰を下ろすと、クッキーを二つに割って、その一つを差し出してきた。
あーん、と口を開けると、リオンが笑みを濃くする。
「おいしい?」
「にゃあ!」
(美味しいけど、カロリーが気になりますっ)
「はい、こっちも」
「みゃー!」
二つに割ったもう一つを口に入れられて、もしゃもしゃと咀嚼する。
ごくんと飲み込むと、遠慮がちに頭を撫でられた。
「フィリエル、抱っこしてもいい?」
「……なー」
ちょっとだけ恥ずかしいと思うのはどうしてだろう。
こくんと頷くと、リオンが膝の上にフィリエルを抱き上げる。優しく背中を撫でられるのが気持ちいい。
しばらくして、メイドがお茶を運んで来た。
一つはティーカップ、もう一つは猫用の飲み皿に入っている。飲み皿の方は猫が飲んでも大丈夫なように冷ましてあった。
メイドが去ると、いつもは床の上に置かれる飲み皿を、リオンがテーブルの上に置いてくれる。
そして、フィリエルを抱き上げるとテーブルの上に座らせてくれた。
「今回の件もあったし……フィリエル、君には一度、俺のことをきちんと話しておきたいんだ。聞いてくれる?」
リオンが自分のことを話すのははじめてで、フィリエルは驚いたように目を見張って、「にゃあ」と頷く。
リオンはティーカップに口をつけ、おもむろに話し出した。
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