夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき

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猫王妃と離婚危機

突撃してきた妹 4

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 フィリエルをもふもふして癒されたリオンだったが、晩餐会がはじまって十五分もたたずに、ぐったりとしてきた。
 それでも何とか顔に笑顔を張り付けて耐えるも、フィリエルが不在なのをいいことに、笑顔で「世継ぎ問題をどうお考えですか?」とぶっこんできたステファヌに、こめかみのあたりがピクリと引きつりそうになる。

 ステファヌや、ロマリエ国の国王が、フィリエルの妹イザリアをリオンに娶らせようと考えていることはわかっている。
 ステファヌもリオンがしっていることを理解していて、わざと話題を振ってきているのだ。

(勘弁してくれ……)

 この五年……もうすぐ六年、ずっとフィリエルを傷つけてきたとわかってから、リオンも少しずつ人に心を開くようには務めてきた。
 だが、意識するようにしているだけで、他人に気を許すのはまだ怖いし不安だ。
 特に、母のことがあって、女性に心を開くのには抵抗がある。

(俺は、フィリエル以外は無理だ)

 フィリエルは現在猫だが、恐らくフィリエルが人に戻っても、彼女となら良好な関係性が築けると思っている。
 フィリエルに心を開くのは怖くないし、むしろあのような愛らしい様子を披露してくれるフィリエルは、人に戻ったらどんな表情を見せてくれるのだろうかと楽しみでもあった。
 フィリエルがいつ人に戻るのかはリオンにはわからないが、この先、彼女が猫のままでも、妻はフィリエルだけがいい。

 だが、それで周囲が納得するのかと言えば、否であるのはリオンにもわかっていた。
 今は猫になったフィリエルを微笑ましく観察している臣下たちも、これが一年、二年、と続けば側妃を勧めてくるようになるだろう。
 フィリエルがどれだけ愛らしくとも、世継ぎ問題は別の話なのだ。

 リオンにはエミルがいるが、王太后の一件でエミルを不安視する声があるのも事実である。
 リオンは大丈夫だと思っているが、実の子でも平然と殺そうとした王太后に育てられたエミルは、王太后の気性を受け継いでいないのだろうか、と。
 十歳の子どもの何を心配しているんだとあきれるが、逆に言えばまだ十歳。エミルの結婚はまだ先のことだろうし、この段階でエミルを王太子に叙するわけにはいかない。
 実の子であれば、生まれて一年も経てば王太子の位を与えることは可能だが、相手が弟であればそうはいかないのだ。ロマリエ国の手前もあり、安易に決められない。

 フィリエルがもし人に戻れば、リオンは彼女との間に子を作ってもいいとは思っている。
 少し前までは我が子を持つつもりはなかったリオンだが、フィリエルはいい母親になる気がした。少なくともリオンの母親のようにはならないだろう。
 でも、彼女が人に戻るか否かは、ヴェリアによれば彼女の心次第らしい。
 フィリエルが人に戻らないのは、きっと人に戻ることに、まだ何か躊躇があるのだろう。本人すら気づいていない懸念があるに違いなかった。

(はあ、まいったな……)

 単純に、政治的な面だけを見れば、ロマリエ国の申し出は悪い話ではない。
 例えばリオンが側妃を娶らざるを得ない状況になったとき、国内、もしくは国外から娶れば――、そして、側妃との間に子でも生まれようものなら、ロマリエ国との間に角が立つ。
 けれども、ロマリエ国から側妃を娶るなら話は別だ。
 義父から文句を言われることもなく、国同士の関係にひびが入ることもない。
 姉が嫁いだところに妹も嫁がせるのは、リオンとしてはどうかと思うが、国同士の関係を考えればそれほど非常識な手ではないのだ。

「フィリエルも、祖国の空気の方があっているかもしれません。せめてフィリエルの病が快癒するまでわが国に戻し、代わりにイザリアを――」

 ついでに言えば、ステファヌの言葉の端々に「フィリエルを返してほしい」という思いが乗っている気がする。

(おそらくだが、俺とフィリエルのこの五年の様子は、あちらでも情報を掴んでいたんだろうな)

 妹をないがしろにしやがってと、言われている気がした。
 フィリエルに散々届けられる手紙を読んだときは、「子が」「子を」とせっつく彼女の家族に嫌気が差したが、わざとだと思えば見え方が変わってくる。
 もしかして、しつこいくらいのあの手紙は、フィリエルが泣きついてくるのを待っていたのではなかろうか。
 一度でもフィリエルが泣きつけば、どんな手を使ってでも連れ戻すつもりでいたのだろう。

(義母上とはあまり話したことはないが、義父上はフィリエルを可愛がっていたし)

 あくまでリオンの予想なので、真実がどこにあるのかはわからない。
 けれども、ステファヌのこの様子を見る限り、あながち的外れでもあるまい。
 ちらりとイザリアを見れば、にっこりと微笑まれた。

「わたくしなら、きちんと妃の務めを果たせますわ!」
(寝室に乗り込んでやるから安心しろ、と言われているような気がする……)

 この義妹ならやりそうだ。リオンの意思を無視して強引に迫るくらい簡単にやってのけるだろう。姉妹でどうしてここまで性格が違うのだろうか。

(まあ、こっちはこっちで、姉を案じているというよりは、自分の立場を固めることしか考えていなさそうな気はするが)

 そういう女は怖い。何をするかわかったものではないからだ。

(……苦痛だ)

 早く終わってほしいが、まだメイン料理も出てきていない。

(ああ、早く部屋に帰ってフィリエルをモフりたい……)

 下手なことを言えばどの隙を突かれるかわからないので、リオンはただ笑顔ではぐらかして、黙々と食事を続けた。





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