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第18話 囁かれた求婚
〇
舞踏会の余韻がまだ胸に残る翌日。宰相邸は普段と変わらぬ静けさに包まれていた。けれど私の心は、王妃陛下の言葉を思い返すたびに甘く震えていた。――「女が安心して笑える場所を与えられる者こそ、国を支える者」。その場で堂々と私を抱いていた宰相様の姿は、まるで夢のようだった。
その日の午後。執務室の窓から射す陽は柔らかく、私は膝の上で帳簿を写していた。宰相様は書類に目を通しながら、時折私の髪を撫でてくる。その何気ない仕草に胸がくすぐったくなり、思わず頬が緩む。
「……楽しそうだな」
「えっ、い、いえ……」
「隠すな。声をかけただけで顔に出る」
冷静な声に、羞恥で俯いた。だが宰相様は軽く笑い、囁いた。
「君が笑っていると、私も楽になる」
胸がじんわりと温かくなる。その瞬間、秘書官が扉を叩き、慎重な声音で告げた。
「閣下……殿下派の貴族の中に、不穏な動きを見せる者がいるとの報告が」
「……そうか」
空気が一気に張り詰める。けれど宰相様は眉一つ動かさず、淡々と指示を出した。
「調べろ。根を断て」
「はっ」
秘書官が退室し、静寂が戻る。私は不安で胸がざわめき、思わず宰相様の袖を握った。
「……また、私のせいで……」
「違う」
即座に遮られる。低く鋭い声だった。
「君はただここにいればいい。私が守ると決めた」
その断言に胸が熱を帯び、涙が滲む。
やがて宰相様は仕事を中断し、私の顎をそっと持ち上げて言った。
「……エリナ」
「は、はい……」
「近いうちに、正式に求婚する」
瞬間、心臓が止まりそうになった。耳まで赤くなり、息が詰まる。
「きゅ、求婚……っ!?」
「ああ。君を妻として迎える。それ以外は考えられない」
月下の約束よりもさらに強く、揺るぎない言葉。胸が甘く痺れ、視界が涙で滲んだ。
――宰相様の口から囁かれた「求婚」。その言葉は、私の世界を一変させるほどの響きを持っていた。
△
「求婚」という言葉が頭の中で何度も反響し、胸が甘く痺れ続けていた。けれど現実感はまるでなく、夢の中にいるようで息すら浅くなる。
「わ、わたし……宰相様の妻に、なれるのでしょうか……」
震える声で尋ねると、宰相様はわずかに眉をひそめ、即座に答えた。
「なれる、ではない。なるのだ」
「……っ」
「君以外を妻にするつもりは一度もなかった。だからこそ、今こうして膝に抱いている」
堂々とした言葉に、涙がこぼれそうになる。私は必死に胸の奥の不安を掻き集め、口にした。
「でも……殿下やアリシア様、それに殿下派の方々はきっと反対を……」
「反対させておけばいい」
迷いなく断言された。
「彼らが何を言おうと関係ない。私は宰相だ。政も軍も掌握している。君を妻に迎えることに、誰一人として異を唱えさせはしない」
冷徹な響きなのに、不思議と甘く聞こえた。
宰相様は私の手を取り、その甲に唇を落とした。
「……エリナ。君は私の誇りだ。嫉妬も悪意もすべて受け止めよう。だから、恐れずに私の隣に来い」
胸が熱で震え、瞳が潤む。
そのとき、扉を叩く音がした。侍女が入室し、両手に抱えた花束を差し出す。
「エリナ様宛に、城下の花屋から届けられました」
差し出されたのは白百合の花束。清らかな香りが部屋に満ちる。けれど添えられた小さな紙片には、不穏な文字が記されていた。
――「宰相に利用されているだけだ」
胸が凍りつく。手が震え、花束を落としそうになる。だが宰相様は素早くそれを取り上げ、紙片を一瞥すると無造作に火にくべた。
「気にするな」
「で、でも……」
「犬の遠吠えだ。君を揺さぶれると思っているなら笑止」
炎に包まれて消えていく文字を見つめながら、胸に込み上げたのは恐怖ではなく安堵だった。宰相様がすべてを受け止め、私を揺らがせないようにしてくれる――その事実が、何よりも心を強くする。
私は涙をこぼしながら、宰相様の胸にしがみついた。
「……わたし、宰相様のお傍にいたいです。ずっと……」
「それでいい。次の満月の夜、正式に誓わせよう」
その言葉に、胸の奥から溢れ出す甘い鼓動を止められなかった。
◇
それから数日後、宰相様は私にもう一度確かめるように言った。
「エリナ、君は本当に私の隣に立つ覚悟があるか?」
その言葉に、胸が大きく跳ねた。けれど、私は迷わず答えた。
「はい。私は、宰相様の隣に立ちたいです」
「ならば、もう何も迷うことはない」
宰相様は静かに立ち上がり、私を優しく抱き寄せると、そのまま私を膝に抱き上げた。
「君が覚悟を決めたなら、私も決める。満月の夜、正式に求婚する」
その言葉に、胸が高鳴り、熱くなった。こんなにも、宰相様に必要とされているのだと実感する。
数日後の満月の夜。王宮の広間には、金色の灯りが揺れるシャンデリアが飾られ、貴族たちが集まった。だが、今日は何かが違った。今日は、私が宰相様の隣に立つ日だという実感が、何度も胸を打つ。
私たちは広間の中央に立ち、集まった貴族たちが見守る中、宰相様が私の手を取り、静かに言った。
「皆の前で誓おう。私はこの娘を、私の妻として迎える」
その一言で、広間が静まり返った。貴族たちの目が一斉に私に向けられる。何かを言おうとする者もいたが、宰相様の一瞥がそれを止めた。
彼の瞳は冷徹でありながら、私だけに向けられた優しさを隠し持っている。
「私は彼女を誰よりも大切にし、誰にも渡さない。これからの人生、君と共に歩んでいく」
その言葉に、広間は再びざわめき、そして、宰相様の力強い宣言に続くように、貴族たちが拍手を送り始めた。
私の胸は涙でいっぱいになり、声を震わせながらも、私は答えた。
「私は宰相様の妻として、全力で支えます。どんな時でも、宰相様の隣にいます」
その答えに、宰相様は微笑み、私の手をしっかりと握り返した。
「それでいい。君を選んだことは、私の誇りだ」
広間の灯りがさらに煌めき、私たちはお互いの手を取り合い、未来を誓った。
その夜、私は宰相様の膝の上で初めて深い安心感を覚えた。これからもずっと、彼の隣で支え合い、共に歩んでいくのだと思うと、心の奥からあふれ出す幸福で、自然と涙がこぼれた。
――私は宰相様の妻として、これからの未来を生きることを、心から誓った。
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舞踏会の余韻がまだ胸に残る翌日。宰相邸は普段と変わらぬ静けさに包まれていた。けれど私の心は、王妃陛下の言葉を思い返すたびに甘く震えていた。――「女が安心して笑える場所を与えられる者こそ、国を支える者」。その場で堂々と私を抱いていた宰相様の姿は、まるで夢のようだった。
その日の午後。執務室の窓から射す陽は柔らかく、私は膝の上で帳簿を写していた。宰相様は書類に目を通しながら、時折私の髪を撫でてくる。その何気ない仕草に胸がくすぐったくなり、思わず頬が緩む。
「……楽しそうだな」
「えっ、い、いえ……」
「隠すな。声をかけただけで顔に出る」
冷静な声に、羞恥で俯いた。だが宰相様は軽く笑い、囁いた。
「君が笑っていると、私も楽になる」
胸がじんわりと温かくなる。その瞬間、秘書官が扉を叩き、慎重な声音で告げた。
「閣下……殿下派の貴族の中に、不穏な動きを見せる者がいるとの報告が」
「……そうか」
空気が一気に張り詰める。けれど宰相様は眉一つ動かさず、淡々と指示を出した。
「調べろ。根を断て」
「はっ」
秘書官が退室し、静寂が戻る。私は不安で胸がざわめき、思わず宰相様の袖を握った。
「……また、私のせいで……」
「違う」
即座に遮られる。低く鋭い声だった。
「君はただここにいればいい。私が守ると決めた」
その断言に胸が熱を帯び、涙が滲む。
やがて宰相様は仕事を中断し、私の顎をそっと持ち上げて言った。
「……エリナ」
「は、はい……」
「近いうちに、正式に求婚する」
瞬間、心臓が止まりそうになった。耳まで赤くなり、息が詰まる。
「きゅ、求婚……っ!?」
「ああ。君を妻として迎える。それ以外は考えられない」
月下の約束よりもさらに強く、揺るぎない言葉。胸が甘く痺れ、視界が涙で滲んだ。
――宰相様の口から囁かれた「求婚」。その言葉は、私の世界を一変させるほどの響きを持っていた。
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「求婚」という言葉が頭の中で何度も反響し、胸が甘く痺れ続けていた。けれど現実感はまるでなく、夢の中にいるようで息すら浅くなる。
「わ、わたし……宰相様の妻に、なれるのでしょうか……」
震える声で尋ねると、宰相様はわずかに眉をひそめ、即座に答えた。
「なれる、ではない。なるのだ」
「……っ」
「君以外を妻にするつもりは一度もなかった。だからこそ、今こうして膝に抱いている」
堂々とした言葉に、涙がこぼれそうになる。私は必死に胸の奥の不安を掻き集め、口にした。
「でも……殿下やアリシア様、それに殿下派の方々はきっと反対を……」
「反対させておけばいい」
迷いなく断言された。
「彼らが何を言おうと関係ない。私は宰相だ。政も軍も掌握している。君を妻に迎えることに、誰一人として異を唱えさせはしない」
冷徹な響きなのに、不思議と甘く聞こえた。
宰相様は私の手を取り、その甲に唇を落とした。
「……エリナ。君は私の誇りだ。嫉妬も悪意もすべて受け止めよう。だから、恐れずに私の隣に来い」
胸が熱で震え、瞳が潤む。
そのとき、扉を叩く音がした。侍女が入室し、両手に抱えた花束を差し出す。
「エリナ様宛に、城下の花屋から届けられました」
差し出されたのは白百合の花束。清らかな香りが部屋に満ちる。けれど添えられた小さな紙片には、不穏な文字が記されていた。
――「宰相に利用されているだけだ」
胸が凍りつく。手が震え、花束を落としそうになる。だが宰相様は素早くそれを取り上げ、紙片を一瞥すると無造作に火にくべた。
「気にするな」
「で、でも……」
「犬の遠吠えだ。君を揺さぶれると思っているなら笑止」
炎に包まれて消えていく文字を見つめながら、胸に込み上げたのは恐怖ではなく安堵だった。宰相様がすべてを受け止め、私を揺らがせないようにしてくれる――その事実が、何よりも心を強くする。
私は涙をこぼしながら、宰相様の胸にしがみついた。
「……わたし、宰相様のお傍にいたいです。ずっと……」
「それでいい。次の満月の夜、正式に誓わせよう」
その言葉に、胸の奥から溢れ出す甘い鼓動を止められなかった。
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それから数日後、宰相様は私にもう一度確かめるように言った。
「エリナ、君は本当に私の隣に立つ覚悟があるか?」
その言葉に、胸が大きく跳ねた。けれど、私は迷わず答えた。
「はい。私は、宰相様の隣に立ちたいです」
「ならば、もう何も迷うことはない」
宰相様は静かに立ち上がり、私を優しく抱き寄せると、そのまま私を膝に抱き上げた。
「君が覚悟を決めたなら、私も決める。満月の夜、正式に求婚する」
その言葉に、胸が高鳴り、熱くなった。こんなにも、宰相様に必要とされているのだと実感する。
数日後の満月の夜。王宮の広間には、金色の灯りが揺れるシャンデリアが飾られ、貴族たちが集まった。だが、今日は何かが違った。今日は、私が宰相様の隣に立つ日だという実感が、何度も胸を打つ。
私たちは広間の中央に立ち、集まった貴族たちが見守る中、宰相様が私の手を取り、静かに言った。
「皆の前で誓おう。私はこの娘を、私の妻として迎える」
その一言で、広間が静まり返った。貴族たちの目が一斉に私に向けられる。何かを言おうとする者もいたが、宰相様の一瞥がそれを止めた。
彼の瞳は冷徹でありながら、私だけに向けられた優しさを隠し持っている。
「私は彼女を誰よりも大切にし、誰にも渡さない。これからの人生、君と共に歩んでいく」
その言葉に、広間は再びざわめき、そして、宰相様の力強い宣言に続くように、貴族たちが拍手を送り始めた。
私の胸は涙でいっぱいになり、声を震わせながらも、私は答えた。
「私は宰相様の妻として、全力で支えます。どんな時でも、宰相様の隣にいます」
その答えに、宰相様は微笑み、私の手をしっかりと握り返した。
「それでいい。君を選んだことは、私の誇りだ」
広間の灯りがさらに煌めき、私たちはお互いの手を取り合い、未来を誓った。
その夜、私は宰相様の膝の上で初めて深い安心感を覚えた。これからもずっと、彼の隣で支え合い、共に歩んでいくのだと思うと、心の奥からあふれ出す幸福で、自然と涙がこぼれた。
――私は宰相様の妻として、これからの未来を生きることを、心から誓った。
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