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第23話 囁かれる陰謀
〇
宰相様から贈られた髪飾りを身につけて過ごす日々は、私にとってかけがえのない誇りとなった。鏡に映る自分を見るたびに、「宰相様の妻になるのだ」という自覚が芽生え、胸が甘く震える。
しかし、その穏やかな日常に再び影が差し込んだのは、ある朝のことだった。
執務室の扉が乱暴に叩かれ、秘書官が険しい顔で駆け込んできた。
「閣下……王宮内で、不穏な噂が広がっております」
「内容は?」
宰相様の声は冷徹で、私は思わず身を固くした。
「……『宰相は一人の令嬢に溺れ、政務を疎かにしている』と」
胸が冷たくなった。私の存在が、宰相様を貶める材料として使われてしまっている。
「さらに……第一王子派の貴族たちが、その噂を大きく広めております」
「なるほど」
宰相様は眉一つ動かさず、淡々と頷いた。
だが、私は心臓が締め付けられるように痛み、思わず震える声を上げていた。
「……やっぱり、私が……」
「違う」
宰相様は即座に遮る。瞳は真っ直ぐに私を射抜いていた。
「勘違いするな。これは私を狙った陰謀だ。君のせいではない」
その断言に少し安堵したが、それでも不安は消えなかった。
「しかし……私が膝に座っていることで、宰相様が批判されるのなら……」
「だからこそ、座り続けろ」
「えっ……」
「批判されようと構わん。君が膝の上にいる姿を示し続けることが、何よりの反証になる」
胸が甘く震える。涙が滲みながらも、私は必死に頷いた。
宰相様は私の手を握りしめ、低く囁いた。
「君がここにいることが、私の誇りだ。誰にも揺らがせはしない」
――その言葉に支えられながらも、私は胸の奥で決意した。これ以上宰相様を傷つけさせてはならない。私自身も、彼を守れる存在にならなければ。
△
その日の午後、私は宰相様の膝の上に座ったまま帳簿を写していた。けれど筆先は震え、紙に滲む文字が歪む。噂が頭から離れず、胸が落ち着かない。
「……エリナ」
宰相様が静かに名を呼ぶ。私は慌てて背筋を伸ばした。
「は、はい!」
「無理に笑うな」
「……っ」
その一言で、胸の奥に押し込めていた不安が堰を切ったようにあふれ出した。
「宰相様……私がいることで、あなたの立場が危うくなるのではと……怖いのです」
宰相様は一瞬目を細め、それから私を抱き寄せて低く囁いた。
「愚かなことを言うな。私の立場を危うくするのは、私自身の力不足だ。君ではない」
「でも……」
「よく聞け」
彼の声は冷徹で、同時に揺るぎなく温かい。
「君は私の力そのものだ。膝に座っている君の姿は、私にとって最大の盾であり剣だ」
涙がにじみ、私は小さく頷いた。
そのとき、扉が叩かれ、秘書官が再び入室した。
「閣下、城下で奇妙な動きがございます。『宰相に溺れる令嬢を引き離せ』と訴える者たちが集まり始めております」
「……扇動か」
宰相様は低く呟いた。
私は思わず宰相様の袖を掴んだ。
「そんな……私を狙って……」
「安心しろ」
宰相様はすぐに私を抱き寄せ、背を撫でた。
「連中の狙いは私を揺さぶることだ。君を本気で奪えると思っているわけではない」
「で、でも……」
「私の腕の中にいる限り、誰も君には触れられない」
その断言に、胸が熱く震えた。
秘書官は宰相様に向かい、さらに報告を重ねた。
「殿下派の貴族が、明日の評議会で『宰相は私情に溺れている』と糾弾する構えを見せています」
「なるほど。ならば好都合だ」
「……と申しますと?」
宰相様の瞳が鋭く光った。
「膝の上の彼女を、国中の前で示す。それが最も雄弁な答えとなる」
私の胸は羞恥でいっぱいになり、頬が真っ赤に染まる。けれど同時に、心の奥に誇らしさが芽生えていた。
宰相様は私の耳元に低く囁いた。
「明日、君はいつも通り私の膝の上に座れ。――それだけで十分だ」
その言葉に、胸が震え、涙が溢れそうになる。
――私はもう、逃げない。宰相様の膝の上から、堂々と彼の隣にいることを示すのだ。
◇
翌日、王宮の評議会。広間には貴族や重臣たちがずらりと並び、重苦しい空気が漂っていた。壇上に立つ第一王子は、冷ややかな視線で宰相様を見据えている。
「宰相殿。貴様は政務を忘れ、一人の娘に溺れているとの噂が絶えぬ。国家の要を担う者として、恥とは思わぬのか」
広間がざわめきに包まれる。私の頬は羞恥で熱くなり、思わずうつむきそうになったが――宰相様の腕がしっかりと私を支えた。
「……宰相様」
「顔を上げろ。胸を張れ」
低く囁かれた声に従い、私は必死に背筋を伸ばした。
宰相様は堂々と席に腰を下ろし、私をいつものように膝の上に座らせた。広間全体が息を呑み、ざわめきがさらに大きくなる。
「見よ。私が誰を膝に抱いているか」
宰相様の声は冷徹に広間へ響いた。
「これが私の選んだ存在だ。私が政を疎かにしていると言うのなら、この娘が膝にいるままにすべての政務を果たしている事実を見よ」
王子の顔が歪む。貴族たちの間からも戸惑いの声が上がった。
「彼女がいることで私は迷わぬ。むしろ力を得る。私が強く在れるのは、この娘がいるからだ」
私は胸が熱く震え、視界が涙で滲んだ。羞恥を超え、誇りが全身を満たしていく。
王子は苛立ちを隠せず叫んだ。
「女一人に国政を委ねるつもりか!」
「委ねてなどいない」
宰相様の声は一層冷たく鋭い。
「共に歩んでいるのだ。私の決断に口を出す者がいるのなら、その者は国の歩みを否定するに等しい」
その断言に、広間は静まり返った。誰も反論できず、やがて少しずつ肯定の声が広がり始めた。
「確かに……宰相が政を疎かにしたことなどない」
「むしろ以前より決断が速いではないか」
「この娘の存在が宰相を強くしているのだとしたら……」
空気が変わっていくのを肌で感じた。私は宰相様の胸に顔を寄せ、震える声で呟いた。
「……宰相様……」
「恐れるな。君は私の誇りだ」
その一言に、涙が頬を伝った。
評議会はそのまま閉じられ、王子は不満げに退席した。だが貴族たちの多くは宰相様の言葉を受け入れ、噂の力は弱まっていった。
馬車に戻ると、宰相様は私を抱き寄せて額に唇を落とした。
「よくやったな」
「……私、ただ座っていただけです」
「それで十分だ。君がそこにいることが、何よりも力になる」
胸が甘く痺れ、涙が再び溢れる。私は強く誓った。
――これからも宰相様の膝の上で、彼を支え続けるのだ。
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宰相様から贈られた髪飾りを身につけて過ごす日々は、私にとってかけがえのない誇りとなった。鏡に映る自分を見るたびに、「宰相様の妻になるのだ」という自覚が芽生え、胸が甘く震える。
しかし、その穏やかな日常に再び影が差し込んだのは、ある朝のことだった。
執務室の扉が乱暴に叩かれ、秘書官が険しい顔で駆け込んできた。
「閣下……王宮内で、不穏な噂が広がっております」
「内容は?」
宰相様の声は冷徹で、私は思わず身を固くした。
「……『宰相は一人の令嬢に溺れ、政務を疎かにしている』と」
胸が冷たくなった。私の存在が、宰相様を貶める材料として使われてしまっている。
「さらに……第一王子派の貴族たちが、その噂を大きく広めております」
「なるほど」
宰相様は眉一つ動かさず、淡々と頷いた。
だが、私は心臓が締め付けられるように痛み、思わず震える声を上げていた。
「……やっぱり、私が……」
「違う」
宰相様は即座に遮る。瞳は真っ直ぐに私を射抜いていた。
「勘違いするな。これは私を狙った陰謀だ。君のせいではない」
その断言に少し安堵したが、それでも不安は消えなかった。
「しかし……私が膝に座っていることで、宰相様が批判されるのなら……」
「だからこそ、座り続けろ」
「えっ……」
「批判されようと構わん。君が膝の上にいる姿を示し続けることが、何よりの反証になる」
胸が甘く震える。涙が滲みながらも、私は必死に頷いた。
宰相様は私の手を握りしめ、低く囁いた。
「君がここにいることが、私の誇りだ。誰にも揺らがせはしない」
――その言葉に支えられながらも、私は胸の奥で決意した。これ以上宰相様を傷つけさせてはならない。私自身も、彼を守れる存在にならなければ。
△
その日の午後、私は宰相様の膝の上に座ったまま帳簿を写していた。けれど筆先は震え、紙に滲む文字が歪む。噂が頭から離れず、胸が落ち着かない。
「……エリナ」
宰相様が静かに名を呼ぶ。私は慌てて背筋を伸ばした。
「は、はい!」
「無理に笑うな」
「……っ」
その一言で、胸の奥に押し込めていた不安が堰を切ったようにあふれ出した。
「宰相様……私がいることで、あなたの立場が危うくなるのではと……怖いのです」
宰相様は一瞬目を細め、それから私を抱き寄せて低く囁いた。
「愚かなことを言うな。私の立場を危うくするのは、私自身の力不足だ。君ではない」
「でも……」
「よく聞け」
彼の声は冷徹で、同時に揺るぎなく温かい。
「君は私の力そのものだ。膝に座っている君の姿は、私にとって最大の盾であり剣だ」
涙がにじみ、私は小さく頷いた。
そのとき、扉が叩かれ、秘書官が再び入室した。
「閣下、城下で奇妙な動きがございます。『宰相に溺れる令嬢を引き離せ』と訴える者たちが集まり始めております」
「……扇動か」
宰相様は低く呟いた。
私は思わず宰相様の袖を掴んだ。
「そんな……私を狙って……」
「安心しろ」
宰相様はすぐに私を抱き寄せ、背を撫でた。
「連中の狙いは私を揺さぶることだ。君を本気で奪えると思っているわけではない」
「で、でも……」
「私の腕の中にいる限り、誰も君には触れられない」
その断言に、胸が熱く震えた。
秘書官は宰相様に向かい、さらに報告を重ねた。
「殿下派の貴族が、明日の評議会で『宰相は私情に溺れている』と糾弾する構えを見せています」
「なるほど。ならば好都合だ」
「……と申しますと?」
宰相様の瞳が鋭く光った。
「膝の上の彼女を、国中の前で示す。それが最も雄弁な答えとなる」
私の胸は羞恥でいっぱいになり、頬が真っ赤に染まる。けれど同時に、心の奥に誇らしさが芽生えていた。
宰相様は私の耳元に低く囁いた。
「明日、君はいつも通り私の膝の上に座れ。――それだけで十分だ」
その言葉に、胸が震え、涙が溢れそうになる。
――私はもう、逃げない。宰相様の膝の上から、堂々と彼の隣にいることを示すのだ。
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翌日、王宮の評議会。広間には貴族や重臣たちがずらりと並び、重苦しい空気が漂っていた。壇上に立つ第一王子は、冷ややかな視線で宰相様を見据えている。
「宰相殿。貴様は政務を忘れ、一人の娘に溺れているとの噂が絶えぬ。国家の要を担う者として、恥とは思わぬのか」
広間がざわめきに包まれる。私の頬は羞恥で熱くなり、思わずうつむきそうになったが――宰相様の腕がしっかりと私を支えた。
「……宰相様」
「顔を上げろ。胸を張れ」
低く囁かれた声に従い、私は必死に背筋を伸ばした。
宰相様は堂々と席に腰を下ろし、私をいつものように膝の上に座らせた。広間全体が息を呑み、ざわめきがさらに大きくなる。
「見よ。私が誰を膝に抱いているか」
宰相様の声は冷徹に広間へ響いた。
「これが私の選んだ存在だ。私が政を疎かにしていると言うのなら、この娘が膝にいるままにすべての政務を果たしている事実を見よ」
王子の顔が歪む。貴族たちの間からも戸惑いの声が上がった。
「彼女がいることで私は迷わぬ。むしろ力を得る。私が強く在れるのは、この娘がいるからだ」
私は胸が熱く震え、視界が涙で滲んだ。羞恥を超え、誇りが全身を満たしていく。
王子は苛立ちを隠せず叫んだ。
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「委ねてなどいない」
宰相様の声は一層冷たく鋭い。
「共に歩んでいるのだ。私の決断に口を出す者がいるのなら、その者は国の歩みを否定するに等しい」
その断言に、広間は静まり返った。誰も反論できず、やがて少しずつ肯定の声が広がり始めた。
「確かに……宰相が政を疎かにしたことなどない」
「むしろ以前より決断が速いではないか」
「この娘の存在が宰相を強くしているのだとしたら……」
空気が変わっていくのを肌で感じた。私は宰相様の胸に顔を寄せ、震える声で呟いた。
「……宰相様……」
「恐れるな。君は私の誇りだ」
その一言に、涙が頬を伝った。
評議会はそのまま閉じられ、王子は不満げに退席した。だが貴族たちの多くは宰相様の言葉を受け入れ、噂の力は弱まっていった。
馬車に戻ると、宰相様は私を抱き寄せて額に唇を落とした。
「よくやったな」
「……私、ただ座っていただけです」
「それで十分だ。君がそこにいることが、何よりも力になる」
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