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第28話 過去からの使者
〇
政務会議で夫婦の結束を示した数日後、邸に一通の手紙が届いた。差出人は――私の実家、アーデル家。手に取った瞬間、胸がざわめいた。かつて「邪魔者」と呼び、追放したあの家から、再び。
「奥様……どうなさいますか」
執事の問いに、私は封を切った。そこには丁寧な言葉が並び、最後にこう記されていた。
――一度話し合いたい。過去の過ちを償いたい。
信じてよいのか分からない。けれど、心の奥で燻っていた傷に向き合うべき時が来たと直感した。私は深呼吸し、アルベルトに手紙を差し出した。
「……行ってみたいです」
彼はしばし黙して読み、灰色の瞳で私を見つめる。
「危険の可能性は拭えない。それでも?」
「はい。逃げ続ければ、私は前に進めません」
短い沈黙ののち、彼は頷いた。
「わかった。私が共に行こう」
その言葉に、胸が温かくなった。
△
馬車に揺られ実家の門をくぐると、記憶が鮮明に甦った。冷たい視線、押し殺した嗚咽、暗い廊下。すべてが過去の私を抉り出す。だが今は違う。隣には彼がいる。
応接室に通されると、父と母、姉たちが並んでいた。父は作り笑いを浮かべ、母は扇を揺らしながら言った。
「よく来てくれたわね、レイナ。……奥方様と呼ぶべきかしら」
その声音にかつての蔑みが滲む。私は息を整え、笑みを作った。
「ご用件を伺います」
父が重苦しい声で続けた。
「我らは確かに過ちを犯した。だが、家の存続のため……宰相閣下との繋がりを保ちたい」
結局はそれか、と胸が冷える。謝罪ではなく、利用。
アルベルトが静かに口を開いた。
「利用する気なら帰る。我々は結束を誇示するためにここへ来たのではない。真実を見極めるためだ」
冷徹な声に、室内の空気が凍りつく。
◇
長姉が堪えきれずに声を荒げた。
「どうしてあなただけ幸せになるの! 私たちだって――!」
母が慌てて制し、父は顔を歪めて沈黙する。結局、彼らの心からの謝罪は一言もなかった。
私は立ち上がり、震える声で告げた。
「……私はもう“邪魔者”ではありません。宰相閣下の妻として、この国で生きています。あなたたちに認めてもらう必要はありません」
その言葉にアルベルトがゆるやかに頷き、私の肩を抱いた。
「聞いたな。これが彼女の答えだ」
沈黙の中で部屋を後にすると、胸が軽くなっていくのを感じた。門を出た時、私は深く息を吐いた。
「……怖かった。でも、言えました」
「君は強かった」
彼の低い声が胸に沁み、涙が溢れた。
馬車の中、彼の肩に身を預けながら、私は心に誓った。
――もう過去には囚われない。隣にいる彼と未来を歩くのだ、と。
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政務会議で夫婦の結束を示した数日後、邸に一通の手紙が届いた。差出人は――私の実家、アーデル家。手に取った瞬間、胸がざわめいた。かつて「邪魔者」と呼び、追放したあの家から、再び。
「奥様……どうなさいますか」
執事の問いに、私は封を切った。そこには丁寧な言葉が並び、最後にこう記されていた。
――一度話し合いたい。過去の過ちを償いたい。
信じてよいのか分からない。けれど、心の奥で燻っていた傷に向き合うべき時が来たと直感した。私は深呼吸し、アルベルトに手紙を差し出した。
「……行ってみたいです」
彼はしばし黙して読み、灰色の瞳で私を見つめる。
「危険の可能性は拭えない。それでも?」
「はい。逃げ続ければ、私は前に進めません」
短い沈黙ののち、彼は頷いた。
「わかった。私が共に行こう」
その言葉に、胸が温かくなった。
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馬車に揺られ実家の門をくぐると、記憶が鮮明に甦った。冷たい視線、押し殺した嗚咽、暗い廊下。すべてが過去の私を抉り出す。だが今は違う。隣には彼がいる。
応接室に通されると、父と母、姉たちが並んでいた。父は作り笑いを浮かべ、母は扇を揺らしながら言った。
「よく来てくれたわね、レイナ。……奥方様と呼ぶべきかしら」
その声音にかつての蔑みが滲む。私は息を整え、笑みを作った。
「ご用件を伺います」
父が重苦しい声で続けた。
「我らは確かに過ちを犯した。だが、家の存続のため……宰相閣下との繋がりを保ちたい」
結局はそれか、と胸が冷える。謝罪ではなく、利用。
アルベルトが静かに口を開いた。
「利用する気なら帰る。我々は結束を誇示するためにここへ来たのではない。真実を見極めるためだ」
冷徹な声に、室内の空気が凍りつく。
◇
長姉が堪えきれずに声を荒げた。
「どうしてあなただけ幸せになるの! 私たちだって――!」
母が慌てて制し、父は顔を歪めて沈黙する。結局、彼らの心からの謝罪は一言もなかった。
私は立ち上がり、震える声で告げた。
「……私はもう“邪魔者”ではありません。宰相閣下の妻として、この国で生きています。あなたたちに認めてもらう必要はありません」
その言葉にアルベルトがゆるやかに頷き、私の肩を抱いた。
「聞いたな。これが彼女の答えだ」
沈黙の中で部屋を後にすると、胸が軽くなっていくのを感じた。門を出た時、私は深く息を吐いた。
「……怖かった。でも、言えました」
「君は強かった」
彼の低い声が胸に沁み、涙が溢れた。
馬車の中、彼の肩に身を預けながら、私は心に誓った。
――もう過去には囚われない。隣にいる彼と未来を歩くのだ、と。
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