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第4話 酒癖で追放された戦士
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温泉と畑で活気を取り戻した追放者ギルド。その夜、俺――カイルは焚き火の前で帳簿代わりの板に今日の成果を書き込んでいた。
「腐葉土を混ぜた畑、一区画完成。害獣対策用の罠、三基設置。温泉――稼働確認。リナの料理――最高」
リナが鍋を抱えてこちらを睨む。
「最後だけ評価がざっくりすぎません?」
「料理は語るより食うほうが早い」
そう言ってスープをすすった瞬間、皆が笑い声を上げた。空気が明るい。ほんの数日前まで死にかけていた集落とは思えない。
……と、そこへ。
「うぉぉぉい! ここが追放者ギルドってやつかぁぁぁ!」
森の方から、がしゃんがしゃんと鎧を鳴らして歩いてくる大男がいた。背丈は二メートル近い。髭はぼさぼさ、目は血走り、手には酒瓶。肩に担いだ大剣はやけに立派だ。
「おいカイルさん! なんかやばいの来ましたよ!」
「待て、まだ敵とは決まってない」
俺が腰を上げると、大男は広場にどっかり座り込み、酒瓶を振り上げた。
「俺はグレン! 王都最強の戦士だったがぁ……酒癖が悪すぎて追放された男だぁ!」
リナが小声で俺に耳打ちする。
「酒癖って……どのくらい悪いんでしょう」
「見ればわかるさ」
次の瞬間、グレンは酒瓶を口に突っ込み、一息に中身を飲み干した。そして空瓶を放り投げ……なぜか自分の頭でキャッチし、ガシャンと割った。
「ぬおお! これが戦士の“乾杯”よ!」
「……やっぱり悪いな」
◇
だが、戦士の実力は本物だった。翌日、畑に忍び込んだイノシシの群れを、グレンは片手で薙ぎ払った。大剣が風を裂き、巨体が舞い、イノシシたちは逃げ散る。
「おお……!」
「すげぇ力だ!」
若者たちが目を丸くする。俺も唸った。確かに力は抜群だ。ただ問題は――。
「ぐはは! 勝利の美酒だ!」
イノシシを倒した直後、グレンはまた酒瓶を取り出し、その場で泥酔。足元がおぼつかなくなり、倒れ込んで畑を一部ぐしゃりと潰した。
「やめろおおお!」
「苗があああ!」
リナが頭を抱える。俺はため息をついた。
「……能力は最高、酒癖は最悪。まあ、追放者らしい」
「カイル、俺を入れてくれるか?」
酔いが覚めたグレンが真顔で言った。
「俺はどこでも邪魔者だった。だが……ここなら、仲間になれる気がする」
その瞳には、酒臭さの奥に確かな寂しさがあった。俺は頷いた。
「歓迎する。だが条件がある」
「条件?」
「戦いの前は飲むな。飲むのは勝った後だけだ」
「……わかった! それで十分だ!」
グレンは大声で笑い、俺の手をがっしり握った。
◇
その夜。リナが温泉水で煮込んだイノシシ鍋を作り、皆で囲んだ。グレンは我慢して水を飲み、戦いの話を披露しながらも、どこか嬉しそうにしていた。
「追放者ギルド、いいな! ここじゃ、俺の酒癖も笑い話になる!」
「酒癖だけでなく、力も役立ってるしな」
俺が言うと、グレンは照れくさそうに頭をかいた。
こうしてまた一人、追放者ギルドに仲間が増えた。
――力はあるのに酒癖で追放された戦士グレン。頼りになるか不安になるかは、今後の段取り次第だ。
「腐葉土を混ぜた畑、一区画完成。害獣対策用の罠、三基設置。温泉――稼働確認。リナの料理――最高」
リナが鍋を抱えてこちらを睨む。
「最後だけ評価がざっくりすぎません?」
「料理は語るより食うほうが早い」
そう言ってスープをすすった瞬間、皆が笑い声を上げた。空気が明るい。ほんの数日前まで死にかけていた集落とは思えない。
……と、そこへ。
「うぉぉぉい! ここが追放者ギルドってやつかぁぁぁ!」
森の方から、がしゃんがしゃんと鎧を鳴らして歩いてくる大男がいた。背丈は二メートル近い。髭はぼさぼさ、目は血走り、手には酒瓶。肩に担いだ大剣はやけに立派だ。
「おいカイルさん! なんかやばいの来ましたよ!」
「待て、まだ敵とは決まってない」
俺が腰を上げると、大男は広場にどっかり座り込み、酒瓶を振り上げた。
「俺はグレン! 王都最強の戦士だったがぁ……酒癖が悪すぎて追放された男だぁ!」
リナが小声で俺に耳打ちする。
「酒癖って……どのくらい悪いんでしょう」
「見ればわかるさ」
次の瞬間、グレンは酒瓶を口に突っ込み、一息に中身を飲み干した。そして空瓶を放り投げ……なぜか自分の頭でキャッチし、ガシャンと割った。
「ぬおお! これが戦士の“乾杯”よ!」
「……やっぱり悪いな」
◇
だが、戦士の実力は本物だった。翌日、畑に忍び込んだイノシシの群れを、グレンは片手で薙ぎ払った。大剣が風を裂き、巨体が舞い、イノシシたちは逃げ散る。
「おお……!」
「すげぇ力だ!」
若者たちが目を丸くする。俺も唸った。確かに力は抜群だ。ただ問題は――。
「ぐはは! 勝利の美酒だ!」
イノシシを倒した直後、グレンはまた酒瓶を取り出し、その場で泥酔。足元がおぼつかなくなり、倒れ込んで畑を一部ぐしゃりと潰した。
「やめろおおお!」
「苗があああ!」
リナが頭を抱える。俺はため息をついた。
「……能力は最高、酒癖は最悪。まあ、追放者らしい」
「カイル、俺を入れてくれるか?」
酔いが覚めたグレンが真顔で言った。
「俺はどこでも邪魔者だった。だが……ここなら、仲間になれる気がする」
その瞳には、酒臭さの奥に確かな寂しさがあった。俺は頷いた。
「歓迎する。だが条件がある」
「条件?」
「戦いの前は飲むな。飲むのは勝った後だけだ」
「……わかった! それで十分だ!」
グレンは大声で笑い、俺の手をがっしり握った。
◇
その夜。リナが温泉水で煮込んだイノシシ鍋を作り、皆で囲んだ。グレンは我慢して水を飲み、戦いの話を披露しながらも、どこか嬉しそうにしていた。
「追放者ギルド、いいな! ここじゃ、俺の酒癖も笑い話になる!」
「酒癖だけでなく、力も役立ってるしな」
俺が言うと、グレンは照れくさそうに頭をかいた。
こうしてまた一人、追放者ギルドに仲間が増えた。
――力はあるのに酒癖で追放された戦士グレン。頼りになるか不安になるかは、今後の段取り次第だ。
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