悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

文字の大きさ
31 / 70

第三十一話 強硬策

しおりを挟む
 社交界が二分されてから数日、王太子派の動きは一層激しさを増した。
 ――公爵家との取引を打ち切る商会が相次ぎ、屋敷の倉庫は徐々に空になっていく。
 ――王宮からの使者は「クラリッサ嬢を差し出せ」と暗に告げてくる。
 ――街では「悪役令嬢は国を乱す」という歌まで流され始めた。

 まるで国全体を使った圧力。檻に戻させるための鎖は、日ごとに重くなっていた。

 ◇

 「クラリッサ……」
 父の声は重苦しかった。机には請願書や抗議文が山積みになっている。
 「家は今や孤立している。王太子派からの圧力に屈すれば楽になる。だが――」
 「檻に戻ることは許されない」わたしははっきりと言った。

 父は深いため息を吐き、しばしわたしを見つめた。
 「……そうだな。お前が己の意志を貫くのなら、我らも腹を括らねばなるまい」

 母は涙ぐみながら、しかし頷いた。家族を巻き込んでいる。それでも、後悔はなかった。

 ◇

 その日の夕刻、レオンハルトが屋敷を訪れた。彼の顔にも疲労が滲んでいる。
 「兄上は布告に続いて、今度は“忠誠の誓約”を用意している。公爵家を含む主要貴族に署名させ、第二王子派を締め出すつもりだ」
 「……署名を拒めば」
 「反逆者とされる。だが、従えば君を差し出すことになる」

 袋小路。殿下は一歩ずつ追い詰めてくる。

 「クラリッサ。……怖いですか」
 「ええ。でも、あなたが隣にいるから」

 わたしの言葉に、彼の瞳が強く揺らいだ。
 「あなたの強さに、私も支えられている」

 ◇

 数日後、王宮の大広間で「忠誠の誓約」の場が設けられた。数多の貴族が集められ、殿下の前で署名を迫られる。硝子の笑みを湛える殿下の隣には、やはりエミリアがいた。

 「諸君。ここに署名することこそ、王家への忠誠の証だ」

 列席者の中で、公爵家の名が呼ばれた。重苦しい沈黙。視線がわたしに集まる。

 ――ここで従えば家は守れる。だが、檻に戻ることになる。

 わたしは一歩前に進み、静かに扇を閉じた。
 「殿下。……わたしは署名いたしません」

 広間がざわめきに包まれる。殿下の笑みが凍った。
 「理由を申せ」
 「檻に閉じ込められる未来を選ぶことは、忠誠ではなく隷属だからです」

 ◇

 「その通りだ」

 レオンハルトが立ち上がり、会場を震わせる声を放った。
 「彼女の拒絶こそ真の勇気。王家が民を檻に閉じ込めることなど許されない」

 殿下の顔に怒気が浮かび、会場の空気は張り詰めた。

 ◇

 夜、屋敷に戻り、机に白いハンカチを置く。今日の選択で、公爵家は完全に王太子派から孤立した。けれど、胸の奥にあるのは恐怖ではなく誇りだった。

 「檻には戻らない。……たとえ国を敵に回しても」

 その誓いは、冬の月明かりに照らされて揺るぎなく輝いた。

 ――悪役令嬢クラリッサは、国を裂く嵐の中心に立ち。

 ――けれど自由と愛を選ぶ覚悟を、誰よりも強く抱いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな
恋愛
「カタリーナ・フォン・シュバルツ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 卒業パーティーの最中、第一王子アルフォンスから非情な宣告を突きつけられた公爵令嬢カタリーナ。 生まれつきの鋭い目つきと、緊張すると顔が強張る不器用さゆえに「悪役令嬢」として孤立していた彼女は、ついに訪れた「お決まりの断罪劇」に絶望……するかと思いきや。 (……あれ? 殿下、いま小さく「よっしゃあ!」ってガッツポーズしませんでした!?)

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー
恋愛
公爵令嬢リペは、厳しい王妃教育と窮屈な未来から逃れるため、ある画期的な計画を思いつく。それは、世にも恐ろしい「悪役令嬢」になりきって、完璧な第一王子カイルに婚約破棄を叩きつけること! さっそくリペは、高笑いと共に「不敬な態度」「無駄遣い」「嫌がらせ」といった悪行の数々を繰り出すが……。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...