35 / 85
35話 倍返し
しおりを挟む
「エンフィールド公爵令嬢、私が証言いたします!」
小娘は私に言いました。
「それにダリア嬢が他のご令嬢のドレスを汚したのは、今回が初めてではありません。他にも被害者がいらっしゃいます!」
なるほど。
ダリアさんがあんなことをしたのは、勝手知ったる我が家であったがゆえに甘えが出ての行動かと思っておりましたが。
常習犯で慣れていたという理由もあったのですね。
客人のドレスを汚すのも、その汚れたドレスで主催者の前に出るのも、いわば宣戦布告のようなものです。
家に戦えるだけの力がない下位の者が出来ることではありません。
ウィード公爵の娘で王太子の婚約者であるダリアさんに攻撃されたら、下位の者たちは撤退して泣き寝入りするしかなかったのでしょう。
ダリアさんは今まで成功体験を積んでいて自信をつけていたがゆえに、勝利を確信して私たちに嫌がらせをして来たのですね。
この小娘は、国王陛下の甥バジル様と我がエンフィールド公爵家の側に付けば、ウィード公爵に一矢報いることができると考えたのでしょうか。
ダリアさんの嘘を崩すための大切なカードですから、もちろん庇護しますが。
「う、嘘よ!」
泣きべそをかきながらダリアさんが小娘の発言を否定しました。
「ミモザは嘘を吐いているわ!」
小娘はミモザという名なのですか。
ダリアさんと因縁のある娘なら、夜会に招待しなければよろしかったのに。
ウィード公爵夫妻は、ミモザという小娘とダリアさんとの関係を把握していなかったのかしら。
「どちらが嘘を吐いているのか、調査する必要がありますね」
バジル様がきりっとしたお顔で言いました。
「私が責任を持って調査しましょう」
「……!」
「……っ!」
バジル様のその言葉に、ミモザは喜びの表情を浮かべ、ダリアさんは醜く顔を歪めました。
二人のその顔を見たら、調査をされて不都合なのはどちらなのか解るというもの。
遠巻きにして私たちの様子を見ている野次馬たちが、小声でヒソヒソ囁き始めました。
「ウィード公爵、この件は私から国王陛下に……」
バジル様が毅然とした態度でウィード公爵にそう言いかけた、そのとき。
「デイジー! リナリア!」
人垣の中から、私たちの父エンフィールド公爵がまろぶように飛び出しました。
「なんて酷い姿だ! 可哀想に! ウィード家の娘にやられたのか!」
父は身も蓋も無いことを叫び、私たちとウィード公爵の間に割り込みました。
「ウィード公爵! こんな酷いことをして恥ずかしくないのか!」
「エンフィールド公爵、言いがかりは止してくれたまえ」
ウィード公爵は顔色を変えずにそう言い、父を躱そうとしました。
ですが父は、先の事を考えて駆け引きができるような人ではないのです。
「君の娘はいつもデイジーのことを睨んでいたらしいな! デイジーが美人だから、嫉妬したのだろう!」
父はさらに露骨なことを言いました。
ダリアさんがデイジーに嫉妬していたことは事実ですが。
本当に身も蓋もないです。
「ウィード公爵! 君の娘はとんだ阿婆擦れだな! 君は一体、娘にどういう教育をしたのだ!」
え? お父様……?
お父様が、娘の教育についておっしゃいますの?
どの口で?
私は少々気が遠くなりかけました。
先程までこの場の主導権を握るかと思われていたバジル様も、父が露骨にウィード公爵を攻撃し始めたせいなのか、唖然として言葉を失っていらっしゃいます。
「倍返しだ!」
父は物凄い剣幕で叫びました。
「今後ウィード公爵領の者は、我がエンフィールド公爵領の通行料は倍額だ! 覚悟しておけ!」
小娘は私に言いました。
「それにダリア嬢が他のご令嬢のドレスを汚したのは、今回が初めてではありません。他にも被害者がいらっしゃいます!」
なるほど。
ダリアさんがあんなことをしたのは、勝手知ったる我が家であったがゆえに甘えが出ての行動かと思っておりましたが。
常習犯で慣れていたという理由もあったのですね。
客人のドレスを汚すのも、その汚れたドレスで主催者の前に出るのも、いわば宣戦布告のようなものです。
家に戦えるだけの力がない下位の者が出来ることではありません。
ウィード公爵の娘で王太子の婚約者であるダリアさんに攻撃されたら、下位の者たちは撤退して泣き寝入りするしかなかったのでしょう。
ダリアさんは今まで成功体験を積んでいて自信をつけていたがゆえに、勝利を確信して私たちに嫌がらせをして来たのですね。
この小娘は、国王陛下の甥バジル様と我がエンフィールド公爵家の側に付けば、ウィード公爵に一矢報いることができると考えたのでしょうか。
ダリアさんの嘘を崩すための大切なカードですから、もちろん庇護しますが。
「う、嘘よ!」
泣きべそをかきながらダリアさんが小娘の発言を否定しました。
「ミモザは嘘を吐いているわ!」
小娘はミモザという名なのですか。
ダリアさんと因縁のある娘なら、夜会に招待しなければよろしかったのに。
ウィード公爵夫妻は、ミモザという小娘とダリアさんとの関係を把握していなかったのかしら。
「どちらが嘘を吐いているのか、調査する必要がありますね」
バジル様がきりっとしたお顔で言いました。
「私が責任を持って調査しましょう」
「……!」
「……っ!」
バジル様のその言葉に、ミモザは喜びの表情を浮かべ、ダリアさんは醜く顔を歪めました。
二人のその顔を見たら、調査をされて不都合なのはどちらなのか解るというもの。
遠巻きにして私たちの様子を見ている野次馬たちが、小声でヒソヒソ囁き始めました。
「ウィード公爵、この件は私から国王陛下に……」
バジル様が毅然とした態度でウィード公爵にそう言いかけた、そのとき。
「デイジー! リナリア!」
人垣の中から、私たちの父エンフィールド公爵がまろぶように飛び出しました。
「なんて酷い姿だ! 可哀想に! ウィード家の娘にやられたのか!」
父は身も蓋も無いことを叫び、私たちとウィード公爵の間に割り込みました。
「ウィード公爵! こんな酷いことをして恥ずかしくないのか!」
「エンフィールド公爵、言いがかりは止してくれたまえ」
ウィード公爵は顔色を変えずにそう言い、父を躱そうとしました。
ですが父は、先の事を考えて駆け引きができるような人ではないのです。
「君の娘はいつもデイジーのことを睨んでいたらしいな! デイジーが美人だから、嫉妬したのだろう!」
父はさらに露骨なことを言いました。
ダリアさんがデイジーに嫉妬していたことは事実ですが。
本当に身も蓋もないです。
「ウィード公爵! 君の娘はとんだ阿婆擦れだな! 君は一体、娘にどういう教育をしたのだ!」
え? お父様……?
お父様が、娘の教育についておっしゃいますの?
どの口で?
私は少々気が遠くなりかけました。
先程までこの場の主導権を握るかと思われていたバジル様も、父が露骨にウィード公爵を攻撃し始めたせいなのか、唖然として言葉を失っていらっしゃいます。
「倍返しだ!」
父は物凄い剣幕で叫びました。
「今後ウィード公爵領の者は、我がエンフィールド公爵領の通行料は倍額だ! 覚悟しておけ!」
201
あなたにおすすめの小説
「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?
パリパリかぷちーの
恋愛
「失礼いたしますわ」――断罪の広場で令嬢が告げたのは、たった一言の沈黙だった。
侯爵令嬢レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、“涙の聖女”によって悪役とされ、王太子に婚約を破棄され、すべてを失った。だが彼女は泣かない。反論しない。赦しも求めない。ただ静かに、矛盾なき言葉と香りの力で、歪められた真実と制度の綻びに向き合っていく。
「誰にも属さず、誰も裁かず、それでもわたくしは、生きてまいりますわ」
これは、断罪劇という筋書きを拒んだ“悪役令嬢”が、沈黙と香りで“未来”という舞台を歩んだ、静かなる反抗と再生の物語。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ
春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。
エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!?
この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて…
しかも婚約を破棄されて毒殺?
わたくし、そんな未来はご免ですわ!
取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。
__________
※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。
読んでくださった皆様のお陰です!
本当にありがとうございました。
※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。
とても励みになっています!
※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
【完結】聖女を愛する婚約者に婚約破棄を突きつけられましたが、愛する人と幸せになります!
ユウ
恋愛
「君には失望した!聖女を虐げるとは!」
侯爵令嬢のオンディーヌは宮廷楽団に所属する歌姫だった。
しかしある日聖女を虐げたという瞬間が流れてしまい、断罪されてしまう。
全ては仕組まれた冤罪だった。
聖女を愛する婚約者や私を邪魔だと思う者達の。
幼い頃からの幼馴染も、友人も目の敵で睨みつけ私は公衆の面前で婚約破棄を突きつけられ家からも勘当されてしまったオンディーヌだったが…
「やっと自由になれたぞ!」
実に前向きなオンディーヌは転生者で何時か追い出された時の為に準備をしていたのだ。
貴族の生活に憔悴してので追放万々歳と思う最中、老婆の森に身を寄せることになるのだった。
一方王都では王女の逆鱗に触れ冤罪だった事が明らかになる。
すぐに連れ戻すように命を受けるも、既に王都にはおらず偽りの断罪をした者達はさらなる報いを受けることになるのだった。
再婚約ですか? 王子殿下がいるのでお断りしますね
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のレミュラは、公爵閣下と婚約関係にあったが、より位の高い令嬢と婚約しレミュラとは婚約破棄をした。
その事実を知ったヤンデレ気味の姉は、悲しみの渦中にあるレミュラに、クラレンス王子殿下を紹介する。それを可能にしているのは、ヤンデレ姉が大公殿下の婚約者だったからだ。
レミュラとクラレンス……二人の仲は徐々にだが、確実に前に進んでいくのだった。
ところでレミュラに対して婚約破棄をした公爵閣下は、新たな侯爵令嬢のわがままに耐えられなくなり、再びレミュラのところに戻って来るが……。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる