かわいそうな欲しがり妹のその後は ~ 王子様とは結婚しません!

柚屋志宇

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51話 求婚者

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「お姉様、バジル様とシスル王子殿下は来るでしょうか?」

 灰薔薇色アッシュローズ午後服アフタヌーンドレスを着たデイジーは私にそう尋ねました。

 これから私とデイジーは、父と一緒に王城へ向かいます。
 王家からデイジーにもたらされたアイヴィー王子殿下との縁談の返事をするためです。

「来ると思うわ」

 私はデイジーの装いを検分しながら答えました。

「特にバジル様は、デイジーに結婚を申し込んでいるのですもの」

 あの悪夢の夜会の後、バジル様からデイジーに結婚を申し込みがありました。
 しかしデイジーに求婚しているのはバジル様だけではありません。

 今やデイジーの元には、山ほどの縁談がありました。
 上は王族のバジル様から、下は男爵家の嫡子でもない息子や、騎士風情まで。

 木っ端貴族の息子や、たかが騎士が、私のデイジーに結婚を申し込むなど、身の程知らずも良いところですが。
 デイジーは公爵家の養女といえど母親が平民ですから、決して不釣り合いな縁談ではないのです。
 木っ端貴族の息子も騎士も、両親は貴族ですので。

 雑魚どもが大胆にもデイジーに結婚を申し込んだ原因は、父の決定にあります。
 父が「デイジーの結婚相手は、デイジーに選ばせる。デイジーには愛する者と結婚して欲しい」とあちこちで公言したことが原因です。

 つまりは、デイジーの心を射止めれば、デイジーと結婚できる。
 燎原の火のごとくその話が社交界に広がり、デイジーの元には結婚の申し込みが殺到することになりました。

 デイジーが好きに選ぶと言っても、現在のデイジーの行動範囲は上流の社交場ですので、結婚相手はおのずと上流の人物に絞られています。
 父の決定は、あながち間違った決定ではありません。

 ともあれ。
 デイジーに恋愛感情を持っている者も、エンフィールド公爵が溺愛する愛娘を政治的に欲している者も、こぞってデイジーに結婚を申し込み、デイジーの心を射止めて良い返事を貰うために、しのぎを削ることとなりました。

 ただし、オークリー公爵令息ルピナス様からの結婚の申し込みには、すぐにお断りの返事をしましたので、ルピナス様はすでに敗者として場外にいます。

 デイジーに求婚している有象無象の中で、身分の最上位は王族のバジル様でしたが、昨日からアイヴィー王子殿下が参戦して最上位に躍り出ました。
 アイヴィー王子殿下からの結婚の申し込みは、今日これからお断りするので、一日天下ですが。

「お姉様、国王陛下は、バジル様が私に結婚を申し込んでいることをご存知ないのでしょうか。ふつうは甥が結婚を申し込んでいる相手に、息子の縁談を持ちかけたりしないですよね」
「確証はないけれど。もしかしたらご存知かもしれないわ」
「貴族社会ではそれは非常識にならないのですか?」
「結婚を申し込んだだけで、まだ婚約をしたわけではないもの。横入しても横恋慕にはならないわ。立ち位置は同じよ」

「でもアイヴィー王子殿下は国王陛下の権力を使って出し抜こうとしているんですよね。卑怯じゃないですか」

「だからバジル様やシスル王子殿下にもお知らせしたのよ」
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