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53話 王子との縁談
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「エンフィールド公爵、よく来てくれた」
王城の中の、王族の居住区にある国王陛下の私的な応接室に私たちは案内されました。
私たちは挨拶を交わすと、椅子を勧められ、国王陛下や王族の方々と向き合って座りました。
こちらは私とデイジーと、そして父エンフィールド公爵。
あちらは国王陛下と王妃殿下と、縁談の当事者である王太子アイヴィー王子殿下。
そして、おそらく国王陛下とアイヴィー王子殿下にとっては不本意な参加者である、第二王子シスル殿下、王弟殿下、バジル様。
やはりシスル王子殿下とバジル様はいらっしゃいましたね。
王弟殿下までいらっしゃるとは予想外でしたが、王子の称号をお持ちではないバジル様の加勢でしょうか。
「アイヴィー王子殿下との縁談は、遠慮させてもらう」
尊大な態度で縁談を断った父に、国王陛下が怪訝そうな顔をしました。
「何故だね? エンフィールド公爵であれば、ウィード公爵家を恐れる必要もあるまい」
やはり、そこでしたか。
国王陛下は、アイヴィー王子殿下の我儘を聞いてデイジーを王太子妃に指名したわけではないのです。
ウィード公爵のご令嬢ダリアさんは、アイヴィー王子殿下との婚約を破棄されました。
つまり、次にアイヴィー王子殿下と婚約する令嬢とその家は、もれなくウィード公爵に逆恨みされることになるのです。
ウィード公爵は貴族にとって最も大切な面子を潰されたわけですから、当然ですね。
国王陛下としては、王太子としたアイヴィー王子殿下には妃を迎えさせたいでしょう。
ですがウィード公爵の報復を考慮すれば、アイヴィー王子殿下の妃はウィード公爵に対抗できる力がある家の娘でなければ難しい。
そしてその条件に見合う家で、年頃の釣り合う娘となると、選択肢が極端に少ないのです。
その条件に見合うアイリスさんというご令嬢がいましたが、第二王子シスル殿下の元婚約者だった彼女は叛逆者とされて貴族籍を剥奪されました。
力のある貴族の娘を、王子殿下たちの妃に選んだことが災いしたのです。
心強い味方だった彼らを、王子殿下たちは婚約破棄して背中から撃って、敵に回してしまったのですもの。
国王陛下はこれを予測されなかったのかしら。
婚約者をないがしろにしていた時点で、かなり危ない橋になっていたと思うのですが。
「ウィードなど恐れておらん」
父は堂々と言い放ちました。
何故ここでウィード公爵の名が出てきたのか、おそらく父は理解していません。
単純に、どちらが強いかという質問をされたと思っているだけです。
父の回答に、国王陛下は少し首を傾げると言いました。
「ならば何も問題はあるまい」
「断る」
「何故だ?」
国王陛下は怪訝そうに眉を寄せました。
「エンフィールド公爵は、娘は好いた男と結婚させると宣言したのだろう? デイジー嬢はアイヴィーと良好な仲だ。反対する理由はあるまい。それに平民の母親を持つ娘が王子と好き合って結婚したとあらば、民の支持も得られる」
平民の出自の娘が王太子妃となれば、たしかに民草は喜びそうです。
恋愛からの貴賤結婚は演劇でも人気の題材ですもの。
デイジーはそういう恋愛劇には興味がないようで、劇場の箱席で舟をこぎ始めてしまいますが。
「これは皆に祝福される結婚となろう」
国王陛下がにこやかにそう言いました。
民草に人気の貴賤結婚をしてみせ、民草の支持を得ることは、王家が求心力を取り戻すためには確かに有効な一手。
ですが、権力で無理やり嫌がる娘を妻にしては逆効果でしてよ?
「デイジーは嫌がっている。デイジーが嫌がる結婚は断る」
家庭教師をクビにするかのように、父はさらりと言いました。
王城の中の、王族の居住区にある国王陛下の私的な応接室に私たちは案内されました。
私たちは挨拶を交わすと、椅子を勧められ、国王陛下や王族の方々と向き合って座りました。
こちらは私とデイジーと、そして父エンフィールド公爵。
あちらは国王陛下と王妃殿下と、縁談の当事者である王太子アイヴィー王子殿下。
そして、おそらく国王陛下とアイヴィー王子殿下にとっては不本意な参加者である、第二王子シスル殿下、王弟殿下、バジル様。
やはりシスル王子殿下とバジル様はいらっしゃいましたね。
王弟殿下までいらっしゃるとは予想外でしたが、王子の称号をお持ちではないバジル様の加勢でしょうか。
「アイヴィー王子殿下との縁談は、遠慮させてもらう」
尊大な態度で縁談を断った父に、国王陛下が怪訝そうな顔をしました。
「何故だね? エンフィールド公爵であれば、ウィード公爵家を恐れる必要もあるまい」
やはり、そこでしたか。
国王陛下は、アイヴィー王子殿下の我儘を聞いてデイジーを王太子妃に指名したわけではないのです。
ウィード公爵のご令嬢ダリアさんは、アイヴィー王子殿下との婚約を破棄されました。
つまり、次にアイヴィー王子殿下と婚約する令嬢とその家は、もれなくウィード公爵に逆恨みされることになるのです。
ウィード公爵は貴族にとって最も大切な面子を潰されたわけですから、当然ですね。
国王陛下としては、王太子としたアイヴィー王子殿下には妃を迎えさせたいでしょう。
ですがウィード公爵の報復を考慮すれば、アイヴィー王子殿下の妃はウィード公爵に対抗できる力がある家の娘でなければ難しい。
そしてその条件に見合う家で、年頃の釣り合う娘となると、選択肢が極端に少ないのです。
その条件に見合うアイリスさんというご令嬢がいましたが、第二王子シスル殿下の元婚約者だった彼女は叛逆者とされて貴族籍を剥奪されました。
力のある貴族の娘を、王子殿下たちの妃に選んだことが災いしたのです。
心強い味方だった彼らを、王子殿下たちは婚約破棄して背中から撃って、敵に回してしまったのですもの。
国王陛下はこれを予測されなかったのかしら。
婚約者をないがしろにしていた時点で、かなり危ない橋になっていたと思うのですが。
「ウィードなど恐れておらん」
父は堂々と言い放ちました。
何故ここでウィード公爵の名が出てきたのか、おそらく父は理解していません。
単純に、どちらが強いかという質問をされたと思っているだけです。
父の回答に、国王陛下は少し首を傾げると言いました。
「ならば何も問題はあるまい」
「断る」
「何故だ?」
国王陛下は怪訝そうに眉を寄せました。
「エンフィールド公爵は、娘は好いた男と結婚させると宣言したのだろう? デイジー嬢はアイヴィーと良好な仲だ。反対する理由はあるまい。それに平民の母親を持つ娘が王子と好き合って結婚したとあらば、民の支持も得られる」
平民の出自の娘が王太子妃となれば、たしかに民草は喜びそうです。
恋愛からの貴賤結婚は演劇でも人気の題材ですもの。
デイジーはそういう恋愛劇には興味がないようで、劇場の箱席で舟をこぎ始めてしまいますが。
「これは皆に祝福される結婚となろう」
国王陛下がにこやかにそう言いました。
民草に人気の貴賤結婚をしてみせ、民草の支持を得ることは、王家が求心力を取り戻すためには確かに有効な一手。
ですが、権力で無理やり嫌がる娘を妻にしては逆効果でしてよ?
「デイジーは嫌がっている。デイジーが嫌がる結婚は断る」
家庭教師をクビにするかのように、父はさらりと言いました。
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