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54話 王命
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「デイジー嬢、そなたは……」
国王陛下は、父からデイジーに視線を移して言いました。
「アイヴィーとは仲が良いのだろう?」
デイジーはアイヴィー王子殿下のことを嫌っていますのに。
アイヴィー王子殿下はデイジーに好かれていると思っていらっしゃるのね。
社交辞令を真に受けるとは、愚かだこと。
勘違いしてしまうのも仕方がないことかもしれません。
私のデイジーの笑顔の仮面は、あどけない美貌も相まって完成度が高いですから。
感情を見せずいつでも優雅に微笑むことは、私がデイジーに最初から根気よく指導していたことです。
いちいち感情を見せて顔色を変えるようであっては、駆け引きはできません。
不利な状況でも平然と微笑むことができなければ貴族社会で渡り合えないのです。
父の場合は、状況を理解する頭がないので、いつでも根拠のない自信に満ち溢れているだけなのですが。
父という人物をあまり知らない人々には、その父の姿は、不測の事態にも悠然とかまえている大人物に見えるらしいです。
「デイジー嬢、そなたの気持ちはどうだ?」
国王陛下のその問いかけに、デイジーは顔を上げました。
そしてきっぱりと答えました。
「アイヴィー王子殿下のことは好きではありません。結婚したくありません」
「デ、デイジー、何故……?!」
手痛い衝撃を受けたような表情でアイヴィー王子殿下がそう問うと、デイジーは無邪気な微笑みを浮かべながら答えました。
「だってアイヴィー王子殿下は婚約者を放置して、別の女性を口説くような浮気者なんですもの。それに婚約者が大変なことになったら、さっさと切り捨てるような薄情な人だもの。そんな軽薄な人を好きなわけないじゃないですか」
デイジーがそう言い放つと、アイヴィー王子殿下は愕然としました。
王妃殿下もシスル王子殿下も顔色が悪くなっています。
一方、バジル様は暗い微笑を浮かべました。
そして……。
「はっはっは……!」
王弟殿下が快活な笑い声を上げました。
「兄上、だから私は言ったのです。アイヴィーの勘違いだと」
王弟殿下は笑いながら国王陛下に言いました。
「賭けは私の勝ちです。デイジー嬢に断られたら潔く引き下がる約束ですよ」
あら?
国王陛下と王弟殿下の間ですでに話し合いが行われていたのかしら。
「まだだ……。まだ終わっておらん」
国王陛下は厳しい表情でそう言い、私たちの父エンフィールド公爵を正面から見据えました。
「エンフィールド公爵、デイジー嬢をアイヴィーの妃とする。これは王命だ」
「兄上、卑怯ですよ」
王弟殿下が苦言を呈しましたが、国王陛下は平然として答えました。
「控えろ。私は国王だ。この結婚は、現在の国内の混乱を収めるために必要な政略結婚なのだ」
国王陛下はそう王弟殿下に言うと、もう一度、父を見据えました。
「エンフィールド公爵、承知してくれような? これは国のための結婚だ。それにデイジー嬢の母親は平民だろう。公爵家の養女とはいえ平民の母親から生まれた娘に、これほどの良縁はあるまい」
重々しい口調でそう言った国王陛下に、父は憤然と言い放ちました。
「だが断る!」
国王陛下は、父からデイジーに視線を移して言いました。
「アイヴィーとは仲が良いのだろう?」
デイジーはアイヴィー王子殿下のことを嫌っていますのに。
アイヴィー王子殿下はデイジーに好かれていると思っていらっしゃるのね。
社交辞令を真に受けるとは、愚かだこと。
勘違いしてしまうのも仕方がないことかもしれません。
私のデイジーの笑顔の仮面は、あどけない美貌も相まって完成度が高いですから。
感情を見せずいつでも優雅に微笑むことは、私がデイジーに最初から根気よく指導していたことです。
いちいち感情を見せて顔色を変えるようであっては、駆け引きはできません。
不利な状況でも平然と微笑むことができなければ貴族社会で渡り合えないのです。
父の場合は、状況を理解する頭がないので、いつでも根拠のない自信に満ち溢れているだけなのですが。
父という人物をあまり知らない人々には、その父の姿は、不測の事態にも悠然とかまえている大人物に見えるらしいです。
「デイジー嬢、そなたの気持ちはどうだ?」
国王陛下のその問いかけに、デイジーは顔を上げました。
そしてきっぱりと答えました。
「アイヴィー王子殿下のことは好きではありません。結婚したくありません」
「デ、デイジー、何故……?!」
手痛い衝撃を受けたような表情でアイヴィー王子殿下がそう問うと、デイジーは無邪気な微笑みを浮かべながら答えました。
「だってアイヴィー王子殿下は婚約者を放置して、別の女性を口説くような浮気者なんですもの。それに婚約者が大変なことになったら、さっさと切り捨てるような薄情な人だもの。そんな軽薄な人を好きなわけないじゃないですか」
デイジーがそう言い放つと、アイヴィー王子殿下は愕然としました。
王妃殿下もシスル王子殿下も顔色が悪くなっています。
一方、バジル様は暗い微笑を浮かべました。
そして……。
「はっはっは……!」
王弟殿下が快活な笑い声を上げました。
「兄上、だから私は言ったのです。アイヴィーの勘違いだと」
王弟殿下は笑いながら国王陛下に言いました。
「賭けは私の勝ちです。デイジー嬢に断られたら潔く引き下がる約束ですよ」
あら?
国王陛下と王弟殿下の間ですでに話し合いが行われていたのかしら。
「まだだ……。まだ終わっておらん」
国王陛下は厳しい表情でそう言い、私たちの父エンフィールド公爵を正面から見据えました。
「エンフィールド公爵、デイジー嬢をアイヴィーの妃とする。これは王命だ」
「兄上、卑怯ですよ」
王弟殿下が苦言を呈しましたが、国王陛下は平然として答えました。
「控えろ。私は国王だ。この結婚は、現在の国内の混乱を収めるために必要な政略結婚なのだ」
国王陛下はそう王弟殿下に言うと、もう一度、父を見据えました。
「エンフィールド公爵、承知してくれような? これは国のための結婚だ。それにデイジー嬢の母親は平民だろう。公爵家の養女とはいえ平民の母親から生まれた娘に、これほどの良縁はあるまい」
重々しい口調でそう言った国王陛下に、父は憤然と言い放ちました。
「だが断る!」
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