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75話 離宮への招待
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「え? バジル様が?」
王宮の園遊会での事件にまつわる騒ぎが落ち着いて、平穏な日々が戻ったころ。
バジル様から我が家に招待状が届きました。
「どうしてバジル様が母さんに?」
バジル様から、デイジーの母カトレア夫人への招待状です。
私とデイジーも招待されています。
「カトレア夫人に王宮女官のお仕事の紹介をしたいのですって」
私はデイジーに、招待状とは別に、私宛てに届いたバジル様からのお手紙にあった説明をしました。
「でもこのお話は、決まるまでは、お父様には内緒にして欲しいそうよ」
「ふうん……」
デイジーは訝し気に眉を顰め、首を傾げました。
「バジル様って何をお考えなのか解らなくて、何だか怪しい気がするのですが……。リナリアお姉様は、どうすれば良いと思いますか?」
「お仕事のお話を聞くだけ聞いてみて、あとはカトレア夫人の意思に任せて良いと思うわ」
「怪しくないですか?」
「バジル様はたしかに風変りだけれど、悪い人ではないし、責任感もおありよ」
バジル様はかつて、葡萄酒事件の調査を約束してくださり、そしてきっちりと実行してくださいました。
奇行はありますが、少なくともお仕事については信頼のおけるお方です。
「お話を聞いてみるくらいは問題ないと思うわ」
◆
私とデイジーと、デイジーの母カトレア夫人は、バジル様のご招待を受けて王弟殿下のお住まいである離宮へと伺いました。
「カトレア夫人、王宮女官としてこの離宮で働いてみませんか?」
バジル様はカトレア夫人に女官の仕事を持ちかけました。
女官とは、平たく言えば王宮で働くメイドです。
身分や官位がなければ王宮には立ち入れないため、王宮でメイドとして採用される女性には、低い身分ではありますが、官位が与えられます。
そのため王宮で働くメイドは女官と呼ばれています。
「どうして私などを取り立ててくださるのですか? 私はただの平民ですのに」
カトレア夫人は恐縮しながらも首を傾げました。
不思議ではないと思いますよ?
だってバジル様はデイジーに求婚しているのですから、母親であるカトレア夫人を懐柔しようとするのは常套手段です。
将を射んとする者はまず馬を射よ、と申しますもの。
デイジーも私と同じことを考えているのか、疑惑の眼差しでバジル様の様子を窺っています。
「私はエンフィールド家のご姉妹には、常日頃、親しくしていただいております。デイジー嬢のお母君、カトレア夫人が、メイドとして身を立てることをお考えだと知り、ぜひともお手伝いをしたいと思ったのです」
「お気持ちありがたく存じます。ですが……」
カトレア夫人はコテンと首を傾げました。
「デイジーが結婚相手に貴方を選ぶかどうかは、まだ解りませんのよ?」
いきなり真っ直ぐにカトレア夫人は切り込みました。
「……っ!」
バジル様が一瞬、ぎくりとしたお顔をなさいました。
カトレア夫人の、無邪気な顔をしてさらっと衝撃的なことを言うところ、やはりデイジーのお母様だなと実感いたします。
王宮の園遊会での事件にまつわる騒ぎが落ち着いて、平穏な日々が戻ったころ。
バジル様から我が家に招待状が届きました。
「どうしてバジル様が母さんに?」
バジル様から、デイジーの母カトレア夫人への招待状です。
私とデイジーも招待されています。
「カトレア夫人に王宮女官のお仕事の紹介をしたいのですって」
私はデイジーに、招待状とは別に、私宛てに届いたバジル様からのお手紙にあった説明をしました。
「でもこのお話は、決まるまでは、お父様には内緒にして欲しいそうよ」
「ふうん……」
デイジーは訝し気に眉を顰め、首を傾げました。
「バジル様って何をお考えなのか解らなくて、何だか怪しい気がするのですが……。リナリアお姉様は、どうすれば良いと思いますか?」
「お仕事のお話を聞くだけ聞いてみて、あとはカトレア夫人の意思に任せて良いと思うわ」
「怪しくないですか?」
「バジル様はたしかに風変りだけれど、悪い人ではないし、責任感もおありよ」
バジル様はかつて、葡萄酒事件の調査を約束してくださり、そしてきっちりと実行してくださいました。
奇行はありますが、少なくともお仕事については信頼のおけるお方です。
「お話を聞いてみるくらいは問題ないと思うわ」
◆
私とデイジーと、デイジーの母カトレア夫人は、バジル様のご招待を受けて王弟殿下のお住まいである離宮へと伺いました。
「カトレア夫人、王宮女官としてこの離宮で働いてみませんか?」
バジル様はカトレア夫人に女官の仕事を持ちかけました。
女官とは、平たく言えば王宮で働くメイドです。
身分や官位がなければ王宮には立ち入れないため、王宮でメイドとして採用される女性には、低い身分ではありますが、官位が与えられます。
そのため王宮で働くメイドは女官と呼ばれています。
「どうして私などを取り立ててくださるのですか? 私はただの平民ですのに」
カトレア夫人は恐縮しながらも首を傾げました。
不思議ではないと思いますよ?
だってバジル様はデイジーに求婚しているのですから、母親であるカトレア夫人を懐柔しようとするのは常套手段です。
将を射んとする者はまず馬を射よ、と申しますもの。
デイジーも私と同じことを考えているのか、疑惑の眼差しでバジル様の様子を窺っています。
「私はエンフィールド家のご姉妹には、常日頃、親しくしていただいております。デイジー嬢のお母君、カトレア夫人が、メイドとして身を立てることをお考えだと知り、ぜひともお手伝いをしたいと思ったのです」
「お気持ちありがたく存じます。ですが……」
カトレア夫人はコテンと首を傾げました。
「デイジーが結婚相手に貴方を選ぶかどうかは、まだ解りませんのよ?」
いきなり真っ直ぐにカトレア夫人は切り込みました。
「……っ!」
バジル様が一瞬、ぎくりとしたお顔をなさいました。
カトレア夫人の、無邪気な顔をしてさらっと衝撃的なことを言うところ、やはりデイジーのお母様だなと実感いたします。
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