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83話 ゆるやかに
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「デイジー嬢、私はダンスには少し自信があるのです。ぜひお相手を願いたい」
「貴方はどなた?」
デイジーがそう質問すると、黒髪紅目の令息は答えました。
「ロキと申します」
「どちらのお家のお方かしら?」
「隣国から来ました。さあ、曲が始まりました」
「あら、この曲は……難しいですよ?」
「望むところです」
速いテンポの、異国情緒のある旋律の曲です。
帝国の舞踏曲ですね。
私のデイジーは簡単そうに軽やかに踊っていますが、高速の難曲に降参なさった皆さんは会場の中央から撤退しています。
ロキと名乗った黒髪紅目の令息はダンスに自信があると言っていただけあり、デイジーと互角に渡り合っていました。
デイジーの刃のように鋭いターンにドレスの裾がふわりと翻ります。
会場の中央で踊る二人のハイレベルなダンスに、人々はほうっと感嘆を漏らしながら見入っています。
「素晴らしい」
「美男美女、そして超絶技巧」
「もはや芸術だ」
曲が終わり、デイジーと黒髪紅目の令息が踊り終えると、会場には拍手が巻き起こりました。
「デイジー嬢、素晴らしいです。この曲でこれほど優雅に踊れる令嬢は帝国にもそうはいません」
「ロキさんは帝国からいらしたのですか?」
「はい帝国から来ました」
黒髪の令息は、真紅の瞳でデイジーを見つめて言いました。
「今日のところはこれで退散いたします。デイジー嬢、近々またお会いしましょう」
デイジーの元から立ち去る黒髪紅目の令息の背中に、バジル様が仇敵でも見るかのような暗い眼差しを向けておられます。
「リナリア嬢、ここだけの話、あの男は……」
バジル様は小声で、黒髪紅目の令息の正体を私に教えてくださいました。
「まあ、なんてこと!」
あまりにも意外な人物で、私は思わず笑ってしまいました。
「リナリア嬢、笑い事ではありません」
「そうね。これは笑い事じゃなくて、大事ね。……デイジーったら、とんでもない大物を釣り上げたわね」
◆
楽団がゆるやかな曲を奏で始めました。
最近の舞踏会では、ダンスに自信があって技巧を競いたい若者向けに、テンポの速い曲や難しい曲を奏でる時間帯が設けられております。
ですが、ゆったり踊りたい者たちのための、ゆるやかな曲が奏でられる時間帯もちゃんとあります。
ダンスに覚えのある若者たちにとって、ありきたりな曲が奏でられる時間帯は休憩やおしゃべりの時間になっています。
会場の中央から若者たちが引き上げ始め、入れ替わりに、気軽に踊りたい者たちが繰り出します。
それまで踊り続けていたデイジーも、私たちのところへ戻って来ました。
「デイジー、今日のダンスも見事だったわ。特に最後のダンスは圧巻だったわね」
私は果実水のグラスをデイジーに渡しました。
「ありがとうございます、お姉様」
デイジーが一息ついて、果実水のグラスを空にすると。
いつものようにバジル様がデイジーにダンスを申し込みました。
「デイジー嬢、私と踊っていただけませんか?」
「ええ、バジル様、喜んで」
デイジーとバジル様は会場の中央に歩を進めると、ゆるやかに踊り始めました。
「デイジーとバジル様はすっかり仲良くなったように見えるけど……」
私のエスコートをしている婚約者のウィロウが、デイジーとバジル様がダンスをしている姿を見ながら言いました。
「まだ婚約しないの?」
首をかしげるウィロウに、私は苦笑しました。
「あの二人はお友達なのよ」
「貴方はどなた?」
デイジーがそう質問すると、黒髪紅目の令息は答えました。
「ロキと申します」
「どちらのお家のお方かしら?」
「隣国から来ました。さあ、曲が始まりました」
「あら、この曲は……難しいですよ?」
「望むところです」
速いテンポの、異国情緒のある旋律の曲です。
帝国の舞踏曲ですね。
私のデイジーは簡単そうに軽やかに踊っていますが、高速の難曲に降参なさった皆さんは会場の中央から撤退しています。
ロキと名乗った黒髪紅目の令息はダンスに自信があると言っていただけあり、デイジーと互角に渡り合っていました。
デイジーの刃のように鋭いターンにドレスの裾がふわりと翻ります。
会場の中央で踊る二人のハイレベルなダンスに、人々はほうっと感嘆を漏らしながら見入っています。
「素晴らしい」
「美男美女、そして超絶技巧」
「もはや芸術だ」
曲が終わり、デイジーと黒髪紅目の令息が踊り終えると、会場には拍手が巻き起こりました。
「デイジー嬢、素晴らしいです。この曲でこれほど優雅に踊れる令嬢は帝国にもそうはいません」
「ロキさんは帝国からいらしたのですか?」
「はい帝国から来ました」
黒髪の令息は、真紅の瞳でデイジーを見つめて言いました。
「今日のところはこれで退散いたします。デイジー嬢、近々またお会いしましょう」
デイジーの元から立ち去る黒髪紅目の令息の背中に、バジル様が仇敵でも見るかのような暗い眼差しを向けておられます。
「リナリア嬢、ここだけの話、あの男は……」
バジル様は小声で、黒髪紅目の令息の正体を私に教えてくださいました。
「まあ、なんてこと!」
あまりにも意外な人物で、私は思わず笑ってしまいました。
「リナリア嬢、笑い事ではありません」
「そうね。これは笑い事じゃなくて、大事ね。……デイジーったら、とんでもない大物を釣り上げたわね」
◆
楽団がゆるやかな曲を奏で始めました。
最近の舞踏会では、ダンスに自信があって技巧を競いたい若者向けに、テンポの速い曲や難しい曲を奏でる時間帯が設けられております。
ですが、ゆったり踊りたい者たちのための、ゆるやかな曲が奏でられる時間帯もちゃんとあります。
ダンスに覚えのある若者たちにとって、ありきたりな曲が奏でられる時間帯は休憩やおしゃべりの時間になっています。
会場の中央から若者たちが引き上げ始め、入れ替わりに、気軽に踊りたい者たちが繰り出します。
それまで踊り続けていたデイジーも、私たちのところへ戻って来ました。
「デイジー、今日のダンスも見事だったわ。特に最後のダンスは圧巻だったわね」
私は果実水のグラスをデイジーに渡しました。
「ありがとうございます、お姉様」
デイジーが一息ついて、果実水のグラスを空にすると。
いつものようにバジル様がデイジーにダンスを申し込みました。
「デイジー嬢、私と踊っていただけませんか?」
「ええ、バジル様、喜んで」
デイジーとバジル様は会場の中央に歩を進めると、ゆるやかに踊り始めました。
「デイジーとバジル様はすっかり仲良くなったように見えるけど……」
私のエスコートをしている婚約者のウィロウが、デイジーとバジル様がダンスをしている姿を見ながら言いました。
「まだ婚約しないの?」
首をかしげるウィロウに、私は苦笑しました。
「あの二人はお友達なのよ」
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