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第2章 更なるレベルアップへの道のり
第20話 ミーナの思い
しおりを挟む(ミーナ視点)
温かい人の感触を感じた。目を薄っすらと開けると、私はソウの背中にいた。
「あ、あれ? ソウ?」
「お? 目が覚ましたか。やれやれ、途中で寝ちゃうんだもんな。自分で歩けそうか?」
「そんなの当たり前……、あれ? うそ……、腰に力が入らない」
「そっか、じゃあもう少しで街に着くから、それまで俺の背中で我慢しててくれ」
私、どうしちゃったんだろう? すごく、長い夢を見ていた。
その夢ではソウが戦っていた。伝説と呼ばれたオークジェネラルを軽く倒し、その後に出てきたオーク達の神、オークキングが出て……。それもソウが圧倒的な強さで倒しちゃって……。だけどソウが何やら魔法のようなものでオークキングを蘇らせちゃって……。
そんなおとぎ話みたいな内容、夢に決まってる。
だってオークキングは言い伝えにしか出てこないオークの神。
神を倒しちゃうなんてバカバカしいにもほどがある。
神を蘇らせるなんて不可能もいいところだ。
それに夢の中では森が破壊しつくされ、焼け野原みたいになってたけれど……、
辺りを見回してみても、そんな焼け野原なんて見当たらないし、精霊さんもいつも通りだ。
「私ったら、やっぱりオークに攫われた時に疲れていたのかしら? 森で歩けなくなることなんてなかったのに」
「あぁ、精神的な疲れにはヒールやキュアーも効かないみたいだしね。そうなんだろ」
そっけない返事。
でも彼の背中は大きく、広く、温かかった。私たちを救ってくれた英雄の背中。
「ありがとう」
「えっ? 今なんて」
「なんでもない」
「そう?」
「そうよ」
「あっ、街の光が見えてきたぞ? いやぁ今日は色々あったなぁ」
「えぇ、本当に……。ずっと寝ちゃっててゴメンね」
「ん? いやぁ、こちらこそずっと放置しちゃったからな。おあいこだろ?」
私は背中にギュッと捕まった。ずっとこの時間が続けばいいのに、そう思いながら……。
エリザの店に近づくと、彼女は外まで出迎えてくれた。
「ミ、ミーナ! 大丈夫なの?」
「あぁ、疲れてるだけさ」
「うん、心配かけちゃってごめんね」
「そう、よかった。遅かったから心配しちゃった。中に入って。ご飯にしましょう!」
明るい笑顔で迎えてくれた。ソウはやっぱり、こんな明るい娘が好みなのかな?
エリザみたいに家庭的で明るい女の娘がソウのこと気に入っちゃったら、とてもじゃないけれど私じゃ勝てっこない。性格だって、体型だって……。
エリザはソウのことどう思ってるのかな? ソウはどんな娘が好みなんだろう?
エリザの家に着くと、ホッとしたせいか、足腰に力が戻ってきた。無事に歩けるようになり、三人で食卓についた。
ソウは突然、エリザに謝りだした。
「ゴメン、薬草を集めるのうまくいかなかったんだ。ミーナが持っている分が全部でさ」
「うぅん、いいのよ。ソウさん。いきなり頼んだ私が悪かったし、ミーナもあんな事件の後だもの。二人が無事でいてくれただけで嬉しいわ」
そこまでは良かった。だけどその後、ソウが言い出したことはこの世の常識を大きく逸脱していたのだ。
「良かったら、魔法でポーションが出せるんだ。それを代わりに売っていてもらえないだろうか?」
「えっ?」「はぁ?」
エリザと私は同時に声が出てしまった。
「えーと、何のことかしら? 聞き間違いじゃなければ、ポーションを出せるって聞こえたのですけれど……」
「そんなこと出来るわけないじゃない! ソウってホント常識ないわよね。冗談でも言っていいことと悪いことがあるのよ?」
また私の悪いクセが出てしまった。怒るつもりも責めるつもりもなかったのに。でもソウは真面目な顔を崩さなかった。
「ホントだってば。ほら、コップについであげるからさ、飲んでみてもらえないか?」
ウォーターの魔法は初級魔法で比較的、一般的なものだ。冒険者の間では非常に重宝されている。
ソウはどうしてそんなウソを……。まぁ、飲んでみるけれど……。
「いただきますね」
エリザが先にソウの出した水を飲んだ。飲み終えたとたん、彼女の顔に驚きの表情が浮かんだ。
「すごいっ! 本当にポーションだわ!」
「えっ、そんなわけないでしょ?」
恐る恐るその水を口に含んでみた。
飲んだとたん、お腹からエネルギーが体中に溢れ出した。
「うそでしょ?」
これは初級ポーションではなかった。中級でも上級でもない。私は長い人生の中でポーションは何度もお世話になってきたのだ。間違えるはずがない。これは、伝説に記述のあった超級ポーションだ。
空腹感が完全になくなった。そして、体の疲れも吹き飛んで、眠気さえも完全に消えてしまった。
昔、エルフの古文書で読んだことがある。超級ポーションは体力だけでなく、空腹や眠気、気怠さのようなものにまで副次的な効果が及ぶという。
私の体は感動に打ち震えた。まさか、こんなところで伝説のポーションに出会うなんて!
だけど、ソウが次に言い出したことに、あまりにも驚きすぎて私は声が出せなかった。
「エリザさん、ミーナを俺に預けてもらえないだろうか?」
「えっ? ミーナを?」
「えぇ。俺にはどうしても行きたい所があるんだが、それにはミーナの協力が必要なんだ。ポーションはご覧の通り、いくらでも残していく。だからどうか、ミーナを、俺にください」
ソウはエリザに頭を下げた。
開いた口が塞がらない。こんなとき、どうすればいいの? ソウってば、どうしていきなり積極的になっているの?
「あらあら……、ミーナにもついに春が来たのかな?」
違うってば、そんなんじゃ……。
そう思いは出来ても声が出なかった。
「ふーん、一緒に森に行ったと思ったら……。ソウさんも角におけない人なのね」
「ん? 何か勘違いしてないか? 俺にはミーナが必要なんだ。それで今日のうちにどうしても許可をもらう必要があるんだ」
「まぁっ! そんなにミーナのことを……。わかりました! ミーナをよろしくお願いします。」
深々と頭を下げるエリザ。
ちょっと待ってよ! 私はまだ返事してないっ!
お互いに頭を下げ合って私のことを勝手に決めないでよ!
でも私の頭の中には、さっきの台詞がずっと離れず何度も繰り返されてる。
(俺にはミーナが必要なんだ……)
いきなりそんなこと言われたって……、私っ、どうすればいいの?
「よかった。じゃ、明日の朝に出発しようと思う。ミーナもそれでいいか?」
こういうのを男らしいって言うんだろうか? 私は言われたの初めてだからわからない。でも、こんな私を頼ってくれるんなら……。
その後のことはよく覚えていない。お酒を飲み過ぎちゃってテーブルに寝ちゃったと思ったら、翌朝はベッドの上だった。
しかも……、
「ど、どど、どうしてソウがここにいるの?」
私の隣ではソウがスヤスヤと眠っていた。
わ、私ったら! 結婚前なのにっ! 男の人と一緒に寝ちゃったっていうの?
しかも、私は服を着ておらず、下着になっていた。ソウにいたっては上半身は裸だ。
「ん? んぅ~っ、もう朝か」
や、やばいやばいやばいっ!!! ソウが目を覚ましちゃうっ!
狼狽えているうちにソウと目が合ってしまった。
「きゃああああああっっっ!!!」
バチーンと寝起きのソウに思いっきり平手を打ってしまった。ソウは寝ぼけた顔のまま、ベッドから転がり落ちた。
やってしまった。ソウは悪くないって分かってるのに。こんなこと仕組んだのは、彼女に決まってるのに。
せっかく彼が真剣な顔で私を求めてくれていたというのに……、なにやってるんだろう。私……。
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