39 / 219
第4章 突撃! 魔界統一編 前編
第39話 ドラゴンを殴れ!
しおりを挟む「妾と、け、けけけ、っここんしてほしいのじゃ!」
レイと呼ばれている女の娘が突然こんなことを言い出した。
「レイ様!?」
ノーラは目を丸くして驚いている。
「ここん?」
俺の頭にはハテナマークが浮かんでいる。が、レイは勢いのあまり座る俺と顔がぶつかりそうになるほどの近さになっていた。
「結婚じゃ! 結婚! 妾、お主に惚れたのじゃ!」
「レイ様っ、この男がまだどんな者なのかもわかっていないのですよ!? あまりに性急すぎます!」
「は、はは……、もう少し落ち着いて話そう。出会ってまだ一日も経っていないからね」
だが、目の前の女の娘は鼻息荒く、俺に迫ってくる。金髪の長い髪や整った顔立ち、それに見合わぬ大きな角は彼女がただ者ではないことを窺わせる。
「いーや、妾はもう決めたのじゃ! この者と結婚するのじゃ~~っ!」
どうしてこうなった? レイ隣にいるノーラもすっかり困り顔だ。
「まぁまぁ、落ち着いて。ね? 俺だって、会って間もない人と結婚なんてすぐに決められる訳がないよ」
「でもっ、今はなき父上が言っておったのじゃ! ワシより弱い奴にレイを嫁にはやらん! と。
そして、死ぬ間際には妾より強い男でなければ嫁に行くことは許さん! と言っておったのじゃ!
そして、ついに見つけたのじゃ! 妾より強い男を!」
レイの目はキラキラと輝き、俺をじっと見つめてくる。
まいったな。俺は頭を抱えてしまう。
これほどの美形の女性に言い寄られるのは悪い気はしない。だが、色々と手順が飛びすぎてるだろ!
さすがに近くなりすぎたのか、ノーラがレイを羽交い締めにして強引に椅子に座らせてくれた。
ふぅ、これで少しは話が進みそうだ。
「お主のあの馬鹿げた魔法は一体なんのじゃ? まさか、この不毛の地で緑を拝めるとは……」
俺は村を救ったついでだったのだが、荒れた畑や川、森にエリアヒールを全力でかけたのだ。
おかげで土は潤いを取り戻し、川は澄み、森には緑が蘇った。
「あぁ、ただのヒールだよ。おおげさだな。だけど油断はしないでね? 生物たちが居着くまではまだ時間がかかるからさ」
「あれがただのヒールじゃと?」
「そんな話、聞いたこともありません」
二人は目を丸くしているが、まぁ、これくらいならどうにでもなる。
「また、あの野盗みたいな連中が来るのかい?」
「うむ、今度はあの程度の軍では済まぬじゃろうな。じゃが、妾も元気になったし、いつでも戦えるぞ!」
「いや、君一人じゃいつかはやられてしまうだろう。現に死にそうだったじゃないか」
二人は黙り込んでしまう。図星だったのだろう。俺としても女の娘二人だけで戦いに行かせるのは気が引けてしまう。
「よし、村人はみんな協力的みたいだし、ここはドラゴンだな」
「「は?」」
二人とも何を言っているんだ? とばかりに不思議そうな顔をしている。
「まぁ、俺に任せてくれ。村人達にも協力してもらえるよう何とかしてみるからさ。
*
「総員、突撃!!」
俺の声に反して村人は全く動けないでいた。
目の前に立ちはだかっているのは全身を黒い鱗で覆われたダースドラゴン。ドラゴン種の中でも上位種と呼ばれている強いドラゴンらしい。
ま、俺にはドラゴンの強さや種類なんてどうでもよかった。
この村人たちを手っ取り早く鍛えるにはこれしかないのだ。ぼやぼやしていたらまた魔王軍が攻めてきてしまうだろう。
「どうした? 突撃だっ! 行け! 例え死んでもすぐに蘇らせてやる! ただ死ぬ前に攻撃だけは当てておけ!」
村人達は顔面蒼白のまま動けず、たったまま失禁するものまでいた。
「む、無理だ……、いくらなんでもあんなのと戦うなんて! 俺には無理だぁ~~!」
一人の若い男が逃げようとした。が、すぐに白い膜にぶつかり、それ以上後ろへ行くことは出来なかった。
「な、なな、なんだ? これは?」
「そいつはバリヤーだよ。便利に使える魔法でね。そうやって行く手を遮ることも出来るんだ」
「う、うそ……」
「いいかっ! お前等を戦士にしてやる! 時間などないのだ! 突撃せよーーーっっ!」
俺の叫びが終わるや否や、ダースドラゴンの強烈なブレスが吐き出された。
マグマのような深紅の炎は多量の黒煙を上げ、我々に迫りくる。
だが、俺のバリヤーにぶつかり、ブレスは多方向に分かれて散っていった。
村人は腰を抜かして座り込んでしまった者が多い。
「どうしてこんなことになったんだ?」
村の長老は頭を抱えてその場に膝をついてしまっていた。
だが……。
「うぅ……、やってやるっ! ドラゴンがなんだっ! 俺には強い男がついてるんだ。死んでも蘇るってんなら突っ込んでやる!」
ボサボサ髪の十代の若人が一人、吠えた。
そして、ドラゴンへ向かって突撃していくのであった。
*
話は数時間前に遡る。
俺は村人達に集まってもらった。
「あの……、ソウ様。いったいどういったご用件でしょうか?」
村の長老が俺に尋ねてくる。
「うん、さっきまで暴れていた敵なんだが、追い返した所で、また攻めてくるだろう?」
「えぇ……、そうでしょうね」
長老を含め、村人たちの表情が暗くなる。
「せっかくこの辺り一帯を緑溢れる土地になったんだ。護るんなら自分たちの手で護って欲しい。俺はそう思っている」
「しかし、我々は戦闘なんてしたことがないんだ! 護るって言ったって武器も防具だってない」
村のリーダーらしき、中年の男が悲観した顔で告げてくる。
「そんなものは必要ないさ。見ろ、俺だって服しか着てないだろ? だから、有志を募って村を護る気概のある者を強くしようと思う」
「あの……、俺が強くなれるってのは本当なのか?」
ボサボサ髪の若者が聞いてきた。
「あぁ、それは保証するよ。昨日攻めてきた敵なんか目じゃないくらいね。クックック」
「あなたはどうしてそこまで私たちを助けてくれるんだ? さっきも命を救ってくれただけでなく、この肉体まで若返らせてくれた。助けてくれたところで、我々には返せるものが……」
この村は老人が多かった。若い者は少なく、即席で戦力を集めるには老人にも戦ってもらうしかない。だからポーションを過剰に飲ませて、肉体は全員20代前半の瑞々しい身体に若返ってもらったのだ。
「そんなものは期待してないよ。ただ、この村人達はあの女性達を守ろうとしていたからな。俺はそういう気概のある奴が大好きなんだ。それだけは言っておこう」
「そうか……、どうだ? みんな! この村を守るため、俺はこの人について行こうと思う! 我こそはと思う者はついてこい!」
リーダーの迫力ある声が響くと、村人達は決心をつけたようで、俺に従ってくれることになったのであった。
*
ボサボサ髪の若者は目一杯走り、ドラゴンの足まで近づいた。
しかし、ドラゴンの踏みつけを躱すことが出来ず、下半身を踏まれてしまった。
「ぐああああっっっ!」
若者の絶叫に村人たちは思わず耳を覆ってしまう者が続出する。
だが、若者は諦めていなかったのだ。下半身がなくなりつつも、その腕でドラゴンの足を力一杯叩いたのだ!
「よくやった! 若人よ!」
俺はホーリーソードを一閃。ドラゴンの首を切り落とした。
そしてすぐさま、ヒールで若者を回復させる。
「た、助かった……、でも、こんな痛いのもうこりごりだ……」
若者が弱音を吐く。が、もちろん、ここで終わる訳がない。
「リザレクション! さぁ、もう一度だっ!」
切ったドラゴンの首が本体にくっつき、ドラゴンは目を見開いた。
「う、ウソ……だろ……?」
「さすが、低知能のトカゲだけある。死んだことすら気付いてないんじゃないか?」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ!」
俺にツッコみを入れる若者の前にまたあの黒い巨体が立ちはだかるのであった。
32
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる