レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野

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第4章 突撃! 魔界統一編 前編

第39話 ドラゴンを殴れ!

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「妾と、け、けけけ、っここんしてほしいのじゃ!」

 レイと呼ばれている女の娘が突然こんなことを言い出した。

「レイ様!?」

 ノーラは目を丸くして驚いている。

「ここん?」

 俺の頭にはハテナマークが浮かんでいる。が、レイは勢いのあまり座る俺と顔がぶつかりそうになるほどの近さになっていた。

「結婚じゃ! 結婚! 妾、お主に惚れたのじゃ!」

「レイ様っ、この男がまだどんな者なのかもわかっていないのですよ!? あまりに性急すぎます!」

「は、はは……、もう少し落ち着いて話そう。出会ってまだ一日も経っていないからね」

 だが、目の前の女の娘は鼻息荒く、俺に迫ってくる。金髪の長い髪や整った顔立ち、それに見合わぬ大きな角は彼女がただ者ではないことを窺わせる。

「いーや、妾はもう決めたのじゃ! この者と結婚するのじゃ~~っ!」

 どうしてこうなった? レイ隣にいるノーラもすっかり困り顔だ。

「まぁまぁ、落ち着いて。ね? 俺だって、会って間もない人と結婚なんてすぐに決められる訳がないよ」

「でもっ、今はなき父上が言っておったのじゃ! ワシより弱い奴にレイを嫁にはやらん! と。

 そして、死ぬ間際には妾より強い男でなければ嫁に行くことは許さん! と言っておったのじゃ!

 そして、ついに見つけたのじゃ! 妾より強い男を!」

 レイの目はキラキラと輝き、俺をじっと見つめてくる。

 まいったな。俺は頭を抱えてしまう。

 これほどの美形の女性に言い寄られるのは悪い気はしない。だが、色々と手順が飛びすぎてるだろ!

 さすがに近くなりすぎたのか、ノーラがレイを羽交い締めにして強引に椅子に座らせてくれた。

 ふぅ、これで少しは話が進みそうだ。



「お主のあの馬鹿げた魔法は一体なんのじゃ? まさか、この不毛の地で緑を拝めるとは……」

 俺は村を救ったついでだったのだが、荒れた畑や川、森にエリアヒールを全力でかけたのだ。

 おかげで土は潤いを取り戻し、川は澄み、森には緑が蘇った。

「あぁ、ただのヒールだよ。おおげさだな。だけど油断はしないでね? 生物たちが居着くまではまだ時間がかかるからさ」

「あれがただのヒールじゃと?」

「そんな話、聞いたこともありません」

 二人は目を丸くしているが、まぁ、これくらいならどうにでもなる。

「また、あの野盗みたいな連中が来るのかい?」

「うむ、今度はあの程度の軍では済まぬじゃろうな。じゃが、妾も元気になったし、いつでも戦えるぞ!」

「いや、君一人じゃいつかはやられてしまうだろう。現に死にそうだったじゃないか」

 二人は黙り込んでしまう。図星だったのだろう。俺としても女の娘二人だけで戦いに行かせるのは気が引けてしまう。

「よし、村人はみんな協力的みたいだし、ここはドラゴンだな」

「「は?」」

 二人とも何を言っているんだ? とばかりに不思議そうな顔をしている。

「まぁ、俺に任せてくれ。村人達にも協力してもらえるよう何とかしてみるからさ。



   *



「総員、突撃!!」

 俺の声に反して村人は全く動けないでいた。

 目の前に立ちはだかっているのは全身を黒い鱗で覆われたダースドラゴン。ドラゴン種の中でも上位種と呼ばれている強いドラゴンらしい。

 ま、俺にはドラゴンの強さや種類なんてどうでもよかった。

 この村人たちを手っ取り早く鍛えるにはこれしかないのだ。ぼやぼやしていたらまた魔王軍が攻めてきてしまうだろう。

「どうした? 突撃だっ! 行け! 例え死んでもすぐに蘇らせてやる! ただ死ぬ前に攻撃だけは当てておけ!」

 村人達は顔面蒼白のまま動けず、たったまま失禁するものまでいた。

「む、無理だ……、いくらなんでもあんなのと戦うなんて! 俺には無理だぁ~~!」

 一人の若い男が逃げようとした。が、すぐに白い膜にぶつかり、それ以上後ろへ行くことは出来なかった。

「な、なな、なんだ? これは?」

「そいつはバリヤーだよ。便利に使える魔法でね。そうやって行く手を遮ることも出来るんだ」

「う、うそ……」

「いいかっ! お前等を戦士にしてやる! 時間などないのだ! 突撃せよーーーっっ!」

 俺の叫びが終わるや否や、ダースドラゴンの強烈なブレスが吐き出された。

 マグマのような深紅の炎は多量の黒煙を上げ、我々に迫りくる。

 だが、俺のバリヤーにぶつかり、ブレスは多方向に分かれて散っていった。

 村人は腰を抜かして座り込んでしまった者が多い。

「どうしてこんなことになったんだ?」

 村の長老は頭を抱えてその場に膝をついてしまっていた。

 だが……。

「うぅ……、やってやるっ! ドラゴンがなんだっ! 俺には強い男がついてるんだ。死んでも蘇るってんなら突っ込んでやる!」

 ボサボサ髪の十代の若人が一人、吠えた。

 そして、ドラゴンへ向かって突撃していくのであった。



   *



 話は数時間前に遡る。

 俺は村人達に集まってもらった。

「あの……、ソウ様。いったいどういったご用件でしょうか?」

 村の長老が俺に尋ねてくる。

「うん、さっきまで暴れていた敵なんだが、追い返した所で、また攻めてくるだろう?」

「えぇ……、そうでしょうね」

 長老を含め、村人たちの表情が暗くなる。

「せっかくこの辺り一帯を緑溢れる土地になったんだ。護るんなら自分たちの手で護って欲しい。俺はそう思っている」

「しかし、我々は戦闘なんてしたことがないんだ! 護るって言ったって武器も防具だってない」

 村のリーダーらしき、中年の男が悲観した顔で告げてくる。

「そんなものは必要ないさ。見ろ、俺だって服しか着てないだろ? だから、有志を募って村を護る気概のある者を強くしようと思う」

「あの……、俺が強くなれるってのは本当なのか?」

 ボサボサ髪の若者が聞いてきた。

「あぁ、それは保証するよ。昨日攻めてきた敵なんか目じゃないくらいね。クックック」

「あなたはどうしてそこまで私たちを助けてくれるんだ? さっきも命を救ってくれただけでなく、この肉体まで若返らせてくれた。助けてくれたところで、我々には返せるものが……」

 この村は老人が多かった。若い者は少なく、即席で戦力を集めるには老人にも戦ってもらうしかない。だからポーションを過剰に飲ませて、肉体は全員20代前半の瑞々しい身体に若返ってもらったのだ。

「そんなものは期待してないよ。ただ、この村人達はあの女性達を守ろうとしていたからな。俺はそういう気概のある奴が大好きなんだ。それだけは言っておこう」

「そうか……、どうだ? みんな! この村を守るため、俺はこの人について行こうと思う! 我こそはと思う者はついてこい!」

 リーダーの迫力ある声が響くと、村人達は決心をつけたようで、俺に従ってくれることになったのであった。



   *



 ボサボサ髪の若者は目一杯走り、ドラゴンの足まで近づいた。

 しかし、ドラゴンの踏みつけを躱すことが出来ず、下半身を踏まれてしまった。

「ぐああああっっっ!」

 若者の絶叫に村人たちは思わず耳を覆ってしまう者が続出する。

 だが、若者は諦めていなかったのだ。下半身がなくなりつつも、その腕でドラゴンの足を力一杯叩いたのだ!

「よくやった! 若人よ!」

 俺はホーリーソードを一閃。ドラゴンの首を切り落とした。

 そしてすぐさま、ヒールで若者を回復させる。

「た、助かった……、でも、こんな痛いのもうこりごりだ……」

 若者が弱音を吐く。が、もちろん、ここで終わる訳がない。

「リザレクション! さぁ、もう一度だっ!」

 切ったドラゴンの首が本体にくっつき、ドラゴンは目を見開いた。

「う、ウソ……だろ……?」

「さすが、低知能のトカゲだけある。死んだことすら気付いてないんじゃないか?」

「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 俺にツッコみを入れる若者の前にまたあの黒い巨体が立ちはだかるのであった。


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