90 / 219
第7章 聖魔大戦編
第89話 潜入
しおりを挟むこれが聖王都……。
今、俺は丘の上から聖王都を見下ろしている。
広大な土地を高い外壁で覆っている、城塞都市だ。早朝だというのに、大勢の人が行き交い、街道にも人が溢れている。
高い壁のはるか向こう側に巨大な城が建っており、そこに王がいるのだろう。城は朝日を浴びて荘厳な雰囲気を醸し出している。
見たところ、市場が建ち並び、繁栄を極めているかのように見える……、どうしてこれほどの国が戦争なんてしなきゃいけないんだ? 全くワケがわからんな。
ま、とりあえず、町並みでも見るか。
俺は事前に用意してもらった、人間界の貨幣を持ち、門へ並ぶのであった。
通行料は銅貨で5枚ほど。通りには朝市が並んでおり、色とりどりの野菜が売られている。
「どれどれ……、リンゴが一個、銅貨1枚か。形の揃わない野菜や傷入りの果物は数個で銅貨1枚。なるほど」
「なにぶつくさ言ってんだい? 兄ちゃん、買っていきなよ! 朝採れの新鮮なものしか並べてねぇんだ。どれもうまいぜ?」
陽気なおっちゃんが話しかけてくる。
「そうだな、じゃあ、これとこれ……それからこれもくれ」
「あいよ! また来てくれよな!」
少しオマケしてくれたようで、銅貨2枚と小銅貨5枚といったところだった。
早速買ったリンゴにかぶりつくと甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がった。
「うんめぇ~!」
「だろう?」
果物やのおっちゃんは得意げだ。
もちろん、俺は本来の目的を忘れたわけじゃない。
「ところで、おっちゃん。最近、この国で勇者を呼んだって聞いたんだけど、本当かい?」
「あぁ、なんだか色々とやってるみてぇだな。最初は森から魔族が攻めてくるってんで、騎士団を派遣したそうだ。だが、騎士団じゃ歯が立たなかったらしくてよ。ボロ負けして帰ってきたんだよ。それで勇者様とかいうのを呼んで、魔物を退治するんだそうだ。ま、俺にゃあ関係ない話だけどよ」
「なんで、そんなに魔物退治するんだ? この辺りは平和そのものじゃないか?」
「あぁ、オメェさん、随分遠くから来たのかい? この聖教国ってのはね、昔は傭兵国家って言われてんだ。他所の国が魔物で困ったら兵を出すんだが、その見返りにお金やら食料をもらってたそうだ。なんだか聖メルザ神を崇めてたこともあって今じゃ聖教国なんて名乗っちゃいるがね」
「ほほぅ、そうだったんだ」
いきなり為になる話が聞けたな。もう少し裏を取る必要がありそうだが。
俺はさらに別の店で情報収集を進めていく。
「あぁ、なんでも別の勇者とかいうのを召喚したらしいぞ?」
「別の?」
酒場の亭主はさすがに情報が早い。一杯おごるだけで色々聞かせてくれる。
「あぁ、なんでも呼び出した勇者とかいうのが負けたらしくてな。そんでより強力な奴を呼び出したそうだ。それも数人」
「数人も……。それはいつ頃なんだ?」
「さあてねぇ。俺が聞いたのは1週間まえだったかなぁ」
しまったな。急いだつもりだったが……。魔王国の防備をあれやこれやと整え、それから急いでここまで来たつもりだったが、十日も経ってしまったのだ。今頃は新たに呼び出された者たちもパワーレベリングの最中ってわけか。
そんな時だった。街中に歓声が響きわたった。
「ん? 何かあったのか?」
道行く人に尋ねる。
「あぁ、勇者とその仲間たちが揃って帰還したんだよ! 危険な魔物をいっぱい倒してきたそうだ」
「勇者と仲間たち……か」
街の人々はどんどん中央の通りに集まっていく。
一体どんな奴らなのか……、見定めさせてもらおう。
俺はマントのフードを深く被り、魔力を極限まで抑え、中央の通りを目指した。
中央の通りはすでに人だかりが出来ていた。そして、門の方から一際大きな歓声が聞こえてくる。
「きたぞーっ!」「勇者だ!」「きゃーー、こっち向いてぇ!」
熱狂が辺りを包み込む。
騎士団が見事な行進をしながら見えてきた。見えたと言っても、人だかりが多く、俺から見えるのは槍の先と兜だけだが。
そして、勇者が見えてきた。RENはあの時、完全に洗脳されており、理性というものがすっ飛んでいた。が、立派な白馬に跨がってきたRENは笑顔で手を振りつつ歓声に応えていた。
どういうことだ? 洗脳状態を操っているのか?
殺到する街の人々から勇者を守るため、兵達が一生懸命にブロックしている。
それにしても、また一段と強くなった雰囲気がある。一気にレベルを上げたんだろう。この次は油断できないな……。
勇者の後に続いてきた馬に跨がっている男が目に入った。
「な! まさか!」
あの顔は忘れるワケがない。世界初のプロゲーマーとして誕生し、俺が生きていた間、ずっとトップグループに君臨し続けていた男。
「Fina1 だと!? 奴までこの世界に引っ張ったっていうのか?」
赤い鎧に身を包み、巨大な剣を背負い、笑顔で手を振っている。
その笑顔がやがて狂気に染まり、俺と闘うことになる、だと……。
背中がヒヤリとし、おでこを手で拭うと、びっしょりと汗をかいていた。
続く勇者パーティの者達が見える。
「ま、まじ……かよ……?」
紫の煌びやかなローブに身を包んだ女はチコ。
白いローブに身を包んだ女はミウ。
二人とももちろん知っている。というか、この二人はRENの所属していたチームにいた女性プロゲーマーだ。
二人の女性プロゲーマーはそのルックスにも恵まれたお陰もあり、国内ではチコ派、ミウ派に別れ人気を二分していた。だが、ひとたび手を握り合い、同じチームとして出場すれば、世界大会を度々湧かせる実力派の選手であった。
これほどの強力なメンバーを集めたとは……。
もう少し情報が欲しいな……。
ん? 勇者が何か兵士に話している……、って! やばい、見つかったか?
俺は人混みに紛れながらなんとかこの場を脱出するのであった。
20
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる