113 / 219
第8章 聖教国にて
第112話 宰相の目論見
しおりを挟む三度目の王宮内。俺は認識阻害の魔法を使い、忍び込んでいた。
一体、誰が戦争を続けるべく動いているのか。それを確認しなければならない。
以前、勇者一行と戦闘のあった部屋に黒い霧を繋げ、そこから侵入していく。
王宮内は戦争の準備に入っているだけあって、兵士たちがせわしなく準備に動き回っていた。
さすがに三度目ともなれば、侵入することにも慣れてきたな。
俺は、すぐにサーチの魔法を使い、会議を行っているであろう部屋を探していく。すると、すぐに整列して動かない反応が並んでいる部屋を感知した。
「ん? ここに人間が集まっている場所がある。恐らくはここで話し合っているはず。行ってみるか」
俺は足早にその場所を目指し急いで向かった。
会議室は宰相と軍務大臣、それから軍務を任される貴族達が進軍の計画を練っていた。
「では、第一陣を軍務大臣である、ヴェーグナー卿、第二陣をハーリッシュ卿にお願いする。以後、細かい作戦については軍務大臣であるヴェーグナー卿の預かりとする。よろしいかな?」
「異議などあろうはずもない。魔界なぞすぐに攻め滅ぼしてくれよう」
俺は会議室の外から聞き耳を立てていた。
ヴェーグナーとやらはなんだか自信を持っているようだが、どうしてなんだ? 相次ぐ王族の失踪に対してなんとも思わないのか?
会議が終わったようで、貴族達が立ち上がろうとする。
マズい、このままでは戦争が始まってしまう。ここにいる連中は皆、記憶を消してしまわなければ!
バタン! と扉を押し開け、中に飛び込む。中にいた貴族達の視線が一気に俺に集まった。
「何やつだ? 捕らえろ!」
貴族が叫ぶよりも先に、俺は辺りを防音バリヤーで包み込んだ。最早、このフィールドからは音が漏れることはない。
貴族達の怒号が巻き散る中、俺は会議室へ黒い霧を放った。
「なんだ? この霧は! 早くその男を捕らえろ! いや、切り捨てても構わん。やれっ!」
宰相の命令に貴族達が一斉に剣を抜く。
だが、俺の魔法のほうが遙かに早くこの場の全員を捕らえた。
「すまんが、ここで戦争を起こさせるわけにはいかないんだ。記憶を全て消させてもらおう」
俺はここにいる要人たちの記憶を奪い、宰相だけは尋問するべく、捕らえるのであった。
さて、用事は終わったが……。公爵の姿が見えないな。どこに行ってるんだ?
公爵は会ったことがあるため、サーチですぐに居場所を特定できた。とりあえず合っておくか。
おかしいな? どんどん王宮から離れていっている。こんな所に公爵がいるのか?
来たところは王宮から離れた所にある塔のような建物だった。
「なんだこれは?」
その塔は静かにたたずんでおり、見張りの兵達が完全に武装している。その警備も厳重で幾人もの兵たちが詰めているのであった。
ふむ、公爵は自分の護衛の兵を連れて行ったはずだ。こいつらもその兵なのだろうか? 現状は分からないことだらけだ。
俺は、認識阻害の魔法を使い、公爵がいる最上階の所まで一気にジャンプした。
ちょうど開いていた窓から内部へ侵入を果たすと、そのまま目立たない場所に隠れる。
「ん? 今何か入ってきたか?」
「調べてみるか」
勘のいい兵が二人ほど、こちらへ向かってくる。
「うーん、なんだったんだ? 異常はなさそうだな」
「鳥か何かだったんだろう。おし、戻るか」
気配を殺し、何とかやり過ごしたが、雰囲気が普通の警備とは違う気がする。
見張りがいなくなったところで進んでいくと、俺は思わず息を飲んだ。
目に入ったのは太い鉄の棒が並ぶその奥に、酷い怪我を負った公爵が両腕を鎖に繋がれ、俯いていたのだ。
「……っ!」
思わず声が漏れそうになってしまった。あの会議にいなかったのは捕まっていたからだったのか。
俺は見張りの兵がいないことを確認すると、認識阻害の魔法を解いた。そして、公爵へ小さい声で囁きかけていく。
「公爵。意識はありますか?」
だが、公爵は俯いたまま反応がない。
仕方が無い。このまま助けだそう。ホーリーソードで鉄格子を切り、音がしないようにそっと鉄の棒を置く。素早く公爵の両腕に巻かれた鎖を断ち切ると、公爵が倒れ込むように傾いてくる。なんとか優しく受け止め、ヒールとキュアーを使用した。
「……む……、君は?」
「シュヴァルツヴァイン公爵。今は静かにお願いします。まずはここから脱出しましょう」
「あ、あぁ。娘だけでなく、ワシの命まで救ってくれたのか。君は……。ありがとう。……本当にありがとう」
公爵の目から涙がしたたり落ちる。
「御礼は後で。今、空間転移の魔法を出します。これに乗って公爵邸まで行きましょう」
「うむ。助かる」
俺は黒い霧を出し、公爵邸まで繋げると、公爵をここから脱出させることに成功するのだった。
***
「本当に君には驚かされるよ。助けてくれて本当にありがとう」
深々と頭を下げる公爵。
「それにしても何故、あのような場所に?」
「ふむ。どこから話せばよいものか……。実は……今、王族が皆、失踪してしまったのじゃ」
それはよーく知ってます。犯人は俺ですから。
「それでの、あの宰相が実権を握るべく、軍務大臣と協力しクーデターを起こしたのじゃ。そして、戦争反対派であるワシを捕らえ、王族失踪の罪を押しつけたというわけじゃ」
「なんてことを……」
「うむ……。しかし、お主の魔法は凄まじいの。娘がお主のことを聖者の再来だと言っておった。じゃがワシも確信した。お主こそ、この聖教国を救う聖なる神の使いだとな」
「えっ? そ、そんなことは……」
実際、創造神から力まで押しつけられ、この世界の管理を任されているなんて言えるわけもないしな。まいったな。
「謙虚な男じゃの。お主にならば娘だって安心して任せられそうなんじゃがのぅ」
「そ、それはいけませんよ。家の格も違いすぎます。第一、メティさんのお気持ちを無視するのはよくありませんよ」
「ふぅむ、そうか。まぁよい。ワシはこれから領地へ戻り、あの宰相と一戦交えてでも、戦争を止めねばならん。碌な御礼も出来ぬまままた出かけることになってしまうが許してくれ」
公爵は人間が出来ている上にこの国のことを想ってる。あの宰相も捕らえて正解だったな。
「分かりました。ですが、王宮内に少しだけ妨害工作をしましたので戦争は少しだけ先延ばしになっているかと思います」
「さ、さすがじゃの! しかし、ワシはこうして狙われた以上、警備を手薄なままにはしておけん。兵を連れ、なんとしても戦争派の連中を止めてみせよう」
「では、俺はこの街に留まり、怪しい動きがないか見ていますね」
「うむ。お主には世話になってばかりじゃの。助かる」
公爵は頷くと、すぐに準備に取りかかるのであった。
10
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる