レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野

文字の大きさ
153 / 219
第9章 勇者RENの冒険

第151話 最後の一撃

しおりを挟む


「アンタなんか、チリ一つ残してあげないんだからねっ!」

 イヴリスの上空に舞台よりも大きな魔方陣が急に現れた。

 そして、辺りは天気の色を一瞬にして失い、暗闇に包まれる。その暗闇の中、上空に出現した魔方陣が妖しく光を放ったかと思うと、中から現れたのは炎を纏った巨大な塊。その塊からはプロミネンスと呼ばれる真紅の炎の雲がかかっており、巨大な炎柱が縦横にほとばしる。

「こっ……! これはーーーーーっ!!! 普通のメテオではないーーーっっっ!!!」

「た、たたた、太陽ですっ!!! なんと! イヴリスは太陽を生成し、落とすつもりですね!!! こんなこと、出来るはずがないんですが! さすがイヴリスという所でしょう! 大悪魔恐るべし!!!」

 絶叫する解説者。だが、ジークは唯一人、空を眺めながら自らの詠唱を完成させていく。

「ふっ、何を降らせようと結果は変わらん。絶対吸収の力、思い知るがよいわ」

 ジークがヴォルグスネーガを上空へ構えた。すると、その剣の先に黒い点が出現する。そして、重ねて出現させていた魔方陣からも次々と黒い点が現れていき、それらが一つに重なる。

 そうして出現したモノは巨大なブラックホール。周りの空気が歪み、竜巻のように渦を巻きながら黒い点に向かって吸引を開始した。そして今、イヴリスの太陽から立ちのぼった巨大な炎の柱を瞬時に飲み込んでいく。色の濃かったプロミネンスも吸い込まれていき、その色を薄くしていく。

「さぁ! ここで両者の最高の魔法がぶつかり合うーーーっ!!! 勝つのはどちらだーーー!!!」



   ***



「ちょ、ちょっと! そんな魔法なんてアリ? 太陽を出現させるなんて……、あの娘、どれだけ魔力持ってるのよ!!!」

 キュイジーヌは目を見開いて驚く。俺は魔法についてそこまで詳しくはないが、途轍も無いことをしているのだけはわかる。

 だがそんなキュイジーヌのことを構うことなく、俺は席を発った。

「すまんが、後は一人で観戦していてくれ」

 一言だけ残し、部屋の扉を開ける。

「あ、ちょ、ねぇ! どこ行くのよ? 二人の対決見なくていいの!?」

 驚くキュイジーヌの声を背中に受けながらも俺は振り返ることなく外へ出るのだった。



   ***



 はぁっ、はぁっ、はぁっ。

 呼吸はすでに上がっており、素早く動くことはもう出来ないだろう。それに……、これほどの魔法を発動させるため、翼も回復させることが出来ない。それでも……、目の前のジークを倒したい一心で自らの最強の魔法を発動した。隕石を落とすメテオの上位魔法、フォーリングサン。その威力は極大魔法である、メテオの遙か上をいく。だが、問題なのは消費MPの多さだ。いくらMPの自然回復量の多い悪魔族であっても、一発放つだけでほぼ枯渇してしまう。よって、この魔法を防がれた場合、自動的に私の負けは確定してしまうのだ。

 なるべくなら使いたくなかった。この魔法は奥の手としてとっておきたかったのだ。それが、まさか……1回戦で使うハメになるとは……。自らのくじ運の悪さを今になって恨んでしまう。

 例えばだが……ブッピーが最後に放った技、黒い剣を胃の中で溶かし込み、それを吐き出す攻撃は厳密に言うと魔法攻撃ではない。よってあの魔力を吸うブラックホールに飲み込まれる事はなかっただろう。ブッピーならばあの難きジークを打ち倒すことが出来たかもしれない。もし、私がズールと対戦したならば、この魔法で跡形もなく消し去ることも出来たはず。

 だが、運命は皮肉にも私にとって最悪の相手を選んだ。

 アイツの出現させたブラックホールは最初に出していたものよりもさらに大きく、勢いもあり、私の魔法、フォーリングサンを勢いよく飲み込んでいく。

「届けっ! 届けっ、届けーーーーーっ!!!」

 最後の魔力を振り絞り、太陽の落下を早めていく。

 だが……、

「ジークのブラックホールがイヴリスの落日を吸い込んでくーーーッッ!!!」

 私の想いは……、届かなかった。ジークのブラックホールはより勢いを増して渦を巻くように、私の太陽を飲み込んでいく。

 そして……、

「た、太陽が……、全て飲み込まれてしまったーーーッ!!! わ、我々はとんでもないものを目撃しております!!! これが歴史が変わる瞬間とでもいうのかーーーッッッ!!!」

 解説者の絶叫が私の胸を抉る。もう、残りMPはなく、近接戦闘でもジークには適わない。

 私に出来ることはもう……。

「どうやら……、ワシの勝ちのようじゃ。どれ……、貴様の首を刎ねて終わりとするか」

 ジークは剣を構えた。あの黄金に光る神剣がこれから私を殺すんだ。そう思うと抵抗する気力も起きなかった。震える足は私の体重を支えきれず、その場にペタンと女の子座りで腰が地面に落ちる。

 ジークの姿が消えた。リッチのくせに剣のほうが得意なんて、いくらなんでも反則すぎよ。もう私の目はもうジークを追うことも出来ない。なにこかも諦めて目を閉じた。このまま私は消えてしまうんだ。

 だが、耳をつんざくような金属同士がぶつかる音が鳴り、いつまで経っても私は無事なままだったのだ。

 ギィィィィィィンッッッ!!!

 え? 一体、何が起こったというの?

 恐る恐る目を開ける。そこに立っていたのは……。

「REN……、どうして?」

 RENは手に剣を持ち、ジークの放った一撃を受け止め、神剣と聖剣が火花を散らしていた。

「貴様……、ワシの邪魔をするのか?」

「勝負はもうついた。無駄な殺戮はやめてもらえないだろうか? その剣を収めて欲しい」

 私はその光景を疑った。RENとは契約してほしくて近づいてはいた。だけど、私を庇ってくれる気配なんてなかったし、私に気があるようにも見えなかった。当然、さっき出会ったばかりなので仲間というわけでもない。どうしてRENが私を助けてくれたのか、どれだけ考えても全く心当たりが浮かばないのだ。

 RENはジークの剣を弾き返した。それと同時にジークは大きく弧を描くように後方へ飛び退いた。

「あぁぁっっ!!! なんと! 召喚獣ではない第三者の介入により、この試合、イヴリスの反則負けとなりましたーーーっっっ!!!」

 会場の観客達は一言も発することなかった。舞台で何が起こったのか、わからずに、驚きを持って静まりかえるのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...