レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野

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第9章 勇者RENの冒険

第154話 ミリィの思惑

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 ふぅ、と大きなため息が漏れた。

 目の前のドラゴンの口が光を帯びて、エネルギーが溜まっていく。

 ブレス。ドラゴンの持つ最大の攻撃。ドラゴンを象徴する攻撃で最も有名なものだろう。

 それにしてもたった一回の攻撃をするのにこれほど時間がかかるなんて……、とてもではないけれど許容できない。

 どれほどの威力なのかを確認する意味合いもあり、ブレスの放射を待っているのだが……。

「暇すぎますわね。口にエネルギーを溜め込んでいる間に、あのドラゴンの息の根を止めることも容易いのですが……、それでは正しく力を計りきれませんしね……」

 ふぅ、とまたしてもため息が漏れてしまう。

 顔を上げてドラゴンを見ると、ようやくエネルギーの充填が終わったようだった。

「これで、オマエを焼き尽くしてやる! 私と対戦したことを後悔するんだねっ!」

 なんでしょう……、雑魚感満載の台詞が飛んできます。もうため息をついてあげるのも面倒になってきました。あのトカゲに変身して、彼女は本当にこのトーナメントを勝ち進めるとでも思っているのでしょうか? だとしたらあまりにも滑稽と言わざるを得ませんね。

 ドラゴンの口がいよいよ白い輝きを放ち始めました。あぁ、やっとブレスが始まるんですね。

 私は自身の周囲に電磁バリヤーを張った。これにより、私を中心とする半径3メルの距離に防御膜が張られることになる。安心してブレスの温度、速度、成分を分析できそうです。

 っていうか……、本当に時間のかかる攻撃ですね。呆れてモノも言えません。だというのに……、

「グリーナがブレスを吐き出そうとしているーーーっっっ! このままではミリィに直撃待ったなしだーーーっ!」

「どうしたことでしょう? ミリィに動きがありませんね! あのブレスは放たれてはいけないドラゴン最強の一撃です! それがわからないミリィではないと思うんですが。あまりの光景に身体がうごかないんでしょうか?」

 まったく……、解説者達はホントに分かってない。私は計りたいだけ。



 そう、私の国を救えるほどの力を持っているのか? を計りたいだけなのだ。



 ブレスが放たれました。待ちに待ったブレスは私の周囲をあっというまに炎で飲み込み、舞台の表面がドロドロに溶け出し、まるで火山の中にでも放り込まれたかのような風景とでも申しましょうか。

 しかしながら……、私の期待する威力には程遠く、バリヤーが脅かされる心配すらありません。

「計るまでもなかったようですね」

 やがて視界が開け、周囲の惨憺たる光景とは裏腹に私の周囲は全くの無傷。この程度では合格点にほど遠いどころか赤点です。

 眉をヒクつかせながら、グリーナが口を開けっぱなしにして驚いた表情をしていました。この程度で驚かれても困るのですが……。

 このグリーナには失望しました。この試合も、もう続ける価値もありません。

 私は瞬時に剣を構え、ドラゴンの顔に向かってジャンプします。そして、すれ違いざまに剣を一閃し、はるか後方へ着地しました。

「へぇ? 今のを避けるんですね……」

 少しだけグリーナを見直しました。頭部を真っ二つに切り裂こうとした私の一撃は僅かに避けられ、ドラゴンの口の右側を大きく切り裂くに留まったのです。

 ドラゴンは憎々しげに私を睨みつけてきました。もうそれは飽きたのですが……。

 グリーナはようやくその姿を小さく変化させていきました。変身も終わりでしょうか? と思えば、同じ四つ足で立つ生き物のように変化していきます。大きさは段違いに小さくなっていきますが、私よりは十分に大きな大きさでしょう。丁度、私の背丈の倍程度の大きさです。

 そうして現れたのは白い狼でした。

 白く輝く、長い毛並み。そして、周囲に輝く魔力はまるで星空のように煌めいています。

 ただの白い狼ではありませんでしたね。これは期待してしまいます。

「あああーーーーーッッッ!!! グリーナがド、ドラゴンから、白く輝く狼に変身しましたっ!」

「あ……、あれはリサさん! とんでもないものを我々は目撃しています! あれは伝説の魔獣!!! フェンリルですよ!!!」

「フ……フェンリル! フェンリルですか!!! 噂には聞いたことがあります! 曰く、神の遣い。曰く、森の守り手。曰く、神獣っ! そのどれもが伝説に伝わるのみで本物のフェンリルを見た者は恐らく天使の中にはいないでしょう! まさか、グリーナがフェンリルに変身するとはーーーーッッッ!!!」

 フフフッ、思わず笑みがこぼれそうになっちゃいます。これほどの隠し球を持ってたなんて。全く、ヒトが悪いんだから。それとも精霊ってイタズラ好きなのかな?

 ま、それはいいとして、解説者が驚くほどの魔獣ならちょっとは本気を出せるのかしら?

 フェンリルは身体を細かく震わせながら、グルルル……と私を威嚇するように毛を逆立てた。

 何もそんなに怯えなくてもいいのに。

 フェンリルの姿が一瞬にして消えた、かと思えば口を大きく開いてもう、私の目の前にいたのだ。フェンリルの牙は大きく、どれもが私の腕ほどの太さもありそうだった。咄嗟に剣を振りかざし、牙と交錯する。

 すると、その身体からは想像も出来ないほどの力で、剣を弾き、その勢いは私の身体を吹き飛ばした。

 すごいパワーじゃないっ! これよ! 私はこういう闘いがしたかったのよ!

 このトーナメントは凄い。前に行われた試合はどれも私の計測欲を刺激してくれた。

 私の国に巣くう悪魔のようなモノたちを葬り去るだけのパワーを秘めた存在がこの中から見つけなくてはならないのだ。そして説得しなければならない。それが私に課せられた使命。

 果たして、このフェンリル。もっと計らせてもらうわ。

 私は内心に期待を込め、剣を構え直すのでした。


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