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第9章 勇者RENの冒険

第155話 フェンリルとの攻防

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「あああーーーっと、またしてもフェンリルの姿が一瞬で消えたーーーッッッ!!! 気がつけばもう彼の目の前だーっ!!!」

 私は剣を慌てて前に構えた。凄まじい衝撃が私の剣に伝わってくる。そして私の体はまたしても吹き飛ばされた。

「くっ!!!」

 なんとか空中で体勢を取り直し手足を地面につけて着地すると、もう、目の前にフェンリルがいるのだ。

 私はとっさに左手にも剣を握り、二刀でフェンリルの攻撃を防御した。

「フフッ、やっと本気を出してくれたということですね」

 私は溢れる喜びを抑えきれなかった。 ようやく彼女の本気の力を見ることができるのだ。抑えるのがやっとの攻撃が繰り返され、私は防戦一方となってしまう。両手でも抑えきれないほどの連撃に次ぐ連撃。

 ようやく巡り会えた強い敵に対し、私の体は歓喜に満ち溢れた。

「これならば、 もっと強い武器を使っても大丈夫そうですね」

「いつまでも、減らず口を叩いて! 私の怒りを、森の怒りを、思い知るがいい!!」

 フェンリルの目はさらに赤く燃え上がるように色が濃く変化し、頭部の毛が逆立った。

 私は素早くアイテム空間へ手を伸ばすと、短い剣の持ち手を取り出した。



「ここでミリィが取り出したのは……、剣の持ち手の部分でしょうか? 刀身がついておりません。これはどうしたことでしょう?」

「おそらく、あれは魔道具でしょう! どんな効果があるのかこれは期待できますね! 何せ、フェンリルとも五分に渡り合うミリィの武器ですから、あれが普通の魔導具であるはずがありません!」

 私は魔道具にエネルギーを込め始めた。ボゥっという音と共に刀身が姿を現す。

「こ、これは! 金色に輝く刀身です! それがまるで炎のように放射されております!」

「あれは、雷の魔法と風の魔法でしょうか。雷が防風に煽られ、吹き出すように刀を形作っています!」

「フフッ、簡単に死んでしまわないでくださいね? 期待しておりますよ? 神獣さん」

 ミリィの持つ剣の持ち手から放たれた魔法剣は雷と風の魔法の合わせ技によるもの。それが凄まじい勢いで吹き出され、今や、フェンリルの身長以上にまで長く伸びている。

「小癪な真似を」

 フェンリルはそう呟きながら、体に身体強化の魔法を使ったようだ。体中から魔力が溢れ出したのだ。体中の毛から白く光る魔力が放出し始める。

 今まででも十分なスピードで攻撃していたというのに、これ以上のスピードで攻撃すると言うのだろうか? それを考えるだけでもワクワクしてくる。

 一体どれほどのスピードとなるのか? スピードが上がるということは、そのまま攻撃の威力が跳ね上がるということだ。 もしかしたら、私でも受けきれない攻撃となるかもしれないのだ。 今にも自分がやられるかもしれない、そう思うだけで心が満ち溢れてくる。気がつけば私は口を開いていた。

「いざ、尋常に勝負ッッッ!!!」

 その瞬間、二人の姿が舞台から消えた。 そして、舞台の中央で激しい衝突が現れた。二人の戦士がぶつかり合ったことで、衝撃音が観客席にまで轟いた。耳をつんざく、金属がぶつかり合う音だ。

 ギイイイィィィン!!! キィンッ! キンッキインッ!!

 何度も繰り返し響く金属音。観客席の天使たちが耳を手で抑えていくほどの轟音。

「嬉しいわ。 あなたがこれほど戦えるなんて! 私の剣とぶつかりあえるなんて誤算ではあったけれど」

「オマエは危険すぎるッ! その力が森に及ぶ前にこの私が引導を渡してやるっ!」

 彼女の顔は恐ろしいほどまでに引きつっていた。 牙は大きく伸び、私を飲み込めるほど口を大きく開いて襲いかかってきた。

 フェンリルの牙や爪は非常に固く、魔力の放出も手伝って、私の剣と同等の威力を持ち合わせていた。

 ここまで私と打ち合えるなんて……、もしかしてさらに上まであるのかしら?

 私の中にさらなる好奇心が芽生える。ならば、私もさらに出力を上げていくのみ。

「す、凄まじい打ち合いです! 会場も大興奮の渦に飲まれたかのような歓声に包まれています! 解説がほとんど追いつかない! これほどの打ち合い、私はかつて見たことがありませんーーーッッッ!!!」

「リサさん! どうやらミリィの剣がさらに変化したようですよ!!! 見てください、あの剣の周りを! 先程の剣で行っていた超振動による攻撃も加わっていますッ!」

 フェンリルはあいも変わらず凄まじいスピードで私に爪を立ててきた。それに合わせて彼女の横に抜けながら、剣で一閃する。

 彼女がフェンリルになってから初めての手応え。

 フェンリルが振り向くと、牙が数本なくなっていた。

 グルルルルルルッッッ!!!

 喉を鳴らす音は重低音を伴い、私の服をビリビリと揺らす。だが、そんな威嚇などこれから迎えるフィナーレを思えば、私には心地よく感じるだけだった。

「さ、さらに奥の手を出してくれないかしら? さもなければ、終わるわよ?」

 私の声など聞く耳ももたない獣はすぐに襲いかかってきた。

「ごめんなさい、もうそのスピードは分析が完了して慣れてしまったの」

 フェンリルの前足二本の爪に剣を走らせる。

 彼女の顔には初めてうろたえるような表情が浮かんだ。長い毛並みから汗もしたたり落ちていく。

「あら? どうしたのかしら? もしかして……、おしまいなの?」

 フェンリルは風の魔法、トルネードを唱えつつ、さらに牙で襲いかかってきた。

 その程度……なの?

 私の心に浮かんだのは落胆。彼女の口が私に触れる前にフェンリルの顔の横に体を逃がす。それと同時に剣で顔を薙いだ。

 二人の体が交錯し、私は剣を振り終えたまま彼女の後方へ抜けた。

 ドサッッッ!!!

 地面に落ちたのはフェンリルの頭部。

 ブシュゥーーーーー!!!

 吹き上がったのはフェンリルの血。

 やがて消えゆくフェンリルの体……。そして精霊体であったグリーナの光がチリのように消え去っていくのだった。

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