レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野

文字の大きさ
173 / 219
第9章 勇者RENの冒険

第171話 誘惑

しおりを挟む


 舞台の隅に弾き飛ばされていくグレン。

 ふん、他愛もない。

 ギガースはすぐに再度の追い打ちをするべく、近づいていく。そしてまた鉄球をグレンに投げつけた。グレンはまた残像を残しながら次々と移動していく。

 またこの技か……、もう見飽きたわい!

 ギガースは鉄球に魔力を送りつつ、当たっては消えるグレンの姿を追い続けた。だが、今回は7度も残像を消したが本体に当たらなかった。そうしているうちに、自分の足へ攻撃されたのがわかった。

 恐らく、すり抜けながら攻撃していったのだろう。だが、その程度……、ワシの再生能力を持ってすれば傷のうちににも入ぬ。

 足の切られた部分から血が垂れ落ちるが、それも一瞬。すぐに傷口は塞がり、元の状態になる。

 グレンといったか……。確かにその剣の腕は確かなものだ。これだけワシを傷つけたのもバハル以来のことだ。しかし、あのバハルの攻撃ですら、ワシの防御力と再生能力を上回ることは出来なかったのだ。

 ましてあの非力な体ではワシを倒すことなど不可能であろう。

 ワシはグレンに言葉をかけてやることにした。

「グレンよ。見事な剣捌きである」

「…………」

 グレンは何も言わない。まるで何かに操られているかのような目つきだ。

「だが、相手が悪かったようだな。貴様は非力すぎるのだ。いくら技があってもワシを倒すことは出来まい? せめて苦しませずにワシが葬り去ってやろう。無駄な抵抗などやめるが良い」

 ワシは鉄球を手に持ち、そして振りかぶってグレンに投げつけるのであった。



   ***



「随分と熱心に見るのだな……」

 白いローブを着た男が言った。その男の前にはトカゲの頭部を持つ男が舞台への花道の入り口から舞台を熱心に見ていた。

「次の試合で当たるかもしれんのだ。俺の猛毒が勝るか……、奴の再生能力が勝るのか……。だが、あのグレンとやらの刀ですら碌なダメージにならないとは……」

「フッ」

 白いローブの男が不意に笑い出す。

「何がおかしい?」

 トカゲの頭部を持つ男、ニュートは白いローブの男を睨みつけた。

「あのグレンとやら……、どうやら本体はあの刀のようでしてね。恐らく、刀がその辺の男でも乗っ取って操っているのでしょう。今、ギガースにダメージを与えられないのは単に力がないだけ。乗っ取る体を間違えたようですねぇ。元が非力な人間では亜神を倒すなど……」

「何? 刀が本体だと?」

「えぇ、あの体はもはや霊体に近くなっています。酷使されすぎたのでしょうね。そろそろ限界を迎えると思いますよ?」

「俺は欲しい……。あの神と呼ばれるギガースすら傷つけるほどの武器が……。貴様は神具とやらは持っていないのか?」

「残念ながら……、私は蛇の国の神。私が出来るのはアナタの毒を強化するぐらい。……ですが、あのグレンとやらに話してみてはいかがですか?」

「バカなっ、今たたかっている最中だというのに話しかけるだと?」

「そうです。まぁ念話というやつですよ。アナタの意思とグレンの意思を一時的に繋ぐくらいはできますよ? いかがです?」

「……わかった。やってみてくれ」

 蛇の国の神は一つ頷くと魔法を発動した。その魔法は薄っすらと黒い霧が現れる、というもの。ニュートの口とグレンの刀の周りにそっと発生した霧は二人が会話できるようになるのであった。

 神はその光景を微笑みを顔に貼り付けて見守るのであった。



   ***



 ぐっ、体のほうがもう限界が近いのか……。

 グレンは焦っていた。今、目の前にそびえ立つ巨人を打ち取るには圧倒的に力が足りていなかった。技はなんとかなるのだ。グレンとは刀の銘であった。男が持っている刀こそが本体であった。この刀が男を操ることにより、俊敏な動きも達人の如き剣捌きも実現していたのだ。

 それでアヤカシの国では戦い抜いてきた。だが、その辺で捕まえた、ただの侍の体は限界がすぐに訪れてしまった。今も迫りくる鉄球を躱すことが出来ず、仕方無しに刀で受けるも体ごと吹き飛ばされてしまった。

 もっとこの体が早く動ければ……、もっとこの体に魔力があれば……、もっとこの体に力があれば……、

 もっと多くの血を吸うことが出来るのに……。

 グレンの魂を維持するためには生物の生き血を刀身から吸い上げる必要があった。自らが生き残るため、グレンは我武者羅に周りの生物を傷つけていく。そして、血液を吸うことで魔力を回復し、また、自己再生も出来るのである。

 だが、こうも吹き飛ばされていては魔力の損耗も激しく、ジリ貧の状態だ。

「ウボアアアァァァァッッッ!!!」

 男の体が悲鳴を上げた。

 グレンが男から魔力を一気に吸い上げ、駆けた刃を修復し、次の攻撃に備える。だが、度重なる魔力の吸い上げに男の体が限界を突破してしまった。

 男はついに膝から崩れるように地面についてしまう。

 クソッ! 動かぬかっ!!! さっさと魔力を回復しろッッッ!!!

 グレンの思いは男には届かない。男は一歩も動けぬまま、ギガースの鉄球が迫っていた。

 グウゥッッッ!!!

 膝をついたまま、刀で受けるも、踏ん張りが効かず、またも吹き飛ばされる。

 グワアアアァァァッッッ!!!

 しかも今の一撃で自分の刀身が真っ二つに折れてしまったのだ。

 刀ゆえ、痛みは感じぬが……、もはや、これまで……か。

 諦めの気持ちが芽生えた時だった。

『グレンよ。俺に力を貸せ』

 グレンの魂に直接、響いてくる声があった。

『何奴だ? 戦いの最中に念話で話しかけてくるとは……』

『俺はニュート。蛇人族スネークマンの代表者。俺に力を貸せ、グレンよ。お前と俺が組めば亜神など恐れるに足らず。お前の望みも、俺の望みを叶えられるだろう。俺の元へ来い』

『…………』

 突然の声にグレンは戸惑った。しかし、現状、手が他にないのも事実。蛇人族に果たしてオレが使いこなせるのか? オレを御しうるだけの力を持ち合わせているのか? そうでなければ、亜神であるギガースやバハルを倒すことは叶わないだろう。

『どうした? そのまま朽ち果てるのが望みか?』

 眼の前では立ち上がることすら出来なくなったオレにさらに追い打ちするべくギガースが迫っている。最早、時間的な余裕もない、か。

『……よかろう。だが、意思の弱い者はすぐに俺の呪いに支配されるだろう。貴様の意思は固いのか?』

『無論だ。オレはこのトーナメントを勝ち抜き、世界に君臨する王となる男だ。貴様も使いこなしてみせよう』

『……そうか。ならば……使いこなしてみせるがいいッ!』

 その瞬間、刀であるグレンの姿が消えた。グレンを持っていた男は瞬時に元の姿に戻る。グレンに操られる前の素の人間の姿に。そして……、

「あああーーーーーッッッ!!! ついにギガースの鉄球がグレンを捉えたーーーーーッ! グレン、無惨にも鉄球の下敷きになってしまったーーーッ!」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...