レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野

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第9章 勇者RENの冒険

第186話 絶望の味

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 ミリィはジークの動きを見ていた。だが、一瞬にして見失ってしまった。

 スッと消えるジークの体。そして、どこから襲ってくるのか、全く予測が立たない。

「なっ!?」

 ミリィは目を見開いた。気づけばジークの剣が目の前にまで迫っていたのだ。

 かろうじて横に一閃された剣を屈んで躱すことが出来た。だが、そこにジークの膝蹴りがすぐに飛んでくる。

「きゃあああっ!」

 またしても吹き飛ばされ、私の体は舞台に転がされる。

 み……、見えなかった……。どうして……?

 謎が残る。ジークからは目を離さなかったはず。私の視力で追いきれない? それこそまさかだ。私の視力はそれこそ規格外。しかも距離に関わらず瞬時にピントをオートに合わせられる。

 私の見た映像が遠く離れたマザーに送られたはず。すぐに解析してくれれば……。

 すぐに立ち上がり、辺りを見回したがジークの姿はもうなかった。

「遅いわッッ!!」

 頭上から振り下ろされる攻撃に、またしてもギリギリの所で体を右に投げ出し、避けることが出来た。

 ジークの一撃は舞台に巨大な破壊跡を残すが、それほどの一撃を放っていながらも、片手をこちらに向けてきたのだ。

 放たれるのは炎。それも極大魔法と言っても差し支えないほどの巨大な炎がビームのように私に襲いかかってくる。

「次から次と……」

 ミリィはすぐに電磁バリヤーを展開し、その炎を防いだ。

「この程度の攻撃、私には効かないわ」

 バリヤーごと炎に飲み込まれたかのように視界が赤い炎に包まれている。

 炎の魔法が晴れてきたが、肝心のジークの姿はもうそこにはなかった。

 ズバアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!

 後方から凄まじい轟音が鳴る。電磁バリヤーに何かがぶつかった音。すぐさま振り返ると、そこには電磁バリヤーを打ち破り、私の体に迫るジークの剣があった。

「しまった」

 ジークの剣は勢いよく私の体を斬りつけてきた。躱す時間もなく、左肩から大きく斜めに剣が私の身体を走った。

「キャアアアアアアアァァァッッッ!!!」

「あああーーーーッッッ!!! ジークの剣がついにミリィを捉えましたーーーッッッ! あれは相当なダメージになりそうです!」

「今の一撃は深く当たりましたね! 下手をすると今の一撃で終わってしまうかもしれませんよ!」

「ミリィの切られた跡から赤黒い……、これは血液でしょうか? 液体が流れていきます! 果たして大丈夫なのか?」



 ジークは容赦なくトドメの一撃を放ってくる。首を狙った横に向かう一凪。

 なんとか小刀で受け止めたが、私の力が及ばずジークの剣に突き飛ばされるように舞台に転がった。

 私の体を流れる疑似血液が舞台に広がるように漏れ出していく。

 マズイ。これ以上流れたら戦闘不能になってしまう。

 急ぎで、異次元格納庫から修復キットを取り出した。スプレー状の瞬間固着剤だ。これを吹き付け、胸の傷を取り敢えず塞ぐ。

「ほぅ? これはまた珍しい道具を使用しているな。だが、抵抗など無駄だ。さっさと降参すれば死ななくても済むのだぞ? 若き戦士よ」

「だ、誰が降参など……、我が祖国のために……、まだ死ぬわけにはいかないッ!」

 私がジークを睨むと、またしても奴の姿が一瞬にして消え去った。

 そして、突如として横から斬り掛かってきた。

「くううッッッ!!!」

 かろうじて防いだ。この攻防でマザーからの解析結果がようやく届いた。

 調子にのるのもここまでよっ! この解析結果があれば……、

 そ……、そんな……。

 ミリィは驚いた。解析の結果、ジークが行っているのは完全なる瞬間移動。つまり、一瞬だが、魔力で自分の体をワープさせていた、というもの。空間を魔力でつなぎ合わせ、そこを移動していたのだ。そして、解析・分析の結果、ジークがどこから現れてくるのかはランダム性が高く、予測不能というもの。

 通常の相手ならば、得意とする攻撃が数パターンあり、そこから次の攻撃が高確率で割り出せた。

 だが、ジークはそんなレベルではなかったのだ。

「クックック……、どうした? そんなに驚いた顔をして? 今頃、自分の絶望的な状況に気づいたとでも言うのか?」

 ジークの笑い声は露骨にこちらを見下していた。

「いいことを教えてやろう。ワシの剣に型などはない。完全なる無型。ゆえに分析で次の攻撃を読むなど……無意味なのだ。大昔にそんな分析家との格闘など山程に経験しておるからの。真の強者とはそんな計算など関係ない世界に棲んでおるのだ。だが、お主はまだその領域に来てはおらぬ。圧倒的な経験不足なのだよ、お主は……」

 徐々に私の心を無力感が募り始める。

 そうか、これが……、絶望。

 私は絶望感がじわじわと心の中を占めてくる中、最後の気力を振り絞るのだった。
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