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第9章 勇者RENの冒険

第185話 ミリィの計算

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 私はジークに向かって走った。だが、ジークはそんな私の頭上に突如として現れた。

 そして、手に持った聖剣を振り下ろす。

 ギィィィィィンッ!

 クッ! いつの間に移動したっていうの?

 ジークの移動は疾く、剣を打ち合っていたかと思えば、もう真後ろにその姿があった。

 疾いッ! しかもパワーも……、

 咄嗟に身を地面に転がし、ジークの一撃を避けた。

 すぐに立ち上がる。すると、目の前にはもうジークがいるのだ。

 横薙ぎの一閃が飛んでくる。

 なんとか、小刀で防ぎ、そのパワーに耐えるべく力を込めて踏ん張った。

 全身の力を込めねば、すぐに吹き飛ばされてしまいそうだ。

 恐るべき疾さ、恐るべきパワー、その上、魔法も通用しない。こんな化け物を倒さなきゃいけないなんてッ!

 ミリィは改めて自分がとんでもない相手を戦っていることを実感させられた。

「なかなか、どうして、防ぐではないか? 小娘よ」

 ジークの声からは余裕の色が混じる。

 こちらからも攻めないと……、押し切られるッ! 技を出し惜しみしてる場合じゃないッ!

 手を高速振動させ、ジークに斬りかかっていった。

 ギャギャギャギャギャギャギャギャッッッ!!!!!

 だが、あの聖剣に纏わりついた黒いオーラが私の小刀との間に挟まり、刃が触れること無く鍔迫り合う。

 ……ッ! 当たらないッ! 私の剣がッ!

 ジークは必死に耐える私の身体を蹴り飛ばした。

「くああああっ!!!」

 優に十メル以上も飛ばされ、転がり、やっとバランスを取って手足がついたまま、ジークの方を見ると、すでにその姿はない。

「遅い。その程度なワケもあるまい? 早く本気をださねばそのまま死ぬぞ?」

 背後から声が聞こえ、すぐに振り向こうとすると、今度は拳がお腹に飛んできた。

 ジークは私の転がる先にすでに動いていたのだ。

「きゃああああああッッッ!!!」

 さらに吹き飛ばされ、地に転がらされる。

「ジ、ジークが圧倒的ッ! 圧倒的な強さでミリィを攻撃していますッッッ!!! ミリィは防戦一方、蹴りや拳を避けられず吹き飛ばされているーーーッ!」

「まさか、ジークの攻撃がここまでのレベルとは……、ミリィも強い戦士なのですが、これは苦しいですね」

 ジークは剣を下方に構えた。そして、その姿を一瞬にして消すように突っ込んでくる。

「ここだッ!」

 私の計算が教えてくれるジークの動き。算出された結果から導かれるジークの剣はここから攻めてくるッ!

 誰もいない宙へ向かって剣を振るう。そして……

 ギイイイィィィン!!!

 やっと、やっと計算が合った。

 ジークの顔色は分からないが、きっと驚いたに違いない。

「ほぅ?」

 ジークは距離をとるように大きくジャンプして後退した。

 私の頭部は祖国にあるマザーコンピューターと魔法で繋がっている。そして、相手の行動を高確率で計算、予測、最適解の動きを教えてくれるのだ。だが、ジークは私の想定していたよりもずっと動きが疾かった。そしてパワーも。これで魔法使い職であるリッチだというのだから恐ろしい。

「よくもやってくれたわね? 今度はこちらから行くわ」

 私は武器を剣から銃へと変えた。それは黒く輝く長い砲身をそなえ、少し前方に三脚座を装備した、対戦車ライフル。その口径18ミリ。ジークがどれほど防御力が優れていたとしても直撃さえすれば計り知れないダメージを与えることだろう。そして、すぐにジークへ向かって一発を発泡する。

 ズドオオオォォォンッ!

 手に伝わる衝撃も相当なものだが、その射出音もまるで爆発だ。

 メタルドールの身体でなければ、鼓膜が破れていたに違いない。

 ジークはその弾に反応し、剣で斬るように打ち合った。

 わかっていた。この攻撃だけでジークを倒せるなんて都合のいい確率は出ていない。

 瞬時に移動し、銃を剣に持ち替える。

 そして、ジークが剣を振り切ったその背後、忍び寄るように斬り掛かった。

「もらった!」

 私の剣を防ぐものなどない。…………はずだった。

 突如として現れた黒い霧。そしてその中から伸びる手には大型の盾が握られ、私の斬撃を受け止めたのだった。

「こ、これはッ!」

「此奴はワシの召喚獣でも最強の剣士でな。いつでも手出し出来るようワシの背後を任せておる。小賢しいことはやめ、正面から戦うがいい」

 完全に舐められてる……、これほどの召喚獣を抜け目なく自分の後方に配置し、正面から攻めて来いだなんて……。

 恐らく、バカにすることで理性を失わせようとしているのでしょうね。しかし、私は理性を抑えることが出来る人工知能。そのような子供騙しはどうでもいい。だが……、

 ミリィはその眼でジークの周囲をじっくりと観察する。ジークの側面及び、背面には魔力の塊が常に浮遊していた。

 恐らくあれが奴の召喚獣ね。なんてやっかいな……。



「ジークの後方からミリイが攻撃しましたが、盾のようなものに防がれましたね?」

「恐らく、ジークの召喚獣でしょう! 一回戦でもデュラハンが戦っていましたからね。あのデュラハンがジークの後方を守っているものと思われます。大きな盾を装備していましたし、あの盾を打ち破るのは容易ではないですよ!」

「なるほど、ということは、いよいよミリィは正面突破しかない……ということでしょうか?」

「厳しい状況ですよね。ただ、試合開始直後よりはジークの動きにもついていけるようになってますから、まだ終わらないと思いますよ!」

「しかし、ミリィ。ここにきて動きが止まってしまったか? またお互い睨み合いが続きます!」

 ジークから手出しをしてこないのはミリィにとって僥倖だった。ミリィはこの間にも敵の戦力予測を本国のマザーコンピューターによって進めていくのだった。


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