トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣

文字の大きさ
15 / 81
特別はいらない

しおりを挟む
 顔を上げた翠は一瞬瞳を曇らせたものの、それを悟られないうちにすぐに表情を切り替える。


 「もうご飯食べた?」
 「…………」


 翠からしたら何の含みもない問いかけだったのだろう。だけど、僕はどう答えるのが正解か悩んで口を噤んでしまう。

 もしかすると、翠がお腹を空かせて帰ってくるかも。そんな思いを消せなくて、冷蔵庫にしまいこんでいる生姜焼き。

 想像もつかないほど、高級なものばかり食べている翠に自分の下手くそな手料理を食べさせるなんてどうかしてる。冷静になった頭がそう詰る。

 なんとかこの場を誤魔化して、さっさとシャワーを浴びてもらおう。その間に冷蔵庫のゴミは捨ててしまえばいい。


 「……食べましたよ」
 「何食べたの?」
 「えと、コンビニの……おにぎり」


 しどろもどろになりながら適当に答えれば、翠の眉間に皺が寄る。怪しまれていることは分かっているけれど、白状する気はさらさらない。


 「もっとちゃんとしたもの食べなきゃ体壊すよ」


 嗜めるようにきゅと僕の鼻を摘んだ翠が立ち上がる。真っ直ぐに向かう先は冷蔵庫。まずいと後を追えば、訝しげに翠が振り返る。


 「陽?」
 「……はい」
 「何か隠してるね」
 「…………」


 すと細められた瞳が僕を射抜く。真剣な瞳と対峙すれば、嫌でもこの人がアルファだということを思い知る。ぶるりと震える体は気のせいじゃない。

 瞳に怯えの色が滲んでいるとすぐに分かったのだろう。翠は苛立ったように頭をかいて、大きく息を吐いた。

 ……帰りたい。
 やっぱり、平凡なベータはアルファ様とは相容れない。

 ぐじぐじと、心が傷んでじんわりと溶けていく。

 どれだけ歩み寄ろうとしたって、僕らの線はきっといつまでも重ならない。この世界の常識がそう告げている。


 「違うんだ、陽」
 「…………」
 「怖がらせたいわけじゃない、悪かった」


 まっすぐに見つめる瞳からは先程の苛立ちがすっかり消えている。出会ったときから変わらない真摯な態度に僕だけが心を揺さぶられてばかり。

 翠が他のアルファみたいにもっと横柄で、失礼なひとだったらよかったのに。そしたら、僕だって何の後腐れもなくこの関係を捨てられたのに。

 彼は世界中から愛されるアイドル。
 僕だけが特別じゃない。
 常に言い聞かせておかないと、浮かれて勘違いしてしまいそうになる。
 
 翠という人間の本質が出来すぎているから。誰に対しても礼儀正しく、優しくて暖かい。昔からきっと、そういう人なのだ。


 「陽、」
 「はい」
 「どうしたらいいんだろう」
 「……、…………」


 その目を見たら抽象的な問いかけに答えることができなくて、声にならない空気が漏れただけだった。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話

さるやま
BL
◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り

攻め→→→→←←受け

眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。

高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。

有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

処理中です...