26 / 81
夢現
5
しおりを挟む「……んあっ、」
するりと服の裾から忍び込んできた、少し冷たい翠の手。びくつく腰を宥めるように撫でられれば、またひとつ理性の糸を切られそうになる。この快感を逃がそうと身を捩れば、大きな窓の外にまん丸なお月様が見えた。
――見られてる。
そんな意識が一気に襲ってきて、思わず翠の手を止めた。
「……ここまできて、お預けはなしだよ」
「ちがう」
「何が不安?」
幼子のように首を横に振ると、翠はぴたりとその手を止める。こんな時でも強引に事を進めようとはせず、僕を尊重してくれる優しさにじんと胸が痛む。
「……見られてる、みたいで」
「誰もいないよ」
「…………お月様が見てる」
これから僕たちがやろうとしていることがバレたら、世界中の人が「翠を汚した」と僕を責め立てる。もしも神様が知ったら、「最高傑作を台無しにされた」と怒り狂うだろう。僕だけなら地獄に落ちたって構わない。翠を道連れにしてしまうのが心残りだった。
優しい月明かりに照らされたこの部屋は、秘め事に励むには相応しくない。何の光も届かない、真っ暗な闇の中でなら紛れられる気がするから。それはただの言い訳で、僕の気持ちの問題に過ぎないのだけれど。
馬鹿にされるんじゃないかって、言ってから後悔した。だけど、じいと月を見ていた翠は、柔らかい微笑みを浮かべてこちらに向き直ると「そうだね」と頷いた。
「陽の姿を見れるのは俺だけでいい」
「っ、降ろして」
「だめ」
軽々と抱え上げられてじたばたと手足を動かすけれど、体幹を鍛え上げている翠はビクともしない。この細身のどこにそんな力が。そう思ってしまうほど楽々と寝室まで運んだ翠は、壊れ物を扱うように大切に僕をベッドに降ろした。
真っ白なシーツに広がる黒髪。 翠によって高められた身体は期待に震えてる。だけど、そんなはしたない自分を翠に気づかれたくなくて、足を擦り合わせる。爪先を丸める僕を見下ろして、すーっと深く息を吐いた翠が口を開いた。
「……陽」
「…………はい」
「もう、止められないよ」
「…………」
「今から君を抱く。……逃げるなら、今しかない」
面と向かってはっきりと言葉にされると、羞恥心と期待でぐちゃぐちゃになってしまいそう。翠の瞳はぎらぎらと燃えている。その欲を全て僕にぶつけるつもりだと思ったら、もうどうにかなっちゃいそうだ。
「……いいよ」
「…………」
「翠の、好きにして……」
「ッ、これ以上俺を煽らないで」
どんな罰を与えられてもいい。この一時だけでいいから、どうしても翠が欲しいという心の底からの望みに僕は抗えなかった。
154
あなたにおすすめの小説
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話
さるやま
BL
◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り
攻め→→→→←←受け
眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。
高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。
有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる