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色は匂へど
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しおりを挟む自分じゃない誰かが僕を乗っ取っているみたい。僕の頼みを真正面から受け止めた翠は、再び唇を近づける。しかし、触れる……と思った既のところで、動きを止めた。何で、どうして。そればかりが頭を占める。やっぱり下手くそな出来が気に入らなかった?
「そんなに泣きそうな顔しないで」
「だって……」
「今したら、絶対抑えがきかなくなるから、これ以上は後でね。そのために先に風呂入ってるんだから」
むと唇を尖らせてみたって、翠の意思は固くて無視される。シャンプーを手に取って泡立て始めた翠が僕の髪を洗い始めた。仕方ない、おあずけだ。諦めた僕もシャンプーを手に取り、ぎこちなく翠の髪を泡立てた。
「ふふ、洗ってくれるの」
「……今日だけね」
「えー、ケチだなぁ」
だって、次が訪れるときには、翠の運命がその役目を担っているのだから。お役御免だって分かっているからこそ、表情には出さない。そんなことを知らず、くすくすと楽しそうに笑っている翠に胸が苦しくなった。
高級なトリートメントをして、全身泡だらけになって、そして全てを流し終えた。浴槽に浸かると、すぐに翠に後ろから抱きかかえられる。
「はぁ、明後日にはまた地方か……」
「次はどこ?」
「北の方かな」
「美味しいものいっぱいだね」
「……陽も行く?」
「行かない」
即座に答えた僕を責めるように、翠が項を齧る。屈してしまいそうになるけれど、意見を変えようとは思わなかった。僕が行っても、邪魔になるだけ。あのマネージャーが不機嫌になる未来が見えている。
「不安だなぁ……」
「ん?」
「ちゃんと繋ぎ止めておかないと、ふらっといなくなりそうだから」
「……そんなわけ、」
「ほんとに? 俺の目を見て言える?」
「……うん、」
翠の手を握り締めて振り向けば、不安で揺らぐ瞳と目が合う。安心させるように微笑んでみせれば、翠は深く息を吐いて、首元に顔を埋めた。
「お仕事をちゃんと頑張れる翠でいてほしいな」
「……陽にそう言われたらやるしかないじゃん」
「偉そうなこと言うなって怒らないんだね」
「知ってるでしょ、俺が陽に甘いの」
「……たまに意地悪だもん」
「それは陽がかわいいのが悪い」
顔が火照るのは逆上せたせいか、翠のせいか。赤くなった頬を見た翠が僕の腕を引っ張りながら立ち上がる。そのままお風呂場から出ると、翠が僕の全身を拭いていく。何から何まで翠の世話だ。
バスタオルを肩からかけられて、やっとベッドに戻れると思ったらそのまま洗面台の空いたスペースに座らされる。
「んっ、」
状況を飲み込めないまま、次から次へとキスが降ってくる。唇から始まり、耳、首、肩、胸……。口付けられていないところなんてないほど。絶え間ないリップ音が静かな部屋に反響している。
ただ、僕はされるがまま。時折喘ぎにも似た声が漏れるだけ。ぽたぽたと翠の髪から垂れる雫が僕の腹を伝っていく。それがひどく扇情的で、腹の奥が熱くなった。
そして、僕の雄芯を掴んだ翠はそのまま口の中に含んだ。熱い。舌で先端を苛められると、気持ちよすぎて泣きそうになる。せっかくシャワーを浴びたのに、汗ばむ身体は快感に震えていた。
あの国民的トップアイドルにフェラさせている。その背徳感がスパイスとなって、すぐに限界を感じる。太ももを掴んでいる翠の右手を取って、指を絡める。ぎゅうと握り締めてくれるのが嬉しくて心まで満たされるのと同時に、僕は呆気なくイッてしまった。肩で息する僕を見た翠が言い放つ。
「ごめん、せっかく巣を作ってくれたのにベッドまで我慢できなかった」
「……連れてって」
こんな窮屈なところで繋がって、怪我でもさせたら大変だ。両手を広げて強請れば、何も言わずに翠に抱えられる。ベッドに雪崩込めば、待っているのは昨日と同じ熱い夜。待ちきれないと言わんばかりに性急に繋がって、与えられる快楽に頭の中が溶けていく。
何度イカされたのか、数え切れないほど。気づけば意識をなくしていて、どれだけ激しかったのかはどろりとぬかるんだ窄まりが物語っていた。
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