今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣

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委員長と問題児

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 さて、お待ちかねの時間だ。
 二年A組から順番に自分の名前を探していく。

 枢木一織くるるぎいおりはどこだ。
 A組……ない。次はB組……ない。
 そして、C組…………、あった!

 自分の名前の少し後ろに螺良の名前も見つけて、ほっと息を吐く。彼がいれば、クラスの雰囲気が悪くなることはないだろう。


 「やったね、委員長! 同じだ! 今年もよろしく」
 「こちらこそ」


 ほとんど同じタイミングで名前を見つけた螺良がイェーイと差し出した手にグータッチを返せば、自分まで陽キャになったように錯覚してしまう。螺良って、すごい。周りを自分の色に染める天才だ。

 そんなことを考えていると、後からやってきてクラス分けを確認していた女子グループが突然「キャー!」と叫んだ。さながら、芸能人に遭遇したかのよう。興奮しているせいで、会話の内容も丸聞こえだ。


 「待って、よりと一緒なんだけど!」
 「え、すご! 去年ずっと好きって言ってたもんね、おめでとう」
 「……隣のクラスだったら、体育は一緒だよね」
 「隣でもいいなぁ。私なんか、また窓から眺める組だよ」


 悲鳴の理由は、知らない名前だった。何をそんなに大騒ぎするほどのことが……、と思いつつ、自分には関係ないかと興味をなくしかけたときだった。螺良が渦中の名前を口にした。


 「あ、頼も一緒のクラスなんだ」
 「より?」


 顔が浮かんでこない名前に首を傾げていれば、今度は先程よりも大きな黄色い悲鳴が上がった。何だなんだと振り返れば、注目を一身に集めているにも関わらず、そんな周りのことなんて興味なさげに歩いてくるスラッと高身長の美男子。

 ――ぱちん。
 目と目が合って、「あ、」と思った瞬間、色のなかった彼の瞳が一瞬揺らいだように見えた。

 ん? と疑問に思っている間に、すぐにふいと視線を逸らされる。記憶の中を探ると、なんとなく見覚えがあるような気がするけれど、多分、話したことはないだろう。

 歓声の中心にいる相手にわざわざ絡もうという気も起こらない。クラスは分かったことだし、さっさと教室に行こうと思ったときだった。


 「遅刻もしないで、朝から来るなんて珍しいじゃん」


 螺良が一歩前に出て、親しげに話しかけた。
 顔の広い螺良のことだ、もしかしたら仲のいい友だちなのかもしれない。

 ……でもまぁ、俺には関係ないか。
 淡白な結論に至った俺は、美男子の方に歩いていく後ろ姿に声をかけた。


 「先に教室行ってる」
 「え!?」


 そもそも、一緒に登校しようなんて約束したわけじゃないし、なんか流れでここまで来ちゃっただけだから。誰かと一緒じゃないと嫌だなんて、そんなのは小学生で卒業したし、ただ教室に行くだけだ。一人で平気。

 そう思っていた俺は、すぐに足を止めて振り向いた螺良の表情に目をぱちくりさせた。

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