今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣

文字の大きさ
2 / 41
委員長と問題児

しおりを挟む

 四月最初の登校日、それ即ちクラス発表の日。

 一年通って、すっかり乗り慣れた電車の中で英単語帳を開く。たまたま空いた席に座ることができて、今日は朝からラッキーだ。

 高校二年生に進級した俺は、今日の重大イベントであるクラス発表に少しだけドキドキしていた。そのせいか、気が散ってしまってあんまり単語が頭に入ってこない。さっきから、同じところばかり繰り返し目で追っている。

 誰と一緒がいい、とか。
 あの人と同じクラスになりたくない、とか。
 そういうのは一切ないけれど、ただ普通に、平和に過ごせるクラスならいいなぁと思う。

 英単語そっちのけでそんなことを考えていると、車内アナウンスで、次が学校の最寄り駅だということを知らされる。結局、二十分間で一ページも進まなかった英単語帳をそそくさとリュックにしまった。

 同じ制服を着た生徒が数人、グループになって前を歩くのを追いかけながら、俺は一人でのろのろと学校へと続く一本道を歩いていた。

 学校が近づいてくると、自転車登校組やバス利用組、徒歩圏内から通う人が合流して、どんどん同じ制服を着た生徒の数が増えていく。


 「あ、委員長だ、おはよう!」
 「おはよ」


 学校の目の前にある交差点で信号待ちをしていれば、一年生の頃に同じクラスだった螺良つぶらが声をかけてきた。サッカー部のエースとして有名だけど、今日は部活の朝練がなかったらしい。

 周りを取り囲んでいるメンバーも、きっとサッカー部の仲間なのだろう。圧倒的陽キャ集団のオーラが朝日のように眩しくて、目に染みる。



 「委員長と登校時間被るの珍しいね」
 「確かに」
 「あー、クラス発表ドキドキするなぁ」


 そのままサッカー部の連中と一緒に行くのかと思いきや、一緒に並んで歩き出した螺良は平然と会話を始める。一瞬、自分の感覚の方がおかしいのかと錯覚してしまうほど自然な行動。

 そういえば、螺良の本質はそうだった。去年からこいつはそういう奴だった。一人でいる人を放っておけない、まさに太陽のような存在。


 「今年も委員長と同じクラスだったらいいなぁ」
 「……もう今は委員長じゃないけどね」
 「えー、そうなんだけどさぁ、俺の中で委員長は委員長なんだよなぁ。あ、でも、このあだ名、嫌だったりする? 名前で呼んだ方がいい?」
 「別に螺良が呼びやすい方でいいよ」
 「じゃあ、やっぱり委員長だ!」


 自分の呼び方に特にこだわりなんてない。屈託のない、にかっとした笑顔を向けられると何でもよくなってしまう。

 一年生の時にクラス委員長を務めていたせいで、クラスメイト全員から「委員長」と呼ばれるようになってしまったのだけれど、進級して委員長の任を解かれてもこの呼び方は変わらないらしい。それほど馴染むあだ名をもらってよかったと喜ぶべきか、否か。

 うーんと考えていると、いつの間にか下駄箱前まで来てしまっていた。新しいクラス分けが書かれた大きな紙が張り出されていて、人集りができている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

処理中です...