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文化祭準備の放課後、校内には明るい声と、作業音が響いていた。
演者なんてもってのほか、というかまず配役に選ばれるわけがない結月は、舞台の美術係を担当している。
「ふう……こんなもんかな……」
陽太が演じる舞台を彩ると思ったら、ペンキを塗る手にも力がこもる。結月は額に滲んだ汗を拭った。
(……我ながら上手くできたかも)
陽太の役に立てたようで一人によによしていると、頬に急に冷たいものが触れた。
「わっ……」
「白石おつかれ~キリがいいからちょっと休憩しよう」
振り返ると、同じ美術係の山田が、手にペットボトルを持って立っていた。隣には中村もいる。
「ありがとう」
それを受け取り結月は、山田に礼を言った。
「めちゃめちゃ上手く書けてるじゃん! 絵の才能あんじゃね」
「そ、そうかな……」
中村にそう言われ、内心自分でもいい出来だと思っていたので、嬉しくてにやけてしまう。頑張ってよかったと、自然と笑みが浮かんだ。笑った結月に、二人も笑顔になる。
「陽太たち今日衣装合わせだって、せっかくだし見に行こうぜ」
「うん!」
実は当日の楽しみにと、まだ一度も陽太の練習を見ていないのだ。だけど、今日は衣装合わせだと陽太に聞いて、絶対見に行こうと決めていた。
足取りも軽やかに、結月は陽太のいる教室へ向かった。
「わー! さすが朝日‼ めちゃくちゃ似合うよ~」
扉の向こうから盛り上がる声が聞こえて、結月は肩を跳ねさせた。そんな結月に気づかず、山田が教室の扉を開ける。
中には陽太を囲んで、女子たちがきゃあきゃあと騒ぎ立てていた。テンションの高い周りに、困ったように陽太は苦笑している。
「あ……白石」
だけど、結月に気づいて、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「っ……」
向けられる笑みにドキドキしながら、結月は陽太の姿を見た。
襟元にフリルをあしらった青緑の衣装に、白のスラックスを膝丈のブーツにインしたその姿は、さながら本物の貴族のようで。陽太のスタイルの良さも相まって、想像以上にかっこよかった。
「どうかな……」
恥ずかしそうに尋ねられ、見惚れていた結月はハッとする。
「すごく……」
「陽太かっけー! 爆イケじゃん!」
かっこいいと伝えようとした結月より先に、大きな声で叫び、山田と中村が陽太の肩を抱く。
「こんなん見たら、みんな目がハートになるって!」
「だよな、キスシーンとか卒倒者出るレベルじゃない」
ハハハッと二人は笑う。
「バカ……何言ってんだよ」
囃し立てる二人に、陽太は呆れたように返す。
その会話を聞いて、結月にはある言葉が引っかかった。
「キス……シーンがあるの?」
呟いた声は、思った以上に不安に揺れていた。それに、三人が一気に結月の方を見る。
「もしかして……白石知らなかったのか? 今回の……」
「そう! 今回のロミジュリは毒の入ったりんごをジュリエットが食べてしまうんだけど、ロミオのキスで助かるっていう、悲劇じゃなくてハッピーエンドなの」
ハピエン最高! と、中村の言葉を遮って、脚本担当の小宮が語り出す。それ、どこかで聞いた話だな、と誰かの突っ込みが入って、場は笑いに包まれるが、結月にはみんなの声がどこか遠くに聞こえた。
「白石?」
優しく呼ぶ声に顔を上げると、陽太がこちらを心配そうに見つめていた。
(知らなかった……僕……)
胸の中がざわざわと騒ぎ出す。何か言わないとと思うのに、声がうまく出てこない。湧き上がる気持ちを押さえようとするが、不安が大きく渦巻いて結月はキュッと唇を噛んだ。
様子がおかしい結月に気づいて、みんなの視線が集まった。
「大丈夫? 白石くん?」
気遣うように小宮が声をかける。結月はいたたまれなくなって、少し後ずさった。
「あの、僕……えっと……用があるから行くね!」
そのまま背を向けると結月は走り出した。
「白石!」
すぐに陽太がそのあとを追いかける。
残されたみんなは、その姿を呆然と見送っていた。
演者なんてもってのほか、というかまず配役に選ばれるわけがない結月は、舞台の美術係を担当している。
「ふう……こんなもんかな……」
陽太が演じる舞台を彩ると思ったら、ペンキを塗る手にも力がこもる。結月は額に滲んだ汗を拭った。
(……我ながら上手くできたかも)
陽太の役に立てたようで一人によによしていると、頬に急に冷たいものが触れた。
「わっ……」
「白石おつかれ~キリがいいからちょっと休憩しよう」
振り返ると、同じ美術係の山田が、手にペットボトルを持って立っていた。隣には中村もいる。
「ありがとう」
それを受け取り結月は、山田に礼を言った。
「めちゃめちゃ上手く書けてるじゃん! 絵の才能あんじゃね」
「そ、そうかな……」
中村にそう言われ、内心自分でもいい出来だと思っていたので、嬉しくてにやけてしまう。頑張ってよかったと、自然と笑みが浮かんだ。笑った結月に、二人も笑顔になる。
「陽太たち今日衣装合わせだって、せっかくだし見に行こうぜ」
「うん!」
実は当日の楽しみにと、まだ一度も陽太の練習を見ていないのだ。だけど、今日は衣装合わせだと陽太に聞いて、絶対見に行こうと決めていた。
足取りも軽やかに、結月は陽太のいる教室へ向かった。
「わー! さすが朝日‼ めちゃくちゃ似合うよ~」
扉の向こうから盛り上がる声が聞こえて、結月は肩を跳ねさせた。そんな結月に気づかず、山田が教室の扉を開ける。
中には陽太を囲んで、女子たちがきゃあきゃあと騒ぎ立てていた。テンションの高い周りに、困ったように陽太は苦笑している。
「あ……白石」
だけど、結月に気づいて、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「っ……」
向けられる笑みにドキドキしながら、結月は陽太の姿を見た。
襟元にフリルをあしらった青緑の衣装に、白のスラックスを膝丈のブーツにインしたその姿は、さながら本物の貴族のようで。陽太のスタイルの良さも相まって、想像以上にかっこよかった。
「どうかな……」
恥ずかしそうに尋ねられ、見惚れていた結月はハッとする。
「すごく……」
「陽太かっけー! 爆イケじゃん!」
かっこいいと伝えようとした結月より先に、大きな声で叫び、山田と中村が陽太の肩を抱く。
「こんなん見たら、みんな目がハートになるって!」
「だよな、キスシーンとか卒倒者出るレベルじゃない」
ハハハッと二人は笑う。
「バカ……何言ってんだよ」
囃し立てる二人に、陽太は呆れたように返す。
その会話を聞いて、結月にはある言葉が引っかかった。
「キス……シーンがあるの?」
呟いた声は、思った以上に不安に揺れていた。それに、三人が一気に結月の方を見る。
「もしかして……白石知らなかったのか? 今回の……」
「そう! 今回のロミジュリは毒の入ったりんごをジュリエットが食べてしまうんだけど、ロミオのキスで助かるっていう、悲劇じゃなくてハッピーエンドなの」
ハピエン最高! と、中村の言葉を遮って、脚本担当の小宮が語り出す。それ、どこかで聞いた話だな、と誰かの突っ込みが入って、場は笑いに包まれるが、結月にはみんなの声がどこか遠くに聞こえた。
「白石?」
優しく呼ぶ声に顔を上げると、陽太がこちらを心配そうに見つめていた。
(知らなかった……僕……)
胸の中がざわざわと騒ぎ出す。何か言わないとと思うのに、声がうまく出てこない。湧き上がる気持ちを押さえようとするが、不安が大きく渦巻いて結月はキュッと唇を噛んだ。
様子がおかしい結月に気づいて、みんなの視線が集まった。
「大丈夫? 白石くん?」
気遣うように小宮が声をかける。結月はいたたまれなくなって、少し後ずさった。
「あの、僕……えっと……用があるから行くね!」
そのまま背を向けると結月は走り出した。
「白石!」
すぐに陽太がそのあとを追いかける。
残されたみんなは、その姿を呆然と見送っていた。
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