駆け出しご当地アイドルがヤクザに一目惚れされた話

一ノ瀬ジェニファー

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ご当地アイドル、危ない男に一目惚れされる

田舎のご当地アイドル、桜あかり

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 私は都会を夢見る、自称ご当地アイドルの一六歳の桜あかり。
 もちろん将来の夢はドラマにバラエティー番組に通販番組までマルチに活躍できるスーパーアイドルである!
 夢はおっきく武道館! とはいかなくても、地元の大きいショッピングモールで歌えちゃったりしたら最高! と夢見る駆け出しの地底アイドルである!
 
 私のお家は限界集落のドがつく田舎にある。
 山と田んぼに囲まれたこの見わたすかぎりの緑が広がるこのド田舎で地元の中学校を卒業後、「女の子が高校なんか行っても仕方がない」という田舎特有の陰鬱とした価値観で私はその時はなんの疑問もなく進学はせず、お家の農業を手伝いながらボーっと日々を過ごしていた。
 でもそんなある日、テレビでキラキラ歌って踊るアイドルを観て、そのキラキラがとっても羨ましくなった。
 私もこんな風に可愛い衣装を着て、みんなを笑顔にさせたい! キラキラになりたい! それに人生一度きりなんだからならぬ後悔よりやって大成功! と、そんな単純な思いつきで私はアイドルになる事を決めたのだ。
 それから早数か月後、現在私はこのド田舎でご当地アイドルをやらせてもらっている。
 アイドルと言ってもひとりぼっちのソロ活動だし、たまに公民館や近くの道の駅でのイベントに呼ばれてお手伝いついでに歌わせてもらったりしたり(持ち歌は無いので歌うのは地元の会社の社歌や道の駅のダサいテーマソングのカバーや十数年前に作られたなんとの言えないご当地ゆるキャラのキャラクターソング)、地元を盛り上げたい役場や農協のおじいさん達にあれよあれよと乗せられ、ただの売り子のようなこともしている。
 衣装なんかは中学の時のセーラー服におばあちゃんがレースやリボンを縫い付けてくれた手作り感あふれる感じで、活動も相まってかなり地味なアイドルになってしまっている。
 まぁなんでもできるマルチなアイドルは下積み時代があってもいいよね!
 だっていきなり東京に行ってもアイドルになるためにはオーディション? ってやつに参加しないといけないらしく、そんなの絶対受かる気しないし。
 でもきっといつか世界に羽ばたくんだから! と自分を無理やり鼓舞し日々アイドルを頑張っている。
 そしてそんな私に、この度大チャンスが巡ってきた!
 なんといつもお手伝いに行っている道の駅がテレビに出ることになったのだ!
 それも全国ネット!
 放映時刻は夕方のニュース番組内で「地元を支える道の駅特集」という括りでほんの数分だけだけど、我が地元の道の駅も映るらしい。
 これは自分をアピールするチャンス! 張り切って準備しないと! 道の駅の人にもお願いして、私の事も少しだけ宣伝してもらおう! それでいっぱいテレビに映してもらえるように頑張らなきゃ!
 そうして私は衣装のセーラー服の取れかかっていたリボンを気合を入れて縫い直すのであった!
 


 
 【後日、放送終了後】
 
 ついに放送された映像はとにかく素晴らしかった!
 いつもは大量にたたき売りされているナスやきゅうりの売り子をしている私だが、取材日は奮発した道の駅店長に、なんとお高いシャインマスカットを持たせてもらったので、それはいい笑顔でテレビに映れたのだ!
 最後のセリフは少し嚙んじゃったけど、編集の力もあり、たったの数分の映像に道の駅の魅力がぎゅっと詰まっていたし、映像後には東京の綺麗なアナウンサーさんに、
「シャインマスカットのように弾ける笑顔でしたね」
 なんて誉められてて、何回も録画を見ちゃった!
 
 ついにテレビデビューを果たした私はそうれはもう朝からにこにこだ。
 
 今日も道の駅でのお手伝いがあるのでいつものように自作の衣装を持って、愛車のピンクのママチャリで田んぼ道を走り、畑仕事をしているおばちゃんやおじいちゃんに挨拶しながら、るんるんで道の駅に向かうのであった。
 
 ◇ ◇
 
 昨日テレビで放映されたからか、今日は朝から沢山の人が道の駅に訪れている。
 私はいつものなんちゃってアイドル衣装に着替え、その上からエプロンをし、今日も元気に売り子をする。
 テレビの影響でシャインマスカットはよく売れるので、それ以外のものを試食販売してほしいと頼まれた私は、マンゴーを売ることにした。
 
 なんでもできるマルチなアイドルは果物だって上手に切れる!
 
 私は試食用のお皿にマンゴーを並べると、それも片手に、
「マンゴーはいかがですかー! おいしい甘~いマンゴーですよ~! おひとついかがですか~!」
 と声を張り上げるのであった。

ーーーーーーーーーーー


 今日も元気にご当地アイドル活動! と思って一生懸命試食を配っていたけど……先ほどからとある男性にずっと見られている。
 その男性はこの場には不釣合いなスーツを着ていて、黒いスーツだし法事帰りかな? と思ったけど、ワイシャツも黒だし法事っぽくないネクタイをしている。シンプルに怖い。
 スーツといえば……お笑い芸人の方かな? それとも営業販売の人かな?
 今日は土曜日だし、会社員って感じもしないし、そもそもこのド田舎ではジャケットまで着込んだスーツの人は相当目立つしめずらしい。
 そういえばこの道の駅にもたまに凄くよく切れる包丁や焦げないフライパンなどを売る凄い販売員の方がいらっしゃるけど、お店の入り口付近から微動だにしないこの人はなんなんだろう? 
 一見、ボーっとしているように見えるその人が、怖くもあり心配でもあるので、なんとかして目を合わそうと私が近づくように一歩前に足を出すと、その男の人とバチっとしっかり視線が交わる。
 大人の男の人だし、とりあえずペコリと会釈をすると、その人は今度は口元に手を当てながらプルプルと震え始めた。
 本当にどうしたの⁉ 具合でも悪いのかな?
 どうしよう⁉ お店の人呼んだ方がいいかな⁉ と、私がその場から離れようとした瞬間、その人がハッとしたような顔をして凄い形相でこちらにズンズン歩いてきた。
 
「ご当地アイドルのあかりちゃんですよね? ファンです」
「えっ⁉ ファン⁉ 私にっ⁉」
「はい、昨日テレビで見て可愛かったら一目で好きになったので、ここまで会いに来ちゃいました。本物を見たら映像よりもっと可愛くてなかなか声をかけるのが恥ずかしくて……すみません、不躾にジッと見たりして……」
「ふぇ⁉ そうなんですか⁉ あの、ちなみにどちらからいらしたんですか……?」
「東京です」
「と、東京⁉」
 なんてこった! こちらの不審者はまさかの私のファンだった!
 しかもその人は間近で見るととってもイケメンさんでびっくりする。これが東京の大人の男の人……‼
 凄い! 私なんかよりよっぽど芸能人みたい! 顔し小さいし足も長っ! 背高い!
 ん? もしかして、こんなカッコいい人なら本当の芸能人なのかな? 東京から来たって言ってたし?
 
「あの……もしかして俳優さんかモデルさんですか?」
「いえただの一般人ですよ? 何でそんな事聞くの?」
「すごくカッコいい人なので……す、すみません……」
 
 こんな綺麗な人でも芸能人になれないの⁉
 東京……恐ろしい所だ…!
 
「それより、ここって撮可ですか?」
「サツ、カ?」
「君をカメラで撮影してもいいですか? 本当に可愛いからぜひ写真撮りたいな」
「かわいい……? 写真……? え、えっと店内での写真は店長に許可もらわないとなので……他のお客さん映っちゃうかもですし……」
「まぁそりゃ無料で撮れる訳ないよね? ちなみに、タオルとかTシャツとかグッズ売り場はどこですか? それとも販売は終演後?」
「しゅうえん? はぇ? グッズですか? 道の駅のステッカーとキーホルダーなら向こうの棚に……」
「違くて『ご当地アイドルあかりちゃん』のグッズはどこ?」
 
 グッズ⁇
 盲点だった!
 そんなの作るなんて発想全くなかった!
 そっか! アイドルってグッズとかあるもんね!
 
「えっと、すみません、私のグッズは何もなくて……」
「え? そうなの? じゃあチェキ券は?」
「あぅ、あのその、そういうのも特に無くて……写真なら普通に撮りますで!」
「え? 無料で? なんで?」
「……なんででしょうね……?」
 
 今まで写真でお金を取るなんて考えたことも無かったよ!
「今日はライブはあるんですか? ぜひ歌ってるところも見たいな」
「え、えっと……そういうのはやってなくて……きょうは道の駅のただのお手伝いなので……」
 
 私が突然の事に目をぐるぐるとしていると、その謎の人はにこやかに微笑みながら、
 
「じゃあ今日はとりあえず君の事、ここで見ていていい? 邪魔はしないから。あ、怖い? これ僕の名刺。幸村 静ゆきむらしずか。よろしくね?」
 
 といって、その男の人は入り口の先ほどまで居た定位置に戻り、また私をジッと見つめる作業に戻ってしまった。ちょっと怖い。
 というか私にファン? これがテレビの効果?
 今までみんなに「趣味がアイドルの人(アイドルを自称する変な人)」という感じで、見られてきたからこんな事予想してなかった……。
 
 ポカンとしつつ渡された名刺を見ると、そこには「幸村 静」という名前と電話番号だけの、何をしている人なのかさっぱりの名刺だった。黒くて厚い良い紙そう……なんかいい匂いもするし……。
 私もこういうカードみたいなの作ったほうがいいのかな? 名刺って自分で作れるのかなぁ? 今まで地元での活動しかしてこなかったから、何か依頼があった時は普通に家電にかかってきてたけど(田舎だからみんな電話番知ってるし)、こういうのがあるだけでアイドルっぽいよね? 名刺って会社名を書かなきゃダメだって思ってたけど、こういう名前だけでも大丈夫なんだ! プリンターとか持ってないから手書きでもいいのかな? 消しゴムはんこなら作れるし!
 そう思ってぼんやりしていると、突然大声で呼ばれ我に返る。
 
「あかりちゃーん! 五番レジおねがーい!」
「はぁーい!」
 
 なんでもできるマルチなアイドルはレジ打ちだってできる。
 そう自分に言い聞かせ私はレジ応援に駆けつける。
 もはやこれはただのアルバイトでは?
 今までアイドル活動の一環だと思って働いた対価をお金じゃなくて野菜とか果物でしか貰ってなかったけど、今度からはちゃんとお金貰おう……そうしてそのお金で何かグッズでも作ろう……そう思いながらレジを黙々とこなしていると、なんとあの自称ファンの方がシャインマスカットを二つ持って私のレジの列に並びにやって来た。
 
「……シャインマスカット二つで二五〇〇円です」
「接客もしてくれるんだね。ファンサが凄い……クレジットカードでお願いします」
「すみません……ここカード使えないです……」
「そうなの? じゃあ大きいのしか無いけどごめんね?」
 
 幸村さんとやらが出した一万円札を見て金額をレジに入力し素早くお釣りを出し、幸村さんに手渡す。
 いつもの癖で、お釣りを渡すときにこぼさない様にと、幸村さんの手の下に片手を添え、上からそっとお釣りを幸村さんの手の上に置く。
 
 その際にけっこうガッツリ手を触ってしまったので、幸村さんがビクリと反応し、驚いた猫ちゃんのような顔をしてグワッと目を見開いて私を見てくる。
 
「っ⁉」
「七五〇〇円のお返しです……手、勝手に触っちゃって嫌でした? すみません……」
「いや、逆に……ごちそうさまです……」
 
 ごちそうさまとは⁇
 と、私が首を傾げている中、幸村さんは、
 
「この小銭もう絶対使わない……」
 
 などとぶつぶつ呟き、ぎこちなく退店していった。
 大丈夫かな?
 
 しかし、またすぐに入店してきた幸村さんは、駆け足で売り場に行き、今度はマンゴーを手にまた私のレジに並ぶ。
 また一万円札を出す幸村さんのお会計をし、お釣りを渡し見送ると、一度退店して何処かに荷物を置いたのか、手ぶらでまたすぐに戻ってきて速足で商品を片手にまた列に並んでくる。
 これまたその謎の行動を何度も何度も数十回ほど繰り返す幸村さんに、私はだんだん怖くなってきた。
 
「……幸村さん……あの、」
「もう俺の名前覚えてくれたんだ。あかりちゃんに認知してもらえるなんて嬉しいな」
「幸村さん、レジは一品一品持って来なくていいんですよ? ちゃんとお買い物終わってから並んだほうが……」
「いいのいいの。それにこれ握手会みたいなものだって思ってるので」
 
 どう見ても握手会ではなくただのレジだよね?
 アイドルの握手券の相場は幾らか分からないけど、幸村さんは一回の会計につき二千円~三千円を使っているし、そのたびに必ず一万円札が出てくるので、一体何枚の一万円札を持っているのだろう……。
 それにもう買うものが無いのか今回は法事用の大きい籠に入ったフルーツ盛り合わせを持ってきているし……今まで買った果物でもう幸村さんは自分で盛り合わせ作れるくらいの量買ってるはずなのに……。
 また一万円札を出してくる幸村さんにまたお釣りを手を握るようにして渡しながら、
「ありがとうございました……」
 と私が言うと、
「あかりちゃんのこと応援してます……!」
 
 と、本当の握手会のような発言をしてまた退店していく幸村さん。
 私は幸村さんが外に出たことを確認すると、急いでレジを休止中にし、
 
「お、お先に失礼しましゅっ!」
 
 とその場から逃げ出したのであった。
 
 
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