落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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六章

密かに (アルノルド視点)

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人目を避けるように薄暗い一室で、机に置かれたランプから僅かな明かりが2人の男を照らしていた。一人は腰に剣を差し、黒で統一された騎士らしき服を着ており、もう一人はこの部屋の主人らしく、悠然とした様子で一つだけ置いてある椅子へと腰を掛けながら騎士の報告を聞いているようだった。そうして、騎士の報告をあらかた聞き終わると、男は机の向こう側に立つ者へと話しかけた。

「本当に、それ以外で目立った動きはなかったのか?」

「はい。今日一日様子を窺っておりましたが、当初の予定通りオスカー氏の所で過ごしておりました」

「……そうか」

嘘偽りのない様子でキッパリと答えれば、それを聞いた男は思案するかのような僅かな間を置き、息を吐くような静かさで呟いた。

エレナには残した仕事があると言って先に休んでもらい、秘密裏に護衛をさせていた影の者から報告を受けていたが、リュカから聞いた今日の話との食い違いがない。昨日の様子から、私には言えない何かがあると踏んだのだが、私の思い過ごしだっただろうか。

「明日も護衛を継続なさいますか?」

「いや、それはもう良い。お前も明日からは他の者と合流し、連中の動向を監視する任務へと戻れ」

こちらの動きを簡単に気付かれるとは思っていないが、目敏い者が近くにいる以上、監視をしていると受け取られかねない行動は慎むべきだ。私がこの件から手を引こうとすれば、自分の報告に納得がいっていない事を察した者が、すぐに命令に従うのではなく、任務の継続について打診してきた。

「しかし、何かしら気になる点があったからこそ、今回の件を命じられたのではないのですか?」

「それは、そうなのだが…。深追いしすぎるのは危険だからな…」

あのオルフェがリュカの異変に気づいていないとは思えない。それに、私と同じようにリュカには甘いはずのオルフェが静観を貫いているのなら、少なからずこの件に関与している可能性がある。そうであるならば、オルフェの目を欺く必要が出てくるが、影の使用も許可している以上は隠すのは簡単ではないだろう。だからこそ、私の直属である者の中でも口が硬いこの者に任せたのだから。

「もとより警護を秘密裏に付けるというのはどの家紋でもされていることですし、何も後ろめたいことなどないと思うのですが?それに、あの者達が今さら裏切るような愚かな事をするとは思えません」

配下の者達には私見を言う許可を与えているが、それを実行する者は少ないため、そういった物怖じしない姿勢を取る者は、ただ従うだけの者よりは好ましい。

「以前、同じような事をした際にオルフェから不興を買ったからな。それ以降は、周辺を整理する事で対応しているんだ。だが、不測の事態とは、いつ起こるか分からないものだからな」

「でしたら、既存で存在している組織を使うのではなく、閣下の手の者だけで組織すればより確実なのではないですか?」

「あの手の者は同類の匂いを嗅ぎ分けるからな。小綺麗な者は信用されない」

「におい…ですか…?」

私の下で長く影として身を置いているが、腹の探り合いのような駆け引きなどの経験などが少ないせいか、腑に落ちていないようだった。私は相手の挙動や言動などの目で見極めるが、奴等はその者が纏う臭いのようなもので判別している節がある。それは理論というよりも、私には理解できない本能と呼べるような感覚的なものなため、簡単に誤魔化しが効かない。だからこそ、裏切るリスクが多少あったとしても、横との繋がりも残っている者をそのまま起用した方が利点が大きい。それに、手を汚す事にも躊躇いがないというのも都合が良い。

「後始末も手慣れているしな」

「それでも我々に命じていただければ……」

「得て不得手というものがあるだろう」

「そう言いながらも、閣下ご自身で手を下す事が多いようですが…?」

「当然だ。アレ等は私の獲物だからな」

部下に対しては滅多に使わない軽口を混じえるが、面白みもない冷ややかな対応だけが返ってくる。リュカが王都で過ごすと言った日から、王都にいる裏の者達には新参者を排除するよう命じていたが、自分達ではない者を使っている事や、私自ら汚れ仕事さえもしていることにも気に入らないようだった。

「上が進んで泥を被るようでなければ、下にいる者も付いて来ないからな。それに、アレ等と違ってお前達は簡単に切り捨てられないだろう?」

「……」

私がそのような事をしなくとも、自分達の忠誠心は変わらないとばかりに沈黙を持って答えているのかもしれないが、人の機微を察する事が苦手な私には、態度で示されるよりも言葉で示してもらった方が都合が良い。それに、他に意図があるのではと勘ぐっているような節がある。しかし、今この者に言ったように、あの連中を簡単に切り捨てる予定はない。何故なら、あの手の者達は約束というのを重要視する者が多いからだ。

確かに甘い蜜さえ吸えれば誰でも良いと思っている連中も少なくないが、あの世界に長く生きている者ほど引き際と踏み越えてはいけない線を心得え、一度交わした誓約を守る。裏切りだけでは生き残れはしないというのもあるのだろうが、己の欲を満たすことしか脳がない豚としか言えない貴族共を相手にするよりも、そういった者達を相手にしていた方が楽だと感じる。だからこそ、あちらが裏切らない限りは、こちらも切り捨てるつもりはない。

「あまり深入りしすぎないようお気をつけてください」

「分かっている」

あちら側に入り込み過ぎれば、あれ等の干渉が強くなると暗に伝えてくるが、今でさえも黙認するような振りをしながらも、事あるごとに牽制するような言動をしてきているので今さらである。それに、既に私が管理していた組織を何度か潰された事もある。しかし、その連中は私が決めた取り決めを破った者達であり、もともと消すつもりではあったため、手間が省けたと言ってしまえばそれまでなのだが、その前に利益だけは回収しようと思っていた計画が狂ってしまった。奴等の懸念も分からなくもないが、裏で動く方が今の私の性に合っていると思い始めてしまっている。だが、私だけでなくエレナ達まで日陰を歩かせるわけにはいかない。

「しかし、一番の騒動を起こす者が不在で助かったな。そうでなければ、お前達も手に負えなかっただろう」

「……例の賓客ですね」

奴の能力を教えているだけに、私の言葉に苦々しい声をあげる。だが、それは仕方がないことだろう。もし、奴が関わっていれば、警戒する区域が王都だけに留まらず、国内全土。ましてや国外にまで警戒の網を広げなければならなかった事だろう。そうなれば、流石の私でも、そこまでは手を回すことはできない。

「ですが、それならば完成を急がせる必要はありませんでしてね」

「その件では、お前達にも随分と手間を掛けさせたからな」

オルフェに渡す品として作った事もあり、もともと質の良い代物ではあったが、それはオルフェの能力を計算したうえでのものだった。そのため、先の件でそれでは不十分だと判断した私達は、金に糸目をつけずに改良を施す事にした。その際に、素材集めなどを影の者達に任せていた。

「貴重な素材ばかりでしたので入手するのにも苦労しましたが、それだけで私共は終わって良かったです」

「……」

愚痴をこぼすようにいうが、金だけでは入手し難い物を頼んでいただけに何も言い返す事が出来ない。

本人以外には外せないのは当たり前な事だが、何が起こっても対処できるような魔導具にするには、それに耐えられる魔石も必要だった。当初使用していたのはSランクであるキメラの魔石ではあったが、それではまだ不足だと感じ、それに相応しい魔石を持っている魔物でも狩りにでも行かせようかと考えていた。だが、影の者達では役不足であったことと、本人達も拒絶の姿勢を取った事で白紙になった。

時間もあまりなかったため、どうするべきかと考えていた時、エレナとの結婚式の際に特別な宝飾品を送ろうと、透き通る角と鱗を持つエンシェントドラゴンを狩り、残りをドミニクに放り投げていた事を思い出した。急ぎ確認をしてみれば、宝物庫に全て保管していたようだが、こんな貴重な物を粗雑に扱い、存在さえも忘れているなどあり得ないと言われてしまった。

あの時は、鱗の一部をベルンハルトに譲渡する契約で協力してもらっていたため、予想していたよりも苦労がなかったのもあってか、その記憶が薄くなるのにはしかたがない事だ。しかし、この魔石をそのままリュカの腕輪に使用するには大きすぎるため、以前に依頼した職人に加工を依頼した。

魔石の効果をそのままに、縮小できる者は国にも何人もいないが、そこは国での地位と権力を存分に使わせてもらった。そして、私達2人分の魔力を込めた魔石を使って作成した魔道具は、堅牢な城壁に匹敵する程の鉄壁な守りになっており、もはや国宝級と呼んでも差し障りがない代物となっていた。短時間でそれだけの物を作り出した熱意に、レクスからはやり過ぎだと呆れを持って言われたが、その程度は最低限度として欲しいと願うのは当然だ。もし、あの魔道具が完成していなければ、これほどまでに私も悠長にはしていられなかっただろう。

「如何なさいましたか?」

「いや、何でもない。とにかく、今は王都の警備体制の向上、それと礼儀の知らない貴族が王都に来ていないかも追加で調べろ」

「……かしこまりました」

急に黙り込んだ私に何事かと問い掛けてくるが、それを軽くいなしながら、裏だけでなく表での任務を与えれば、自身の言葉で私が僅かばかりでも考慮する気を示した事で、とりあえずこの場は納得したようだった。だが、それだけの品が守っているのならば、もはや何処にいても安全といえるのではないかと思っているようだ。しかし、影に消えるように音もなく部屋を後にした者を見送りながらも、私の胸の中には得体のしれない物を感じる。

それは今までに感じた事のないような感覚ではあるが、リュカの休みが終わるまでの間、アレがこのまま大人しく姿を消してくれているのならば、それも消える時期に消えるだろう。それに、あの者達にとって一ヶ月など瞬き程度の時間であり、私も王都の警備だけに注力していれば良いと安易に考えていた。だが、それは間違いで、早急にアレの身柄を探して確保しておくべきだったと、私にしては珍しく後で後悔するはめになった。
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