落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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六章

罰と願い

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夜の闇とは質の違う、重く沈んだ空気が部屋を満たしていた。そんな中、父様は静かな笑みを浮かべていたけど、その笑みがふと消えた。そして、一拍置いて、低く抑えた声が落とされた。

「だが……まずはそれよりも……」

無意識に背筋が伸びる声で、父様は兄様達がいる反対側。後方へと、ほんの僅かに視線を向けた。

「……おい」

その一言だけで、空気が一瞬で張り詰めた。

「はい!」

そして、即座に上がった張り上げられた声に驚いて、こっそりと、その後ろを窺う。すると、いつからそこにいたのか分からないけど、音もなく宙に留まり、控えるように浮かぶティの姿があった。

父様が声を掛けるまで、存在にまったく気付かなかったほど静かだった。

その姿は普段とはかけ離れていて、借りてきた猫なんて言葉では足りない。まるでどこかで軍事訓練でも受けてきたかのような、張り詰めた雰囲気がある。

その変わりように、キールが訝しげな顔をしていた理由が、ようやく腑に落ちた。

「リュカ達が戻ってきたのは見届けた。今度は向こうを探ってこい」

「はい!」

命令が下されると同時に、ティは迷いなく頷いた。その様子は、最初から父様の部下であったかのような振る舞いで、いつもの反論や疑問も挟まなかった。

そして、次の瞬間、逃げ出すように窓へと向かい、そのまま外へと消えていった。

(……僕達も逃げたい)

そう思ってしまうほど、部屋の空気は重かったが、父様の視線が、再びこちらへ向けられる。

「さて、今回の件を最初に言い出した者は……」

その問いかけに、バルドが一瞬だけ息を詰め、勢いよく手を上げた。

「俺です!」

ティの変わりようを見て、恐怖を覚えていないはずがないのに、まるで一人で責任を背負うかのように、バルドが父様の低い声に答える。だけど、それを見過ごすつもりは僕達にはなかった。

「僕も楽しそうだなって思って賛成したから、バルドだけの責任じゃないよ!」

「止めようとしなかった私にも否はあります!」

「……止めきれなかった責任は、俺にもある」

強要されたわけでもなく、自分達で選んでの行動だった。だからこそ、庇うのは当然のことだった。

「……お前ら」

次々に重なる声に、バルドが一瞬だけ感動したような顔をする。

父様は、僕達の言葉を噛みしめるように一度目を閉じた。他の二人は、父様に裁きを一任しているのか、何も言わずに僕達の事を見ていたけれど、僕達は縮こまりながらも、視線を逸らさなかった。

その沈黙が、ひどく長く感じられたが、やがて目を開いた父様と視線が合い、ため息が落とされた。

「……はぁ。予期せぬ出来事により、致し方なかった面に関しては、責を問わないことにする」

僕達の胸の奥に、ほっと光が差し込む。けれど、それで終わりではなかった。

「だが、嘘を付いて勝手に遊びに行ったことに関しては、各家の裁量に任せる」

無断外泊の件は不問にしてくれたけれど、無断外出の件については、どうやら許してもらえないようだった。

その判決を言い渡し終えると、各自が動き出し、父様も兄様を後ろに伴い、僕の前へと歩み寄ってくる。そして、真顔のまま、静かに口を開いた。

「オルフェが、黙認した己にも責任があると言っているため、今回は重い罰を与えるつもりはない。だが、己の不用意な行動が、周囲に多大なる迷惑を与えることになる。その事実を、忘れるな」

「……はい」

その声は鋭く、一つ一つの言葉が、正しくて反論できない。それに、兄様に迷惑を掛けていることも事実なだけに、僕の声が思ったより小さくなってしまう。そんな僕の声に、父様は一度だけ頷き、目を閉じる。そして、判決でも告げるかのように、一拍おいてから口を開いた。

「外出禁止とまでは言わないが、必要がある場合は、必ず兄を通して許可を取れ。そして、今期の休みが終わるまで、リュカに護衛を付けることにする」

そう言うと、父様は一度だけ僕の様子を確かめるように見てから、念を押すように、静かに口を開いた。

「……分かったな」

「……はい」

父様が視線を外すことなく言った最後の言葉に、そう答えるしかなかった。だけど、兄様の口添えがあったおかげか、罰は思っていたよりも軽く、外出自体は禁止されず、夏休みの間、僕には護衛という名の“監視”が付くだけで済んだ。

もう夜も遅く、レクス陛下の口添えもあって、その日は解散となった。そのため、他の皆がどんな判定を受けたのかは分からないままで、その結果が明らかになったのは、翌日の昼になってからだった。僕は受け取ったばかりの手紙を手に、バルドの屋敷を訪れていた。

「母さんに……すげぇ叱られた……」

そう言って肩を落とすバルドだったが、その声色ほど、ひどく落ち込んでいる様子はなかった。それを見て、コンラットが冷静に問いかける。

「それにしては、あまり沈んでいませんね?」

「兄貴から『やるな!』って言われたからな!」

その様子はどこか誇らしげで、まるでクリスさんに褒められたことが嬉しいと言わんばかりだ。きれいな顔立ちに似合わず、口調も態度も少し荒っぽい。ある意味では、バルドよりもずっと男らしい次男だった。

その時、開け放たれた窓のほうから、静かな羽音が響いた。思わずそちらへ視線を向けると、胸に契約紋を刻んだ一羽の鷹が、窓枠に留まっていた。

「あの子が……護衛ですか?」

その姿に、コンラットが小さく息を呑む。

「うん。父様の召喚獣で、カルロって言うんだ」

屋敷に着いた時、馬車のそばで動く様子がなかったのに、まるで僕がこの部屋に入るのを待っていたかのようなタイミングだった。

「この子が……」

父様達に憧れを抱くコンラットが興味を抑えきれず、カルロに一歩近付く。その瞬間、さっと飛び立ち、近くの枝へと移動してしまった。触れてみたかったのか、残念そうに肩を落とすコンラットを見て、バルドが慰めるように言う。

「親父の召喚獣もそうだけど、プライドが高いと契約者以外には触らせないところがあるからな。身内なら、まだ触らせてもくれたりもするんだけど…」

「そういえば、僕の時でも嫌そうだった」

父様が目の前にいたから、仕方なさそうに触らせてはくれたけれど、カルロは終始こちらを見ようともしなかった。

「……そうなんですか」

僕でさえ駄目だと分かると、諦めがついたのか、コンラットは小さく息を吐いた。

「そういえば、ネアは? 一緒に来てないのか?」

話題を変えるように、バルドが僕に尋ねてきた。そして、僕が答えようとした時、部屋の扉が開く音がした。

「……遅くなった」

低い声と共に現れたのは、話題にしていた本人だった。

「何してたんだよ」

「ちょっと、ルークスに物資が流れるようにしてた」

「本当か!? それにしても、ネアが率先して動くなんて珍しいな?」

「他人事とは、思えなかったからな……」

「よく分かんないけど、それなら何とかなりそうだな!」

その一言に、バルドは期待を込めて言うけれど、ネアは淡々と首を振る。

「こんなんじゃ、根本的な解決にはならないだろうな」

「そうなのか!?」

「雨不足による食料不足ですからね……。雨が降らなければ、結局は同じです」

「それに、俺の所が融通したとしても、一商人でしかない」

「何とかならないか?」

「こればかりは……」

頭の良い二人の冷静な言葉に、バルドが唸るけど、その声で僕の胸にも、じわりと重たいものが広がった。

(何とかしてあげたいけど…。でも、どうすればいい……)

僕達がいなくなったせいで、向こうでは、きっと捜索隊が出ていると思う。だから、どうしても罪悪感が胸を締め付ける。そんな時、バルドが何かをひらめいたように声を上げた。

「そうだ!だったら、親父達に頼んでみようぜ!国からなら、十分な食料を出せるだろ!?」

勢いのある言葉だったけど、返ってきたのは呆れた声だった。

「お前、昨日散々叱られたばかりだろう……」

「だからって、見て見ぬ振りは出来ないだろう!?」

「確かに……内情を知ってしまった以上、何もしないのは目覚めが悪いですね」

「でも……許可してくれるかな……?」

「困っている人を助けるのは、基本だろう!」

「それは……そうなんですけど……」

「……敵国みたいな相手のために、国は動かないだろう」

ネアの現実的な言葉に、バルドが再び小さく唸る。僕も普段なら、父様は助けてくれると言える。でも、昨日の、あの冷たい空気を思い出すと、簡単には頼めない。

「でも、頼んでみたら、動いてくれるかもしれないだろう?」

「まぁ……お前らの所は、発言権が違うからな……」

「じゃあ、試しに頼むだけ頼んでみようぜ!」

「……う、うん……!」

それでも、バルドから期待に満ちた目を向けられれば、一瞬、喉が詰まりながらも、返事を返す。そうして、人助けのためと意気込む様子を横目で見ながら、僕達から父様達へ、今回もお願い事をしに行くことになった。
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