落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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六章

振り向いた先

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夜の食事の席で、王女様が僕達に静かに尋ねてきた。

「ティ様は、どうされたのですか?」

その言葉に、僕達はビクリと肩を揺らす。昼に続き、夜になっても姿を見せないティのことが、やはり気になるようだ。

「ちょっと、城を探検に行ったみたいだけど……まだ帰ってないんだよな……!ま、まぁ!そのうち帰ってくると思うけどな!」

「それでしたら、別にお食事の準備でもしておきますか?」

バルドが誤魔化すように、必要以上に明るい声を出す。すると王女様は、ティのことを案じつつも、私達の様子を不審に思ったのか、わずかに視線を落として言った。だからこそ、それをさらに誤魔化そうとして、バルドは声を張り上げる。

「い、良いって!よく勝手にいろんな所でお菓子とかつまみ食いしてたし、それに行く前にも食べてたりしてたからさ!なぁ!?」

同意を求めるように振られ、僕達も一斉に頷いた。

「う、うん!出掛ける前もお菓子食べてたしね!」

「えぇ。あの大きさですから、少し食べれば十分ですし……」

だが、すかさず王女様は首を傾げる。

「ですが、昨夜は身体の大きさに関わらず、召し上がってらしたようですが?」

「そ、それは…」

確かに、王女の目の前にもかかわらず、昨夜の夕食の席で、自身の身体と同じくらいのお菓子を平然と平らげていた姿が脳裏に浮かぶ。

内心を一切表に出さず、こちらの矛盾を逃さず突いてくるその言葉に、さすがは王族だと、コンラットも思わず言葉を詰まらせ口ごもった。すると、その沈黙を引き継ぐように、ネアが淡々と口を挟む。

「趣向品として食べてはいるが、本来なら食べなくても平気だそうだ」

「そ、そうなんだよ!だから、わざわざ準備なんてしなくて良いって!」

ネアの言葉を後押しするように、バルドが慌てて声を重ねる。王女様はどこか納得しきれない様子を見せていたが、その点について強くは言わなかった。代わりに、少し残念そうな声音で言う。

「そうですか……。ですが、もしご入り用でしたら、どうか気兼ねなくおっしゃってくださいね。女王である母からも、皆様を丁重にもてなすよう、申し付けておりますので」

その一言で、場の空気が一段重くなった。

「え……?女王様も……俺達のことを知ってるのか……?」

「もちろんです。皆様のことは、しっかりとお伝えしております。ただ、堅苦しいのはお好きではなさそうでしたので、母には遠慮してもらっていたのです。ですが……もしお会いになりたいのでしたら、今すぐ呼びに行かせますが?」

「い、良い!わざわざ呼ぶ必要なんてないから!」

「うん!時間を取らせるのも悪いし!」

「そうです!私は、そこまでして頂くような存在ではありませんし!」

これまで一度も話題に上らなかったから、王女様の独断で滞在させてくれているのだと思っていた。けれど、よく考えれば城の探索許可を個人の判断で出せるはずがなく、城に滞在している以上、それは当然のことだった。

それでも、一国の王女をこちらから呼び出すなど、できるはずもない。僕達は慌てて否定し、必死に言葉を尽くして思い止まってもらおうとする。すると王女様は、少し残念そうな表情を浮かべながらも、それを受け入れてくれた。

「……是非、母とも親しくなって頂きたかったのですが。こればかりは仕方ありませんね……」

悪い人ではないと分かっているからこそ、その寂しそうな表情が、なおさら胸に刺さる。そんな思いを抱えたまま、その場はなんとか夕食を終え、僕達は足早に部屋へと戻った。

「な、何とか誤魔化せたな……」

部屋の扉が閉まるなり、バルドが安堵したように呟いた。だけど、その言葉をコンラットがすぐさま否定する。

「……本当に誤魔化せていたのでしょうか?明日の朝は……もう無理かもしれませんね……」

ティの不在を悟られまいと、必死に言葉を重ねてきた。でも、先ほどの様子を見る限り、今も誤魔化し切れているかは怪しい。だからこそ、今日中に何とかしなければならないのに、打つ手は見当たらず、僕達は早くも行き詰まっていた。

「……ネア。どうするんだよ……」

「アイツが帰って来ないにしても、こちらの状況は向こうに伝わっているはずだ。だったら、今は待つしかないな」

ティを送り出した後のネアは、驚くほど落ち着いていて、まるで他人事のようだった。だけど、そんな態度に反して、僕達の胸には不安ばかりが積もっていく。黙ったまま視線を向けると、ネアは小さくため息をつき、口を開いた。

「不用意に刺激すれば、戦争になるだけだ。慎重に動いている分、時間が掛かっているんだろう」

その言葉を聞いて、今の僕達の状況の悪さを思い出し、内心で納得した。

「そうですね……。私達が城の中にいる以上、取れる手段が限られているのかもしれません」

「親父なら、どんな警備でも突破できそうだけど、そんな方法を取るわけにもいかないもんな!」

その言葉を聞いて、今の僕達の状況の悪さを思い出し、内心で納得した。冷静に状況を判断できる父様達なら、きっと力で押し通すような真似はせず、穏便に事を収める道を探しているはずだ。

理由が分かり、ほんの少しだけ空気が緩んだ、その時だった。僕達の背後から、聞き覚えのある低い声が響いた。

「……おい」

突然背後から聞こえてきた声に、びくりと身体を跳ねさせて振り向く。すると、そこには何故か、キールが不機嫌そうな顔で立っていた。

「何でここにいるんだ!?もしかして、俺達がいないのに気付いて迎えに来てくれたのか!?」

「そんなわけないだろ」

バルドが期待を込めて言えば、即座に否定された。

「じゃあ、何でここにいるの?」

「……ティターニアに頼まれてな」

「ティが?」

理由を尋ねると、キールは不機嫌そうに答えた。だけど、見せ場を取られまいと、あれほど牽制していたはずなのに、自分から彼に頼みに行くという選択には、どうしても違和感が残る。その感覚はキール自身も同じだったのか、彼は未だ判断がつかないといった様子で、歯切れの悪い答えを返してきた。

「普段なら無視するが……今まで見たことがないほど必死でな。それに、その様子が、あまりにもおかしかった…」

頼みを聞かざるを得なかったのだと語るキールは、今思い返してみても、ティの不自然さに対して、一歩引いているような雰囲気があった。僕もキールとはそれほど長い付き合いではないけど、その様子は、普段から動じないキールらしくない反応だった。その違和感が引っかかり、ふと浮かんだ疑問を口にした。

「そういえば、グレイ達は一緒じゃないの?」

いつも一緒にいる印象があるだけに、キール一人で他の姿が見えないことが引っかかり尋ねる。すると、当然だと言わんばかりに、彼は答えた。

「お前らを迎えに行くだけだ。わざわざ無駄に連れてくる必要はないだろう。ただ、グレイ一人に面倒を押し付けるのも酷だからな。お前達を飛ばしたら、俺もすぐ戻る」

「一緒に来てくれないのか?」

「必要ない」

「いや……俺達だけで放り出されても……」

場所によっては、今の僕達だけでは対処が難しいこともある。だから、行き先も分からないまま送られるのは困る。そのため、”バルドが僕達に同行してほしい”そんな空気を漂わせると、そうした空気を読むこともなく、キールはあっさりと言い切る。

「最初から場所指定はされている。心配するな」

「場所指定?どこだ?」

「ティターニアがいる所だ。じゃあな」

ろくな説明もないまま、キールは軽く手を振った。その瞬間、僕達の視界がぐにゃりと歪み、景色が切り替わる。だが、飛ばされた先は、ティのいる場所ではなかった。

「えっと……お邪魔してます……?」

城の中にいることへの戸惑いはあったものの、父様と一緒に何度も顔を合わせてきた相手なこともあり、とりあえず目の前にいるレクス陛下へ、そう声をかけた。だけど、突然現れた僕達に驚く様子もなく、レクス陛下は、どこか困惑したような表情を浮かべていた。

「あ、あぁ……声をかけてくれるのはありがたいんだが、私に何か言う前にだな……後ろにいる面々へ、先に言った方がいい……」

レクス陛下は、まるで背後を直視したくないかのように、斜め下へと視線を落とし、言葉を濁した。

(……後ろ?)

意味が分からず、思わず首を傾げた、その時だった。振り返るよりも先に、低く押し殺した声が背後から響いた。

「……お帰り」

ぞくり、と背筋を撫でるような感覚が走った。振り向きたくないという恐怖を抱えながらも、僕達はゆっくりと後ろを向いた。すると、そこにいたのは、会いたくて、そして、会いたくなかった人達だった。

後ろに立つ父様は、にっこりとした笑みを浮かべていた。けれど、その少し後ろに控える兄様は、感情の一切を削ぎ落としたような、完全な無の表情だった。

その二人と視線を合わせられず、そっと目を逸らすと、隣には騎士団長であるベルンハルト様の姿があった。厳つい顔に浮かぶのは、明らかな苛立ちで、その鋭い視線はバルドへと向けられており、当のバルドは、今にも冷や汗を流しそうな顔をしていた。

現実逃避でもするように、他の二人の様子を伺う。すると、ネアの家の者の姿は見当たらなかったけど、コンラットの方には、どうやら父親が来ているようだった。けれど彼は、僕達の父様達三人から距離を取り、城の兵士達と同じように、壁を背にして立っている。

その表情から、心配して傍へ駆け寄りたい気持ちはあるようだ。けれど、あの三人が放つ圧の前では、それ以上前に出ることができないようだった。

「さぁ……お話をしようか……?」

父様が静かに放ったその一言は、これまで聞いたどの言葉よりも、重く胸にのしかかった。
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