落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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六章

大人達の答え (アルノルド視点)

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私は仕事の合間を縫い、レクスとベルンハルトを交え、密やかな話し合いの場を設けていた。

本来であれば、議論する価値すらない案件であり、私的な時間を割くことも不本意である。だが、この件は私の独断で片づけられる話ではなかった。

事の発端は、昨夜の夕食の席にある。

「駄目だ」

リュカから、ルークスを支援したいと言われた瞬間、私は考えるよりも先に否定の言葉を口にしていた。

「……どうしても?」

縋るような声だった。一瞬、躊躇いが胸を掠めるが、ここで迷いを見せるわけにはいかない。私は短く頷き、理由を並べた。

「こちらの素性が知られていなかったから、今回は功を奏した。だが、正体が露見すれば、不法入国の件を追及されるだろう。これが以前と同じ状況であれば問題はない。代償として求められるのは、替えの利く食料などだろうからな。だが、リュカが精霊王と契約している今は、話が別だ」

私はそこで一度言葉を切り、慎重に選びながら続ける。

「もし、その事実が向こうに知られれば、無茶な条件を突きつけてくる可能性は十分にある」

「でも、まだ知られていないから、大丈夫でしょう?」

「不確定要素がある以上、私は危険を冒す気はない」

そもそも、この件の発端となったのは奴らだ。何をしでかすか分からない妖精や精霊など、もはや信用に値しない。もし、リュカの身柄そのものを要求されるようなことがあれば。

(……今度こそ、容赦はしない)

精霊も含め、敵対する覚悟はすでにできている。その事実を再確認するかのような沈黙の後、オルフェが口を開いた。

「あの国に行っていたのなら、精霊に対する考え方も、多少なりとは見聞きしただろう?」

我が国にも宗教は存在する。だが、あの国のそれは、熱量がまるで違う。一度でも関われば、その狂信的とも言える言動と厄介さは、嫌でも理解できるはずだ。

「でも……」

何がそこまで彼を突き動かしているのか、私には分からない。それでもなお、リュカは食い下がる。

「悪い人達じゃなかったし、親切にもしてくれたよ?」

確かに、まともな人間が一人もいないとは言わない。だが、それが国の中枢、王族の中にいるとは思えなかった。その認識は、オルフェも同じだったようだ。

「それは、懐柔しようとしていただけだ」

「それは……そうかもしれないけど……」

自主性を重んじ、リュカの行動を黙認した。その結果が今なのだから、オルフェは、ここで態度を緩めるつもりはないらしい。私も、それに乗じて言葉を続けた。

「そもそも、我らの支援を、あの国が受け入れるとは思えない」

厳しい言葉を重ねなければならないことに、心苦しさがないわけではない。それでも、下手な希望を持たせるよりはましだと、心を鬼にして、否定の理由を積み重ねていく。すると、リュカも私達に負けまいとするように言った。

「だけど、苦しむ民のために祈るような優しい人だったよ」

「他者に願うだけの人間に、私は好感を持てないな」

私に言わせれば、望みは自らの手で叶えるものだ。それを赤の他人に委ねる者の気持ちなど、理解できない。

「でも、父様も、天気まではどうにもできないでしょう?」

そう思い、切り捨てるように言った直後に言われたリュカの一言に、私は一瞬、言葉を失う。

確かに、天候を自在に操ることはできない。似たようなことは不可能ではないかもしれないが、それで国民すべてを賄えるわけでもない。だが、水脈を探すことや、他の方法を模索することもできる。そもそも、過去に同じ事態が起きているのであれば、それに対する対策を講じていないという事実も、私には理解できなかった。

「……アル。本当に、どうにかできないの……?」

私が断固とした態度を崩さないでいると、リュカが可哀想に見えたのだろう。エレナが、そんなことを言い出した。

「……父様。お願い……?」

エレナの口添えがあったからか、リュカが悲しげな目で、最後に頼み込んでくる。これには、オルフェも正面から否定することはできなかったのか、密かに、流し目で私の方を伺ってきた。だが、私に回されたとしても、今の私には、どうしても勝てないものがある。

「……話すだけは、話してみよう」

オルフェからの冷たい視線を受けながら、そう口にするのが、私には精一杯だった。

「それで、私たちを呼び出したというわけか」

家族に言えないことや、伏せていることは多い分、嘘だけはつかないと決めている。そのため、一度口にした以上は、実行する必要があった。

「私としては、貴様が拒否したと伝えるのが、一番簡単なのだがな」

「それは、私に全責任を押し付けたいだけだろう」

「…………」

理屈で返されるのなら、反論もできる。だが、家族から感情論で迫られると、どうにも抗えない。

「そもそも、あの国が食料不足に陥った原因には、君にも多少の責任があるはずだ」

レクスが、帝国への報復として作物を焼却した件に触れてくる。

あの時は、帝国が我が国に構っている余裕を奪うという目的があったため、忌々しいと思っていたルークスとの関係を悪化させ利用した。だが、そこまで強い恨みがあったわけではない。そして、それでかの国が困窮しようと、そのことで私の良心が痛むことはなかった。

私が無言を貫いていると、レクスは軽くため息をつき、向かいに座る人物へと視線を移す。

「それで、ベルの方も、同じようなことを頼まれた口かな?」

「……はい」

帝国ほどではないが、仮想敵国である以上、ベルンハルトも支援を拒絶したようだ。しかし、その判断に迷いがないわけではないらしく、決めかねた末の苦い表情を浮かべていた。

「それで、何を言われたんだ?」

「困っている者に救いの手を差し出すのは、騎士として当然の行いではないかと……そう、言われました」

常日頃から騎士としての在り方を説いている以上、それを他者、ましてや息子から突きつけられれば、思うところもあるのだろう。融通が利かず、真面目すぎるがゆえに、国の内情を理由に反論することに、抵抗を覚えているようだった。

「しかし、全面的な支援は論外だな」

そう前置きしてから、レクスが腕を組んだまま続ける。

「だが、お前達の立場からすれば、門前払いにするのも得策ではないのだろう」

そこで、一拍。レクスが言葉を選ぶその沈黙に、場の空気が張り詰める。

「“人道的配慮”という名目で、食料の供与という限定的な接触だけならば、目をつぶろう」

食料は軍事物資であり、外交カードでもある。それを供与するというのは、王として差し出せる最大限の妥協だ。政治的影響は最小限に抑えつつ、感情論への配慮も形だけは残す。その答えに、私は間を置かずに言葉を継いだ。

「それならば、向こうに深く詮索しないよう、あらかじめ釘を刺しておく必要があるな」

「それは……“釘を刺すだけ”か?」

レクスは珍しく真剣な表情で、私を見据えていた。だが、取り乱し、信を失う行動を取ったのは、私の方だ。それは動かしようのない事実であり、言い逃れなどできない。だからこそ、私は感情を切り離し、事実だけを並べることにした。

「あちらの事情は、アレに多少は調べさせている。その過程で、いくつか確認したい話を聞くだけだ」

「随分と、きな臭い“話を聞くだけ”だな」

私が内容をぼかして伝えたからか、レクスからの指摘が入り、そこで沈黙が落ちた。その静けさの中で、最後まで口を開かなかったベルンハルトが、ゆっくりと息を吐く。

「騎士として……見て見ぬふりをすることは、私にもできません」

その声は低い。だが、先ほどと違って迷いや揺らぎはない。

「何より、息子の前で、そんな姿は見せられませんので」

一度言葉を切り、こちらを見据える。

「感情で踏み込み過ぎないよう……私がアルノルドの監視役として同席します」

覚悟を決めた声に、レクスは暫く考え、やがて短く頷く。

「……良いだろう」

その決定に不服がないわけではない。だが、異議を唱えられる立場でもない。そのため、私は黙って、それを受け入れた。

だが、私とベルンハルトが道を使い、直接ルークスの王都へ乗り込めば、それは宣戦布告と取られかねない。レクスも同じ懸念に至ったのだろう。しかし、先ほどとは打って変わって、少しおどけた様子で言い出す。

「いっそ……子供らと一緒に行ってきたらどうだ?」

「それに、何の意味がある?」

思わず、冷ややかな視線を向ける。危険だと分かる場所に、わざわざ連れて行く理由など存在しない。

「君達だけで行けば、向こうは警戒するだけだろう。ならば、当事者達も一緒に連れて行けば、向こうの警戒心も多少は薄れる」

「不確定要素がいる以上、それはできない」

即座に否定すれば、さらに畳みかけるようにして言葉をつなぐ。

「だが、君達が傍にいれば、逃げ出すことなど容易だ。それに、子供連れで攻め込んで来るとは、誰も思わない。他人の空似で押し通せばいい」

「「………」」

あまりにも無責任で、荒唐無稽な提案の言葉に、ベルンハルトと私は言葉を失う。すると、こちらの顔色を察したのか、レクスが言葉を継いだ。

「お前達、先日使ったという“道”を通って行くつもりなのだろう?ならば、出入国の足取りなど、奴らには追えん。正規の記録も残らないのなら、誤魔化しようがいくらでもある……」

周囲は私のことを腹黒いと言うが、その本質を冗談めかして包み隠し、平然と欲しい結果を手にするこの男の方が、よほど質が悪い。しかし、それほどまでに強引なやり方だからこそ、かえって相手も、深く追及してこないのかもしれない。

「……分かりました」

保護者としての立場を主張でき、子供の前であれば、無用な衝突も避けられる。そして何より、目の届くところにいれば、子供らの勝手な行動を抑えられる。そう判断したのようで、ベルンハルトは異議はないと、言葉にせず示した。そして、二人の視線が、こちらに集まる。

「……分かった」

今回の件に限っては、私にやらかしがある以上、強く出ることはできない。そのため、私は短く頷き、そうして話はまとまった。
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