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六章
知らされる側
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夕食の前に、父様から「話がある」と言われていた。昼間、バルドの屋敷で話した時も、雰囲気は良くなかったと聞いているから、正直なところ期待はできない。そのため、食堂へ向かう足取りは、いつもより少し重い。それでも、ほんの少しだけ、希望を捨てきれずにいた。
そして、母様と兄様が見守る中、重苦しい空気を切り裂くように、父様が静かに口を開く。
「今日、レクス達と、昨日の件について話し合った」
一語一語、ゆっくりと話す父様の声は落ち着いている。だからこそ、余計に緊張して、僕は息を詰めながら、次の言葉を待った。
「ルークスを援助する方向性で、話がまとまった」
「……本当!?」
半ば諦めていたから、驚きの方が先に来て、思わず声が跳ねた。けれど、父様は僕を静かに制するような視線を向けて続ける。
「ただし、国としての支援ではない。国が動けば、国内外からの反発は避けられないため、個人的な支援という形を採る」
父様は昨日と同じように、判決を下すかのような口調だった。でも、その言葉に胸の奥で張り詰めていたものが、ふっと緩む。そんな僕の様子を見て取ったのか、母様が、ほっとしたように微笑んだ。
「良かったわね」
その笑顔を見て、ようやく実感が湧いてきたけど、兄様の低い声が響く。
「……周囲の貴族が、黙っているとは思えませんが」
「当然、反対は出る。場合によっては、私の失脚を狙い、反逆者扱いしてくる者もいるだろう」
父様は否定もせず、むしろ淡々と現実を並べる。だけど、そこまでとは思っていなかった。そんな僕の不安を感じ取ったのか、父様は少しだけ声音を和らげた。
「だが、今回はベルンハルトも共に援助する。王都の貴族も、そこまで強くは出られないだろう。それに、北部の貴族にも牽制させるつもりだ」
「誰か心当たりがあるの?」
「アルテルガ辺境伯に協力してもらう」
母様の問いに、父様は静かに笑った。けれど、突然出てきた名前に、僕は思わず首を傾げる。
「父様達って……仲、良かったっけ?」
アリアと初めて会った時のことや、パーティーでの様子を思い出す。でも、特別親しげだった印象はない。すると、父様は、あっさり否定した。
「仲良くはないよ。ただ、今まで見逃していた“借り”を、返してもらうだけだ」
その言葉の意味が分からずにいると、父様は淡々と説明する。
「北部は魔物が多く、私兵を持つことが許されている。だが、その維持には莫大な費用がかかるため、魔物素材をルークスに秘密裏に売ることで、財政を賄っているんだ。国の防衛を担っていることや、他の貴族も似たような不正を行っていることもあって、これまでは暗黙の了解で、見て見ぬふりをしてきた」
まるで、よくある事例を説明しているだけの父様は、一度、そこで言葉を止めた。ほんの一瞬だったはずなのに、その沈黙が、やけに長く感じられるほど、その横顔が少しだけ怖かった。
「しかし、一線を越えた……」
「……何をしたの?」
僕が思わず口を開けば、父様は、こちらを見ることなく答えた。
「私の、大切なものに手を出した」
心底怒っているのか、その一言でひやりと肝が冷える。
「本人としては不本意だったのだろうが、下がやらかした責任は、上に取ってもらわなければな」
それは正論のはずなのに、父様の様子を見ていると、なぜか素直に頷けなかった。
「……法的な罰とかじゃ、駄目なの?」
「それでは、あまりにも軽すぎる」
僕の問いかけに、父様は即答だった。
「だから、この件はレクス達にも詳しくは話していない。その意味では……ちょうど良かったよ」
その言葉が、どこかで胸の中で引っかかる。それに、”それって私怨じゃないのかな”という考えが頭をよぎった。すると、父様を肯定するように、兄様が静かに口を開いた。
「報いを受けて当然でしょうが…。その者だけで、いつまでも抑え込めるとは思えません」
全てを察してでもいるかのような兄様の言葉に、父様は静かに頷く。
「問題ない。この融資は、一時的な措置だからな」
「一時的……?」
いつ解決するか分からない問題なだけに、不安が声に出る。すると、僕を安心させるような笑みを浮かべる。
「根本的な原因は、既に分かっている」
「え!?どうしてそんなこと分かるの!?」
父様は何でも知っている人のような人だけど、それでも、さすがに驚いた。そんな僕に、父様は淡々と答えた。
「当時のことをよく知る者がいるだろう。アレを向かわせ、その者達に詳しい話を聞きに行かせた」
父様は、まるで名前そのものを口にしたくないかのように、具体的な名を出さなかった。けれど、誰のことを指しているのか分かってしまった僕は、確かめるように、その名前を口にする。
「……ティに、聞きに行ってもらったの?」
ティが、そんな役回りを引き受けるとは思えなかったけど、キールに連絡を取ってくれていたことを思い出し、僕がそう尋ねると、父様はあっさりと肯定した。
「そうだね。それと物資なんだが、一度、ハンデルを経由してから送るつもりだ。多少、手間はかかるが、そこは致し方ないだろう」
ティの名が出たのは、最初だけだった。その後は、まるで重要ではなかったかのように、父様は話題を切り替え、先へ進めてしまう。その淡々とした態度の流れを引き取るように、兄様が口を開く。
「ですが……足取りを追われれば、我が国からの支援であることが露見し、怪しまれるのではないでしょうか。そうなれば、素直に受け取るとは思えません」
「だからこそ、そのために、ある程度は話を通しておく必要があると思っている」
父様は、すでにその先まで見据えているように疑問に答える。だけど、兄様は一拍置いて続ける。
「その話は、一体、誰がするのですか?」
重大で、失敗の許されない役目を誰に任せるつもりなのか。兄様の問いには、その重さをはっきりと含んでいた。だけど、父様は、その当然の疑問を受け止めるように、静かに口を開く。
「リュカと私、それとベルンハルト達と行く」
「えっ?」
簡潔すぎる答えもそうだけど、そこに自分の名前が入っていることに声が裏返る。だけど、驚いたのは僕だけじゃなかった。
「……リュカを連れて行く意味が分からないのですが?」
兄様の声は、珍しく感情を隠しきれていなかった。すると、ため息混じりに答えた。
「……レクスの決定だ。それに、ベルンハルトも同意した」
「……」
王族の決定であり、ベルンハルト様も同意している以上、兄様でも簡単には反対の声を上げられないようだ。だけど、納得していないのがはっきり分かる表情のままだ。父様自身も不本意なのだろうが、それを押し殺すように話を続ける。
「正規の手続きを踏めば時間がかかる。ならば、私達で行った方が早く、顔見知りがいる方が、相手の態度も軟化するだろうとの判断だ」
ティが作った道が僕の屋敷の庭にあり、それを使えばルークスへ行き来するのは難しくはない。でも、それは他人に教えられるものじゃない。そのため、僕達に任せるのは、合理的な判断だと思う。でも、父様も含めて兄様も、反対みたいだった。
なんとなく、空気が重くなったような気がした僕は、素朴な疑問を口にする。
「でも、父様はどうやって行くつもりなの?」
道を大きくしようとすれば、膨大な魔力を使うから、その道は僕達の大きさに合わせて作られていると、ティ自身が言っていた。だから、父様が通れるはずがない。それなのに、父様は当然のように通れることを想定している。
ルークスにいた時、ネアが父様が来た可能性があると言っていたけれど、僕は半信半疑だった。だから、僕が疑問を口にすれば、父様は少しも動揺した様子を見せずに答えた。
「魔力があれば、広げられるとアレが言っていたからな。ベルンハルトも傍にいたこともあり、多少強引ではあったが広げて通らせてもらったよ。だが、そのせいで魔力を使い過ぎてしまい、ベルンハルトに遅れを取ってしまった。十分な魔力さえあれば、遅れを取ることもなかったのだが……。あの男相手に、武器もなしでは、さすがにな」
悔しそうな声で言うけれど、そんな話は、バルドからも聞いたことがない。
「父様。いつ戦ったの?」
不思議に思って尋ねた瞬間、母様の目が、じっとりとしたものに変わった。
「屋敷の庭で暴れたらしいわ。そのせいで、今も立ち入り禁止扱いなのよ」
母様の声は、氷のように冷たかった。
「そ、それは本当にすまなかった。今、急ぎ直させているから……もう少しだけ待ってもらえないかな……」
父様は慌てて言い訳をするけれど、その声には、いつもの余裕がなかった。
「直せば良い、という問題ではないのよ?」
大切にしている庭を荒らされたからか、その一言に怒りが凝縮されていた。ぴしゃりと言い切る母様の声を聞きながらも、立ち入り禁止という言葉が引っ掛かり、僕は思わず口を開く。
「入れなくなるくらいに、庭を壊したの?」
「い、いや……そんな庭を見せるわけにはいかないと思ったからの対応で……それほど壊してはいないよ……」
途中までは平然とした声を保っていた父様だったが、罪悪感が滲んだのか、最後の方だけ声が少し小さくなった。そんな父様を僕達が無言で見つめていると、その視線に耐えきれなくなったのか、父様は話題を切り替えるように、少し早口で続けた。
「そ、それでなのだが……こちらの立場が低いと見られると、交渉が難航する可能性がある。だから、姓は伏せるが、名や姿は変えずに行くつもりだ」
「……本気ですか?相手が敵対行動を示したら、どうするつもりなのですか?」
僕も一緒に行くとあって、兄様は父様が発した言葉に信じられないという声で返す。だが、父様は視線を逸らさず、真剣な表情で言った。
「その時は、他人の空似として押し通す」
何とも無謀な行動だと思う。でも、父様が勝算のない博けに出るはずがない。そう頭では分かっているのに、胸の奥には不安が広がっていく。ふと見ると、母様も先ほどまでの怒りを忘れたように、不安げな表情を浮かべていた。だから、本当に大丈夫なのかと兄様のほうを見るけれど、兄様の表情も決して明るいものではなかった。
「……私も、付いて行ってもよろしいでしょうか?」
僕達だけを行かせるのが不安なのだろう。兄様は提案した。すると、少しの沈黙の後、父様は何かを考えるように間を置いてから、妥協するように答えた。
「……付き添いに徹するというのなら、良いだろう」
「分かりました」
兄様がすぐに承諾すると、父様は一瞬だけ、断ってほしかったと言いたげな残念そうな顔をした。だが、すぐに気を取り直し、表情を引き締める。
「それでは、明日にでも行こう。こういうことは、早めに片付けた方がいい」
父様はそう言って話を終わらせた。でも、僕の胸には不安が少し残る。それでも、僕のルークス行きは、静かに決まった。
そして、母様と兄様が見守る中、重苦しい空気を切り裂くように、父様が静かに口を開く。
「今日、レクス達と、昨日の件について話し合った」
一語一語、ゆっくりと話す父様の声は落ち着いている。だからこそ、余計に緊張して、僕は息を詰めながら、次の言葉を待った。
「ルークスを援助する方向性で、話がまとまった」
「……本当!?」
半ば諦めていたから、驚きの方が先に来て、思わず声が跳ねた。けれど、父様は僕を静かに制するような視線を向けて続ける。
「ただし、国としての支援ではない。国が動けば、国内外からの反発は避けられないため、個人的な支援という形を採る」
父様は昨日と同じように、判決を下すかのような口調だった。でも、その言葉に胸の奥で張り詰めていたものが、ふっと緩む。そんな僕の様子を見て取ったのか、母様が、ほっとしたように微笑んだ。
「良かったわね」
その笑顔を見て、ようやく実感が湧いてきたけど、兄様の低い声が響く。
「……周囲の貴族が、黙っているとは思えませんが」
「当然、反対は出る。場合によっては、私の失脚を狙い、反逆者扱いしてくる者もいるだろう」
父様は否定もせず、むしろ淡々と現実を並べる。だけど、そこまでとは思っていなかった。そんな僕の不安を感じ取ったのか、父様は少しだけ声音を和らげた。
「だが、今回はベルンハルトも共に援助する。王都の貴族も、そこまで強くは出られないだろう。それに、北部の貴族にも牽制させるつもりだ」
「誰か心当たりがあるの?」
「アルテルガ辺境伯に協力してもらう」
母様の問いに、父様は静かに笑った。けれど、突然出てきた名前に、僕は思わず首を傾げる。
「父様達って……仲、良かったっけ?」
アリアと初めて会った時のことや、パーティーでの様子を思い出す。でも、特別親しげだった印象はない。すると、父様は、あっさり否定した。
「仲良くはないよ。ただ、今まで見逃していた“借り”を、返してもらうだけだ」
その言葉の意味が分からずにいると、父様は淡々と説明する。
「北部は魔物が多く、私兵を持つことが許されている。だが、その維持には莫大な費用がかかるため、魔物素材をルークスに秘密裏に売ることで、財政を賄っているんだ。国の防衛を担っていることや、他の貴族も似たような不正を行っていることもあって、これまでは暗黙の了解で、見て見ぬふりをしてきた」
まるで、よくある事例を説明しているだけの父様は、一度、そこで言葉を止めた。ほんの一瞬だったはずなのに、その沈黙が、やけに長く感じられるほど、その横顔が少しだけ怖かった。
「しかし、一線を越えた……」
「……何をしたの?」
僕が思わず口を開けば、父様は、こちらを見ることなく答えた。
「私の、大切なものに手を出した」
心底怒っているのか、その一言でひやりと肝が冷える。
「本人としては不本意だったのだろうが、下がやらかした責任は、上に取ってもらわなければな」
それは正論のはずなのに、父様の様子を見ていると、なぜか素直に頷けなかった。
「……法的な罰とかじゃ、駄目なの?」
「それでは、あまりにも軽すぎる」
僕の問いかけに、父様は即答だった。
「だから、この件はレクス達にも詳しくは話していない。その意味では……ちょうど良かったよ」
その言葉が、どこかで胸の中で引っかかる。それに、”それって私怨じゃないのかな”という考えが頭をよぎった。すると、父様を肯定するように、兄様が静かに口を開いた。
「報いを受けて当然でしょうが…。その者だけで、いつまでも抑え込めるとは思えません」
全てを察してでもいるかのような兄様の言葉に、父様は静かに頷く。
「問題ない。この融資は、一時的な措置だからな」
「一時的……?」
いつ解決するか分からない問題なだけに、不安が声に出る。すると、僕を安心させるような笑みを浮かべる。
「根本的な原因は、既に分かっている」
「え!?どうしてそんなこと分かるの!?」
父様は何でも知っている人のような人だけど、それでも、さすがに驚いた。そんな僕に、父様は淡々と答えた。
「当時のことをよく知る者がいるだろう。アレを向かわせ、その者達に詳しい話を聞きに行かせた」
父様は、まるで名前そのものを口にしたくないかのように、具体的な名を出さなかった。けれど、誰のことを指しているのか分かってしまった僕は、確かめるように、その名前を口にする。
「……ティに、聞きに行ってもらったの?」
ティが、そんな役回りを引き受けるとは思えなかったけど、キールに連絡を取ってくれていたことを思い出し、僕がそう尋ねると、父様はあっさりと肯定した。
「そうだね。それと物資なんだが、一度、ハンデルを経由してから送るつもりだ。多少、手間はかかるが、そこは致し方ないだろう」
ティの名が出たのは、最初だけだった。その後は、まるで重要ではなかったかのように、父様は話題を切り替え、先へ進めてしまう。その淡々とした態度の流れを引き取るように、兄様が口を開く。
「ですが……足取りを追われれば、我が国からの支援であることが露見し、怪しまれるのではないでしょうか。そうなれば、素直に受け取るとは思えません」
「だからこそ、そのために、ある程度は話を通しておく必要があると思っている」
父様は、すでにその先まで見据えているように疑問に答える。だけど、兄様は一拍置いて続ける。
「その話は、一体、誰がするのですか?」
重大で、失敗の許されない役目を誰に任せるつもりなのか。兄様の問いには、その重さをはっきりと含んでいた。だけど、父様は、その当然の疑問を受け止めるように、静かに口を開く。
「リュカと私、それとベルンハルト達と行く」
「えっ?」
簡潔すぎる答えもそうだけど、そこに自分の名前が入っていることに声が裏返る。だけど、驚いたのは僕だけじゃなかった。
「……リュカを連れて行く意味が分からないのですが?」
兄様の声は、珍しく感情を隠しきれていなかった。すると、ため息混じりに答えた。
「……レクスの決定だ。それに、ベルンハルトも同意した」
「……」
王族の決定であり、ベルンハルト様も同意している以上、兄様でも簡単には反対の声を上げられないようだ。だけど、納得していないのがはっきり分かる表情のままだ。父様自身も不本意なのだろうが、それを押し殺すように話を続ける。
「正規の手続きを踏めば時間がかかる。ならば、私達で行った方が早く、顔見知りがいる方が、相手の態度も軟化するだろうとの判断だ」
ティが作った道が僕の屋敷の庭にあり、それを使えばルークスへ行き来するのは難しくはない。でも、それは他人に教えられるものじゃない。そのため、僕達に任せるのは、合理的な判断だと思う。でも、父様も含めて兄様も、反対みたいだった。
なんとなく、空気が重くなったような気がした僕は、素朴な疑問を口にする。
「でも、父様はどうやって行くつもりなの?」
道を大きくしようとすれば、膨大な魔力を使うから、その道は僕達の大きさに合わせて作られていると、ティ自身が言っていた。だから、父様が通れるはずがない。それなのに、父様は当然のように通れることを想定している。
ルークスにいた時、ネアが父様が来た可能性があると言っていたけれど、僕は半信半疑だった。だから、僕が疑問を口にすれば、父様は少しも動揺した様子を見せずに答えた。
「魔力があれば、広げられるとアレが言っていたからな。ベルンハルトも傍にいたこともあり、多少強引ではあったが広げて通らせてもらったよ。だが、そのせいで魔力を使い過ぎてしまい、ベルンハルトに遅れを取ってしまった。十分な魔力さえあれば、遅れを取ることもなかったのだが……。あの男相手に、武器もなしでは、さすがにな」
悔しそうな声で言うけれど、そんな話は、バルドからも聞いたことがない。
「父様。いつ戦ったの?」
不思議に思って尋ねた瞬間、母様の目が、じっとりとしたものに変わった。
「屋敷の庭で暴れたらしいわ。そのせいで、今も立ち入り禁止扱いなのよ」
母様の声は、氷のように冷たかった。
「そ、それは本当にすまなかった。今、急ぎ直させているから……もう少しだけ待ってもらえないかな……」
父様は慌てて言い訳をするけれど、その声には、いつもの余裕がなかった。
「直せば良い、という問題ではないのよ?」
大切にしている庭を荒らされたからか、その一言に怒りが凝縮されていた。ぴしゃりと言い切る母様の声を聞きながらも、立ち入り禁止という言葉が引っ掛かり、僕は思わず口を開く。
「入れなくなるくらいに、庭を壊したの?」
「い、いや……そんな庭を見せるわけにはいかないと思ったからの対応で……それほど壊してはいないよ……」
途中までは平然とした声を保っていた父様だったが、罪悪感が滲んだのか、最後の方だけ声が少し小さくなった。そんな父様を僕達が無言で見つめていると、その視線に耐えきれなくなったのか、父様は話題を切り替えるように、少し早口で続けた。
「そ、それでなのだが……こちらの立場が低いと見られると、交渉が難航する可能性がある。だから、姓は伏せるが、名や姿は変えずに行くつもりだ」
「……本気ですか?相手が敵対行動を示したら、どうするつもりなのですか?」
僕も一緒に行くとあって、兄様は父様が発した言葉に信じられないという声で返す。だが、父様は視線を逸らさず、真剣な表情で言った。
「その時は、他人の空似として押し通す」
何とも無謀な行動だと思う。でも、父様が勝算のない博けに出るはずがない。そう頭では分かっているのに、胸の奥には不安が広がっていく。ふと見ると、母様も先ほどまでの怒りを忘れたように、不安げな表情を浮かべていた。だから、本当に大丈夫なのかと兄様のほうを見るけれど、兄様の表情も決して明るいものではなかった。
「……私も、付いて行ってもよろしいでしょうか?」
僕達だけを行かせるのが不安なのだろう。兄様は提案した。すると、少しの沈黙の後、父様は何かを考えるように間を置いてから、妥協するように答えた。
「……付き添いに徹するというのなら、良いだろう」
「分かりました」
兄様がすぐに承諾すると、父様は一瞬だけ、断ってほしかったと言いたげな残念そうな顔をした。だが、すぐに気を取り直し、表情を引き締める。
「それでは、明日にでも行こう。こういうことは、早めに片付けた方がいい」
父様はそう言って話を終わらせた。でも、僕の胸には不安が少し残る。それでも、僕のルークス行きは、静かに決まった。
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