落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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五章

町に戻れば

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悩んでも良い言い訳が直ぐに思い浮かぶはずがなく、段々と考える事を放棄したくなるまでになって来ると、誰かが僕の方を軽く叩いた。そちらの方をゆっくり振り返ると、何故か知ったかぶったような顔をしているティがいた。

「咄嗟に出た言い訳なんて役に立たないもんよ。それに、こういうのは無理に考えたって思い付かないんだから、一度落ち着いた方のが良いのよ」

どこか年長者のように諭すように言う様子はティらしくなかったけれど、その言葉には度重なる経験から来る深みのようなものがある気がした。ティの態度には違和感はあるものの、今の現実から目を背けたいのもあって、僕はその話しに乗る事にした。そうすると、さっき聞けなかった事を聞く余裕が出てきた。

「そういえば、どうして僕達は契約出来たの?」

「私に聞かないで、そっちの無駄に年取ってる方に聞きなさいよ」

「無駄にとは酷くないかのう…?じゃが、それも何時もの事じゃからのう」

僕が尋ねれば大人ぶった仮面を早々に取り払い、失礼な物言いでお爺さんの方を指を指す。だけど、そんなティにも怒る様子もなく、孫を見つめる祖父みたいにティの言葉も軽く流していた。その後、ロウさんが落ち着いているのを確認するようにもう一度そちらへと視線を向けてから、顎髭を右手で軽く撫でながら僕の方へと視線を向けた。

「さて、どうして契約出来たかじゃったが、此処から南の空に目には見えんが空間に穴が開いてあって、その下に住む者達がその穴を使って異界のものを召喚しては共に暮らしておるのは知っておるか?」

「穴は知らないけど、一緒に暮らしてるのは知ってるよ…?」

その国に暮らしていても知らなかった事実を聞かされ、とりあえず知っている事だけ答えれば、僕に確認するように聞いて来たお爺さんは、それでも満足そうに頷いた。

「穴は人には感じられんからのう。それについて知らんでも仕方ないことじゃて。まぁ、空に落とし穴でもあると思おてくれれば良い。そして、その穴から時に異世界の物が落ちてくることがあるんじゃが、その時にお主達のような魂も一緒に落ちてくる事もあるのじゃよ」

例え話を交えながらそう言うと、僕達の事を見ているようで、全く別の物を見ているような視線を向けてくる。まるで異質のモノであるかのような視線に少し恐怖を感じながらも、僕は強がるように問い返す。

「それが何か関係あるの?」

「そもそも、あの国の者達が扉を開けられるのは、穴から影響を受けて魂が多少変異しておるからなんじゃよ。じゃが、その扉を開けるには相当の負荷が掛かってしまっての。じゃから、開けられるのも人生で一度くらいなんじゃが、お主達のようにその穴から落ちて来た魂は総じて空間を超える時に傷付いておるからのう。無意識に身を守ろうとして扉が開けられんのじゃ。じゃが、魂はこの世界に属しておらんからこの世界に属する者となら契約できるんじゃよ。まぁ、召喚獣から契約を申し出るようなものかのう?」

「その魂は違うままなの?」

「そんな事はないぞ。傷も自然と回復して行くように、魂も次第にこの世界に馴染んでゆく。周囲から影響はそれだけ大きいという事じゃ。まぁ、人だけでなく、魔物もその影響で姿が変異しておるみたいじゃがのう」

お爺さんの言葉に安堵していると、何とも楽しげに言った最後の内容に、僕は身を固くする。

「その影響で変異してたの?魔物がそのまま落ちてくるとかじゃなくて?」

「長年生きておるが、そんな話しは聞いた事がないのう。おそらく空間を越える負荷に耐えきれず肉体は消滅しまうのではないかのう?もしかすると、中にはそこで死んでこの世界に新たに生まれ変わった人間もいるのかもしれんが、さすがに人が魔物が変異する事はないから大丈夫じゃて」

僕の不安に思った事を的確に見抜いて、安心するように言ってくるけれど、穏やかそうな顔と声色で怖いことをさらりと言ってのけるせいで、もう最初に合った時とは違った印象になっていた。他の2人もそうだけど、精霊ってそういう人しかいないんだろうかと思いながらも、こんな所で僕の国に特殊な魔物が多い理由を知るとは思わなかった。

「それ以外に影響とかってあるの?」

「さぁのう。ワシも詳しく調べたわけではないからのう。一度興味本位で調べようと思うた事もあったのじゃが、周囲に止められてしまってのう」

僕の質問に残念そうにしながら呟くけれど、そんな声に反応したように、背後から冷めた声が返ってくる。

「注意力が欠除した人が調べたところで、何も分からないまま穴向こうに落ちて終わるだけだ」

「そうですよ。もし戻って来れなくなったとしても、誰も追いかけて行きませんから」

「お主等、もう少しワシに優しくしてくれても罰は当たらんと思うんじゃが…」

「日頃の行いのせいだろ」

「尊敬できる人なら、ちゃんと追いかけて付いて行きますよ」

お供の人達に容赦なく突き放され、酷く落ち込んだ様子に、僕は本人達に聞こえないよう、そっとティへと問い掛けた。

「そんなに言うほど酷いの?」

「酷いなんてものじゃないわよ!私までとばちり食ったんだから!」

僕が尋ねれば、ティはまるで指折り数えるようにその人とあった例を話してくれた。

「私が悪戯で驚かしたらそのまま沼に落ちたんだけど、その時に上がった水しぶきとかでお互いが泥だらけになったり!よろめいて近くの気に軽くぶつかったと思ったら木に蜂の巣があってその後追いかけられて大変だったし!コイツの肩に乗ってたら木に積もった雪が大量に落ちて来て潰された時もあったわよ!ちょうどアイツ等が側にいたから掘り起こして貰ったけど、気付かれなかったら春まで下敷きにでもなるかと思ったわよ!」

少し同情出来る部分はあるけれど、ティは何処に行っても似たような目にあっているようだった。でも、注意力とかの前に、それだけ聞くとただ不運なだけのような気もする。だけど、ティが声を抑える気がなかったから、こっちの話しは相手に筒抜けになっていて、ティに続くように言葉を繋ぐ。

「普段から何もない所でもよく転び、前を見ずに考え事をしては崖から落ちた事もある」

「暇つぶしに読みたいと言われた本を町まで買いに行かされましたが、読みかけまま外に置き忘れられ、雨でズタボロになった所を発見されました。そのせいで、もう一度町まで買いに行かされた事もありましたよ。全く、面倒な」

「ほんとう…申し訳ないのう…」

次々に出てくる不満や愚痴の数々に、どこか抜けていると言っていた言葉は嘘ではないようだった。

「それで?お前等は何時帰るんだ?」

面目なさそうに謝罪するお爺さんに視線を向けながらも、何時までも帰らないでいる僕達に、さっさと帰れとでもいうように言葉を投げ付けてくる。僕も速く帰らないといけないのは分かっているけれど、せめて言い訳が思い付くまでは帰りたくはない。

「日が暮れるまでには帰るつもりだけど…」

「何を言っている?もう夕刻だぞ?」

「えっ?さっきまで昼で…それに1、2時間って…?」

「私が起きてた時間はそれくらいよ…」

怪訝そうな声に返事を返しながら、そんなわけがないと横を向けば、僕とはいっさい目を合わせないようにしているティが、小さく呟くように答えた。途中で寝ていたと馬車の中で言っていた事を思い出した僕が慌てて上を見上げば、そこから見える空は黄金色だった。てっきり高い木々に囲まれているから少し薄暗いのかと思っていたけど、かなりの時間が過ぎてしまっているようで、兄様にどれだけ心配を掛けているのかと、空を呆然と見つめていたら、そんな僕に少し気まずそうにしながらロウさんが声を掛けてきた。

「俺が原因だからな。俺の方から説明するし、ちゃんと責任も取る」

「なに?まだ自滅願望でもあるの?下手すると殺されるわよ?」

まるで兄様が無慈悲な人間のような物言いに、僕が少しムッとした視線を向けるけれど、2人はそれに気付かぬまま話しを続ける。

「コイツがいる以上、無駄に死ぬ気はもうねぇが、恥ずかしい真似も出来ねぇだろ?まぁ、いざとなったら詰め所にでも駆け込むさ」

さすがにそこまでは追って来ないだろうとでもいうように、ロウさんは少しだけ苦笑を浮かべながらおどける。その笑みは、さっきまでの自虐的な笑みと違って、どこか吹っ切れたような笑みに見えた。

「さすがにそこまでは怒られないと思うけど、僕がロウさんの忠告を聞かなかったのもあるから、僕も一緒に謝るよ」

「そうだな。お前、俺の忠告を完全に無視してたもんな」

「無視してたわけじゃないよ…」

「ようはお前も鈍臭いってことだな」

「……」

理解が追いつかなかっただけだと伝えれば、意地悪そうな笑みを浮かべながら、僕をからかうような事を言ってきた。ようやく本心から笑ってはくれたロウさんを前に、何か言い訳を再び考えようとしていたら、こういう事に慣れてそうなティが名案でも思い付いたように言った。

「ねぇ、宿を抜け出した事はどうにもならないけど、その後の事はコイツが一緒に戻らなきゃバレないんじゃない?そうすれば、怒られる事が一つ減るでしょう?」

「それ…問題を先送りにしてるだけだろ…」

「先よりも、まずは今でしょう!?」

「うーん…?それは…そうかも…?」

ティの言う通り、紋は契約した方にしか現れないため、僕が今回の事を何も言わなければ、とりあえず今怒られる事はない。でも、兄様を欺くのには少し罪悪感はある。だけど、ロウさんの事も含めて色々と説明したりお願いしたい事があるから、この件は別の頃合いを見てから話す事にした方が良いかなと、唸り声を上げながら考え込んでいると、それを肯定と取ったようだった。

「話しはまとまったか?なら、さっさと帰れ」

別れの挨拶も何もなく、これで終わりだとでもいうように手を振ると、此処に来た時と同じ様に景色が覆われて、兄様と一緒にやって来た時に出て来た町が見える最初の森の入口に移動していた。だけど、町で火事でも起きているのか、その時に見た光景とはだいぶ違っていて、複数の煙が立ち昇っていた。

「火事!?兄様大丈夫かな!?」

「いや、どう考えても心配する相手間違えてるだろう…?」

「ほんとうに…予想を裏切らない奴よねぇ…」

僕が兄様の事を心配している横で、心配する意味が分からないとでもいうような顔をしたロウさんと、何処か引いたように小さく呟くティがいた。ただ一匹だけ、ロウさんが腕に抱いた子狼だけは元気そうに尻尾を振っていた。
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