落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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五章

素直には…

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目の前にある森の木々に目が向いていて気付かなかったけど、背後にあった小さなお社があったようで、僕に声を掛けてきたさっきの声の主は、そこから階段を下りてくる白髪に白い顎髭を生やしたお爺さんだったようだ。ただ、雰囲気が穏やかなだけに、その人が着ている真っ黒な着物は、その人の印象に合っていないなと思った。

「何でジジイがいる場所に移動してるのよ!?」

「わざわざ報告に戻るのが面倒だったからに決まっているだろう」

青い人の首でも締め上げそうな勢いで首元を掴むけれど、ティの身体が力が弱過ぎで効いていないだけでなく、首元に羽飾りでも付いているのかくらいにしか見えない。そのせいか、抗議の声を上げているティにも、小馬鹿にしたような態度しか取らない。そんな男の態度を諌めるように、お爺さんが声を掛けた。

「これ、キール。年上であるお前が大人気ない態度を取るものではないぞ」

「ボケたんですか?私はこれよりも年下ですよ。まぁ、誤差の範囲でしかないのうえに、精神年齢は私の方が上ですけどね」

「はぁっ!?私のこと子供扱いしてんじゃないわよ!!私の事を馬鹿にしてんの!?」

「すみませんが、イセリア様が口を出しても余計な火種しか上がらないので、少し黙ってて貰えますか?」

喧嘩していた2人からだけじゃなく、第三者からも厳しい反論が返ってきたせいで、しょんぼとした肩を落としながら項垂れてしまった。見た目が好好爺といった感じの雰囲気だけに、その姿があまりにも可哀想に見えてしまい、周囲の反応が冷たすぎるように感じる。

「えっと…元気出して下さい…?」

「お主は小さいのに心配りが出来る優しい子だのう。小奴らにも少しで良いから見習って欲しいのう」

「何言ってるんですか?しっかりと敬称を付けて呼んで上げているんですから、十分優しいではないですか?」

「グレイの言う通りだ。俺達が寛容だから支えているだけで、そうでなければとっくに見捨ててる」

「まぁ、それはそうでしょうね」

僕が励ましの声を掛ければ、まるで最初から示し合わせていたかのように息があった調子で、3人で辛辣な言葉を口にする。その様子は、さっきまで喧嘩していたんじゃないの?と聞きたくなるほどだったけど、そんな普段の様子に近い空気が流れているせいか、自然と気も緩んでくる。

「なんか、緊張感がなくなるね」

「いや…お前もアイツ等と大して変わりないからな…」

この状況に順応している僕も普通じゃないとでもいうように、一歩引いたような顔をしていた。だけど、一人だけ右往左往しているのも馬鹿らしくなったのか、気を取り戻したように此処へ運んだ人へと声を掛ける。

「アンタに一つ聞きたいんだが?」

「何だ?」

「此処はさっき居た森と同じなんだよな?」

「そうだ」

「それなら、俺達がさっきまでいた場所はどっちだ?」

「あっちだ」

「そうか。なら、俺は戻るわ」

目線もろくに合わせず、嫌そうにしながらも簡潔にだけ答えていた青い人が左手で右の方を指し示せば、ロウさんは僕に一声掛けてからそちらへと歩き出する。だけど、その行動が理解出来ないとでもいうように、答えた方は渋い顔をしながらこちらを向いた。

「何故戻る?今戻った所で、お前がコイツを逃がしたと連中に疑われて罰を受けるだけだろう?」

「ねぇ、それって不味いんじゃないの?」

「だろうな。裏切り者扱いされて始末されてもおかしくないだろうな」

「はぁっ!?何よそれ!そんなの不味いなんてものじゃないでしょう!?止めときなさいって!!」

「そうだよ!戻らない方が良いよ!」

危険な場所に行こうとしているロウさんをティと一緒になって必死に止めるけれど、それに苦笑を浮かべながら答えた。

「そういうわけにはいかねぇよ。俺が戻らねぇと、仕事先とかに迷惑を掛けるからな」

「あぁ、確かにお前を炙り出すために、親類縁者や親しい人間に手を出しそうな連中だったからな」

「そんなの…!」

兄様達に頼めば何とかしてくれると言い掛けた時、僕よりも速くのんびりとした声が上がった。

「なんじゃ?そんな連中がいるのか?どれ、ワシが少し行って懲らしめて来ようかのう」

「ミイラ取りがミイラになって終わりだ」

「面倒なんでじっとしてて下さいよ」

「アンタって、本当に信用ないのね?」

「真顔で言わんでくれんかのう…」

ロウさんが真剣な話しをしているのに、他の面々は緊張感の欠片もない様子で話しをしており、ロウさんはその隙にそっとこの場を後にしようとしていた。だけど、そんなロウさんの後ろ姿が見え、呼び止めるようにしてさっき言えなかった事を伝える。

「戻らなくても、兄様達があんな人達直ぐに捕まえてくれるから大丈夫だよ!」

「お前、状況を分かっているか?俺はお前の父親が拘束される原因を作った連中の一味だぞ?そんな俺を助ける理由が何処にある?」

「それは…」

どこか自分の事を蔑んでいるように言うロウさんを直ぐに否定したかったけど、父様が静かに怒っている時の様子も知ってしまっただけに、その言葉が出てこない。だけど、悪い人じゃないと分かっているだけに、あの人達とこれ以上関わって欲しくはない。だから、優しい父様なら事情を話したら許してくれるんじゃないかなという淡い期待もあり、僕はロウさんへと問い掛けた。

「そういえば、あの人達に話しちゃいけない事を話しちゃったって言ってたけど、それはどんな話しだったの?」

原因になった話しさえ分かれば、父様が無理でも兄様達が何とかしてくれるんじゃないかなと尋ねれば、お前がそれを言うのかという顔をされた。

「はぁ…まぁ…聞いてるわけないか…。それなら、俺から言える事は何もない」

僕が首を傾げている様子に、ロウさんはため息を付きながら何も答えず踵を返そうとする。だけど、そんな煮え切らない態度が気にいらないのか、後ろの方で声が上がる。

「言いたい事があるならはっきり言えば良いのに、あの態度は何の?」

「不幸にでも酔いしれたいんだろ」

「あぁ、そういうお年頃ってやつか?」

「これこれ、こういうのはちゃかすものではないぞ」

何時から聞いていたのか分からないけれど、好き勝手言っている3人の事を軽く諌めると、ロウさんの方へと歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべながら声を掛けた。

「此処には人ではない者しかおらんのじゃ。せっかくじゃから、ワシ等に少し話してから行かんか?」

僕も目の前にいるけれど、人に安心感を与えるような雰囲気に絆されたのか、それとも誰かに聞いて欲しかったのかは分からないけど、ロウさんは少し躊躇いはしたけど静かに話し始めた。

「俺が魔力持ちなのは最初から隠してたわけじゃねぇから、誰が知っててもおかしくはなかったが、ある日、1人の俺の家に男がやって来て、儀式が成功した際に召喚獣を秘密裏に譲ってくれないかという話をしに来たんだ。名高い名家からの使いのようだったが、どうにも怪しい話だったから両親も最初は断る素振りを見せていた。だが、口止め料やら前金やらで出された金額に俺の両親が舞い上がちまってな…」

その時の事を思い出したのか、ロウさんの目が悲しみに揺れているようにも見える。一旦はそこで言葉を止めてしまったロウさんだったけど、そんな気持ちを振り払うように軽く首を振ると、感情押し殺し、事実だけを淡々と語るように続きを話し始めた。

「俺は納得出来なかったが、金に目がくらんだ両親が俺の話しを聞いてくれるわけもねぇし、両親が金に困ってるのは薄々気付いてたからな。それに、両親に頼み込まれたのもあって、その提案を受け入れる事にしたんだが、そんな提案を受けたからか儀式は失敗に終わってな。そのせいで、その金を当てにしていた両親からは散々責められた」

ロウさんは何でもない事のように話すけれど、僕も同じ経験をした事があるだけに、それがどれだけ辛いものだったのかが分かる。だけど、僕は慰めてくれる父様達が側にいたけど、ロウさんはそんな人がいないどころか、その事をその人達に責められるなんて、どれほど辛かったのか僕には想像も出来ない。

「暫くして、その使いの者がもう必要なくなったと追加の口止め料を置いて行った後は黙ったが、その金で豪遊する両親の姿を見て、もう一緒には暮らせないと思ってな。だから、学院では寮暮らしをして、卒業してからも一度も帰省しなかった。毎日生きるのに必死で、その事を忘れられてたんだが、その家の奴が何の苦労も知らなそうに楽しそうにしてるの見てたら苛ついてな。そんなもんは逆恨みだってのは分かってたが、人の人生狂わせるきっかけを作った奴だって思ったらどうにも腹の虫が収まらなくてな。そんな時、評判のアイツ等が店に来たから、その事と話しを持ちかけて来た相手の事を話しちまったんだよ。今となっては、相手は選べよって話しだったんだが、そこまで余裕なくてな。それに、取引相手の方には、俺が話した事は知られているし、ソイツが強い権力を持っている分、裏で店とかに報復でもされたらたまらねぇから、自分がやった事の尻拭いは自分でするさ。こんな人間だから、儀式は失敗して当然だったのかもな」

悲壮感を感じるような覚悟を決めているかのようなロウさんを前に、僕は真剣な顔で聞いていたけれど、後ろで聞いていた人達は興味なさそうだった。

「ようはただの嫉妬だろう。それに、お前が死んだ所で相手が手を緩めるとも限らないんだ。お前の行動は自己満足でしかない」

「キール。もう少し口を慎め。泣かれでもしたら面倒だろう?」

「あのねぇ。アンタ達には親身になって上げようっていう優しさはないわけ?」

「人間相手にそんなものあるわけないだろう」

「俺もそこまでの必要性は感じないな」

「だったら私がアンタ達に思いやりって言葉を教えて上げるわよ!!」

無神経な事を言う2人に食って掛かるティを心の中で応援していると、他の2人とは違ってロウさんの目の前で真剣に話しを聞いていた人が、その会話を聞いて何かを確認するように問い掛けた。

「何じゃ?ようは召喚獣が欲しかったというのか?」

「そういうわけじゃ…いや…まぁ…」

論点がズレているように感じるけれど、その問い事態は間違ってはいないだけに、ロウさんも否定する事が出来ないようだった。だけど、その返事さを聞くと、何故か不思議そうに首を傾げた。

「そこまで深く考えんでも、ちょうどそこに懐いている子狼がいるんじゃから、お互いの魔力さえ交換すればお前さんなら契約出来るじゃろう?」

「はぁっ?なに言って…」

「手本でも見せた方が分かりやすいかのう?お主、ちょっとこっちに来てもらえんか?」

「ぼく?」

理解出来ないとでもいうような態度を見せれば、何を勘違いしたのか手本を見せると言いながら、僕の事をちょいちょいと手招きしてくる。何となく断れる雰囲気でもなかったため、呼ばれるままゆっくりと近付けば、そんな僕の両手そっと左右から優しく包み込み、僕へと声を掛けてきた。

「すまんが、ちょいとワシに魔力を流してくれんか?それと、お主の友として側にいても良いかのう?」

「えっ?あっ、はい?」

言われた通りに魔力を流し初めていた時に、お爺さんから急な申し出を言われ、戸惑いながらも咄嗟に同意の返事を返したら、その返事を待っていたかのように相手からも魔力が流れ込んで来た。すると、見覚えのある光が相手方の右手の甲で起こり、その光が収まると見覚えのある紋が浮き出ていた。

「ほれ、簡単じゃろう?まぁ、こちらからの申し出を断られれば無理なのじゃが、その子狼の様子を見る限り大丈夫じゃろう」

驚きで唖然としている僕を置き去りに、手に現れた紋をロウさんに見せながら促すように声を掛ければ、あまりの出来事に夢でも見ているかのような顔をしていた。だけど、そんな思考回路が落ちて麻痺した中でも、お爺さんの声に促されれば、自分にも出来るだろうかと若干の不安を滲ませながらも、尻尾を左右に振りながらもお座りして待っている子狼へと向き直る。

「俺と…一緒に来てくれるか…?」

「ワン!」

躊躇いながら言ったロウさんの言葉に子狼が元気に返事を返すと、その胸元で光が起きて本当に契約が成立していた。その事をロウさんは言葉も出ない様子で喜んでいるようで、無言のまま子狼をそっと抱きしめていた。お爺さんもいい仕事をしたというように満足そうにその様子を見ており、普通なら感動的な場面なんだろうと僕も思う。だけど、自分の事で精一杯な今は、それを素直に喜べないでいた。そんな僕の気持ちを代弁するように、ティが声をかけてきた。

「アンタ、あんなジジイと契約なんかして本当に良かったの?」

「兄様は優しいし…怒られたりしないよね…?」

「さぁ、私はそんなの知らないわよ。私は関わると大変な目に合うってちゃんと注意してたし」

だだでさえ兄様に怒られそうなのに、さらに怒られそうな原因をうっかり作ってしまった僕の事を見捨てるように、ティは直ぐに自分は関係ないとでもいうような態度を見せる。そのせいで、僕は1人で頭を抱えるしかなかった。
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