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本編
第19話『入学の日-前編-』
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4月4日、木曜日。
今日は私立陽出学院高等学校の入学式の日。いよいよ高校生活がスタートする。今日の天気は快晴なので、いい高校3年間を送れそうな気がする。
「制服着ました」
「凄く似合ってるね!」
陽出学院高校の制服姿の俺を、私服姿の美優先輩が興奮気味で見ている。ちなみに、今日は入学式だけなので、新2年生と新3年生はお休みとのこと。
「あっ、ネクタイがちょっと曲がってる」
美優先輩は俺のネクタイを直してくれる。こういうことをされると、先輩が俺のお姉さんや恋人のような感じがしてくるよ。
「よし、これで大丈夫だね。陽出学院は服装に関してそこまで厳しくはないけど、きちんとしておくに越したことはないからね。それに、今日は初登校だし」
「そうですね。ありがとうございます」
「いえいえ。そうだ、スマホで写真を撮らせてくれるかな? これからたくさん制服姿を見るけど、入学記念ってことで」
「いいですよ」
美優先輩は楽しそうな様子で、俺の制服姿のスマホで撮影する。この様子だと、風花の制服姿で撮りそうだ。そういえば、風花の制服姿はどんな感じだろう? 楽しみだな。
「うん、いい写真が撮れた。後で送るね。雫さんや心愛ちゃんに送ってね」
「ありがとうございます」
家族で俺の制服姿を見たことがあるのは、制服の採寸について行った父さんだけか。この制服も3月中に実家に届いたけど、着ることはなかったな。
そういえば、心愛の中学の制服姿も見たことがない。心愛が入学する中学校は、俺がこの春に卒業した母校なので何となく想像はできるけど。今日の学校が終わったら、俺の制服姿の写真を送ったときにでも見せてとメッセージを送っておくか。そんなことを考えていたら、さっき撮られた写真を美優先輩から送られてきた。
――ピンポーン。
うん? インターホンが鳴ったな。
「はーい」
美優先輩が玄関を開けると、そこにはスクールバッグを持った制服姿の風花が。陽出学院の制服のジャケットが紺色なのもあり、金髪の風花によく似合っている。
「風花ちゃん、おはよう」
「おはようございます、美優先輩。それに……由弦。この制服姿、どうですか?」
「とても似合ってるよ、風花ちゃん!」
「そうですね。よく似合ってるよ、風花」
「あ、ありがとうございます。由弦も……なかなか似合っているじゃない。高校生って感じがする」
「風花も高校生って感じがしていいよ」
「……うん」
風花は頬を赤くしながら微笑んだ。当たり前だけど、陽出学院の制服姿を見ると、風花も高校生なんだと実感する。
「ねえ、風花ちゃん。風花ちゃんの制服姿の写真を撮ってもいい?」
「いいですよ。由弦も撮りたかったら撮ってもいいけど。変なことに使わないでね」
「使わないって。じゃあ、お言葉に甘えて」
美優先輩と一緒に制服姿の風花のことをスマホで撮る。こうして写真で見てみると、風花って可愛い女の子だなと思う。
「何よ、由弦。笑っちゃって」
「制服姿の風花が可愛いなと思って」
「……そ、そう。それならいいけれど。美優先輩の制服姿を楽しみにしていたんですけど、今日はお休みなんですか?」
「うん。新2年生と新3年生は明日の始業式からスタートだから、今日はお休みだよ。今日はあけぼの荘にいたり、買い物したりするよ。私の制服姿は明日のお楽しみね」
「そうなりますね。じゃあ、明日を楽しみにしていますね。となると……今日は由弦と2人で登校するんだ」
「そうだね。陽出学院の校舎は大きいから、あけぼの荘を出発したらすぐに見えてくると思うし、多分行けると思うよ。いざとなったら、スマホの地図アプリを見ればいいし」
「そうね」
道に迷ったことも全然ないし、あけぼの荘からなら徒歩5分くらいで着くから、きっと大丈夫だろう。
「そろそろ行きましょう、由弦」
「うん」
「2人とも、気を付けていってらっしゃい。少し早いけれど、2人とも陽出学院に入学おめでとう!」
「ありがとうございます、美優先輩! 行ってきますね!」
「ありがとうございます。行ってきます、美優先輩」
俺は風花と一緒に私立陽出学院高等学校に向けてあけぼの荘を出発する。そのとき、あけぼの荘の住人のみんなが俺達に手を振り、サブロウが「にゃー」と鳴いて送り出してくれた。
「みんな送り出してくれて嬉しいな。これも由弦のおかげなんだよね、ありがとう」
「あの102号室に住んで楽しいならそれでいいよ」
「……それに、由弦とこうして一緒に行けて良かったし。あたし、ちょっと方向音痴なところもあるから。学校が近くても、ちゃんと付けるかどうか不安だったから。受験のときは伯分寺駅からの歩きだったし」
「そうだったんだ。行き先が近くても不安だよね。1人で行くのと、2人で行くのではまた違うよな」
「うん」
道に迷うかどうかはともかく、これから過ごす学校に知り合いの子と一緒に行けるのは心強い。
あけぼの荘を出発してすぐ、風花と同じ制服を着た女の子が、両親らしき人と一緒に歩いている姿が見える。俺達と同じように入学する生徒か。
「地元の子かしら。ご両親と来ているのね。ところで、由弦はご両親って入学式に来るの?」
「地方だし、明日に妹の中学の入学式があるから来ないよ。その代わりに、家族からは入学おめでとうってメッセージが来た」
「うちも同じ」
地方出身だとそういう生徒もいるか。
そんなことを話していると、陽出学院の校門が見えてきた。俺達のように陽出学院の制服を着た人達が校門を入っていく。
俺と風花も無事に陽出学院に到着し、学校の中に足を踏み入れる。ここに来るのは受験の日以来だけど、あのときとは違って晴れていて温かいので違う場所のようにも思えて。
「新入生の方ですか?」
「はい、そうです」
「そうですか。入学おめでとうございます! 胸ポケットに花飾りを付けますね」
「ありがとうございます」
生徒会の方だろうか。女子生徒に胸ポケットのあたりに花飾りを付けられる。リボンには『入学おめでとう』の文字が。そういえば、中学の卒業式にも同じようなものを付けられたな。
俺と同じように、風花も別の女子生徒から入学祝いの花飾りを付けてもらっていた。
「新入生のお二人は、あちらの第1教室棟に向かってください。そこにクラス分けの紙が貼られています。自分の名前のある教室に行ってくださいね」
「分かりました。風花、行こうか」
「うん」
俺は風花と一緒に第一教室棟に向かう。
中に入ると新入生が掲示板の前に多く集まっていた。あそこにクラス分けの紙が貼られているのかな。
掲示板の前に行くと、予想通りにクラス分けの紙が貼ってあった。1組から10組まであるのか。さすがに校舎もデカいだけある。ちなみに、9組が芸術科で、10組がスポーツ科のクラスのようだ。俺は普通科だから1組から8組のどこかにあるのか。
「たくさんのクラスがあるのね」
「そうだね。俺は普通科だけど風花は?」
「あたしも普通科よ。だから、1組から順番に探していくわ」
「俺もそうしよう」
どれどれ、1組は……ないか。あと、名前からして、男女混合であいうえお順に並んでいるのか。中学までは男女別で、男が先だったから何だか新鮮だ。
2組は……ない。3組は……。
「あった。3組だ」
「由弦も? あたしも3組だよ! 嬉しいな」
風花は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「で、でも。嬉しいのは隣人がクラスにいるのが心強いし、宿題とかを見せてもらえそうだからであって、それ以外の理由はないんだからね。勘違いしないでよね」
「ははっ、覚えておくよ。ただ、俺も嬉しいよ。隣に住んでいる子と同じクラスなのは心強いし。この1週間で風花とは少しずつ仲良くなれているから、そんな子と学校生活が送れるのはいいなって」
「……お、覚えておくわ」
風花は顔を赤くしながら、視線をちらつかせている。口元も緩んでいるし。少なくとも、俺と一緒のクラスなのが嫌だとは思っていないようで良かったよ。
風花と同じクラスになれたのは嬉しいな。楽しい高校生活の幕開けになりそうだ。
「さあ、クラスも分かったんだし、早く行きましょ!」
「そうだね」
俺は風花と一緒に1年3組の教室へと歩き出す。
私立高校だけあって、本当に綺麗な校舎だな。空間も広々としているし。さすがは東京にある私立高校だ。
「何だか、学校という概念を覆されるような感じだよね!」
「そこまで深くは考えなかったけど、中学までに比べると雰囲気が違うなって思うよ」
「だよねぇ」
階段を上って、1年3組のある4階に辿り着く。この高さでもそれなりに広い景色が見えるんだな。もっと上の階に行くとよりいい景色が見えそう。
あと、さっきから気になっていたけれど、女の子の声が結構聞こえるな。
「陽出学院で女の子の多い高校なのかな。あと、心なしか俺に視線を向けてくる女子生徒が多い気がするんだけど」
「陽出学院の男女比は分からないけど、視線が向くのは……ゆ、由弦の顔が女の子受けしやすいからじゃない? 白金先輩だって圧倒的なイケメンだって言っていたし。あたしも由弦の顔は結構いい方に入るんじゃないかなって……思ってるし……」
「そっか」
そういえば、中学に入学したときも今ほどじゃないけど、女の子に視線を向けられていたな。姉妹の友人達にかっこいいとか可愛いとか弄ばれたこともあってか、自分の顔に善し悪しついてはよく分からんのだ。
1年3組の教室に入ると、何人かの女子生徒から黄色い悲鳴を上げられる。部屋を間違えたかと思って、廊下にあるプレートを見てみると『1-3』と合っている。
黒板には『1-3のみなさん! 入学おめでとう!』というメッセージと、陽出学院の制服を着た男子と女子のイラストが描かれている。可愛らしいのでスマホで写真を撮っておこう。
「由弦。机に出席番号と名前がプリントされてる紙が貼ってある」
「じゃあ、自分の名前がある席に座るってことか」
「そうね」
何席か見てみると、どうやら出席番号順に並んでいるようだ。俺の番号は結構前だったから窓側かな。
「……ここか」
窓側の一番後ろ。ベストな席じゃないか。嬉しい気持ちの中で着席する。
「おっ、桐生由弦ってお前なのか」
俺の1つ前の席には金髪のイケメンの男子生徒が座っていた。出席番号の1つ前って確か……加藤だったかな。
「ああ、俺が桐生由弦だ。初めまして」
「初めまして。俺は加藤潤。よろしくな」
そう言って、金髪のイケメン……加藤が右手を差し出してきたので、俺は加藤と握手を交わした。そのことでまた黄色い声が。
「さっき、金髪のかわいい子と入ってきたけど、お前も彼女がいるんだな」
「彼女じゃなくて、住んでるアパートのお隣さんなんだ。俺、静岡出身で進学を機に上京してきたんだよ」
「そうだったのか。静岡からかぁ。富士山やお茶とかで有名だよな。俺は地元・伯分寺の出身で。だから、俺の恋人を含めて同じ中学出身の奴がこのクラスに何人もいるよ」
「へえ、そうなんだ。付き合っている人がいるから、お前『も』って言ったんだ」
「ああ。これも何かの運命か、桐生と一緒に来た女の子と話しているのが俺の彼女だよ」
そう言って加藤が指さす先には、赤髪のセミロングの女の子が風花と楽しそうに喋っている。
「美人な女性だね」
「ああ。美人なところも含めて自慢の彼女だよ。橋本奏っていうんだ。あとで改めて紹介するよ。ちなみに、一緒に来た子は何て言うんだ?」
「姫宮風花」
「姫宮か。何だか高貴な雰囲気のある苗字だな」
うんうん、と加藤は爽やかな笑みを浮かべながら2人のことを眺めている。
言われてみれば、確かに『姫宮』って格式高い一家に思えるな。今までの風花からはあまり感じなかったけど。
その後、加藤と連絡先を交換したところで、黒いスーツを着た女性が教室の中に入ってきた。高身長であることとポニーテールの黒髪が印象的で、凛とした雰囲気を持っているな。年齢は20代かな。若そうだけど。
「みなさん、入学おめでとうございます。私、1年3組の担任になった霧嶋一佳《きりしまいちか》といいます。現代文と古典を担当しています。これから1年間よろしくお願いします。この後すぐに体育館で入学式が行なわれますので、出席番号順に並んで体育館に行きましょう」
何だか、凄くキリッとしていて、厳しそうな先生だ。笑ったら凄く可愛い感じがするけど。高校という新しい場所での生活がスタートするんだし、真面目に過ごしなさいっていう神の思し召しなのかも。
その後、体育館で2019年度の入学式が行なわれるのであった。
今日は私立陽出学院高等学校の入学式の日。いよいよ高校生活がスタートする。今日の天気は快晴なので、いい高校3年間を送れそうな気がする。
「制服着ました」
「凄く似合ってるね!」
陽出学院高校の制服姿の俺を、私服姿の美優先輩が興奮気味で見ている。ちなみに、今日は入学式だけなので、新2年生と新3年生はお休みとのこと。
「あっ、ネクタイがちょっと曲がってる」
美優先輩は俺のネクタイを直してくれる。こういうことをされると、先輩が俺のお姉さんや恋人のような感じがしてくるよ。
「よし、これで大丈夫だね。陽出学院は服装に関してそこまで厳しくはないけど、きちんとしておくに越したことはないからね。それに、今日は初登校だし」
「そうですね。ありがとうございます」
「いえいえ。そうだ、スマホで写真を撮らせてくれるかな? これからたくさん制服姿を見るけど、入学記念ってことで」
「いいですよ」
美優先輩は楽しそうな様子で、俺の制服姿のスマホで撮影する。この様子だと、風花の制服姿で撮りそうだ。そういえば、風花の制服姿はどんな感じだろう? 楽しみだな。
「うん、いい写真が撮れた。後で送るね。雫さんや心愛ちゃんに送ってね」
「ありがとうございます」
家族で俺の制服姿を見たことがあるのは、制服の採寸について行った父さんだけか。この制服も3月中に実家に届いたけど、着ることはなかったな。
そういえば、心愛の中学の制服姿も見たことがない。心愛が入学する中学校は、俺がこの春に卒業した母校なので何となく想像はできるけど。今日の学校が終わったら、俺の制服姿の写真を送ったときにでも見せてとメッセージを送っておくか。そんなことを考えていたら、さっき撮られた写真を美優先輩から送られてきた。
――ピンポーン。
うん? インターホンが鳴ったな。
「はーい」
美優先輩が玄関を開けると、そこにはスクールバッグを持った制服姿の風花が。陽出学院の制服のジャケットが紺色なのもあり、金髪の風花によく似合っている。
「風花ちゃん、おはよう」
「おはようございます、美優先輩。それに……由弦。この制服姿、どうですか?」
「とても似合ってるよ、風花ちゃん!」
「そうですね。よく似合ってるよ、風花」
「あ、ありがとうございます。由弦も……なかなか似合っているじゃない。高校生って感じがする」
「風花も高校生って感じがしていいよ」
「……うん」
風花は頬を赤くしながら微笑んだ。当たり前だけど、陽出学院の制服姿を見ると、風花も高校生なんだと実感する。
「ねえ、風花ちゃん。風花ちゃんの制服姿の写真を撮ってもいい?」
「いいですよ。由弦も撮りたかったら撮ってもいいけど。変なことに使わないでね」
「使わないって。じゃあ、お言葉に甘えて」
美優先輩と一緒に制服姿の風花のことをスマホで撮る。こうして写真で見てみると、風花って可愛い女の子だなと思う。
「何よ、由弦。笑っちゃって」
「制服姿の風花が可愛いなと思って」
「……そ、そう。それならいいけれど。美優先輩の制服姿を楽しみにしていたんですけど、今日はお休みなんですか?」
「うん。新2年生と新3年生は明日の始業式からスタートだから、今日はお休みだよ。今日はあけぼの荘にいたり、買い物したりするよ。私の制服姿は明日のお楽しみね」
「そうなりますね。じゃあ、明日を楽しみにしていますね。となると……今日は由弦と2人で登校するんだ」
「そうだね。陽出学院の校舎は大きいから、あけぼの荘を出発したらすぐに見えてくると思うし、多分行けると思うよ。いざとなったら、スマホの地図アプリを見ればいいし」
「そうね」
道に迷ったことも全然ないし、あけぼの荘からなら徒歩5分くらいで着くから、きっと大丈夫だろう。
「そろそろ行きましょう、由弦」
「うん」
「2人とも、気を付けていってらっしゃい。少し早いけれど、2人とも陽出学院に入学おめでとう!」
「ありがとうございます、美優先輩! 行ってきますね!」
「ありがとうございます。行ってきます、美優先輩」
俺は風花と一緒に私立陽出学院高等学校に向けてあけぼの荘を出発する。そのとき、あけぼの荘の住人のみんなが俺達に手を振り、サブロウが「にゃー」と鳴いて送り出してくれた。
「みんな送り出してくれて嬉しいな。これも由弦のおかげなんだよね、ありがとう」
「あの102号室に住んで楽しいならそれでいいよ」
「……それに、由弦とこうして一緒に行けて良かったし。あたし、ちょっと方向音痴なところもあるから。学校が近くても、ちゃんと付けるかどうか不安だったから。受験のときは伯分寺駅からの歩きだったし」
「そうだったんだ。行き先が近くても不安だよね。1人で行くのと、2人で行くのではまた違うよな」
「うん」
道に迷うかどうかはともかく、これから過ごす学校に知り合いの子と一緒に行けるのは心強い。
あけぼの荘を出発してすぐ、風花と同じ制服を着た女の子が、両親らしき人と一緒に歩いている姿が見える。俺達と同じように入学する生徒か。
「地元の子かしら。ご両親と来ているのね。ところで、由弦はご両親って入学式に来るの?」
「地方だし、明日に妹の中学の入学式があるから来ないよ。その代わりに、家族からは入学おめでとうってメッセージが来た」
「うちも同じ」
地方出身だとそういう生徒もいるか。
そんなことを話していると、陽出学院の校門が見えてきた。俺達のように陽出学院の制服を着た人達が校門を入っていく。
俺と風花も無事に陽出学院に到着し、学校の中に足を踏み入れる。ここに来るのは受験の日以来だけど、あのときとは違って晴れていて温かいので違う場所のようにも思えて。
「新入生の方ですか?」
「はい、そうです」
「そうですか。入学おめでとうございます! 胸ポケットに花飾りを付けますね」
「ありがとうございます」
生徒会の方だろうか。女子生徒に胸ポケットのあたりに花飾りを付けられる。リボンには『入学おめでとう』の文字が。そういえば、中学の卒業式にも同じようなものを付けられたな。
俺と同じように、風花も別の女子生徒から入学祝いの花飾りを付けてもらっていた。
「新入生のお二人は、あちらの第1教室棟に向かってください。そこにクラス分けの紙が貼られています。自分の名前のある教室に行ってくださいね」
「分かりました。風花、行こうか」
「うん」
俺は風花と一緒に第一教室棟に向かう。
中に入ると新入生が掲示板の前に多く集まっていた。あそこにクラス分けの紙が貼られているのかな。
掲示板の前に行くと、予想通りにクラス分けの紙が貼ってあった。1組から10組まであるのか。さすがに校舎もデカいだけある。ちなみに、9組が芸術科で、10組がスポーツ科のクラスのようだ。俺は普通科だから1組から8組のどこかにあるのか。
「たくさんのクラスがあるのね」
「そうだね。俺は普通科だけど風花は?」
「あたしも普通科よ。だから、1組から順番に探していくわ」
「俺もそうしよう」
どれどれ、1組は……ないか。あと、名前からして、男女混合であいうえお順に並んでいるのか。中学までは男女別で、男が先だったから何だか新鮮だ。
2組は……ない。3組は……。
「あった。3組だ」
「由弦も? あたしも3組だよ! 嬉しいな」
風花は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「で、でも。嬉しいのは隣人がクラスにいるのが心強いし、宿題とかを見せてもらえそうだからであって、それ以外の理由はないんだからね。勘違いしないでよね」
「ははっ、覚えておくよ。ただ、俺も嬉しいよ。隣に住んでいる子と同じクラスなのは心強いし。この1週間で風花とは少しずつ仲良くなれているから、そんな子と学校生活が送れるのはいいなって」
「……お、覚えておくわ」
風花は顔を赤くしながら、視線をちらつかせている。口元も緩んでいるし。少なくとも、俺と一緒のクラスなのが嫌だとは思っていないようで良かったよ。
風花と同じクラスになれたのは嬉しいな。楽しい高校生活の幕開けになりそうだ。
「さあ、クラスも分かったんだし、早く行きましょ!」
「そうだね」
俺は風花と一緒に1年3組の教室へと歩き出す。
私立高校だけあって、本当に綺麗な校舎だな。空間も広々としているし。さすがは東京にある私立高校だ。
「何だか、学校という概念を覆されるような感じだよね!」
「そこまで深くは考えなかったけど、中学までに比べると雰囲気が違うなって思うよ」
「だよねぇ」
階段を上って、1年3組のある4階に辿り着く。この高さでもそれなりに広い景色が見えるんだな。もっと上の階に行くとよりいい景色が見えそう。
あと、さっきから気になっていたけれど、女の子の声が結構聞こえるな。
「陽出学院で女の子の多い高校なのかな。あと、心なしか俺に視線を向けてくる女子生徒が多い気がするんだけど」
「陽出学院の男女比は分からないけど、視線が向くのは……ゆ、由弦の顔が女の子受けしやすいからじゃない? 白金先輩だって圧倒的なイケメンだって言っていたし。あたしも由弦の顔は結構いい方に入るんじゃないかなって……思ってるし……」
「そっか」
そういえば、中学に入学したときも今ほどじゃないけど、女の子に視線を向けられていたな。姉妹の友人達にかっこいいとか可愛いとか弄ばれたこともあってか、自分の顔に善し悪しついてはよく分からんのだ。
1年3組の教室に入ると、何人かの女子生徒から黄色い悲鳴を上げられる。部屋を間違えたかと思って、廊下にあるプレートを見てみると『1-3』と合っている。
黒板には『1-3のみなさん! 入学おめでとう!』というメッセージと、陽出学院の制服を着た男子と女子のイラストが描かれている。可愛らしいのでスマホで写真を撮っておこう。
「由弦。机に出席番号と名前がプリントされてる紙が貼ってある」
「じゃあ、自分の名前がある席に座るってことか」
「そうね」
何席か見てみると、どうやら出席番号順に並んでいるようだ。俺の番号は結構前だったから窓側かな。
「……ここか」
窓側の一番後ろ。ベストな席じゃないか。嬉しい気持ちの中で着席する。
「おっ、桐生由弦ってお前なのか」
俺の1つ前の席には金髪のイケメンの男子生徒が座っていた。出席番号の1つ前って確か……加藤だったかな。
「ああ、俺が桐生由弦だ。初めまして」
「初めまして。俺は加藤潤。よろしくな」
そう言って、金髪のイケメン……加藤が右手を差し出してきたので、俺は加藤と握手を交わした。そのことでまた黄色い声が。
「さっき、金髪のかわいい子と入ってきたけど、お前も彼女がいるんだな」
「彼女じゃなくて、住んでるアパートのお隣さんなんだ。俺、静岡出身で進学を機に上京してきたんだよ」
「そうだったのか。静岡からかぁ。富士山やお茶とかで有名だよな。俺は地元・伯分寺の出身で。だから、俺の恋人を含めて同じ中学出身の奴がこのクラスに何人もいるよ」
「へえ、そうなんだ。付き合っている人がいるから、お前『も』って言ったんだ」
「ああ。これも何かの運命か、桐生と一緒に来た女の子と話しているのが俺の彼女だよ」
そう言って加藤が指さす先には、赤髪のセミロングの女の子が風花と楽しそうに喋っている。
「美人な女性だね」
「ああ。美人なところも含めて自慢の彼女だよ。橋本奏っていうんだ。あとで改めて紹介するよ。ちなみに、一緒に来た子は何て言うんだ?」
「姫宮風花」
「姫宮か。何だか高貴な雰囲気のある苗字だな」
うんうん、と加藤は爽やかな笑みを浮かべながら2人のことを眺めている。
言われてみれば、確かに『姫宮』って格式高い一家に思えるな。今までの風花からはあまり感じなかったけど。
その後、加藤と連絡先を交換したところで、黒いスーツを着た女性が教室の中に入ってきた。高身長であることとポニーテールの黒髪が印象的で、凛とした雰囲気を持っているな。年齢は20代かな。若そうだけど。
「みなさん、入学おめでとうございます。私、1年3組の担任になった霧嶋一佳《きりしまいちか》といいます。現代文と古典を担当しています。これから1年間よろしくお願いします。この後すぐに体育館で入学式が行なわれますので、出席番号順に並んで体育館に行きましょう」
何だか、凄くキリッとしていて、厳しそうな先生だ。笑ったら凄く可愛い感じがするけど。高校という新しい場所での生活がスタートするんだし、真面目に過ごしなさいっていう神の思し召しなのかも。
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購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
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