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本編
第2話『私ハココニ在リ』
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夕食後から寝るまでの時間が平日の中では一番好きだ。今日は色々なことがあったのでよりそう思う。
「よし、これで終わり」
ただ、明日提出しないといけない課題がいくつもある日は嫌だな。課題なんか多く出したところで、それを終わらせることが目標になってしまって、知識があまり入らないんじゃないかと思う。もちろん、人によるだろうけど。
――コンコン。
「はーい」
返事をすると、ゆっくりと部屋の扉が開く。すると、俺の姉・麻実がひょっこりと顔を出す。
「お風呂湧いたって。どうする? 玲人から入る?」
「姉さんから入っていいよ」
「うん、分かった。じゃあ、お姉ちゃんから入るね。……久しぶりに一緒に入る?」
「ごめん、今日は1人でゆっくりと入りたい気分なんだ」
旅先の混浴風呂なら入ったと思うけれど。
4歳上の大学生の姉さんとは、昔、よく一緒にお風呂に入っていた。お風呂だけじゃなくて、小さい頃は姉さんと一緒にいることが多かったな。ベッタリすることもあったので、姉さんはブラコンだったのだろうか。
「そっか。こここに引っ越してきてからまだ一度も入っていないから、そろそろ入りたいなって思っていたんだけれど」
姉さんは1年前の大学進学を機に、大学近くのアパートに引っ越して1人暮らしをしていた。
ただ、俺の高校進学をきっかけに、先月の終わり頃、家族でこの月野市に引っ越してきた。ここからなら、姉の通っている多摩中央大学まで小一時間で行くことができるので、再び家族4人で暮らし始めることになったのだ。
「ごめんね、姉さん」
「ううん、いいよ。今日だけしか入れないわけじゃないんだから。じゃあ、先に入るね」
「うん、ごゆっくり」
姉さんはゆっくりと扉を閉めた。
課題も終わって、ようやくゆっくりとした時間を過ごせるような気がする。公園で猫と戯れ、銀髪の女性と話したときもリラックスはできたけれど。1人でゆっくりとする時間は必要だよね。
――プルルッ。
うん、スマートフォンが鳴っているな。
確認してみると、知らない番号が表示されている。セールスかと思ったけれど、番号からして携帯かスマートフォンだな。
「出なくていいか」
間違い電話かもしれないし、無視しよう。
ちょっとしたら呼び出しが鳴り止んだ。俺が出ないから観念したのかな。
――プルルッ。
すると、さっきと同じ番号から電話がかかってきた。もしかしたら、間違いだとは気付かずに、電話に出ないことに怒っているのかも。ここは穏便に間違いであることを知らせた方がいいな。
俺は知らぬ番号からの電話に出ることに。
「もしもし」
『……どうして無視するのよ』
「もしかして、その声って……」
まさか……如月会長なのか?
『そう、あなたのことが大好きな生徒会長の如月沙奈だよ!』
「……そうですか。おやすみなさい」
俺の方から通話を切った。
会長の声を聞いたとき、息が詰まったよ。あと、どうして如月会長が俺のスマートフォンの番号を知っているのだろうか。
――プルルッ。
また会長から電話か。
「しつこいですよ」
『だって、玲人君ともっと話したいんだもん! あと、放課後はよくも私のことを騙してくれたね! 私、あれから10分も、目を瞑りながら玲人君に抱きしめられたり、素敵なことをされたりするのを待っていたんだから!』
「そうでしたか。騙したことについては申し訳なく思っています」
俺は1分待ってほしいと言ったのに。10分も目を瞑ってじっと待っていたなんて。可愛いところもあるじゃないか。人の言うことを簡単に信じ込んでしまうタイプなのかも。
『私、凄く怒っているんだよ! 許してほしかったら、色々としてくれないとね』
「俺にも非があるのは認めますが、会長だって俺のことを睡眠薬で眠らせて、ロープで拘束して。人のことはあまり言えないんじゃないですか」
『……あうっ』
生徒会室にいたときには思わなかったけれど、真っ向から反論すれば如月会長も分かってくれる人なのかもしれない。
『玲人君に強引なことをしちゃったとは思ったよ。でもね、私を騙したことは許さないんだからね!』
「……そうですか。じゃあ、おやすみなさい。もう電話は二度と掛けないでくださいね」
『えっ、そ、そん――』
再び、俺の方から通話を切った。
もう如月会長とは関わりたくはないから、明日からは学校で気を付けないと。また縛られるかもしれないし。
――プルルッ。
二度と掛けるなって言ったのに。
『二度と掛けるなって言わないでよ!』
「……いい加減にしてください」
三度、僕の方から通話を切り、今の電話番号については着信拒否設定にした。ショートメッセージ、SNSについても同様に。
「これで大丈夫かな」
少なくとも学校外では如月会長と関わらずに済むだろう。
それにしても、会長は俺のスマートフォンの番号をどうやって知ったんだろう。俺、高校に友達はいないから、誰にも教えていないはずだけど。
「……ちょっと待てよ」
そういえば、入学してすぐに家庭調査票を提出したな。そこにはスマートフォンの電話番号を書く欄があったはず。彼女は生徒会長だ。彼女なら職員に上手く言って、俺の調査票を入手しているかもしれない。
――ピーンポーン。
家のインターホンが鳴る。まさか、なぁ。
部屋の窓から外の様子をそっと見てみる。宅配便のトラックもなければ、郵便のバイクも見当たらない。
「きっと、回覧板だ」
お隣さん、きっと仕事から帰ってきて、今になってうちに回しに来たんだ。きっとそうだ。どうかそうであってくれ。
「玲人、生徒会長さんが玲人に会いたいんだってー。玄関にいるからねー」
母さんから大きな声でそう言われる。
あの如月会長のことだ。ここで俺が拒んだら言葉巧みに家に上がってきて居座ってしまう可能性もある。最悪、俺の部屋に踏み入れることだってあり得る。
「分かった、すぐ行く」
しょうがない、直接会ってさっさと追い返そう。
部屋を出て1階に降りると、母さんがニヤニヤした顔で俺のことを見てくる。
「良かったわ。生徒会長さんがこんなにも玲人のことを気に掛けてくれて。あの様子だと、玲人のことが好きなんじゃないかしら」
ふふっ、と母さんは楽しげに話す。会長め、母さんに何を話したんだ。
玄関を開けると、そこには制服姿の如月会長が笑顔で立っていた。嬉しそうに手を振っている。
2人きりで話した方がいいと思い、俺は外に出た。
「玲人君のお母さん、とても綺麗で可愛らしいね。一目見たとき、私、ちょっと嫉妬しちゃったもん」
「人の母親に嫉妬しないでくれませんか」
そういえば、前に母さんと姉さんと3人で出かけていたら、年の離れた3人姉弟ですかって訊かれたことがあったっけ。きっと、綺麗で可愛いと会長に言われたから、母さんはあんなに機嫌が良かったんだろうな。
「それで、わざわざ俺の家まで来て何の用ですか?」
「何をとぼけているの? ……生徒会室で君から抱きしめてもらえなかったからだよ。それに、大好きな玲人君の私服姿も見たくて」
――カシャ。
気付けば、会長にスマートフォンで写真を撮られていた。会長、嬉しそうにスマホの画面を見ている。今撮った写真を何に使われるんだろう。
「ほら、写真撮影も済んだんですから、とっとと帰ってください」
「冷たいこと言わないでよ。あれから生徒会の仕事を1人で全部やって、玲人君のスマホの番号と家の住所を知るために、家庭調査票を先生に見せてもらったりして大変だったんだから!」
やっぱり、家庭調査票から番号を知ったのか。こういうのを職権乱用と言うんじゃないだろうか。あと、学校側の生徒の個人情報管理もまずいのでは。
「それはそれはご苦労様でした。気を付けてお帰りください。じゃあ、おやすみなさい」
「ええ、せっかく来たのに何もないなんて。それはないんじゃないかなぁ……」
如月会長はしょんぼりとした表情になる。彼女を騙して生徒会室を後にしたのは事実なので段々と心苦しくなってきた。
「……しょうがないですね」
俺は如月会長の額に軽くキスをした。
「生徒会室で会長を騙したことのお詫びと、会長が生徒会の仕事を頑張ったご褒美です。お願いですから、今日はもう家に帰ってください」
額にキスなんて本当はやりたくなかったけれど、今の会長にはこれが一番効くと思って。
暗いけれど、如月会長の顔が段々と顔を赤くしていくのが分かる。
「……ありがとう。玲人君のことがもっと好きになったよ。今日はいい夢が見られそう」
「見ることができればいいですね」
俺は悪夢を見そうな気がして不安だ。
「じゃあ、また明日ね!」
予想通り、会長は嬉しそうな様子ですぐに帰っていった。
また明日ねって言われてしまったけれど、学校で会ったら適当にあしらえばいいか。もしかしたら、キスしたのは失敗だったのかも。
何だか、今のことでどっと疲れてしまった。姉さんが風呂から出たら、俺もすぐに入って今日は早く寝よう。
「よし、これで終わり」
ただ、明日提出しないといけない課題がいくつもある日は嫌だな。課題なんか多く出したところで、それを終わらせることが目標になってしまって、知識があまり入らないんじゃないかと思う。もちろん、人によるだろうけど。
――コンコン。
「はーい」
返事をすると、ゆっくりと部屋の扉が開く。すると、俺の姉・麻実がひょっこりと顔を出す。
「お風呂湧いたって。どうする? 玲人から入る?」
「姉さんから入っていいよ」
「うん、分かった。じゃあ、お姉ちゃんから入るね。……久しぶりに一緒に入る?」
「ごめん、今日は1人でゆっくりと入りたい気分なんだ」
旅先の混浴風呂なら入ったと思うけれど。
4歳上の大学生の姉さんとは、昔、よく一緒にお風呂に入っていた。お風呂だけじゃなくて、小さい頃は姉さんと一緒にいることが多かったな。ベッタリすることもあったので、姉さんはブラコンだったのだろうか。
「そっか。こここに引っ越してきてからまだ一度も入っていないから、そろそろ入りたいなって思っていたんだけれど」
姉さんは1年前の大学進学を機に、大学近くのアパートに引っ越して1人暮らしをしていた。
ただ、俺の高校進学をきっかけに、先月の終わり頃、家族でこの月野市に引っ越してきた。ここからなら、姉の通っている多摩中央大学まで小一時間で行くことができるので、再び家族4人で暮らし始めることになったのだ。
「ごめんね、姉さん」
「ううん、いいよ。今日だけしか入れないわけじゃないんだから。じゃあ、先に入るね」
「うん、ごゆっくり」
姉さんはゆっくりと扉を閉めた。
課題も終わって、ようやくゆっくりとした時間を過ごせるような気がする。公園で猫と戯れ、銀髪の女性と話したときもリラックスはできたけれど。1人でゆっくりとする時間は必要だよね。
――プルルッ。
うん、スマートフォンが鳴っているな。
確認してみると、知らない番号が表示されている。セールスかと思ったけれど、番号からして携帯かスマートフォンだな。
「出なくていいか」
間違い電話かもしれないし、無視しよう。
ちょっとしたら呼び出しが鳴り止んだ。俺が出ないから観念したのかな。
――プルルッ。
すると、さっきと同じ番号から電話がかかってきた。もしかしたら、間違いだとは気付かずに、電話に出ないことに怒っているのかも。ここは穏便に間違いであることを知らせた方がいいな。
俺は知らぬ番号からの電話に出ることに。
「もしもし」
『……どうして無視するのよ』
「もしかして、その声って……」
まさか……如月会長なのか?
『そう、あなたのことが大好きな生徒会長の如月沙奈だよ!』
「……そうですか。おやすみなさい」
俺の方から通話を切った。
会長の声を聞いたとき、息が詰まったよ。あと、どうして如月会長が俺のスマートフォンの番号を知っているのだろうか。
――プルルッ。
また会長から電話か。
「しつこいですよ」
『だって、玲人君ともっと話したいんだもん! あと、放課後はよくも私のことを騙してくれたね! 私、あれから10分も、目を瞑りながら玲人君に抱きしめられたり、素敵なことをされたりするのを待っていたんだから!』
「そうでしたか。騙したことについては申し訳なく思っています」
俺は1分待ってほしいと言ったのに。10分も目を瞑ってじっと待っていたなんて。可愛いところもあるじゃないか。人の言うことを簡単に信じ込んでしまうタイプなのかも。
『私、凄く怒っているんだよ! 許してほしかったら、色々としてくれないとね』
「俺にも非があるのは認めますが、会長だって俺のことを睡眠薬で眠らせて、ロープで拘束して。人のことはあまり言えないんじゃないですか」
『……あうっ』
生徒会室にいたときには思わなかったけれど、真っ向から反論すれば如月会長も分かってくれる人なのかもしれない。
『玲人君に強引なことをしちゃったとは思ったよ。でもね、私を騙したことは許さないんだからね!』
「……そうですか。じゃあ、おやすみなさい。もう電話は二度と掛けないでくださいね」
『えっ、そ、そん――』
再び、俺の方から通話を切った。
もう如月会長とは関わりたくはないから、明日からは学校で気を付けないと。また縛られるかもしれないし。
――プルルッ。
二度と掛けるなって言ったのに。
『二度と掛けるなって言わないでよ!』
「……いい加減にしてください」
三度、僕の方から通話を切り、今の電話番号については着信拒否設定にした。ショートメッセージ、SNSについても同様に。
「これで大丈夫かな」
少なくとも学校外では如月会長と関わらずに済むだろう。
それにしても、会長は俺のスマートフォンの番号をどうやって知ったんだろう。俺、高校に友達はいないから、誰にも教えていないはずだけど。
「……ちょっと待てよ」
そういえば、入学してすぐに家庭調査票を提出したな。そこにはスマートフォンの電話番号を書く欄があったはず。彼女は生徒会長だ。彼女なら職員に上手く言って、俺の調査票を入手しているかもしれない。
――ピーンポーン。
家のインターホンが鳴る。まさか、なぁ。
部屋の窓から外の様子をそっと見てみる。宅配便のトラックもなければ、郵便のバイクも見当たらない。
「きっと、回覧板だ」
お隣さん、きっと仕事から帰ってきて、今になってうちに回しに来たんだ。きっとそうだ。どうかそうであってくれ。
「玲人、生徒会長さんが玲人に会いたいんだってー。玄関にいるからねー」
母さんから大きな声でそう言われる。
あの如月会長のことだ。ここで俺が拒んだら言葉巧みに家に上がってきて居座ってしまう可能性もある。最悪、俺の部屋に踏み入れることだってあり得る。
「分かった、すぐ行く」
しょうがない、直接会ってさっさと追い返そう。
部屋を出て1階に降りると、母さんがニヤニヤした顔で俺のことを見てくる。
「良かったわ。生徒会長さんがこんなにも玲人のことを気に掛けてくれて。あの様子だと、玲人のことが好きなんじゃないかしら」
ふふっ、と母さんは楽しげに話す。会長め、母さんに何を話したんだ。
玄関を開けると、そこには制服姿の如月会長が笑顔で立っていた。嬉しそうに手を振っている。
2人きりで話した方がいいと思い、俺は外に出た。
「玲人君のお母さん、とても綺麗で可愛らしいね。一目見たとき、私、ちょっと嫉妬しちゃったもん」
「人の母親に嫉妬しないでくれませんか」
そういえば、前に母さんと姉さんと3人で出かけていたら、年の離れた3人姉弟ですかって訊かれたことがあったっけ。きっと、綺麗で可愛いと会長に言われたから、母さんはあんなに機嫌が良かったんだろうな。
「それで、わざわざ俺の家まで来て何の用ですか?」
「何をとぼけているの? ……生徒会室で君から抱きしめてもらえなかったからだよ。それに、大好きな玲人君の私服姿も見たくて」
――カシャ。
気付けば、会長にスマートフォンで写真を撮られていた。会長、嬉しそうにスマホの画面を見ている。今撮った写真を何に使われるんだろう。
「ほら、写真撮影も済んだんですから、とっとと帰ってください」
「冷たいこと言わないでよ。あれから生徒会の仕事を1人で全部やって、玲人君のスマホの番号と家の住所を知るために、家庭調査票を先生に見せてもらったりして大変だったんだから!」
やっぱり、家庭調査票から番号を知ったのか。こういうのを職権乱用と言うんじゃないだろうか。あと、学校側の生徒の個人情報管理もまずいのでは。
「それはそれはご苦労様でした。気を付けてお帰りください。じゃあ、おやすみなさい」
「ええ、せっかく来たのに何もないなんて。それはないんじゃないかなぁ……」
如月会長はしょんぼりとした表情になる。彼女を騙して生徒会室を後にしたのは事実なので段々と心苦しくなってきた。
「……しょうがないですね」
俺は如月会長の額に軽くキスをした。
「生徒会室で会長を騙したことのお詫びと、会長が生徒会の仕事を頑張ったご褒美です。お願いですから、今日はもう家に帰ってください」
額にキスなんて本当はやりたくなかったけれど、今の会長にはこれが一番効くと思って。
暗いけれど、如月会長の顔が段々と顔を赤くしていくのが分かる。
「……ありがとう。玲人君のことがもっと好きになったよ。今日はいい夢が見られそう」
「見ることができればいいですね」
俺は悪夢を見そうな気がして不安だ。
「じゃあ、また明日ね!」
予想通り、会長は嬉しそうな様子ですぐに帰っていった。
また明日ねって言われてしまったけれど、学校で会ったら適当にあしらえばいいか。もしかしたら、キスしたのは失敗だったのかも。
何だか、今のことでどっと疲れてしまった。姉さんが風呂から出たら、俺もすぐに入って今日は早く寝よう。
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