桜庭かなめ

文字の大きさ
3 / 118
本編

第2話『私ハココニ在リ』

しおりを挟む
 夕食後から寝るまでの時間が平日の中では一番好きだ。今日は色々なことがあったのでよりそう思う。

「よし、これで終わり」

 ただ、明日提出しないといけない課題がいくつもある日は嫌だな。課題なんか多く出したところで、それを終わらせることが目標になってしまって、知識があまり入らないんじゃないかと思う。もちろん、人によるだろうけど。

 ――コンコン。

「はーい」

 返事をすると、ゆっくりと部屋の扉が開く。すると、俺の姉・麻実あさみがひょっこりと顔を出す。

「お風呂湧いたって。どうする? 玲人から入る?」
「姉さんから入っていいよ」
「うん、分かった。じゃあ、お姉ちゃんから入るね。……久しぶりに一緒に入る?」
「ごめん、今日は1人でゆっくりと入りたい気分なんだ」

 旅先の混浴風呂なら入ったと思うけれど。 
 4歳上の大学生の姉さんとは、昔、よく一緒にお風呂に入っていた。お風呂だけじゃなくて、小さい頃は姉さんと一緒にいることが多かったな。ベッタリすることもあったので、姉さんはブラコンだったのだろうか。

「そっか。こここに引っ越してきてからまだ一度も入っていないから、そろそろ入りたいなって思っていたんだけれど」

 姉さんは1年前の大学進学を機に、大学近くのアパートに引っ越して1人暮らしをしていた。
 ただ、俺の高校進学をきっかけに、先月の終わり頃、家族でこの月野市に引っ越してきた。ここからなら、姉の通っている多摩中央大学まで小一時間で行くことができるので、再び家族4人で暮らし始めることになったのだ。

「ごめんね、姉さん」
「ううん、いいよ。今日だけしか入れないわけじゃないんだから。じゃあ、先に入るね」
「うん、ごゆっくり」

 姉さんはゆっくりと扉を閉めた。
 課題も終わって、ようやくゆっくりとした時間を過ごせるような気がする。公園で猫と戯れ、銀髪の女性と話したときもリラックスはできたけれど。1人でゆっくりとする時間は必要だよね。
 ――プルルッ。
 うん、スマートフォンが鳴っているな。
 確認してみると、知らない番号が表示されている。セールスかと思ったけれど、番号からして携帯かスマートフォンだな。

「出なくていいか」

 間違い電話かもしれないし、無視しよう。
 ちょっとしたら呼び出しが鳴り止んだ。俺が出ないから観念したのかな。
 ――プルルッ。
 すると、さっきと同じ番号から電話がかかってきた。もしかしたら、間違いだとは気付かずに、電話に出ないことに怒っているのかも。ここは穏便に間違いであることを知らせた方がいいな。
 俺は知らぬ番号からの電話に出ることに。

「もしもし」
『……どうして無視するのよ』
「もしかして、その声って……」

 まさか……如月会長なのか?

『そう、あなたのことが大好きな生徒会長の如月沙奈だよ!』
「……そうですか。おやすみなさい」

 俺の方から通話を切った。
 会長の声を聞いたとき、息が詰まったよ。あと、どうして如月会長が俺のスマートフォンの番号を知っているのだろうか。
 ――プルルッ。
 また会長から電話か。

「しつこいですよ」
『だって、玲人君ともっと話したいんだもん! あと、放課後はよくも私のことを騙してくれたね! 私、あれから10分も、目を瞑りながら玲人君に抱きしめられたり、素敵なことをされたりするのを待っていたんだから!』
「そうでしたか。騙したことについては申し訳なく思っています」

 俺は1分待ってほしいと言ったのに。10分も目を瞑ってじっと待っていたなんて。可愛いところもあるじゃないか。人の言うことを簡単に信じ込んでしまうタイプなのかも。

『私、凄く怒っているんだよ! 許してほしかったら、色々としてくれないとね』
「俺にも非があるのは認めますが、会長だって俺のことを睡眠薬で眠らせて、ロープで拘束して。人のことはあまり言えないんじゃないですか」
『……あうっ』

 生徒会室にいたときには思わなかったけれど、真っ向から反論すれば如月会長も分かってくれる人なのかもしれない。

『玲人君に強引なことをしちゃったとは思ったよ。でもね、私を騙したことは許さないんだからね!』
「……そうですか。じゃあ、おやすみなさい。もう電話は二度と掛けないでくださいね」
『えっ、そ、そん――』

 再び、俺の方から通話を切った。
 もう如月会長とは関わりたくはないから、明日からは学校で気を付けないと。また縛られるかもしれないし。
 ――プルルッ。
 二度と掛けるなって言ったのに。

『二度と掛けるなって言わないでよ!』
「……いい加減にしてください」

 三度、僕の方から通話を切り、今の電話番号については着信拒否設定にした。ショートメッセージ、SNSについても同様に。

「これで大丈夫かな」

 少なくとも学校外では如月会長と関わらずに済むだろう。
 それにしても、会長は俺のスマートフォンの番号をどうやって知ったんだろう。俺、高校に友達はいないから、誰にも教えていないはずだけど。

「……ちょっと待てよ」

 そういえば、入学してすぐに家庭調査票を提出したな。そこにはスマートフォンの電話番号を書く欄があったはず。彼女は生徒会長だ。彼女なら職員に上手く言って、俺の調査票を入手しているかもしれない。
 ――ピーンポーン。
 家のインターホンが鳴る。まさか、なぁ。
 部屋の窓から外の様子をそっと見てみる。宅配便のトラックもなければ、郵便のバイクも見当たらない。

「きっと、回覧板だ」

 お隣さん、きっと仕事から帰ってきて、今になってうちに回しに来たんだ。きっとそうだ。どうかそうであってくれ。

「玲人、生徒会長さんが玲人に会いたいんだってー。玄関にいるからねー」

 母さんから大きな声でそう言われる。
 あの如月会長のことだ。ここで俺が拒んだら言葉巧みに家に上がってきて居座ってしまう可能性もある。最悪、俺の部屋に踏み入れることだってあり得る。

「分かった、すぐ行く」

 しょうがない、直接会ってさっさと追い返そう。
 部屋を出て1階に降りると、母さんがニヤニヤした顔で俺のことを見てくる。

「良かったわ。生徒会長さんがこんなにも玲人のことを気に掛けてくれて。あの様子だと、玲人のことが好きなんじゃないかしら」

 ふふっ、と母さんは楽しげに話す。会長め、母さんに何を話したんだ。
 玄関を開けると、そこには制服姿の如月会長が笑顔で立っていた。嬉しそうに手を振っている。
 2人きりで話した方がいいと思い、俺は外に出た。

「玲人君のお母さん、とても綺麗で可愛らしいね。一目見たとき、私、ちょっと嫉妬しちゃったもん」
「人の母親に嫉妬しないでくれませんか」

 そういえば、前に母さんと姉さんと3人で出かけていたら、年の離れた3人姉弟ですかって訊かれたことがあったっけ。きっと、綺麗で可愛いと会長に言われたから、母さんはあんなに機嫌が良かったんだろうな。

「それで、わざわざ俺の家まで来て何の用ですか?」
「何をとぼけているの? ……生徒会室で君から抱きしめてもらえなかったからだよ。それに、大好きな玲人君の私服姿も見たくて」

 ――カシャ。

 気付けば、会長にスマートフォンで写真を撮られていた。会長、嬉しそうにスマホの画面を見ている。今撮った写真を何に使われるんだろう。

「ほら、写真撮影も済んだんですから、とっとと帰ってください」
「冷たいこと言わないでよ。あれから生徒会の仕事を1人で全部やって、玲人君のスマホの番号と家の住所を知るために、家庭調査票を先生に見せてもらったりして大変だったんだから!」

 やっぱり、家庭調査票から番号を知ったのか。こういうのを職権乱用と言うんじゃないだろうか。あと、学校側の生徒の個人情報管理もまずいのでは。

「それはそれはご苦労様でした。気を付けてお帰りください。じゃあ、おやすみなさい」
「ええ、せっかく来たのに何もないなんて。それはないんじゃないかなぁ……」

 如月会長はしょんぼりとした表情になる。彼女を騙して生徒会室を後にしたのは事実なので段々と心苦しくなってきた。

「……しょうがないですね」

 俺は如月会長の額に軽くキスをした。

「生徒会室で会長を騙したことのお詫びと、会長が生徒会の仕事を頑張ったご褒美です。お願いですから、今日はもう家に帰ってください」

 額にキスなんて本当はやりたくなかったけれど、今の会長にはこれが一番効くと思って。
 暗いけれど、如月会長の顔が段々と顔を赤くしていくのが分かる。

「……ありがとう。玲人君のことがもっと好きになったよ。今日はいい夢が見られそう」
「見ることができればいいですね」

 俺は悪夢を見そうな気がして不安だ。

「じゃあ、また明日ね!」

 予想通り、会長は嬉しそうな様子ですぐに帰っていった。
 また明日ねって言われてしまったけれど、学校で会ったら適当にあしらえばいいか。もしかしたら、キスしたのは失敗だったのかも。
 何だか、今のことでどっと疲れてしまった。姉さんが風呂から出たら、俺もすぐに入って今日は早く寝よう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...