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本編
第1話『茜空の下の銀髪』
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生徒会室から抜け出すことに成功した俺は、素早く校舎を後にして、校舎が見えなくなるところまで全速力で走る。如月会長はスポーツも得意な女子生徒らしいので、油断したらすぐに連れ戻されてしまうと思って。
「いたっ!」
全力で走ってしまったせいか、先週、色々とあってケガをした腰が痛み始めた。思わず立ち止まってしまう。
「まあ、ここまで来れば大丈夫か。それにしても痛いな……」
ここ何日かは痛みなんて感じなかったのに。きっと、全力で走ったことで腰に響いてしまったのだろう。
「そこの公園で休むか」
学校まで徒歩で登校しており、行き帰りにいつも通っている大きな公園がある。そこにはいくつかベンチがあるので、そこで休憩してから家に帰ろう。
しっかし、歩くだけでも腰に響くな。すぐそこにある公園の入り口がとても遠く感じてしまう。
やっとの思いで公園に到着し、俺はゆっくりとベンチに腰を下ろした。とりあえず、ここまで来れば如月会長が追いかけてくることはないだろう。
「はあっ……」
生徒会室であんなことがあったからか、今日は凄く疲れた。まだ月曜日だからか、今週乗り切れるかどうか不安になってきた。
それにしても、如月会長はどうして、俺のことをロープで縛り付けるなんてことをしたんだろう。俺のことが大好きらしいけれど。ちなみに、彼女が束縛の強い女性であるという話は聞いたことがない。
「にゃおー」
気付けば、俺の横には茶トラ模様の猫が座っていた。パッチリとした丸い目で俺のことを見つめてくる。
「ほら、ここに座れ」
「にゃーん」
俺が膝元を叩くと、茶トラ猫は素直に俺の脚の上に乗ってきた。
「いい子だね」
「にゃぉん」
頭から背中にかけてゆっくりと撫でる。毛が柔らかくて気持ちいいな。学校であんなことがあったからかとても癒される。
「でも、お前を助けたときに負った怪我が痛むんだよ……」
実はこの野良猫、先週、今くらいの時間にここに立ち寄ったときに助けた猫なのだ。この公園の中にある一番大きな木に登っていたけれど、降りられなくなってしまっていた。
そこで俺が木に登って茶トラ猫を抱きしめることはできたけど、その際に脚が滑り地面に落下したことで腰を強打してしまったのだ。
「もう高いところまで登るんじゃないぞ」
「にゃー」
そう鳴いて、猫は俺の脚の上でゴロゴロし始める。猫は大好きなので、こういう動きがたまらない。放課後にはこういったまったりとした時間を過ごしたい。
「あら、可愛い猫ちゃんですね」
透明感のある声でそんな言葉が聞こえてきた。
顔を上げると、目の前にゴシック調の黒いワンピースを着た女性が立っていた。俺と同い年かちょっと年上くらいだろうか。夕陽に照らされているので、一瞬、髪が茜色っぽく見えるけれど……よく見ると銀髪だ。
「そんなに見つめられると、何だか照れてしまいますね」
「ごめんなさい。あなたのような雰囲気の女性はなかなかいないので、つい」
「ふふっ、そうですか」
彼女の笑顔を見て、如月会長とは違う美しさと可愛らしさを持った人だと思った。
「隣、失礼しますね」
「はい」
「ありがとうございます」
そう言うと、銀髪の女性は俺の隣に座る。それにしても、今日は初めて話す女性によく絡まれる日だ。
「あの、この猫を抱いてみますか?」
「いいんですか?」
「ええ。人懐っこいので大丈夫だと思います」
茶トラ猫が彼女を傷つけるような行為をしないよう注意しないと。
俺はそっと銀髪の女性の膝元に茶トラ猫を動かしてみる。
「にゃーん」
あれ、可愛く泣いちゃって。心なしか、俺の膝元にいるときよりもくつろいでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「あら、あなたの言うように本当に人懐っこい猫ちゃんですね」
よしよし、と銀髪の女性は嬉しそうに茶トラ猫の頭を撫でる。何だか絵になる光景だ。
「こうしていると、段々と気持ちが安らいでいきますね」
「俺もですよ」
「ただ、さすがにこの猫ちゃんは、あなたの膝の上にいるときの方がリラックスしているように見えます。あたしだと緊張するのかな」
「俺にはとてもくつろいでいるように見えますが」
「ふふっ、そうだといいですね」
銀髪の女性はそっと茶トラ猫のことを抱きしめる。そのときの彼女はとても幸せそうな笑みを浮かべていて。同じ幸せそうな笑みでも、如月会長のときよりも微笑ましく思えるのはなぜだろうか。きっと、束縛されるようなことがなければ、会長の笑顔も素敵だと思えただろう。
「あの、この猫ちゃんはあなたが飼っているのですか?」
「いえ、つい最近……そこの木から降りられなくなったところを助けたんですよ。それからはいつも学校から帰るときにこうして戯れていて。最近できた友達と言えばいいんですかね。猫なので変かもしれませんが」
「そんなことありません。とても素敵だと思いますよ。あたしも最近できたお友達がいて。そのお友達は人なのですが、彼女と一緒にいると、ちょっとしたドキドキと癒しが同時に感じられるんですよね」
「あぁ、その感覚は俺も分かります。この猫と会うと可愛いなってドキドキして、同時に癒されて」
茶トラ猫にとっても、俺と一緒にいると少しでも気持ちのいい時間が送ることができているといいな。
「ふふっ、そうですか。猫ちゃん、ありがとうございました」
銀髪の女性から茶トラ猫を受け取る。この柔らかさと温もりはいいな。
そういえば、如月会長も俺のことを抱きしめたときに温かくていいなと言っていたっけ。こういう感じだったのかな。
「きっと大丈夫ですよ」
「えっ?」
「あたしが話しかける前、何だか寂しそうな感じがしましたので。ただ、今みたいな笑顔を見せれば、きっと人間のお友達もすぐにできるんじゃないでしょうか」
「……そうですかね」
独りでいることに負い目を感じてはいないつもりだけれど、気付かないうちに寂しさを募らせていたのかな。
「あっ、そろそろあたし……行かないと。楽しかったです。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「それでは、失礼します」
銀髪の女性はそう言うとゆっくりとベンチから立ち上がって、俺にお辞儀をし、静かに公園から立ち去っていった。
「何だか、不思議な雰囲気を持った人だったな」
顔立ちも服装も日本っぽくはないので外国の方かと思ったら、普通に日本語を喋っていたし。茶トラ猫のおかげかもしれないけれど、初対面とは思えないくらいに自然体で話すことができた。
「……こういう風に話せれば、友達もできるのかもしれないな」
銀髪の女性はすぐに友達ができると言っていたけれど、俺は別に月野学園で人間の友達を作りたいとは思わないんだ。
「にゃーん」
「……本当に可愛いな」
痛みを伴ったきっかけだけれど、この茶トラ猫とこうして仲良く一緒に過ごすことができることに幸せを感じる。もう少し、この静かな時間を過ごすことにしよう。
「いたっ!」
全力で走ってしまったせいか、先週、色々とあってケガをした腰が痛み始めた。思わず立ち止まってしまう。
「まあ、ここまで来れば大丈夫か。それにしても痛いな……」
ここ何日かは痛みなんて感じなかったのに。きっと、全力で走ったことで腰に響いてしまったのだろう。
「そこの公園で休むか」
学校まで徒歩で登校しており、行き帰りにいつも通っている大きな公園がある。そこにはいくつかベンチがあるので、そこで休憩してから家に帰ろう。
しっかし、歩くだけでも腰に響くな。すぐそこにある公園の入り口がとても遠く感じてしまう。
やっとの思いで公園に到着し、俺はゆっくりとベンチに腰を下ろした。とりあえず、ここまで来れば如月会長が追いかけてくることはないだろう。
「はあっ……」
生徒会室であんなことがあったからか、今日は凄く疲れた。まだ月曜日だからか、今週乗り切れるかどうか不安になってきた。
それにしても、如月会長はどうして、俺のことをロープで縛り付けるなんてことをしたんだろう。俺のことが大好きらしいけれど。ちなみに、彼女が束縛の強い女性であるという話は聞いたことがない。
「にゃおー」
気付けば、俺の横には茶トラ模様の猫が座っていた。パッチリとした丸い目で俺のことを見つめてくる。
「ほら、ここに座れ」
「にゃーん」
俺が膝元を叩くと、茶トラ猫は素直に俺の脚の上に乗ってきた。
「いい子だね」
「にゃぉん」
頭から背中にかけてゆっくりと撫でる。毛が柔らかくて気持ちいいな。学校であんなことがあったからかとても癒される。
「でも、お前を助けたときに負った怪我が痛むんだよ……」
実はこの野良猫、先週、今くらいの時間にここに立ち寄ったときに助けた猫なのだ。この公園の中にある一番大きな木に登っていたけれど、降りられなくなってしまっていた。
そこで俺が木に登って茶トラ猫を抱きしめることはできたけど、その際に脚が滑り地面に落下したことで腰を強打してしまったのだ。
「もう高いところまで登るんじゃないぞ」
「にゃー」
そう鳴いて、猫は俺の脚の上でゴロゴロし始める。猫は大好きなので、こういう動きがたまらない。放課後にはこういったまったりとした時間を過ごしたい。
「あら、可愛い猫ちゃんですね」
透明感のある声でそんな言葉が聞こえてきた。
顔を上げると、目の前にゴシック調の黒いワンピースを着た女性が立っていた。俺と同い年かちょっと年上くらいだろうか。夕陽に照らされているので、一瞬、髪が茜色っぽく見えるけれど……よく見ると銀髪だ。
「そんなに見つめられると、何だか照れてしまいますね」
「ごめんなさい。あなたのような雰囲気の女性はなかなかいないので、つい」
「ふふっ、そうですか」
彼女の笑顔を見て、如月会長とは違う美しさと可愛らしさを持った人だと思った。
「隣、失礼しますね」
「はい」
「ありがとうございます」
そう言うと、銀髪の女性は俺の隣に座る。それにしても、今日は初めて話す女性によく絡まれる日だ。
「あの、この猫を抱いてみますか?」
「いいんですか?」
「ええ。人懐っこいので大丈夫だと思います」
茶トラ猫が彼女を傷つけるような行為をしないよう注意しないと。
俺はそっと銀髪の女性の膝元に茶トラ猫を動かしてみる。
「にゃーん」
あれ、可愛く泣いちゃって。心なしか、俺の膝元にいるときよりもくつろいでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「あら、あなたの言うように本当に人懐っこい猫ちゃんですね」
よしよし、と銀髪の女性は嬉しそうに茶トラ猫の頭を撫でる。何だか絵になる光景だ。
「こうしていると、段々と気持ちが安らいでいきますね」
「俺もですよ」
「ただ、さすがにこの猫ちゃんは、あなたの膝の上にいるときの方がリラックスしているように見えます。あたしだと緊張するのかな」
「俺にはとてもくつろいでいるように見えますが」
「ふふっ、そうだといいですね」
銀髪の女性はそっと茶トラ猫のことを抱きしめる。そのときの彼女はとても幸せそうな笑みを浮かべていて。同じ幸せそうな笑みでも、如月会長のときよりも微笑ましく思えるのはなぜだろうか。きっと、束縛されるようなことがなければ、会長の笑顔も素敵だと思えただろう。
「あの、この猫ちゃんはあなたが飼っているのですか?」
「いえ、つい最近……そこの木から降りられなくなったところを助けたんですよ。それからはいつも学校から帰るときにこうして戯れていて。最近できた友達と言えばいいんですかね。猫なので変かもしれませんが」
「そんなことありません。とても素敵だと思いますよ。あたしも最近できたお友達がいて。そのお友達は人なのですが、彼女と一緒にいると、ちょっとしたドキドキと癒しが同時に感じられるんですよね」
「あぁ、その感覚は俺も分かります。この猫と会うと可愛いなってドキドキして、同時に癒されて」
茶トラ猫にとっても、俺と一緒にいると少しでも気持ちのいい時間が送ることができているといいな。
「ふふっ、そうですか。猫ちゃん、ありがとうございました」
銀髪の女性から茶トラ猫を受け取る。この柔らかさと温もりはいいな。
そういえば、如月会長も俺のことを抱きしめたときに温かくていいなと言っていたっけ。こういう感じだったのかな。
「きっと大丈夫ですよ」
「えっ?」
「あたしが話しかける前、何だか寂しそうな感じがしましたので。ただ、今みたいな笑顔を見せれば、きっと人間のお友達もすぐにできるんじゃないでしょうか」
「……そうですかね」
独りでいることに負い目を感じてはいないつもりだけれど、気付かないうちに寂しさを募らせていたのかな。
「あっ、そろそろあたし……行かないと。楽しかったです。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「それでは、失礼します」
銀髪の女性はそう言うとゆっくりとベンチから立ち上がって、俺にお辞儀をし、静かに公園から立ち去っていった。
「何だか、不思議な雰囲気を持った人だったな」
顔立ちも服装も日本っぽくはないので外国の方かと思ったら、普通に日本語を喋っていたし。茶トラ猫のおかげかもしれないけれど、初対面とは思えないくらいに自然体で話すことができた。
「……こういう風に話せれば、友達もできるのかもしれないな」
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