桜庭かなめ

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本編

第13話『ニャーピッド』

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 松風先生の緊急参加があったけれど、緊急にやらないといけない仕事が入ってくることもなかったので、歓迎会は終始楽しいものになった。
 後片付けをして俺達は下校することになったけど、俺のことが好きになったきっかけを話したからか、公園まででいいので一緒に帰りたいと沙奈会長は駄々をこねた。

「仕方ないですね。それじゃ、公園まで行きましょうか」
「うん!」

 俺は沙奈会長と一緒に学校を後にする。そういえば、こうして会長と一緒に歩くのは初めてだな。

「一緒に下校するのって初めてだよね」
「そうですね」

 勝手に家まで来られたことはあったけれど。

「そういえば、沙奈会長。公園に行ったら、俺が助けた猫を通じて友達になった女性がいるかもしれません」

 結構日が傾いているけれど、アリスさんいるかな。

「……友人の女性ですって?」

 すると、沙奈会長は正面に回り込んで、強く肩を掴まれる。口元では笑っているけれど真剣な目をしている。思い返せば、アリスさんのことは今まで話していなかったな。

「家族や親戚以外での異性間で、友情って成り立つものなのかしら?」
「……人によりけりじゃないですか。俺は可能性があると思っていますよ」

 アリスさんがどう思っているかは分からないけれど、俺はあの茶トラ猫を通じてアリスさんと友達になったと思っている。綺麗で可愛らしい女性だと思うけど、恋愛感情のようなものは抱いていない。

「じゃあ、副会長さんが俺に男性として興味を持っていると思っているんですか?」
「……ううん、思っていないよ」

 そこは断言できるのか。ただ、沙奈会長と副会長さんは信頼し合っているようだし、万が一のことがあっても、副会長さんなら沙奈会長に相談しそうだ。

「それで、玲人君のお友達の女性ってどういう人なの?」
「そうですね……外国の方ですね。とても遠い国から来たそうで。あと、銀髪がとても綺麗な方で、アリスというお名前です。でも、日本語はとても上手なので、何だか不思議な雰囲気を持っている方です」
「銀髪……アリス……」

 すると、沙奈会長は黙って何やら考え事をしているようだ。もしかして、アリスさんのことを知っているのかな。

「会長」
「えっ?」

 俺の声がけに驚いたのか、会長は体をビクつかせ、見開いた目で俺のことを見てきた。

「あ、ああ……私の知り合いに銀髪の女の子がいてね。一瞬、その子のことかなって思ったの。でも、彼女の名前はエリスだったわ」
「そうですか」

 名前が似ている友人のことを思い出していたのか。茶髪や金髪の外国人はテレビでも観たことがあるけれど、生来の髪が銀色の人も意外と多いのかな。

「でも、そのアリスさんっていう人がいたら、玲人君のことを守らなきゃ」

 そう言って、沙奈会長は俺と腕を絡ませてくる。守らなきゃ……って、会ったことのないアリスさんに悪いイメージを抱くなんて失礼じゃないか。

「アリスさんは大人しい方ですから、きっと大丈夫ですって」
「そういう人が意外と強敵だったりするんだよ。それに、もしかしたら……私よりもその子の方が玲人君の好みかもしれないし」

 沙奈会長は不機嫌そうに頬を膨らませる。
 好みかどうかはともかく、好感度はアリスさんの方が会長よりも断然上かな。それを言ったら痛い目に遭いそうなので心に留めておくけれど。

「とにかく、公園に行ってみましょう」
「……うん」

 俺は沙奈会長と一緒に公園に行ってみる。
 小学生くらいの男の子達がサッカーをして遊んでいる。まさか、ここであの茶トラ猫を助けたときの様子を沙奈会長が見ていたとは。

「思い出すな、あの日のこと。ノラ猫を助けたのってあの大きな木だったよね」
「そうですね」

 会長が指さす先には、この公園で一番高い木があった。
 あの日、結構上のところにいた茶トラ猫が怯えながら鳴いていたので、俺が木に登って助けたのだ。ただ、木から落ちるっていうオチだけれども。
 いつものベンチには……猫はいるけれど、アリスさんの姿はない。

「いつも、あそこのベンチに座ってアリスさんと話したり、俺が助けたあの猫と戯れたりするんです」
「へえ、そうなの。今は猫が寝ているだけで誰もいないわね」
「そうですね。アリスさんはいる日といない日があるんです」
「……そうなのねぇ」

 沙奈会長、アリスさんがいないからかとても嬉しそう。
 ベンチに行くと、俺達の足音に気付いたのか茶トラ猫が起きて、

「にゃおーん」

 と、俺達のことを見て鳴いた。

「近くで見るととても可愛い猫ね」
「でしょう? お前はいつもそこにいるなぁ」

 茶トラ猫のことを抱き上げて、俺は沙奈会長と隣り合うようにしてベンチに座る。その際、茶トラ猫を俺の膝の上に置くことに。

「にゃーん」
「玲人君に懐いているのね」
「そう……だといいですね。自分の膝の上で気持ち良く眠っている姿はとても可愛いですよ」
「そうなの。羨ましいなぁ」

 その羨ましいっていうのは、猫が自分の膝の上で気持ちよく眠っていることについてなのか。それとも、俺の膝の上で眠っていることについてなのか。

「私も猫だったら、玲人君に可愛がってもらえたのかな」

 さすがは沙奈会長。後者の方だったか。

「でも、猫を可愛がっている今の玲人君の顔……あの日と同じ。そんな玲人君に一目惚れして、それからずっと玲人君のことが好きなんだよ」
「……そうですか」
「ふふっ、この猫ちゃんが私達のキューピッドなのかもね」

 縛ったり、家に押しかけたり、告示の紙を作ったりすることがなければ、今の笑顔でアリスさんよりも好感度が上がっていたかもしれない。そのくらいに今の沙奈会長の笑顔は素敵だった。

「会長も猫を触ってみますか?」
「うん」

 沙奈会長は茶トラ猫の頭を撫でるけれど、

「ウウウ……」

 茶トラ猫が低い声で唸り始めた。こんな反応を見るのは初めてだ。

「……きっと、私よりも玲人君の方がいいのね。そりゃあ、助けてくれた人に懐くよね」
「きっと、猫にも色々とあるのでしょう」

 もしかしたら、沙奈会長の内面を見抜いたのかもしれない。あと、アリスさんにはよく懐いていたということは黙っておこう。

「にゃあん」
「ははっ、可愛いなぁ。よしよし」

 茶トラ頭だけでなく体全体を撫でる。毛が柔らかくて気持ちいいな。

「にゃー」

 あれ? こいつ以外の猫が近くにいるのかな。綺麗な鳴き声が聞こえる。

「にゃーにゃー」

 ブレザーの袖を引っ張られたので、沙奈会長の方を向いてみると、そこには猫耳カチューシャを付けた会長が上目遣いをして俺のことをじっと見ている。

「にゃあ」
「……会長でしたか。紛らわしいことをしないでくださいよ」

 両手を猫の手みたいにしちゃって。それも可愛いけれど、本物の猫に勝らない。

「ごろにゃあん」

 本物の方は俺の膝の上で体をゴロゴロさせてくる。お腹を見せてくるなんて、きっと俺に気を許しているんだろうな。

「にゃー! にゃあっ!」

 猫耳会長は不機嫌そうな表情をして頬を膨らませている。

「そんなに大きな声を出したら近所迷惑ですよ」
「玲人君のいじわるっ!」
「俺は事実を言っただけなんですけどね」
「ううっ……」

 会長、今にも泣きそうだ。生徒会室でも猫耳カチューシャを付けた会長に頭を撫でたのに、まだ撫でてほしいのかな。

「しょうがないですね……」

 会長の頭を優しく撫でる。その途端に彼女は笑顔に変わっていく。本当に単純な人だ。それに助かっている部分はあるけれど。

「猫に見せている笑顔を私にも見せてくれるようになると嬉しいにゃん」
「現時点でそれは難しいですね」
「本当にツンデレさんだなぁ、玲人君は。今は本物の猫がいるから、猫の方にデレていて、私にはツンとしているだけなんだよね」

 そう言う沙奈会長は俺にデレデレの模様。

「本当にポジティブな思考を持っていますよね」
「きっとそう見えるのは玲人君と一緒にいるからだよ。家にいるとき、玲人君はどうしているのかなって考えたり、玲人君がいないから寂しいなって思ったりするし。もし、遠くに離れることになったら、寂しすぎて死にたくなると思う」
「そうですか」

 それが原因で今週、俺に色々なことをしてきたのかな。そんな会長のことを一言で表すなら……ヤンデレになるのかな。

「だから、今、こうして玲人君と一緒にいるのが嬉しいんだ。ちょっとしたデートみたいな感じだし。それに、生徒会室での歓迎会も楽しかったよ。玲人君はどうだった?」
「楽しかったですよ。それに、会長や副会長さんとなら、生徒会の仕事を何とかやっていけるのかなって思っています」
「そう言ってくれて、会長としても一個人としても嬉しいよ。私も、これまで樹里先輩との2人体制でやってきて十分かなって思ったけれど、玲人君を加えて3人でやるのもいいなって思っているよ」
「俺、まだ全然仕事やってないですよ」
「それでもいいなって思ったの」
「実際に良かったと思えるように頑張りますよ」
「期待してる」

 そう言って、沙奈会長は俺の頬にキスをしてきた。頑張ってねという意味なのか。それとも、この前、額にしたキスのお返しなのか。

「えへへっ、玲人君にキスしちゃった……」

 どんな理由にせよ、沙奈会長がはしゃいでいるのでいいか。

「もう、かなり暗いですね。そろそろ俺は帰りますけど」
「玲人君にお持ち帰りされてもいいんだけどな。明日はお休みだし、今夜はたっぷりとベッドの中で玲人君との愛を――」
「さっさと自分のお家へと帰ってください」

 明日は休みなんだから、俺はゆっくりと寝たいんだよ。この1週間で溜まった疲れを少しでも取りたい。

「はいはい、帰りますよ。でも、この土日……玲人君と一緒にいたいなって思ってる。連絡するかもしれないから。またね」

 会長は手を振って、公園から立ち去っていった。
 せっかくの休日なのだから、自分の時間を過ごしたいのに。休日まで沙奈会長に付き合わなければいけない可能性があるのか。ちゃんと休めるのだろうかと一抹の不安を抱えながら、俺も家に帰るのであった。
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