21 / 118
本編
第20話『猫になりたい』
しおりを挟む
4月22日、日曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、夜が明けているからなのか部屋の中がうっすらと明るくなっていた。時計を見てみると、午前8時過ぎか。
「休日なら早いな……」
夜中に起きたときとは違って、結構いい目覚めだ。
朧気にしか覚えていないけれど、トラックに轢かれそうになったところを沙奈会長に助けてもらったり、プールで足がつって溺れそうになったところを会長に助けてもらったり……と、悪い夢になりそうなときは助けに行くという会長の言葉は本当だった。俺の夢の中なのに有言実行するなんて、さすがは会長としかいいようがない。
「はあっ、はあっ……」
沙奈会長の寝息、夜中に比べて荒いような気がする。興奮しているのかな?
会長の方を見てみると、彼女は顔を赤くして息苦しそうにしていた。まるで、俺に助けを求めるように俺の腕にしがみついている。そういえば、いつもよりも伝わってくる熱が強い気がするぞ。
「どれどれ……」
沙奈会長と額を合わせてみると……結構熱いな。生徒会の疲れが溜まって、昨日も子と歯のお見舞いに出かけたから、今日になって一気に体に影響が出ちゃったのかな。
「うん……」
額を合わせたからなのか、沙奈会長は目を覚ました。
「……おはよう、玲人君」
「おはようございます、会長」
「こんなに玲人君の顔があるってことは、もしかして……私に目覚めのキスをしてくれたのかな?」
「違いますよ。息苦しそうで顔も赤かったので、額を合わせて熱を測っただけです。熱っぽい感じがしますけど、気分はどうですか?」
「そうだね……いつも通りじゃないかも」
俺に気を遣ってなのか、沙奈会長は笑顔を見せてくれている。
「体が熱くて、息苦しくて……ちょっとクラクラするかな」
「そうですか。あと、お腹が痛かったり、気持ち悪かったりはしますか?」
「それはないかな」
お腹が痛くないだけまだ良かった。
「分かりました。もしかしたら、生徒会の仕事の疲れの影響がこのタイミングで体に表れたのかもしれませんね。とりあえず、会長はここでゆっくりと眠っていてください。俺、お粥を作ってきますから」
「ありがとう。突然泊まりに来ただけじゃなくて、看病までしてもらうことになって。迷惑掛けちゃってごめんね」
「気にしないでください」
「……もう、私の旦那さんに決定だ」
ふふっ、と会長は嬉しそうに笑った。こんなことが言えるんだから、精神的には元気なんだろうな。それが分かって安心した。
部屋着に着替え、俺は1階のキッチンに行って会長のためにお粥を作ることに。
「おはよう……って、玲人。朝から玲人がキッチンに立つなんて珍しいね」
「お粥を作っているのよ、恋人のために」
「……母さん。沙奈会長は俺のことが大好きだけれど、別に付き合ってないからね。お粥を作っているのは会長が体調を崩したからだよ」
「えっ、そうなの? 大丈夫かな。親御さんに連絡した方がいいんじゃない?」
「体調次第ではね。今日は日曜日だし、お粥を食べてゆっくりしてもらうつもりだよ。俺も今日は特に予定もないから、彼女の看病しようかなって」
それに、会長のことだから自宅に帰って寝るよりも、俺の部屋のベッドで寝た方が体調も良くなりそうだから帰りたくないって言いそうだし。
お粥を作り終わって俺の部屋に持って行こうとしたとき、姉さんが俺も一緒に朝食を食べた方がいいだろうと言ってきたので、姉さんに俺の朝食を持ってもらって俺の部屋に戻った。
「会長、お粥を作ってきましたよ」
「沙奈ちゃん、体調はどう?」
「横になっていれば楽に感じます。玲人君のベッドだからかもしれませんけど」
「ふふっ、こんなときでも可愛いこと言うね。玲人、愛されてるねぇ」
軽くても病人の前なんだから、ニヤニヤとした表情を浮かべないでくれるかな、姉さん。
お粥と俺の朝食をテーブルの上に置く。自分の部屋で朝食を食べるのはいつ以来だろう。最近は風邪引いていなかったけど。
「沙奈ちゃん、お大事にね。玲人のことを好きに使っていいから」
「ありがとうございます。今でも十分に玲人君は動いてくれていますよ」
「そっか。じゃあ、玲人。沙奈ちゃんのことをよろしくね」
「ああ、分かった」
そう言って、姉さんは俺の部屋を出ていった。
「ねえ、玲人君」
「何ですか?」
「一緒に寝たからかこのベッド……玲人君と私の匂いが混ざってる。もし、玲人君との間に子供が産まれたらこんな匂いになるのかな」
「……どうなんでしょうね」
そんな単純な足し算で子供の匂いは決まるのだろうか。それにしても、体調が良くないのに気持ちは絶好調だな。普段なら何を言っているんだと思うけど、風邪を引いているからか安心するよ。
「会長、起き上がれますか?」
「うん、何とか」
「そうですか。ちょっと待ってくださいね、テーブルをベッドの方に寄せますので」
テーブルをベッドの近くまで動かす。
沙奈会長をベッドから起こして、ベッドに寄りかかるようにして座らせる。今までふとんに被っていたからか、会長の体はかなり熱く思えた。
「大丈夫ですか、会長」
「うん、この体勢いいなぁ。……お粥、美味しそうだね」
「さっと作ったものですけどね。具合が悪くなったらまずお粥って母さんがよく言っていました。一口だけでもいいので、薬を飲むためにも食べましょう。……はい、あ~ん」
「食べさせてほしいって言おうとしたのに。さすがは玲人君」
「沙奈会長ならそう言うと思っていましたよ。ただ、今は病人なんですからこのくらいのことはしますって」
やけどをしてしまわないように、息を吹きかけてお粥を冷ましてから、沙奈会長にお粥を食べさせる。
「……美味しいよ。ほんのりと甘い気がして。まるで玲人君みたい」
何だそれ。たまに優しいとか言いたいのかな。柔らかな笑みを浮かべているから悪い意味ではないだろう。
「お口に合って良かったです。このくらいの熱さで大丈夫ですか?」
「……うん。何か元気出てきたから、自分で食べられそう。玲人君も冷めないうちにご飯食べて」
「分かりました。お粥、食べられるだけでいいですからね」
「うん」
俺も朝食を食べることに。ご飯、味噌汁、焼き鮭という和風な内容だ。まさか、会長と一緒に朝ご飯を食べるとは思わなかった。しかも、自分の部屋で食べるなんて。
「こうして一緒に朝ご飯食べていると、何だかワンルームマンションに同棲しているみたいだね」
「本当に次から次へとポジティブな妄想をしますよね」
「だって、玲人君のこと大好きだもん。それに、こういうことを考えていないとこの体調に負けちゃいそうな気がするから」
そう言って、会長は美味しそうにお粥を食べ進める。会長にとって、元気の源や心の支えが俺なんだろうな。
「今日は日曜日ですから、ここでゆっくりと休んでください。薬を飲んで眠ればきっと良くなりますって。ある程度治ったら、会長の家まで送っていきますから」
「……うん」
さすがに体調が悪いだけあってか、儚げな笑みを浮かべている。
多めに作ってしまった気がしたけれど、沙奈会長は完食してくれた。特に気持ち悪そうな様子もなさそうだ。そんな彼女に風邪薬を飲ませて、再びベッドに寝かせる。目を覚ましたときよりはいい表情をしているように思えた。
朝食の後片付けをし、温かいコーヒーを作って自分の部屋でゆっくりすることに。
「……コーヒーの香りがすると、玲人君が近くにいるんだなって思うよ」
「コーヒー大好きですからね。夏以外だとホットで飲むことが多いです。ところで、沙奈会長ってコーヒーは飲めるんですか?」
「カフェオレなら普通に。微糖やミルク入りなら何とか。ブラックは一口で限界」
「そうですか。慣れないとブラックはきついですよね」
俺もコーヒーを飲み始めた頃は砂糖や牛乳をたくさん入れたな。コーヒーの苦味に慣れていって、今はブラックでも普通に飲むことができる。
「何か飲みたいものや食べたいものがあれば遠慮なく言ってくださいね。お腹の調子が悪くなければ、カフェオレも大丈夫だと思いますよ」
「食べ物や飲み物じゃないんだけど、わがままを言ってもいいかな」
「内容次第ですけどね。どんなことですか?」
体調が悪いから、過激な内容ではないとは思うけれど。
「……私のことを猫みたいに甘えさせてほしい」
会長ははにかみながらそう言った。そういえば、金曜日の帰りにあの公園で猫と戯れていたら、会長が猫のカチューシャを付けて不機嫌そうにしていたっけ。羨ましかったのかな。
「しょうがないですね。今日は特別ですよ」
「やったぁ。私のバッグの中に猫のカチューシャが入っているから取って」
「……分かりました」
元々、この週末の間に甘えるつもりだったんだな。
下着とかを見てしまわないように気を付けながら、会長のバッグから猫のカチューシャを取り出した。
「てっきり、昨日着ていた服や下着の匂いを嗅ぐと思っていたのに」
「会長じゃあるまいしそんなことしませんよ」
会長の頭に猫のカチューシャを付ける。風邪を引いているからか、今の猫耳会長もなかなか可愛らしい。
「それで、どんな風に甘えたいんですか?」
「……とりあえずベッドに上がってきて」
自分のベッドなのに、会長に招かれてしまうと何とも言えない気分になる。
会長の言う通りにベッドに上がると、沙奈会長は猫になりきったのか俺に体を擦り寄せてきた。
「にゃーん」
「しょうがないですね。今回だけですよ。あぁ、かわいいかわいい。会長猫ちゃんはかわいいですね、よしよし」
頭を撫でたり、首をくすぐったり、背中をさすったり。あの猫にしているようなことを沙奈会長にもしてあげた。
「にゃーにゃー、ふふっ」
どうやら、会長はとても満足してくれているようだ。猫のように扱ってくれたのが嬉しかったのか俺のことをぎゅっと抱きしめて、俺の胸元に顔を埋める。
「ありがとう、玲人君」
そう言って、会長はいつもの元気そうな笑みを浮かべながら俺のことを見つめてくる。
「玲人君のおかげで、さっきまでの不調が嘘みたいだよ。もう元気になった」
「どれどれ……」
熱があるかどうか額を当ててみると、起きたときと比べて大分熱が下がっていた。顔色も結構良くなっている。
「本当に体調が良くなったみたいですね」
「うん。私にとって風邪の特効薬は玲人君だよ。玲人君がいなくなったら、私、すぐに死んじゃうかも」
風邪を治してくれたお礼なのか俺の額や頬にキスをして、楽しそうな様子で胸に頭をすり寄せてくる。
本人は俺のおかげで元気になったと言ってくれたけれど、何だか不思議だな。まるで、俺が甘えさせないと体調が悪くなってしまう呪いにかかっているような気がして。そう思ってしまうほど、あっという間に彼女の体調が良くなったから。
何にせよ、沙奈会長が元気になって良かった。彼女の看病をしながら静かに過ごすのもいいかなって思っていたけれど、元気であることに越したことはないか。
ゆっくりと目を覚ますと、夜が明けているからなのか部屋の中がうっすらと明るくなっていた。時計を見てみると、午前8時過ぎか。
「休日なら早いな……」
夜中に起きたときとは違って、結構いい目覚めだ。
朧気にしか覚えていないけれど、トラックに轢かれそうになったところを沙奈会長に助けてもらったり、プールで足がつって溺れそうになったところを会長に助けてもらったり……と、悪い夢になりそうなときは助けに行くという会長の言葉は本当だった。俺の夢の中なのに有言実行するなんて、さすがは会長としかいいようがない。
「はあっ、はあっ……」
沙奈会長の寝息、夜中に比べて荒いような気がする。興奮しているのかな?
会長の方を見てみると、彼女は顔を赤くして息苦しそうにしていた。まるで、俺に助けを求めるように俺の腕にしがみついている。そういえば、いつもよりも伝わってくる熱が強い気がするぞ。
「どれどれ……」
沙奈会長と額を合わせてみると……結構熱いな。生徒会の疲れが溜まって、昨日も子と歯のお見舞いに出かけたから、今日になって一気に体に影響が出ちゃったのかな。
「うん……」
額を合わせたからなのか、沙奈会長は目を覚ました。
「……おはよう、玲人君」
「おはようございます、会長」
「こんなに玲人君の顔があるってことは、もしかして……私に目覚めのキスをしてくれたのかな?」
「違いますよ。息苦しそうで顔も赤かったので、額を合わせて熱を測っただけです。熱っぽい感じがしますけど、気分はどうですか?」
「そうだね……いつも通りじゃないかも」
俺に気を遣ってなのか、沙奈会長は笑顔を見せてくれている。
「体が熱くて、息苦しくて……ちょっとクラクラするかな」
「そうですか。あと、お腹が痛かったり、気持ち悪かったりはしますか?」
「それはないかな」
お腹が痛くないだけまだ良かった。
「分かりました。もしかしたら、生徒会の仕事の疲れの影響がこのタイミングで体に表れたのかもしれませんね。とりあえず、会長はここでゆっくりと眠っていてください。俺、お粥を作ってきますから」
「ありがとう。突然泊まりに来ただけじゃなくて、看病までしてもらうことになって。迷惑掛けちゃってごめんね」
「気にしないでください」
「……もう、私の旦那さんに決定だ」
ふふっ、と会長は嬉しそうに笑った。こんなことが言えるんだから、精神的には元気なんだろうな。それが分かって安心した。
部屋着に着替え、俺は1階のキッチンに行って会長のためにお粥を作ることに。
「おはよう……って、玲人。朝から玲人がキッチンに立つなんて珍しいね」
「お粥を作っているのよ、恋人のために」
「……母さん。沙奈会長は俺のことが大好きだけれど、別に付き合ってないからね。お粥を作っているのは会長が体調を崩したからだよ」
「えっ、そうなの? 大丈夫かな。親御さんに連絡した方がいいんじゃない?」
「体調次第ではね。今日は日曜日だし、お粥を食べてゆっくりしてもらうつもりだよ。俺も今日は特に予定もないから、彼女の看病しようかなって」
それに、会長のことだから自宅に帰って寝るよりも、俺の部屋のベッドで寝た方が体調も良くなりそうだから帰りたくないって言いそうだし。
お粥を作り終わって俺の部屋に持って行こうとしたとき、姉さんが俺も一緒に朝食を食べた方がいいだろうと言ってきたので、姉さんに俺の朝食を持ってもらって俺の部屋に戻った。
「会長、お粥を作ってきましたよ」
「沙奈ちゃん、体調はどう?」
「横になっていれば楽に感じます。玲人君のベッドだからかもしれませんけど」
「ふふっ、こんなときでも可愛いこと言うね。玲人、愛されてるねぇ」
軽くても病人の前なんだから、ニヤニヤとした表情を浮かべないでくれるかな、姉さん。
お粥と俺の朝食をテーブルの上に置く。自分の部屋で朝食を食べるのはいつ以来だろう。最近は風邪引いていなかったけど。
「沙奈ちゃん、お大事にね。玲人のことを好きに使っていいから」
「ありがとうございます。今でも十分に玲人君は動いてくれていますよ」
「そっか。じゃあ、玲人。沙奈ちゃんのことをよろしくね」
「ああ、分かった」
そう言って、姉さんは俺の部屋を出ていった。
「ねえ、玲人君」
「何ですか?」
「一緒に寝たからかこのベッド……玲人君と私の匂いが混ざってる。もし、玲人君との間に子供が産まれたらこんな匂いになるのかな」
「……どうなんでしょうね」
そんな単純な足し算で子供の匂いは決まるのだろうか。それにしても、体調が良くないのに気持ちは絶好調だな。普段なら何を言っているんだと思うけど、風邪を引いているからか安心するよ。
「会長、起き上がれますか?」
「うん、何とか」
「そうですか。ちょっと待ってくださいね、テーブルをベッドの方に寄せますので」
テーブルをベッドの近くまで動かす。
沙奈会長をベッドから起こして、ベッドに寄りかかるようにして座らせる。今までふとんに被っていたからか、会長の体はかなり熱く思えた。
「大丈夫ですか、会長」
「うん、この体勢いいなぁ。……お粥、美味しそうだね」
「さっと作ったものですけどね。具合が悪くなったらまずお粥って母さんがよく言っていました。一口だけでもいいので、薬を飲むためにも食べましょう。……はい、あ~ん」
「食べさせてほしいって言おうとしたのに。さすがは玲人君」
「沙奈会長ならそう言うと思っていましたよ。ただ、今は病人なんですからこのくらいのことはしますって」
やけどをしてしまわないように、息を吹きかけてお粥を冷ましてから、沙奈会長にお粥を食べさせる。
「……美味しいよ。ほんのりと甘い気がして。まるで玲人君みたい」
何だそれ。たまに優しいとか言いたいのかな。柔らかな笑みを浮かべているから悪い意味ではないだろう。
「お口に合って良かったです。このくらいの熱さで大丈夫ですか?」
「……うん。何か元気出てきたから、自分で食べられそう。玲人君も冷めないうちにご飯食べて」
「分かりました。お粥、食べられるだけでいいですからね」
「うん」
俺も朝食を食べることに。ご飯、味噌汁、焼き鮭という和風な内容だ。まさか、会長と一緒に朝ご飯を食べるとは思わなかった。しかも、自分の部屋で食べるなんて。
「こうして一緒に朝ご飯食べていると、何だかワンルームマンションに同棲しているみたいだね」
「本当に次から次へとポジティブな妄想をしますよね」
「だって、玲人君のこと大好きだもん。それに、こういうことを考えていないとこの体調に負けちゃいそうな気がするから」
そう言って、会長は美味しそうにお粥を食べ進める。会長にとって、元気の源や心の支えが俺なんだろうな。
「今日は日曜日ですから、ここでゆっくりと休んでください。薬を飲んで眠ればきっと良くなりますって。ある程度治ったら、会長の家まで送っていきますから」
「……うん」
さすがに体調が悪いだけあってか、儚げな笑みを浮かべている。
多めに作ってしまった気がしたけれど、沙奈会長は完食してくれた。特に気持ち悪そうな様子もなさそうだ。そんな彼女に風邪薬を飲ませて、再びベッドに寝かせる。目を覚ましたときよりはいい表情をしているように思えた。
朝食の後片付けをし、温かいコーヒーを作って自分の部屋でゆっくりすることに。
「……コーヒーの香りがすると、玲人君が近くにいるんだなって思うよ」
「コーヒー大好きですからね。夏以外だとホットで飲むことが多いです。ところで、沙奈会長ってコーヒーは飲めるんですか?」
「カフェオレなら普通に。微糖やミルク入りなら何とか。ブラックは一口で限界」
「そうですか。慣れないとブラックはきついですよね」
俺もコーヒーを飲み始めた頃は砂糖や牛乳をたくさん入れたな。コーヒーの苦味に慣れていって、今はブラックでも普通に飲むことができる。
「何か飲みたいものや食べたいものがあれば遠慮なく言ってくださいね。お腹の調子が悪くなければ、カフェオレも大丈夫だと思いますよ」
「食べ物や飲み物じゃないんだけど、わがままを言ってもいいかな」
「内容次第ですけどね。どんなことですか?」
体調が悪いから、過激な内容ではないとは思うけれど。
「……私のことを猫みたいに甘えさせてほしい」
会長ははにかみながらそう言った。そういえば、金曜日の帰りにあの公園で猫と戯れていたら、会長が猫のカチューシャを付けて不機嫌そうにしていたっけ。羨ましかったのかな。
「しょうがないですね。今日は特別ですよ」
「やったぁ。私のバッグの中に猫のカチューシャが入っているから取って」
「……分かりました」
元々、この週末の間に甘えるつもりだったんだな。
下着とかを見てしまわないように気を付けながら、会長のバッグから猫のカチューシャを取り出した。
「てっきり、昨日着ていた服や下着の匂いを嗅ぐと思っていたのに」
「会長じゃあるまいしそんなことしませんよ」
会長の頭に猫のカチューシャを付ける。風邪を引いているからか、今の猫耳会長もなかなか可愛らしい。
「それで、どんな風に甘えたいんですか?」
「……とりあえずベッドに上がってきて」
自分のベッドなのに、会長に招かれてしまうと何とも言えない気分になる。
会長の言う通りにベッドに上がると、沙奈会長は猫になりきったのか俺に体を擦り寄せてきた。
「にゃーん」
「しょうがないですね。今回だけですよ。あぁ、かわいいかわいい。会長猫ちゃんはかわいいですね、よしよし」
頭を撫でたり、首をくすぐったり、背中をさすったり。あの猫にしているようなことを沙奈会長にもしてあげた。
「にゃーにゃー、ふふっ」
どうやら、会長はとても満足してくれているようだ。猫のように扱ってくれたのが嬉しかったのか俺のことをぎゅっと抱きしめて、俺の胸元に顔を埋める。
「ありがとう、玲人君」
そう言って、会長はいつもの元気そうな笑みを浮かべながら俺のことを見つめてくる。
「玲人君のおかげで、さっきまでの不調が嘘みたいだよ。もう元気になった」
「どれどれ……」
熱があるかどうか額を当ててみると、起きたときと比べて大分熱が下がっていた。顔色も結構良くなっている。
「本当に体調が良くなったみたいですね」
「うん。私にとって風邪の特効薬は玲人君だよ。玲人君がいなくなったら、私、すぐに死んじゃうかも」
風邪を治してくれたお礼なのか俺の額や頬にキスをして、楽しそうな様子で胸に頭をすり寄せてくる。
本人は俺のおかげで元気になったと言ってくれたけれど、何だか不思議だな。まるで、俺が甘えさせないと体調が悪くなってしまう呪いにかかっているような気がして。そう思ってしまうほど、あっという間に彼女の体調が良くなったから。
何にせよ、沙奈会長が元気になって良かった。彼女の看病をしながら静かに過ごすのもいいかなって思っていたけれど、元気であることに越したことはないか。
0
あなたにおすすめの小説
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる