桜庭かなめ

文字の大きさ
60 / 118
本編

第59話『恋人バス-後編-』

しおりを挟む
「さあ、玲人君。髪と体……どっちから洗ってほしいかな? 玲人君のご希望に沿うつもりだよ」

 後ろから僕のことを抱きしめ、沙奈会長はいつもよりも艶っぽい声で僕に問いかけてくる。
 鏡越しで沙奈会長の顔を見るけど、何を考えているのか彼女はニヤニヤしているぞ。果たして、僕は無事に髪と体を洗い終え、湯船に浸かることができるのだろうか。

「まずは髪からお願いします」
「うん、分かったよ」
「……くれぐれも、変なことはしないでくださいね」
「大丈夫だって。体を触ったりくすぐったりするかもしれないけど、舐め回したりすることはしないからさ」
「そ、そうですか」

 舐め回されるのは論外だけど、くすぐられるのもあまりしてほしくない。特に首回りと脇腹は弱いんだ。ただ、それもいずれは沙奈会長にバレるんだろうな。

「じゃあ、ご希望通り……髪から洗いますね。旦那様」
「もう旦那様ですか。まあ、いずれはそうなるといいですよね。よろしくお願いします。僕の……未来の奥さん」
「……色々とサービスしちゃいますね」

 ふふっ、と沙奈会長は優しい笑顔を見せる。可愛いけど、大人らしさも感じられて。これからは彼女と一緒にこういう風にお風呂に入ることが多くなるのかな。そうなればいいなと思った。
 沙奈会長に髪を洗ってもらい始める。

「どうかな」
「気持ちいいですよ。だから、眠ってしまわないように気を付けないと」
「気を付けてよ。さっきはとても心配したんだから。だって、声をかけても全然起きないんだもん。熱中症とかで倒れたのかと思ったよ」

 それで、シャワー全開で俺に水をぶっかけようとしていたわけか。それこそ、窒息して意識を失うことになりそうだ。

「それはすみませんでした。それにしても、沙奈会長……上手ですね。真奈ちゃんに髪を洗ってあげたりすることもあるんですか?」
「小さい頃ほどじゃないけどね。でも、私が小学生の間はけっこう髪を洗ってあげていたよ。私がやった方がサラサラになるからって真奈が言ってきて。私も髪を洗ってあげるのは好きだからさ」
「へえ、そうなんですか」

 僕も姉さんと一緒に入ったときはよく髪を洗ってもらっていたけど、昔は力任せに洗われたり、髪が長めということもあって琴葉と2人で遊ばれていたりしたな。

「ふああっ……」
「寝ない」
「すみません。気持ち良かったので、つい……」
「ははっ、褒め言葉として受け取っておくよ。あと、あくび可愛かった。そういえば、玲人君って寝るのが好きだよね。この前泊まったときだってぐっすりと眠っていたし。昨日の朝も私と樹里先輩が部屋に来たのに、起きる気配が全くなかったんだもん。先輩と一緒に寝顔の写真を撮りまくったよ」

 昨日の朝にそんなことをしていたのか。部屋の中を盗撮されていることに比べれば可愛いことなので、そのくらいは大目に見ておこう。

「さっ、シャンプーの泡を落とすから目をしっかりと瞑りましょうね。できるかな?」
「……そのくらいできますって」

 まったく、子供扱いしないでほしい。
 彼女の言うようにしっかりと両眼を瞑ると、温かいお湯がかかる。沙奈会長の手触りの良さもあってかまた――。

「冷たっ!」
「眠りそうだったからね。ふふっ、今夜は玲人君を寝かさないつもりだったけど、これは早々に寝ちゃうパターンかも」
「早く寝ても、ベッドで水をかけないでくださいよ」
「かけないかけない。むしろ、ベッドの上で液体をかけるのは玲人君の方でしょ? ……はい、終わったよ。拭くね」

 沙奈会長を拭いてもらう。何から何までやってもらっているなぁ。ただ、とても手際が良く、真奈ちゃんにもこういう風にしてあげているのかなと思った。

「こうして間近で見てみると、本当に綺麗に染まってるね」
「初めてやったんですけどね。結構気に入っています。校則違反でもないですし、しばらくは金髪のままでいようかなと思います」
「そっか。黒に戻してもいいかなって思ったけど、玲人君が気に入っている髪が一番いいよね。黒髪の玲人君が見たくなったら、演劇部からカツラを借りて付けさせればいいし」

 部活に入ろうとは全然考えていなかったので、月野学園にどんな部活があるのか全然覚えていない。新入生歓迎会で部活紹介があったけど。

「よし、これで髪はいいかな。次は背中を流すけど、玲人君のために2つのコースを用意しています。柔らかいコースともっと柔らかいコースなんだけどどっちがいい?」

 選ぶのに悩んでしまうコース名だな。もう少し違いがはっきりと分かるコース名にできないものか。

「それぞれのコースの内容は?」
「柔らかいコースは玲人君が私にしてくれたように、このボディータオルで背中を流すの。それで、もっと柔らかいコースは背中を流すのに私の体を使うの。玲人君とは違って私には2つのたわわがあるから、それを使うことになるかなぁ」

 やっぱり。そんなことだろうと思ったよ。

「ボディータオルを使う柔らかいコースでお願いします」
「分かったよ。じゃあ、もっと柔らかいコースはまた後日だね。それじゃ、ボディータオルを使って背中を流すね。玲人君さえ良ければ、前の方も洗うけれど」
「背中だけを流してください」
「はーい」

 沙奈会長に背中を流してもらうことに。この感触は僕の知っているボディータオルのものだ。安心した。

「さっきから思っているんだけど、意外と玲人君って筋肉質なんだね」
「2年近く体を鍛えましたからね。昔は細身だったんですが、逮捕されて禁固生活を送っている中、勉強以外は読書か筋トレくらいで。それに、出所してからも菅原達に絡まれてしまう可能性があったので、そこから切り抜けるためにも、体力と筋力を身につけておいた方がいいと思いまして」
「なるほどね。確かに、昨日もあなたを襲うために家の前に2人いたもんね」
「ええ。2人くらいだったら、気絶させられたと思いますよ。もちろん、血を流すことなく」
「……さも当然かのようにそう言える玲人君は凄いと思うよ」
「そうですかね?」

 ナイフやカッターを持っている男4人を気絶させたゴンに比べたら、全然凄くないと思うけど。

「……凄いよ。その想いを胸に体を鍛え上げてさ。今の玲人君の話を聞いたら、もっと体に触れたくなってきちゃった」
「沙奈会長らしい感想ですね」

 恋人として付き合い始めたから、これまで以上にスキンシップが激しくなりそうだ。出会った当初はそれが嫌で仕方なかったのに、今は嬉しいと思えるようになるとは。

「うん、このくらいでいいかな。前も洗っちゃう?」
「さすがに前は自分で洗いますよ。沙奈会長、ありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして」

 沙奈会長、とても嬉しそうだ。
 前の方は自分で洗い、ボディーソープの泡をシャワーで流した。その間はずっと、湯船に浸かる沙奈会長から好奇な眼差しを向けられていた。

「さてと、僕も入りますね」

 僕は沙奈会長と向かい合うようにして湯船に浸かる。彼女の脚に触れてしまうけど、この距離感もいいものだ。

「こうして一緒に湯船に浸かると凄く気持ちいいね、玲人君」
「そうですね。気持ちがまったりします」
「確かに。この前入ったときはゆったりできていいなって思ったけど、玲人君の脚が触れているのもいいもんだね」

 沙奈会長はそう言うと嬉しそうな表情になり、段々と僕に近づいてきて、

「でも、玲人君とはもっと触れていたいんだ」

 僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。そのことで、沙奈会長から柔らかさと甘い匂いが感じられる。

「あぁ……幸せだな。玲人君と一緒にこうすることができて。それにお湯も気持ちいい。玲人君が思わず寝ちゃう気持ちも分かるなぁ」
「分かるでしょう? 実は僕も気持ち良くなっています。こうして一緒にお風呂に入るのってやっぱりいいですね」

 僕も沙奈会長のことをそっと抱きしめる。誰かを抱きしめることって、こんなにも温かい気持ちになれるのか。抱きしめている相手が沙奈会長だからかもしれないけど。

「玲人君……」

 僕の名前を呟くと沙奈会長はキスをしてきた。抱きしめるよりもキスの方がより温かい気持ちになるな。

「……凄く幸せ」
「僕も幸せですよ」

 すると、沙奈会長は僕の顔を見つめながらにっこりと笑った。想いが重なったことで温もりは更に膨らんでいく。
 ただ、お互いに一糸まとわぬ状態で抱きしめ合っているので、ドキドキする気持ちも大きくなる一途を辿っている。今夜、沙奈会長とどんな時間を過ごすんだろう。ただ、忘れられない夜になりそうな予感はしていたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...