桜庭かなめ

文字の大きさ
98 / 118
特別編

エピローグ『おもいで』

しおりを挟む
 5月7日、月曜日。
 ゴールデンウィークも明けて、今日から再び学校生活が始まる。連休明けでいきなり5日間の学校というのはなかなかキツいものがあるけれど、学校に沙奈会長という恋人がいると思うと意外と頑張れそうだ。
 旅行中に気になっていた僕の助けた猫は、登校するときにいつものベンチでのんびりとくつろいでいるところを確認した。
 生徒会の朝のミーティングを早めに終わらせて、僕は教室でクラスメイトに旅行のお土産である温泉饅頭を渡した。中にはすぐに食べ、満足そうな笑顔でお礼を言ってくれる人もいた。旅行はどうだったのかと話しかけてくる人もいて。入学当初と比べて、クラスの雰囲気が柔らかくなった気がする。
 ちなみに、朝礼が終わった直後に担任の松風先生へ温泉饅頭を渡したとき、先生から「旅行いいないいな」と何度も言われ、ほとんどのクラスメイトが爆笑する始末。暦的には連休とはいえ、先生は学校で仕事をしていたのかな? それとも、満足な休日を送ることができなかったのだろうか。訊いたら先生が落ち込みそうなので、敢えて何も訊かなかった。



 入学当初と比べるとかなり優しいと思えてきた空気の中、僕は連休明けの授業を受けた。昨日までが夢のように楽しかったにも関わらず、あっという間に放課後になった。この調子なら五月病に罹ることもなさそうだ。

「玲人君、今日も生徒会の仕事を頑張ろうね!」
「そうですね、沙奈会長」
「連休明けにしてはそこまで多くなかったね、沙奈ちゃん。こういう内容なら、復習を兼ねて逢坂君に一部の仕事をやらせてみよっか」
「それがいいですね、樹里先輩。分からなかったら樹里先輩や私に訊いてね、玲人君」
「分かりました」

 今日も生徒会の仕事を行なうことに。
 沙奈会長と副会長さんが物凄くやる気になっているように見える。おそらく、仕事を終えたら旅行中に買ったお菓子を食べながら、副会長さんが旅行中に撮影した映像を観ることになっているからだろう。
 僕も一部の仕事を任され、沙奈会長や副会長さんに質問していきながら何とか終わらせることができた。といっても、2人の仕事が早く終わったので、途中から2人に見守られながらやったんだけれど。

「玲人君、ちゃんとできたね。偉いよ。生徒会長且つ恋人の沙奈さんからご褒美だぞ!」

 沙奈会長は僕にキスをする。ここは生徒会室だけれど、今日の仕事が全て終わったのでまあいいか。

「沙奈ちゃん、ずっと我慢していたんだね。思い返せば、放課後になってから逢坂君にベッタリくっついていなかったし」
「玲人君と恋人になりましたから、公私混同をしないように気を付けようと決めまして。ですから、仕事が終わるまでは玲人君にキスしないように心がけてます」
「おっ、いい心掛けだね、沙奈ちゃん」

 副会長さんの言う通りだ。沙奈会長にしてみればかなり立派な心掛けじゃないだろうか。いつまで続くかは分からないけど。

「じゃあ、録画した旅行の映像を観よっか」
「そうですね、樹里先輩! 楽しみだね、玲人君!」
「楽しみではあるんですけど、色々と恥ずかしいところも撮影されていたと思うので不安です」

 気付いたら副会長さんに録画されていた……というパターンが何度もあったし。いつでもここから逃げ出せるように準備しておくか。

「さっ、一緒に観ようね、玲人君」

 そんな僕の考えを読んでいたのか、沙奈会長はしっかりと腕を絡ませてくる。旅行中は可愛いと思っていた笑みも、今は恐く感じる。

「それじゃ、再生始めるよ。初日の車の映像から流すね」

 僕らは生徒会にあるテレビを使って、旅行のビデオを見始める。昨日ホテルで2人が買った温泉饅頭やゴーフレットを食べながら。
 今日もたまにスマホで写真を眺めていたけれど、動画で見ると思い出が鮮明に蘇ってくるな。副会長さんの撮影の仕方が上手なためか見やすい映像だし。

「こうして映像を観ていると、もう一度旅行に行っているみたいだね」
「確かに」

 沙奈会長達を観るのはいいけれど、自分の姿が映ると何だか恥ずかしいな。声もちょっと違って聞こえるし。それに、旅行中は思った以上に沙奈会長とくっついていたんだな。

「逢坂君。旅先でも沙奈ちゃんと仲睦まじく過ごしていたのね。いいなぁ、いいなぁ」
「ええ、それはもう楽しく幸せな……って、松風先生!」

 気付けば、松風先生がゴーフレットを食べながら旅行のビデオを観ていた。

「仕事が一段落したからね。逢坂君達からお土産話を聞こうとここに来てみたの。あと、このぶどうのゴーフレット美味しいね!」
「ふふっ、それは良かったです。温泉饅頭も食べてくださいね」
「お言葉に甘えていただくよ、沙奈ちゃん。このお饅頭は朝にお逢坂君から土産でもらったんだけれど、とても美味しくて」

 松風先生にも好評なようで良かった。

「それにしても、逢坂君達……楽しそうな旅行だね。本当にいいなぁ」
「楽しかったですよ。ちなみに、陽子先生はどんな休日を過ごしていたんですか?」

 沙奈会長、はっきりとそれを訊いてしまうか。僕は敢えて訊かなかったのに。

「木曜日は疲れを取るためにぐっすり寝て、ダラダラ過ごしたわ。それで、金曜日から日曜日まではずっと録り溜めていたドラマやアニメをずっと観てた」
「……な、なるほど。お家の中でずっと過ごすのもいいと思いますよ」

 僕もどっちかと言えばインドア派だし、松風先生の過ごした休日もなかなかいいなと思った。禁固生活を送っていた間に放送された作品の中で、気になってまだ観ていないものがいくつもあるし。
 その後は松風先生も加えて4人で旅行のビデオを観ていく。旅行に行っていない人も観ているのでちょっと緊張する。

「へえ、逢坂君の寝顔って結構可愛いんだね!」
「陽子先生もそう思いますか? あと、私のカーディガンを抱きしめながら寝るなんて可愛いですよね」
「微笑ましいシーンね。いやぁ、我ながらいいところを撮った」

「へえ、逢坂君も泣くことがあるんだね」
「玲人君のこの姿を見たときは、思わず私も泣きそうになりました」
「なるほどね。……あと、酔っ払うと沙奈ちゃんってキス魔になるの?」
「キ、キス魔じゃないですよ! 玲人君だからキスとか口づけをするんですって! それに、玲人君と一緒にチョコを溶かしているのも酔っ払っているからです! 普段からはやってません!」
「あのときの沙奈ちゃん、逢坂君に甘えまくっていて可愛かったよ。こうして見てみると、面白い映像が多いね!」

 恥ずかしい映像もたまにあるけど、副会長さんの言うとおり……見てみると面白い内容が結構多い。楽しかった旅行の映像だからなのかな。

「こうして見てみると、また一緒に旅行に行きたくなるね。玲人君」
「そうですね。今回のメンバーでもまた行きたいですし、沙奈会長と2人きりでも旅行に行ってみたいです」

 僕がそう言うと、沙奈会長は笑顔で頷いた。

「うん、絶対に行こうね! じゃあ……その誓いのキスをして?」
「分かりました」

 沙奈会長にキスをする。映像にも沙奈会長とのキスのシーンがあるけれど、実際にする方が断然いいな。

「玲人君、大好き!」
「唐突に言ってきますね。僕も沙奈会長のことが大好きですよ」

 沙奈会長があのチケットをもらってこなければ。この生徒会室で旅行の提案をしなければ。きっと、こんなにも楽しいゴールデンウィークを過ごすことはなかったはずだ。本当に僕らをいい方向へと引っ張ってくれるパワーのある人だと思う。
 きっと、この先も沙奈会長達と楽しい思い出をたくさん作り、それらを愛おしく思うのだろう。そんなことを思いつつ、僕は沙奈会長達と一緒に旅行の映像を楽しむのであった。



特別編 おわり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

処理中です...