桜庭かなめ

文字の大きさ
111 / 118
特別編-Re:Lovely Sick-

『初夏』

しおりを挟む
特別編-Re:Lovely Sick-



 6月1日、金曜日。
 今日から6月が始まり、季節も春から夏に変わった。月野学園の制服も冬服から夏服へと衣替え。夏服は9月末まで続く。
 今朝は取り締まりこそはしなかったけれど、登校してくる生徒達がちゃんと夏服を着ているかどうかチェックした。予想通り、大半の生徒はしっかりと夏服を衣替えしていたけれど、うっかりと冬服を着てきてしまった生徒もいた。
 よって、月曜日も服装チェックを行なうことに決まった。月曜日から早く登校しなければいけないのは嫌だけれど、今回は特別とのことなので我慢しよう。


 また、高校生活の定期試験は今日までに全教科が返却され、どの科目も90点以上の高得点を取ることができた。高校生活がスタートし、特に4月中は色々とあったけれど、勉強という意味でも好スタートを切ることができたかな。
 ただ、定期試験後に体調を崩してしまったので、期末試験のときは体調のことも考えながら勉強しないと。


 季節が夏になって最初の生徒会の仕事はそこまで多くなかった。沙奈会長と副会長さんの教えもあって、庶務係としての仕事も段々と慣れてきた。これで少しは2人の仕事が楽になっていたら嬉しいな。

「副会長さん。玲人君。今週もお疲れ様でした……けほっ、けほっ」

 沙奈会長の顔色がいつもと違って青白くなっていた。今日はずっと元気そうだったのに。生徒会の仕事が終わってどっと疲れが襲ってきたのだろうか。

「沙奈ちゃん、大丈夫?」
「ちょっと寒気がしますね。夏服に衣替えしたからでしょうかね。いつもよりも冷房がよく効いているなって思います」
「確かに、昨日までよりも校内が涼しく感じるよね。ちょっとごめんね」

 そう言って、副会長さんは沙奈会長と額を合わせる。

「結構熱いね。今日は衣替えによる服装チェックで朝早かったもんね。今週の疲れが溜まって、一気に体調が悪くなったのかも」
「僕もそんな感じがします。俺も先週体調を崩したときは定期試験があって、その疲れが溜まっていましたから。……もしかして、僕の風邪が移ってしまったとか? 会長、この前の土日はずっと俺の側にいてくれましたし」
「それはないと思うよ」

 沙奈会長は苦笑いをしながらそう言う。
 ただ、体調の悪い沙奈会長を見ると、どうしてもアリスさんのミッションに挑んでいたときのことを思い出してしまう。
 僕は沙奈会長の側に近寄って、

「まさか、アリスさんに何かミッションを課せられたってことはありませんか?」

 彼女の耳元でそう囁いた。

「ううん、それはないよ。あと、玲人君の吐息が耳にかかって気持ちいいな」

 そう言うと、沙奈会長は頬を赤くして僕にニッコリとした笑みを浮かべる。この様子ならアリスさんのミッションが絡んでいることはなさそうだな。

「恥ずかしい話……最近は夜も暑くなってきたじゃない。それで、昨日の夜も暑かったから、冷房をしていて、タイマーをかけてから寝たんだ。ただ、寝ている間にまた暑くなったのかふとんを剥いじゃって、目が覚めたときはお腹を丸出しにしていたの。それに気付いた瞬間、寒気がして」
「あるある、そういうこと。今みたいに季節の変わり目や、気温の変化が大きい時期って風邪引きやすいよね。私もそうだった」
「ですよね。今朝はそんなに具合が悪くなかったんですけど、朝早くから服装チェックがあって、夏服になったから学校も涼しくて。金曜日ということもあって疲れも溜まっていたから、今になって体調が崩れちゃったのかもしれません」
「そういうことね。じゃあ、週末はゆっくり休んで。月曜日の朝の服装チェックも、私と逢坂君がいれば大丈夫だから、沙奈ちゃんは無理しないでね。できれば、日曜日の夜までに一言、私達に連絡してくれると嬉しい」
「ええ、分かりました。すみません、ご迷惑をお掛けします」
「気にしないで。最近は逢坂君も頼もしくなってきて、服装チェックならもう一人前にできくらいだし。ね、逢坂君」
「はい。服装チェック、副会長さんや風紀委員会の方達と一緒に頑張ります。なので、無理はせず、まずはゆっくりと休んでください」
「……うん」

 沙奈会長さんは嬉しそうな笑みを浮かべて、俺に寄り掛かってきた。会長が少しでも安心できるように、月曜日の服装チェックを含めしっかりと生徒会の仕事をしないと。

「沙奈会長。今日は俺と一緒にお家に帰りましょう。それで、この週末は沙奈会長がいてほしいと思うときにはずっと側にいますから」
「で、でも……」
「……この前、俺が風邪を引いてくれたとき、沙奈会長はずっと俺の側にいてくれたじゃないですか。俺はそれが凄く嬉しかった。ですから、会長が俺にいてほしいときにはずっといます」

 風邪を引いていると不安な気持ちを抱きやすくなる。会長がたまにお手洗いとかで部屋を出ていったときは凄く寂しかった。数分のことだったのに。
 すると、沙奈会長は俺の着るワイシャツをそっと掴んで、

「じゃあ、玲人君の気持ちに甘え……ちゃおうかな。玲人君に風邪を移したくない気持ちもあるけれど、玲人君がそう言ってくれるなら、許される限り、この週末を玲人君と一緒に過ごしたいな」

 上目遣いをしながらそう言う沙奈会長はとても可愛らしい。今すぐに口づけをして、会長を苦しめるものを吸ってしまいたいくらいだ。

「分かりました。では、会長の体調が悪化しないように心がけながら、できるだけ会長の側にいますね」
「うん、ありがとね」
「じゃあ、ひとまずは逢坂君に沙奈ちゃんのことを頼むね。ただ、逢坂君まで具合悪くなっちゃったってことにはならないよう気を付けて」
「分かりました」

 先週は沙奈会長が僕の看病をしてくれた。その恩返しも込めて、沙奈会長の看病をしっかりしていこう。
 僕は沙奈会長と一緒に下校し、彼女の自宅に向かってゆっくりと歩く。

「ごめんね、玲人君。私に肩を貸してくれた上にバッグまで持ってもらって」
「気にしないでください。生徒会の庶務係として会長を支える立場ですし、何よりも会長の恋人ですから。会長の役に立つことができて嬉しいです」
「……そう言ってくれると心が軽くなるな。玲人君が恋人で本当に良かった。一緒にいてほしいし、離れないためにもずっと玲人君と体を繋げていたいな。あっ、玲人君の血が入ったお粥を食べたら早く元気になれるかも……」

 えへへっ、と沙奈会長はニヤニヤと笑っている。体調が悪くても、考えていることは普段と変わらないな。

「今の言葉を聞いて一安心しました。僕の血の入ったお粥はもちろん食べさせませんし、体云々については、沙奈会長が元気になったら思う存分にしましょう」
「……約束だよ」
「ええ」

 これで、看病中に沙奈会長から変なことを要求されることはなくなるかな。
 そんなことを考えていると、沙奈会長の家に到着した。
 家まで歩いて疲れてしまってしまったのか、学校のときと比べて沙奈会長の体がとても熱くなっていた。寝間着に着替えるのを手伝い、ベッドに寝かせた。
 智子さんに沙奈会長の体調について話すと、空腹での飲むことができる風邪薬と水、体温計をもらった。
 沙奈会長の部屋に戻り、体温計で彼女の体温を測る。

「38.2℃ですか。立派な風邪ですね。寒気がすると言っていましたけど、他に体調が悪いところはありますか?」
「少し頭が痛いかな。喉も痛い。お腹の調子はいつもと変わらないかな」
「分かりました。智子さんから空腹でも飲める市販の風邪薬をもらったので、まずはそれを飲んで寝ましょうか」
「……うん。でも、もう横になっているから、玲人君に口移しして飲ませてほしい」
「分かりました。じゃあ、まずは薬を口の中に入れますね。はい、あ~ん」
「あ~ん」

 錠剤の風邪薬を沙奈会長の口の中に入れる。
 その後、水を俺の口から少しずつ彼女の口の中に移していく。ゴクゴクという音が厭らしく響くのは気のせいだろうか。
 沙奈会長の口に水をしっかりと移し終えて、ハンカチで口元を拭くと会長は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「こんなにも薬が美味しいって思えたのは初めてかも。飲みやすかったよ」
「……そうですか」

 これはあまり効き目がないかもしれないな。良薬口に苦しって言うくらいだから。ただ、なかなか治らなくてもこの週末はずっと看病していくつもりだけれど。

「ねえ、玲人君。おやすみの口づけをしてほしいの。いいかな?」
「もちろんいいですよ」
「……ありがとう」

 そう言うと、沙奈会長はゆっくりと目を瞑った。なので、俺から口づけをする。やはり、口づけは普通にするのが一番気持ちいいな。風邪を引いている沙奈会長から元気をもらってしまった。
 ゆっくりと唇を離すと、沙奈会長は優しい笑みを浮かべる。

「ありがとう。何だか、こんな体調だけれどぐっすりと眠れそう」
「そうだといいですね。俺はなるべくここにいますので、いつでも俺に言ってください」
「うん。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」

 沙奈会長はゆっくりと目を瞑ると、薬の効果なのか、疲れによる眠気が襲ってきたのか、程なくして寝息が聞こえてきた。まずはぐっすり眠って、体調がある程度戻ってくれるといいな。


 先週とは逆で、俺は日曜日の夕方までほとんど沙奈会長の部屋で過ごした。
 沙奈会長は順調に体調が良くなっていき、日曜日になると普段と変わらない笑みをたくさん見せてくれた。
 俺はそのことに安心し、先週、俺のことを看病してくれたときの沙奈会長の気持ちが少しは分かったような気がしたのであった。



特別編-Re:Lovely Sick- おわり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...