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特別編-催眠彼女-
『紙一重』
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特別編-催眠彼女-
6月19日、火曜日。
今週末に生徒総会があるので、今日からはその準備をメインで生徒会活動を行なうことに。高校でも生徒総会ってあるんだな。中学のときは一般生徒だったので、授業がなくなってラッキーくらいにしか思っていなかったけど、実際に運営する立場になると準備段階からなかなか大変。それもあってか、あっという間に時間が過ぎていった。
「とりあえず、今日はこのくらいにしておきましょうか」
「そうだね。お疲れ様、沙奈ちゃん、逢坂君。やっぱり3人でやるといいね。今年は体力のある男子の逢坂君もいるし」
「そう言ってくださると嬉しいです、副会長さん」
庶務係として、沙奈会長と副会長さんの役に立てれば何よりだ。
家に帰ったら、さっさと宿題を終わらせて、テレビでワールドカップの日本代表戦を観ることにしよう。今日が初戦なのでドキドキしている。
「ねえ、玲人君」
「何ですか? 一緒にワールドカップを観たいんですか?」
「明日も学校があるし、それについてはちょっと考えておくね。それよりも、玲人君って催眠術に興味はない?」
「藪から棒に何を言うかと思えば催眠術ですか。……全くありません」
本当はちょっと興味があるけれど、沙奈会長のことだから僕に何か変なことをしてくる可能性が高い。
「興味ないの? せっかく五円玉の振り子を作ってきたのに」
「最初っから僕に催眠をかけるつもりだったんですね」
「昨日の夜にバラエティーに出ていたアイドルが、催眠術が得意だから五円玉の振り子を使って実演していたね。その影響?」
「樹里先輩も観ていたんですね。玲人君は観た?」
「僕はレンタルしたアニメのDVDを観ていたので、そのバラエティーは観ていないですね」
「そうなんだ。じゃあ、ちょうどいいね。催眠術に興味のない玲人君に、催眠術の面白さを実演してみせるよ! これが初めてだけど」
そう言って、沙奈会長はスカートから財布を取り出し、五円玉の振り子を手に取った。
結局、沙奈会長の催眠術に付き合わなきゃいけないのか。あと、初めてなのによく実演すると言ったな。どうせかからないだろうから、今回は付き合うことにするか。
「分かりました。では、沙奈会長の催眠術に付き合いましょう」
「……これで玲人君は掌握したと同然……」
ふふっ、と沙奈会長は不気味な笑みを浮かべている。自分の思うままに僕のことを動かしたいのかな。段々と恐くなってきたぞ。
「じゃあ、玲人君。この五円玉をよーく見てね」
「はい」
「面白そうだから、隣で逢坂君の様子を見ようっと」
副会長さんは興味津々な様子で僕のすぐ側まで近づいてくる。
僕は沙奈会長の言うとおりに、糸に吊された五円玉をじっと見つめる。
「じゃあ、手始めに玲人君を眠らせるね。あなたは段々眠くなる。ねむくなーる」
沙奈会長が呪文を唱える中で、僕は左右に揺れる五円玉をじっと見つめる。集中しているからか、眠くなるどころかむしろ目が冴えてきている。
「ねむく……なーる。ねむく……」
――ドン。
鈍い音が聞こえたので沙奈会長の方を見ると、彼女は机に突っ伏している。
「会長!」
「沙奈ちゃん!」
僕と副会長さんはすぐに沙奈会長の側に行くと、会長から可愛らしい寝息が聞こえてくる。
「……寝てますね」
「そうね。自分も五円玉をじっと見ていたのか、逢坂君に催眠をかける前に自分がかかっちゃったんだね。それで、睡眠しちゃったと。……ふふっ」
「僕、全く眠くなりませんでした。むしろ、五円玉を見ることに集中したり、会長が急に寝たことに驚いたりしたので目が冴えたほどです。どうやら、沙奈会長は催眠かけるよりもかかる才能の方がありそうですね」
「そうだね。……あははっ!」
今の沙奈会長の様子がよほどツボにハマったのか、副会長さんは大きな声で笑っている。その笑いは止まらず、彼女の頬が真っ赤になってしまうほど。
ただ、副会長さんがこんなに笑っているにも関わらず、沙奈会長は全く起きる気配がないぞ。これが催眠術の力なのか?
「副会長さん。沙奈会長も観たというそのバラエティーでは、眠くなる催眠術もやっていたんですか?」
「うん、やってたよ」
「じゃあ、どうやって起こすんですか? 催眠術のせいかぐっすりと眠っていますけど」
「普通に声をかけたり、体を叩いたりして起こしていたよ」
「そうなんですね。……沙奈会長、起きてください」
そう言って、僕は沙奈会長の肩を叩く。
すると、沙奈会長はゆっくりと体を起こして体を伸ばした。その姿を見てほっとする。
「あぁ、よく寝た。スッキリした」
「数分も寝ていなかったのにそうなるって凄いですね。これも催眠術の効果ですかね」
「そうかもね。それにしても、眠くなるって言い続けて五円玉を見続けたら、急に眠くなっちゃった」
「寝るまであっという間だったよ、沙奈ちゃん。それに比べて逢坂君は眠くなるどころか、むしろ目が冴えたって」
「そうだったんですか。玲人君は催眠術にかからない体質なのかもね」
「それは分かりませんけど、沙奈会長が催眠術にかかりやすいことは確かでしょうね。今後は気を付けた方がいいと思います」
ただ、催眠術にかかりやすいということを知ることができて良かった。沙奈会長が暴走をしたときに鎮める手段にいい。これからは常に五円玉の振り子を携帯しておくか。
「玲人君、リベンジしたい! きっと、五円玉を見なければ大丈夫だと思うから。念のために私のネクタイを巻いて見えなくさせよう」
「分かりました。じゃあ、僕が結びますね」
きっと、催眠術にはかからないだろうけど、その諦めない姿勢はとてもいいと思う。そういうところも好きだ。
沙奈会長の両眼を塞ぐようにして彼女のネクタイを結び付ける。今の姿は本当にアホっぽい。そして、それが面白いのか副会長さんはクスクスと笑っている。
会長に五円玉の振り子を持たせて、僕は自分の席に座った。
「じゃあ、玲人君。この五円玉を見て」
「はい。見てます」
「私が証人になるよ。逢坂君はしっかりと五円玉を見てる」
「ありがとうございます。じゃあ、始めるね。あなたは段々眠くなる。この五円玉を見て段々と眠くなる……」
再びゆらゆらと揺れる五円玉を見るけれど、全く眠くならない。沙奈会長がここまで一生懸命だと眠気が来てほしいと思うけれど、眠気の気配すらない。このまま五円玉を見続けているよりも、目を瞑った方がよっぽど眠りに落ちやすいんじゃないかと思うほどだ。
「ねむくなーる。ねむくなーる。……あれ、さっきほどじゃないけれど、段々眠くなってきた。おかしいな、視界は真っ暗なのに」
どうやら、眠くなると復唱しているせいで、沙奈会長に自己暗示がかかってしまっているようだ。そのことでまた副会長さんは笑っているし。
「沙奈会長、そのくらいにしましょう。僕、全く眠くならないので」
「そっか。残念だけど、このくらいにしておくよ」
僕は沙奈会長のネクタイを解く。
沙奈会長は僕が全く眠くないように見えたのか、露骨にがっかりしている。
「催眠術を使えれば、色々と楽しいと思ったんだけどな」
「僕はともかく、副会長さんは結構楽しんでいましたよね」
「うん。まさか、催眠術をかけようとした沙奈ちゃんが催眠術にかかっちゃうとは思わなかったからさ。昨日のバラエティーよりも楽しかった」
「そうですか。でも、自分に催眠術を掛けることができるなら、催眠術の才能があるかもしれないってことですよね。ということは、練習をすれば玲人君や樹里先輩にも……」
「練習なんてしなくていいと思いますよ。ただ、揺れる五円玉を見ればあっという間に眠ることができると分かったんですから、これからはなかなか眠れない日にやるといいんじゃないですか?」
「……それもそうだね! たまに寝付きの悪い日があるし」
うんうん、と沙奈会長は満足げな様子。あと、沙奈会長はたまに眠れない日があるのか。お悩みを解決できそうで何よりだ。
「じゃあ、今日はこれで生徒会の活動は終わります!」
「お疲れ様!」
「お疲れ様でした」
催眠術という予想外の出来事もあったけれど、今日も無事に生徒会活動が終わるのであった。
ちなみに、ワールドカップの中継が始まる20分ほど前に、沙奈会長から一緒に観たいと連絡が来て、僕の家で一緒に観ることに。
放課後に催眠術で少し眠ったからなのか、それとも日本代表が勝って興奮しているからなのか、試合が終わっても沙奈会長は全く眠そうではなかった。なので、試しに五円玉を使って沙奈会長に催眠術をかけてみると、会長はあっさりと眠るのであった。
特別編-催眠彼女- おわり
6月19日、火曜日。
今週末に生徒総会があるので、今日からはその準備をメインで生徒会活動を行なうことに。高校でも生徒総会ってあるんだな。中学のときは一般生徒だったので、授業がなくなってラッキーくらいにしか思っていなかったけど、実際に運営する立場になると準備段階からなかなか大変。それもあってか、あっという間に時間が過ぎていった。
「とりあえず、今日はこのくらいにしておきましょうか」
「そうだね。お疲れ様、沙奈ちゃん、逢坂君。やっぱり3人でやるといいね。今年は体力のある男子の逢坂君もいるし」
「そう言ってくださると嬉しいです、副会長さん」
庶務係として、沙奈会長と副会長さんの役に立てれば何よりだ。
家に帰ったら、さっさと宿題を終わらせて、テレビでワールドカップの日本代表戦を観ることにしよう。今日が初戦なのでドキドキしている。
「ねえ、玲人君」
「何ですか? 一緒にワールドカップを観たいんですか?」
「明日も学校があるし、それについてはちょっと考えておくね。それよりも、玲人君って催眠術に興味はない?」
「藪から棒に何を言うかと思えば催眠術ですか。……全くありません」
本当はちょっと興味があるけれど、沙奈会長のことだから僕に何か変なことをしてくる可能性が高い。
「興味ないの? せっかく五円玉の振り子を作ってきたのに」
「最初っから僕に催眠をかけるつもりだったんですね」
「昨日の夜にバラエティーに出ていたアイドルが、催眠術が得意だから五円玉の振り子を使って実演していたね。その影響?」
「樹里先輩も観ていたんですね。玲人君は観た?」
「僕はレンタルしたアニメのDVDを観ていたので、そのバラエティーは観ていないですね」
「そうなんだ。じゃあ、ちょうどいいね。催眠術に興味のない玲人君に、催眠術の面白さを実演してみせるよ! これが初めてだけど」
そう言って、沙奈会長はスカートから財布を取り出し、五円玉の振り子を手に取った。
結局、沙奈会長の催眠術に付き合わなきゃいけないのか。あと、初めてなのによく実演すると言ったな。どうせかからないだろうから、今回は付き合うことにするか。
「分かりました。では、沙奈会長の催眠術に付き合いましょう」
「……これで玲人君は掌握したと同然……」
ふふっ、と沙奈会長は不気味な笑みを浮かべている。自分の思うままに僕のことを動かしたいのかな。段々と恐くなってきたぞ。
「じゃあ、玲人君。この五円玉をよーく見てね」
「はい」
「面白そうだから、隣で逢坂君の様子を見ようっと」
副会長さんは興味津々な様子で僕のすぐ側まで近づいてくる。
僕は沙奈会長の言うとおりに、糸に吊された五円玉をじっと見つめる。
「じゃあ、手始めに玲人君を眠らせるね。あなたは段々眠くなる。ねむくなーる」
沙奈会長が呪文を唱える中で、僕は左右に揺れる五円玉をじっと見つめる。集中しているからか、眠くなるどころかむしろ目が冴えてきている。
「ねむく……なーる。ねむく……」
――ドン。
鈍い音が聞こえたので沙奈会長の方を見ると、彼女は机に突っ伏している。
「会長!」
「沙奈ちゃん!」
僕と副会長さんはすぐに沙奈会長の側に行くと、会長から可愛らしい寝息が聞こえてくる。
「……寝てますね」
「そうね。自分も五円玉をじっと見ていたのか、逢坂君に催眠をかける前に自分がかかっちゃったんだね。それで、睡眠しちゃったと。……ふふっ」
「僕、全く眠くなりませんでした。むしろ、五円玉を見ることに集中したり、会長が急に寝たことに驚いたりしたので目が冴えたほどです。どうやら、沙奈会長は催眠かけるよりもかかる才能の方がありそうですね」
「そうだね。……あははっ!」
今の沙奈会長の様子がよほどツボにハマったのか、副会長さんは大きな声で笑っている。その笑いは止まらず、彼女の頬が真っ赤になってしまうほど。
ただ、副会長さんがこんなに笑っているにも関わらず、沙奈会長は全く起きる気配がないぞ。これが催眠術の力なのか?
「副会長さん。沙奈会長も観たというそのバラエティーでは、眠くなる催眠術もやっていたんですか?」
「うん、やってたよ」
「じゃあ、どうやって起こすんですか? 催眠術のせいかぐっすりと眠っていますけど」
「普通に声をかけたり、体を叩いたりして起こしていたよ」
「そうなんですね。……沙奈会長、起きてください」
そう言って、僕は沙奈会長の肩を叩く。
すると、沙奈会長はゆっくりと体を起こして体を伸ばした。その姿を見てほっとする。
「あぁ、よく寝た。スッキリした」
「数分も寝ていなかったのにそうなるって凄いですね。これも催眠術の効果ですかね」
「そうかもね。それにしても、眠くなるって言い続けて五円玉を見続けたら、急に眠くなっちゃった」
「寝るまであっという間だったよ、沙奈ちゃん。それに比べて逢坂君は眠くなるどころか、むしろ目が冴えたって」
「そうだったんですか。玲人君は催眠術にかからない体質なのかもね」
「それは分かりませんけど、沙奈会長が催眠術にかかりやすいことは確かでしょうね。今後は気を付けた方がいいと思います」
ただ、催眠術にかかりやすいということを知ることができて良かった。沙奈会長が暴走をしたときに鎮める手段にいい。これからは常に五円玉の振り子を携帯しておくか。
「玲人君、リベンジしたい! きっと、五円玉を見なければ大丈夫だと思うから。念のために私のネクタイを巻いて見えなくさせよう」
「分かりました。じゃあ、僕が結びますね」
きっと、催眠術にはかからないだろうけど、その諦めない姿勢はとてもいいと思う。そういうところも好きだ。
沙奈会長の両眼を塞ぐようにして彼女のネクタイを結び付ける。今の姿は本当にアホっぽい。そして、それが面白いのか副会長さんはクスクスと笑っている。
会長に五円玉の振り子を持たせて、僕は自分の席に座った。
「じゃあ、玲人君。この五円玉を見て」
「はい。見てます」
「私が証人になるよ。逢坂君はしっかりと五円玉を見てる」
「ありがとうございます。じゃあ、始めるね。あなたは段々眠くなる。この五円玉を見て段々と眠くなる……」
再びゆらゆらと揺れる五円玉を見るけれど、全く眠くならない。沙奈会長がここまで一生懸命だと眠気が来てほしいと思うけれど、眠気の気配すらない。このまま五円玉を見続けているよりも、目を瞑った方がよっぽど眠りに落ちやすいんじゃないかと思うほどだ。
「ねむくなーる。ねむくなーる。……あれ、さっきほどじゃないけれど、段々眠くなってきた。おかしいな、視界は真っ暗なのに」
どうやら、眠くなると復唱しているせいで、沙奈会長に自己暗示がかかってしまっているようだ。そのことでまた副会長さんは笑っているし。
「沙奈会長、そのくらいにしましょう。僕、全く眠くならないので」
「そっか。残念だけど、このくらいにしておくよ」
僕は沙奈会長のネクタイを解く。
沙奈会長は僕が全く眠くないように見えたのか、露骨にがっかりしている。
「催眠術を使えれば、色々と楽しいと思ったんだけどな」
「僕はともかく、副会長さんは結構楽しんでいましたよね」
「うん。まさか、催眠術をかけようとした沙奈ちゃんが催眠術にかかっちゃうとは思わなかったからさ。昨日のバラエティーよりも楽しかった」
「そうですか。でも、自分に催眠術を掛けることができるなら、催眠術の才能があるかもしれないってことですよね。ということは、練習をすれば玲人君や樹里先輩にも……」
「練習なんてしなくていいと思いますよ。ただ、揺れる五円玉を見ればあっという間に眠ることができると分かったんですから、これからはなかなか眠れない日にやるといいんじゃないですか?」
「……それもそうだね! たまに寝付きの悪い日があるし」
うんうん、と沙奈会長は満足げな様子。あと、沙奈会長はたまに眠れない日があるのか。お悩みを解決できそうで何よりだ。
「じゃあ、今日はこれで生徒会の活動は終わります!」
「お疲れ様!」
「お疲れ様でした」
催眠術という予想外の出来事もあったけれど、今日も無事に生徒会活動が終わるのであった。
ちなみに、ワールドカップの中継が始まる20分ほど前に、沙奈会長から一緒に観たいと連絡が来て、僕の家で一緒に観ることに。
放課後に催眠術で少し眠ったからなのか、それとも日本代表が勝って興奮しているからなのか、試合が終わっても沙奈会長は全く眠そうではなかった。なので、試しに五円玉を使って沙奈会長に催眠術をかけてみると、会長はあっさりと眠るのであった。
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